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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第三話 人生はなかなか思い通りにならない
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幕間~Girls side ①~

 胡桃は先ほどまでチクチクと小言を言ってきた三条舞をまるで口うるさい姑のようだったと思いながら、女子の部屋があてがわれた廊下を歩いていた。

 まったくもって余計なお世話であるし、付き合うつもりはなさそうにしつつも常に灯貴の隣をキープしている三条舞は胡桃にとっては一番の天敵なのかもしれない。

 胡桃はひとまず意地悪で灯貴との本当の初めての出会いを三条舞に伝えてみるとグロテスクな映画のワンシーンを見て血の気が引いていくかのように顔色を悪くし、どこかへ行ってしまったおかげで図らずもお説教から解放されたのだ。

「三条先輩が実は一番の要注意人物かもしれないなぁ……。永佳ちゃんは男として灯貴くんを見ているかどうかすら怪しいし……。引き離すべきはこっちだったか……。でも、灯貴くんは永佳ちゃんのことを気になってるっぽいし、うーん……」

 胡桃は新歓合宿の前に自分がめぐらせた策略の一つとして、永佳と灯貴を引き離すことに徹していた。

 再会したときに明らかに灯貴の永佳を見る時間が長かったため、自分に注目を向けさせるためには永佳から興味を持たせないことだと確信していたからだ。

 胡桃はいっそのこと永佳と腹を割って話してみて灯貴を男として見ているかどうか、もしも灯貴から告白されたらどうするかなどを探ってみてもいいかもしれないと考えながら、小さな歩幅で自分の部屋を目指す。

「こんなに好きになった人、初めてだから……。絶対に私のものにしたい……」

 そう小さな声で独り言をぶつぶつつぶやいていると、胡桃の肩に突然何かに触れられる感触が一種の衝撃となって背筋を走る。

「わきゃぁい」

 胡桃は唐突なるその感触にまさかこんなセミナーハウスでホラー的な話はあるわけない、あってもおかしくはないけどそんなフラグはなかったと考えながら少しの恐怖に震えながら後ろを振り返る。

「って……なんだ……。永佳ちゃんか……」

「いや、あたしもいきなりそんな大きな声出されてびっくりしたよ。後ろから見てたら、部屋通り過ぎちゃったから急いで追いかけてきたんだけど……」

 胡桃はハッとしながら自分が考え事をしていたせいで自室をとっくに通り過ぎてしまっていたことにようやく気付く。

「あ、ありがとう、永佳ちゃん。それより、私の独り言聞こえてた……?」

 胡桃はあえて少しぶりっ子のような態度で聞いてみることにした。

 一方で、永佳はそのふわふわした話し方がぶりっ子であることをすでに見抜いていたため、決め顔で先ほどの胡桃の独り言の真似をする。

「こんなに好きになった人、初めてだから……。絶対に私のものにしたい……。って言ってたよね?」

 永佳はさらに笑いながら、胡桃の肩をポンポンと叩く。

「誰にだってそういう乙女な時期あるよね、わかるわかる」

 永佳って実は馬鹿なのかな……、と胡桃は目の前で楽観的に笑っている美少女を眺める。

 少し鋭いようだけど、胡桃自身の本当の本性はばれているはずがない。

 胡桃にとってもう永佳はお役御免であり、今では恋路を阻む邪魔な幼馴染でしかないため用済みであることもあり、永佳にも灯貴との既成事実を吹聴してやろうと画策する。

「永佳ちゃん、私、まだ少し飲み足りないから一緒に少しだけ飲まない?」

「んー、いいよ! どうせあたしもまだ眠れないなって思ってたし」

 胡桃はこれで勝ったなと内心でほくそ笑みながら、永佳と共に宴会場の裏にある食堂の冷蔵庫へ向かい、そしていくつかの缶チューハイとお菓子を拝借した。

 どこの部屋で飲むかまでは決めかねていたが、永佳によると同室の先輩たちは飲み明かすと意気込んでいたことを教えてくれたため、結局自分たちの部屋へと舞い戻った。

 真っ暗な部屋の明かりをつけても、やはり誰も部屋にはいない。

 胡桃は安堵のため息をつきつつ、部屋に入ってすぐにそのまま座り込んだ。

 永佳もそれに習い、そのまま体育座りをする。

「胡桃ちゃん、座り方も女の子っぽくてかわいいね……」

「そんなことないよぉ。永佳ちゃんはそもそも可愛いし、私みたいなのだとお化粧頑張らないとそこまで可愛くなれないよ」

 それは本心が7割くらいだ。

 永佳の方がよっぽど可愛いのはその通り。だが、胡桃は自分がどちらかと言えば可愛い部類だと自分でもわかっているのだ。

 自分から誰かに告白したことなんて一度もないが、彼氏やそういうお友達に困ったこともなければ、男子に囲まれることなんて日常茶飯事なのだから。

「またまたー。でも、胡桃ちゃんのそのぶりっ子仮面はそろそろやめてほしいんだよねぇ。せっかく友達になったんだしさ」

 永佳はお気に入りのレモンサワーの缶チューハイと、ポテトチップスの袋を開ける。

 胡桃はため息をついて、同じレモンサワーのプルタブを開けて、永佳に向かい突き出す。

「乾杯」

 胡桃のその一言に促され、永佳も同じように缶を突き出し、ぶつけ合う。

「それで……、どうして私がぶりっ子してるって思うの?」

「だって、灯貴にあんなグイグイ行くような肉食っぽい子がふわふわ系女子とか笑っちゃうよ、さすがに」

 少しだけ二人の間に気まずい沈黙が訪れる。

 その沈黙を破ったのは永佳だ。永佳は缶チューハイをぐびぐび飲み、

「そういう子アイドルにもたくさんいるし、そんな可愛い顔してめちゃくちゃセフレいる子だっていたしねぇ。さすがに、なんとなくわかるよ」

 と直球な言葉を言ってくる。

「あ、あはは。でも、さっき私のことを乙女だって」

 胡桃も同じように缶チューハイをぐびぐびと飲む。

 二人は意外と強いアルコール濃度にすぐに酔いを回してしまう。

「いやいや、それは文字通りそういう肉食女子がいきなり一人の男を慕って独り言つぶやいてたら、あ、意外と乙女だなって思うじゃん」

「あー、言ったね?! 私だって、恋くらいするもん!!」

 そう、胡桃は灯貴の顔を思い浮かべる。

 胡桃は正直な気持ちをぶつけようとするが、それを一瞬ためらってしまう。

 確かに、高校生の途中から彼氏が途切れたことも、複数の男と同時に付き合ったことも、俗にいうセフレというような存在が何人もいたこともあるが、胡桃にとっては灯貴が初めてなのだ。

 一目惚れだったのだ。

「まぁまぁ、馬鹿にしてるわけじゃないよ? 全然いいと思う。可愛いよ、胡桃は」

 胡桃は、永佳が灯貴と違い簡単に主導権を握らせてくれないことにやきもきしながらポテトチップスに手を伸ばす。

「そうやって、幼馴染で灯貴センパイをわかってるからって上から目線でいってくるのむかつく。三条先輩もそう」

 手に持ったコンソメ味のポテトチップスを口に運び、その定番であり安心感のある味をかみしめながら、お酒も嗜んでいく。

「それにはあたしも同意するわ……。三条さん、初めて会ったあたしの手を思いっきりぐわーって握りしめてきたんだよ?! ありえなくない!? あんな顔して握力70キロくらいあるわ、あの女」

「それ最低。私もさっき、30分くらいずっと説教されてたんだから!」

「何それ?! 30分はさすがに長すぎ!」

 二人をして、突然三条舞の悪口会へと発展してしまう。

 これを灯貴が聞いていたらさぞや怒っているだろうな、と二人とも同じ気持ちを抱えつつも、それでもあのしれっと灯貴の隣をキープする魔女のような女へ文句を言わずにはいられなかった。

「もう、灯貴センパイとそんなに一緒にいるくせに、好きなの、好きじゃないのどっちなの!! まったくわかんないし、付き合わないなら私の彼氏にしたっていいじゃない!!!」

「いやいや、それは灯貴次第ではあるんだよ、一応。確かに胡桃みたいにグイグイ来たら灯貴ももしかしたら好きになっちゃうかもしれないけど」

 永佳はお酒が入りつつも、しっかりと否定するべくところは否定する。

「とかいって、本当は永佳だって灯貴くんのこと好きなんでしょ?! そうなんでしょ?!」

 これまで三条舞という二人にとっての巨悪に対して同調してきたが、そこでの意見の食い違いから胡桃は永佳のことを少しばかり疑い始める。

「あー、あはは、うん、それはないけど!」

 胡桃はそういったとしても永佳のその信用しきれない笑顔をじーっと見つめる。

「怪しい……」

「ないって。いや、昔は好きだったよ? でも、今更あんな喧嘩別れみたいなのして、十年も経てばもうただの幼馴染だって!」

 やはり、どうにも胡桃は永佳のことを信用できず、その爆弾を永佳にも投げてみるかと考え始めた。

 だが、胡桃は少しばかり逡巡する。

 本性をさらさずにいて、自分のことを見抜いていても話を掛けてくれる子はそこまでいただろうか、ということについて。

 これまでの自分の立ち居振る舞いをよく思わない他の女子から嫌われていることなど胡桃にとっては百も承知であるのだ。

 もちろん、胡桃はそれで離れていくような友達なら別にいなくてもいいと思っているため、女友達が少ないことに関して嘆いたことはなかった。

 自分は仲良くする努力をしたとしても、向こうから離れていくのだから仕方ない。

 自分は普通に男子とも女子とも仲良くして、ただ自分を愛してくれる人の期待に応えたいと思っていただけなのだ。

 胡桃は永佳の本心をさらけ出すのと、せっかく本当の意味での友達になってくれそうな永佳自身との天秤に揺れながら、手に持った缶チューハイを一気に飲み干す。

 そして、もう一缶をすぐさま開け、それも一気に飲み干してしまう。

 胡桃は覚悟を決めた。

 確かに、友情の芽生えも捨てがたい。でも、自分がそう思っていても、そうじゃなくなる可能性をいくつも知っている。だからこそ、やはり自分の恋愛を最優先にすることを誓う。

「永佳、本当は私、永佳に嘘ついてた」

 永佳は胡桃の一気飲みを息を呑んで見守っていたが、そうやって口を開き始める胡桃が何を言い出すのか恐る恐る見つめるしかなかった。

「えっと、なにかな?」

「たまたま入学前に大学を見学しに来てて、灯貴センパイと二人で歩いてるのを目撃して、永佳に近づいたの」

「あ、あー、なるほど。あたしのファンっていうのが嘘ってこと?」

 いや、嘘はそこじゃない。その言葉を聞いて気付かない辺り、やはり永佳は鋭いようでどこか抜けている、と胡桃は確信した。

「灯貴センパイ、ううん、灯貴くんとの出会い、本当は委員会の新歓じゃないの」

「……へ?」

「その。永佳と初めて話した前の日に、クラブで出会ってて」

 胡桃のその一言に、永佳は何か悪い予感を感じる。

 というよりも、永佳はすぐに気付いてしまう。

「ま、待って!!!! え?! 灯貴が朝帰りしたのってまさか、え!?」

「あ、知ってたんだ……。その日、二人でホテルに行って、朝まで一緒にいたの……」

「へ、へぇ、はぁー。そうなんだ! へぇ、灯貴がねぇ。あはは」

 永佳は何かを払しょくするために胡桃と同じように缶チューハイを一気に飲み干してしまう。

「まって、それって、あれよね? 胡桃、灯貴と……したってことよね? そのくせ胡桃をあそこまで無下にしてあたしに近づこうとしてるわけ?! 何あいつ、いつの間にそんなクズに成り下がってたの?!」

 胡桃はその怒声に驚いてしまう。

 確かに胡桃は永佳の中から灯貴へ恋心が確実に向かないように仕向けようとしてこの話をしたわけだ。

 だが、しかし、この反応は……?

 どちらかといえば、あくまで男として意識しての発言ではなくて、幼馴染のチャラチャラしたエピソードに怒っているだけのようにも見える。

「あー、せっかく仲直りしてあげたのになんかむかついてきた……」

「え、え、まって? 永佳、本当は灯貴くんのことが好きとか、じゃないの?」

「……だ、だから言ってるじゃん。灯貴はただの幼馴染なの、今はね」

 胡桃は自分の言動が少し裏目に出たことを後悔する。

 まさかこんな反応をするとは思わなかった。いや、でも永佳の性格ならこうであってもおかしくないのかもしれないと思いながら、灯貴に天誅が下るのを望んでいるわけではないので、慌てて永佳に誰が聞いているわけでもないのに耳打ちをした。

 永佳はその話を聞いたときに、少し赤面をしてしまう。

「はは、然もありなんだわ……」

「でも、灯貴くんのことは本当に本当に一目ぼれだけど、すごく優しくしてくれるし、好きなの。だから、その……」

「……うーん、ごめん。胡桃を個人的に応援することはしないでおくね? たぶんだけど、灯貴があぁなっちゃってるのって、あたしのせいな気がするから、あたしは灯貴が本当に好きになった人と付き合えばいいなって思うんだ……。だから、もし、灯貴が胡桃のことを好きだって思い始めてたらそれは応援するけど、胡桃の気持ちを応援することはできない……、かな?」

「それは……、別にいいけど。せめて邪魔はしないでほしいの」

「はいはい、じゃあ、あたしは中立な立場で見ていることにするよ」

 二人はその後は他愛のないお互いの過去の話に花を咲かせ、気が付いた時には眠りについてしまう。

 こんな二人の会話を知りもせず、灯貴は宴会場で静かに飲んでいたのであった。

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