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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第三話 人生はなかなか思い通りにならない
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十七話

 俺はマックスの影でびくびくするために、宴会場を覗き込むがマックスの姿はなかった。

 ってことはあそこだ。

 俺は外にある広場、曰く喫煙所に向かう。

 田舎でかつ、この季節だからか、外はまだまだ冷え込んでいてとてもじゃないが長居できる場所とは思えないが、やはりマックスはそこにいた。

「おーい、マックス!」

 俺の声に気付いたマックスは俺の方に振り返り、俺だとわかると指で挟んだたばこを一口吸い、煙を上げる。

「なんだ、灯貴か。お前もなかなかに難儀だな」

 どれのことを言っているのだろう、いや、マックスが見たのはあいさつ回りだけに決まっている。

「たばこ、やめたんじゃなかったのか?」

「あぁ……、まぁたまにはいいだろ。お前も吸うか?」

 とマックスは俺に一本の煙草を渡そうとしてくる。

「パス。前にマックスにもらって吸った時に絶対にこんなの吸うなんてありえんって思ったし」

 そんな若気の至りもあったということだ。

 実際にその一回だけで、それからはもう一度も吸っていない。

 だが、たばこを吸わずともマックスと一緒にいるのが一番面倒なことも起きず最善だろうと思いながら喫煙所の中をきょろきょろ見ていると、自販機が目に入る。

「そうだ、マックス。今お金持ってる?」

「いや、ないな。どうした?」

「ちょっとチェイサーを。仕方ないから、財布とってくるか……」

 と俺は一度自分の部屋に戻る。

 割とあれやこれやしているうちに宴もたけなわになってきていたのか、ちょくちょく宴会場とは別の場所からも声が聞こえてくる。

 そういえば、永佳の奴どうしたんだろ。

 永佳が酔っぱらってる姿なんてあんまり見たくないが……。

 そう思いながら部屋にたどり着くと、すでに就寝している奴らもいた。

 財布だけを抜き取る動作で起こしてしまうのも申し訳ないので、ボディバッグごと取り、再び喫煙所へと向かった。

 喫煙所に戻るとマックスはまだたばこを吸っていて、ベンチに腰掛けながら夜空を眺めている。

 俺は喫煙所にある自販機で水を買い、マックスの隣に腰掛ける。

「なんだ、らしくもなく黄昏て」

「いやな、今年で委員会も最後かと思うとな」

「なんだなんだ、しおらしいな。そんなにゴリゴリしてるくせに」

「うるせ」

 と軽くたばこを持っていない方の手で額を小突かれる。

 なんだかんだ、俺にとっては兄貴分のマックスにこうやって小突かれるのは不快ではない。

「絶対にマックスの後悔のない学祭にしたいな」

「最近ずっと女にかまけておいて、そんなこと言われても説得力ないぞ、小僧さん」

「それは……、あれだ。仕方ないだろ、胡桃がいちいちちょっかい出してくるんだし」

 俺は事実それが迷惑であると思っているため、少し吐き捨てる様にいう。

 だが、マックスは俺のその言葉に大きな声で笑いながら、俺を見てくる。

「お前がもっとはっきりすれば、さすがに諦めるんじゃないか?」

「いや、はっきりはしてる。胡桃と付き合うつもりはさらさらない」

「本当にそうか? お前意外とあの子といるときは生き生きした顔してるぞ」

 なんだマックスめ、疑うのか?

 俺もマックスにならい夜空を見つめる。

 俺らの住む街でも十分に綺麗な星空が広がっているが、やはり田舎に来た時のこの星空は別格だ。

 燦爛と輝く恒星が黒の背景に疎らに広がる。

 それぞれの輝きがまるで呼応し、相互作用しているかのように俺らの目を奪う。

 それすらもあたかも万有引力が働き、視線を吸い寄せられているかのようにそこから目を離すことが出来ない。

 これであの一つ一つの星の間の距離が途方もないほどに離れているっていうのだから、本当に宇宙は広い。

 例えば、この季節ではどこにあるのかすら俺はわからないが、織姫と彦星が一年に一度会う逸話で有名の夏の大三角形だ。俺たちから見えるみかけの距離とは異なり、光速で動いたとしても十五年もかかる位置に二人は存在している。

 十五年なんて歳を取ればあっという間に感じる様になるのかもしれないが、俺らからすればまだ途方もない数字だ。

 十年の間に俺と永佳の関係性は大きく変わり、永佳の性格も大きく変わってしまったように思う。そんなことが起きるのには十分な時間だ。

 それどころか織姫と彦星の話のようにたった一年の間の遠距離恋愛であっても、その間にどれだけの心の変化があるのかなんて計り知れない。ドラマの中だからこそ二人は想い合い、末永く続いているのだろう。

 この十年で俺と永佳の心の距離はいかほどに離れてしまったのだろう。目に見える距離は近くなった。だけど、俺がこのまま永佳のことを思っていても永佳の心に近づくことが出来るのか?

 ドラマみたいな恋にあこがれてます、なんてしょうもないことを言っていた俺でもこの再会をしっかりと意味のあるものにできるのだろうか。

 俺はペットボトルの水を思いっきり口に入れ、もっと冷静になるように努める。

 確かに俺の心の油断の隙を突かれて、胡桃にも中途半端な振る舞いをしているのかもしれない。

 それにマックスが大事にしているこの委員会の存続のためには胡桃の力だって必要になってくるはずだから、余計に少し突っぱね切れていないのかもしれない。

 自分自身の立ち居振る舞いと、内心の矛盾がどこかに存在している気がしてならない。

 星空から目を背け、正面を向きため息をつこうとすると、後ろから声が聞こえてくる。

 よくある展開では胡桃が再び訪れる、ということもあるため少しびくついてしまうが、その声の主は他でもない、永佳だった。

「はぁ……、くたびれた……。二人ともこんなところにいたんだね」

「永佳ちゃん、何かあったか?」

「ううん、なんかみんな無理やり飲ませようとしてくるから、それをかわすのに結構神経使って疲れちゃった」

「そうか、それは説教だな。さて、灯貴。じゃあ、俺は会場に戻って、説教ついでに一旦宴会を閉めてくるな」

 マックスは何かを気を遣ってくれたのかまだ吸いかけのたばこの火を消し、率先して自ら宴会場へと戻っていった。

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