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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第三話 人生はなかなか思い通りにならない
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十三話

 それから二週間後、つつがなく新歓も終わり永佳の影響で過去に例を見ない人数の入局が決まった。

 例年はよくて十人程度、去年は健闘して二十人ほど入ったが、舞ちゃんが言うように女子十人が突如としてやめたので結果的に例年通りくらいの人数しか残っていない。

 今年は永佳目当てに入った人が五十人ほど、それ以外が数名。もし、同じように突如として永佳目当ての人々がやめたら、昨年以上にパワーバランスが崩れてしまう。

 俺らの今後の使命はある程度は辞める想定であっても、なんとか例年通りの人数を確保することだ。

 だからこそ、新歓合宿などを含めた様々なところで学園祭実行委員会の良さを伝えていかなければならないだろう。

そして今、俺たちはそれこそ新入生にとって一番初めの大きなイベントである新歓合宿の宿泊先へ向かっていた。

 現在、二度のサービスエリアでの休憩を経て高速道路を降り、バスは一直線に次の目的地の青い池に向かっている。

「灯貴センパイ♪」

「う……」

 永佳の友達として委員会に入ったこの女、冬咲胡桃に関してはそれ以外に含まれているので、冬咲胡桃がやめないようにと俺が教育係をするようにと勝手に任命された。

「今日はこの後何をするんですかー?」

「旅のしおり配っただろ。これから青い池にいって、四季彩の丘で花を愛でてから、宿に向かう」

「そういっても、ちゃんと教えてくれる辺りやっぱり灯貴センパイは優しいですねー」

 入局からさらに二週間、俺は永佳と話したいと思ってもこの冬咲胡桃がこうやって俺の隣に居座ってきたり、逆に永佳をどこかへ連れて行ったりされて家以外ではなかなか永佳と話す機会が得られなかった。

 だが、今日は違う。今日からは新歓合宿で一泊二日。今日こそは。と冬咲胡桃を挟んで隣の列にいる永佳の方をみる。

 少なくとも今日回る予定の観光地などを永佳と共に巡るのだ。

 俺はそう意気込んでこの合宿に参加しているのだが、すでにバスでは隣にこいつが座ってくるし、高速道路途中のサービスエリアにたどり着いても常にこいつがひっついて回るからなかなか永佳と話す機会が訪れていない。

 しかも、永佳は永佳で永佳の同級生やら上級生やらに囲まれてまったく近づくことすらできない。

「センパイ、永佳ちゃんのこと見すぎじゃないですか?」

 冬咲胡桃はキスをしてくるんじゃないかというレベルの近さまで顔を近づけて俺を咎めてくる。確かに俺は永佳の方を見ていたが、それは俺の勝手だろう。

 このまま本当にキスされそうで怖いので、俺は正面の方へ向きなおし、永佳を見る正当性を主張する。

「当たり前だ、俺は永佳の保護者だ」

 冬咲胡桃は、自分の身体で死角になっているからか俺の太もも辺りを左手の人差し指ですりすりと擦ってくる。

「保護者って、同い年のくせに? あ、ちなみに私も二浪してるからセンパイとタメですね」

「それは永佳から聞いてる。同い年もくそもマックスがてんやわんやしてるから仕方ないだろ。変な虫がつかないようにしないと」

「本当にそれだけなんですかー? 目つきとかすごい怖いですよ?」

「それはお前がしつこく絡んでくるからだ」

 冬咲胡桃は俺がそういうとぶーぶーいいながら、足をバタバタさせる。

 こいつに関して分かったのは、俺に対してはこんな感じで少し甘えているが、他の奴らに対しては大人しそうで清楚に、そしてあざとい。

 何よりも新入生の可愛い女子ランキングとかいう失礼極まりないランキングでは永佳に次いでの二番人気を獲得しているくらいだ。

 もしも俺と永佳がいなければ、俗にいうサークルクラッシャー的な立ち居振る舞いをしていただろうとすら思えてくる。

「センパイはイケずですね。でも、センパイだって私の顔とか大好きなんでしょ?」

「それはノーコメントだ」

「だって、初めて会った日とかもずーっと私の顔見つめてましたよね? やっぱり私と同類ですよ、センパイは。私はセンパイのすべてが好きで、センパイの遺伝子が欲しいんです。自分から遠く離れた遺伝子を求めるのが生物の性なのだとしたら、逆に言えば私がセンパイの遺伝子が欲しいなって思うように、センパイだって私の遺伝子が欲しいのなんて少し考えれば分かります」

「うん、それはあれだね、性淘汰とかそういう話をちゃんと知った方がいいね。ソンナコトナインダヨ、あはは」

 俺も惚れたかは置いておいて、確かに冬咲胡桃の顔や姿形、においに至るまですべてが好みに思えてしまう。

 それが遺伝子レベルで彼女を求めてしまっているのであっても、だからといってそんなシンプルな話は知的コミュニケーションが出来ない生物のみでの話のはずである。

 人間であってもそれがその通り適用可能なのだとしても、人間には理性や意志が存在する。

ここまで俺の左脳とは別のところに何かを訴えかけてくるこいつが近くにいても、未だに永佳と付き合いたいという気持ちを捻じ曲げられていないのだから、それは詭弁であろう。

 そうやって、いちいち絡んでくる冬咲胡桃を適当にいなしながら、バスは青い池に到着し、駐車場に止まると、新歓合宿の幹事である舞ちゃんが立ち上がり一時間後に再集合、点呼を取る旨を伝える。

 一応、俺も新歓合宿の幹事であり、先頭座席で舞ちゃんの隣で一緒に仕事でいちゃこらする予定だったのに冬咲胡桃が空気を読まずに俺の隣にやってきたせいで、バスの中での仕事は全部私がやるからかまってあげなさいと半ばクビを言い渡されたのだ。

 こういうところまで全部計算済みなのだとしたら、本当に冬咲胡桃には勝てない。本当にいずれ取って食われてしまいそうだ。

 さらには狡猾なる冬咲胡桃は今、俺が永佳と行動が出来ないようにメンバー全員がバスから降りたあたりで、ようやくに席を立ちあがる。

「行きましょ、センパイ♪」

 だめだ、俺のやりたいことが一個もできない……。

 どこかのタイミングでトイレに行くなりして、永佳と話すタイミングを作ろう、そうしよう。

 俺はボディバッグの中に入っているあれを少し気にしながら、立ち上がる。

「あ、センパイ。さっき預けたお財布一回返してもらってもいいですか?」

 バッグの中に入っているあれとは冬咲胡桃の財布ではない。

 冬咲胡桃は荷物を全部バスの中に預けてしまい、お財布を裸で持つのは嫌だからと俺に預かっててほしいと言ってきたのだ。

 それ自体は俺も特に気にせず預かったので、言われた通り一度返すためにバッグを開け、冬咲胡桃の財布を渡す。

 だが、バッグの中から財布と共に俺が隠し持っていたあれを落としてしまう。

「センパイ、何か落としましたよ。って、なんです? このくしゃくしゃの紙」

 財布を受け取るのと同時に、冬咲胡桃は俺が落としたくしゃくしゃの紙……、いや、あの日のラブレターを拾い上げてしまう。

 その中身をこいつに見られるのはやばい、気がする。

「あ、ちょ、返せ!」

 と俺は無理やりその手紙を奪い返そうとするが、冬咲胡桃はすぐにバスを降りてしまう。

 俺もそれを追いかけ、バスを降りる。

「なんですかー、これ? こんなくしゃくしゃにしてるのに大事な物なんですか?」

 その紙を開けようとする冬咲胡桃に対して、

「胡桃! 絶対開けるな!!」

 と叫んでしまう。

 それに対して少し驚いたようで、それでも俺が冬咲胡桃のことを胡桃と呼んだせいか少しニヤケた表情で俺を見てくる。

「じゃあ、これからも胡桃って呼んでくれたら中は見ないで返しますね。それにセンパイに意地悪しすぎて本当に嫌われたら私も辛いですし……」

「よし、素直でいい子だ。わかった、今後は胡桃って呼ぶから本当に返してくれ」

 俺がそういうと、胡桃は本当に素直にその手紙を返してくれる。

 焦りながら、その手紙を受け取り俺はすぐさまバッグにそれをしまう。

 迂闊だった。どうせなら、バスの下に預けてある大きい方のバッグに入れておくべきだった。

 そう後悔しながら、俺はバスを降りた。

 改めて、俺がこのラブレターをここに持ってきた理由。それはたった一つで、これに対する真相を永佳に聞きたかったからだ。

 そんなの家でやればいいと思われるかもしれない。もちろん、何度かこれに対して永佳に聞こうと思っていた。だが、なかなかできなかった。

 だから、俺は今日この日、これに対する真相を聞きかつあの日、永佳にひどいことを言ってしまったことを謝り、付き合ってほしいと言いたいがために持ってきたのだ。

 ちゃんと永佳と話す時間も欲しいし、こんなところで胡桃のことにかまっている時間はないのだ。

俺の目的などまったく知らず、本当に自分のしたいようにしてくる胡桃をどうするか。

 だが、運良くも胡桃は、

「私、新しくできた売店でアイス買いたいので、待っててくださいね?」

 と一目散に売店へ行ってしまったので、俺は待っててなどやらずトイレに行くことにする。

 そこでやり過ごし、永佳に連絡してすぐに二人でぶらぶらする、それでいいはずだ。

 俺は永佳に、一緒に回ろうぜ、と連絡を入れてすぐにトイレに引きこもる。

 その後、すぐにいいよと永佳から返ってきたため、今トイレだからトイレのところまで来てくれ、とお願いをする。

 よし、今頃胡桃は俺が先に進んだと思い込み、池の方まで行っているだろう。

 このタイミングだ。

 トイレから出ると、すでに永佳がトイレの前で待ってくれているのが見える。

「あ、灯貴。灯貴から誘ってくるなんて珍しいね」

「ほら、たまには二人だけで話したいと思ってさ」

「うえー、何? あたしとデートしたいってこと?」

 と永佳はクスクス笑いながら、俺を茶化してくる。

「そうだ、その通りだ」

 俺はもう隠すつもりはない、永佳には直球で行く。

 どうせ遠回しに口説いていると思われてもキモイとしか言われないのはわかっているし。

 柄にもなく直球に言ったせいか永佳は少し視線を泳がせ、恥ずかしそうにしている。

 意外とこういうのには弱いのか……?

「じゃあ、行くか!」

「そうだね、早く青い池みたーい」

 俺らは気を取り直して、今回の永佳たっての希望である青い池へと向かおうとした、そのとき。

「あ! センパイ!! やっぱりトイレだったー!!」

 と真横の方から声が聞こえてくる。

「げ、胡桃」

「ん……? 胡桃? 灯貴、あんたいつの間に胡桃ちゃんのことを呼び捨てにするような間柄になったわけ?」

「え?」

 永佳はわなわな震え始め、大股で先に進んで行ってしまう。

「ちょ、永佳!」

「なに? 彼女さんと一緒に回ればいいじゃん!」

「ま!」

 待て、と言おうとすると、器用にも胡桃は買ってきていたアイスを左手に持ち、右手で俺の腕に絡みついてくる。

「胡桃……、お前、そろそろ本当に怒るぞ?」

「まぁまぁ、落ち着いてください。美味しいですよ、アイス」

 一度俺の腕から離れ、少し食べかけのアイスをスプーンで掬い取り、俺の口に運んで来ようとする。

 俺はそんなアイスなど目にもくれず、ずかずかと一人で先に進んで行ってしまう永佳の後ろ姿を眺めていることしかできなかった。

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