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俺だってドラマみたいな恋がしてみたい!  作者: 満点花丸
第二話 いつもの日常と非日常
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九話

 そして、今日は授業終わりで新歓の会議をすることになっていた。

 俺と舞ちゃんは残りの講義が終わると、会議を行う予定の教養棟にある大きめの教室へと向かった。

 実行委員は今でおよそ二十人前後。人数的にはかなりの人手不足で各学年で七、八人程度である。

 大学院に残っている先輩たちやOB、当日のボランティアの助けもあり、何とか機能している現状にある。

 マックスが永佳を家に住まわせるときのなんでも一つお願いを叶えるに実行委員に入ることを提示したのは間違いなくこの人手不足が原因だろう。

 マックスもなかなかに狡猾な奴だ。永佳一人入れば、永佳を目当てに入ってくる奴だってたくさんいるだろうに。

 俺らが教養棟のとある教室へ向かっている最中に、後ろから声が聞こえてくる。

「灯貴―!!」

 永佳か。

 俺は足を止めて、振り返る。それにつられて舞ちゃんも足を止めて振り返るが、永佳が俺たちの目の前までたどり着くのにそう時間はいらなかった。

「どうした?」

「真武くんが今日から私も参加するようにって。まだ入局会の前だけど、あたしの力が必要だっていうから」

「だろうな」

 初めは俺だけを見ていた永佳だったが、そのすぐ横にいる舞ちゃんに気付いたのか、視線をそちらに向ける。

「で、この女だれ?」

「あら、この女とは失礼ね。私は……三条舞よ」

「三条舞……?」

 永佳は不思議そうな顔と少し敵意を出した方がいいのかと難しい表情をしている。 

なぜ、敵意を出そうとしているのかは気にしないでおこうと思う。

「舞ちゃんは俺らとタメだから。というか、中学からずっと同じクラスの腐れ縁みたいな友達だ」

「ふーん。ねぇ、どっかで会ったことない?」

 永佳の不思議そうな顔の意味はそれか。

 それなら説明は簡単だろう。俺と舞ちゃんは同じ中学に通っていた、つまり中学の校区は一緒。

そのため、徒歩ではそれなりに歩くかもしれないがそこまで遠くないところに住んでいるということだ。

俺たちの活動範囲でもどこかですれ違ったとか、実はどっかの児童会館で遊んだことがあるとかはありうる話だ。だから、どこかで実は会っていてもおかしくないだろう。

 舞ちゃんはものすごい目力で見つめてくる永佳に気圧されたのか、少し目線を外し、

「私はあなたに会った記憶はないけれど」

 と答える。

 まぁ、だろうな。俺は中学生以前に会った記憶ないし、永佳も俺とばかり遊んでいたのだから。

「じゃあ、気のせいかぁ。灯貴と中学一緒だったんならどこかですれ違ったのかもね。とりあえずよろしくね、三条さん」

「えぇ、こちらこそ」

 永佳が舞ちゃんに握手を求め、舞ちゃんはその握手に応じる。

 だが、永佳の顔が少し怪訝なものを見るような目で、握手した手と舞ちゃんを交互に見る。

 二人はお互いに握手から手を開放すると、舞ちゃんは先に踵を返して歩き始めて行ってしまう。

 一方で、永佳は握手していた右手をぶらぶらさせ始める。

 そして、俺の腕をちょんちょんと小突いてくるので永佳の方を見ると、耳を貸せというようなジェスチャーをする。

「あの女、やばいわ」

「は? どういうことだ?」

「どうしたの、二人とも。そろそろ行かないと間に合わないわよ?」

 と俺らのこそこそ話に気付き、舞ちゃんは再び足を止めて俺らに振り返り言ってくる。

「今行くよー」

「え、永佳? どういうことだよ、ほんとに!」

 まだ足を踏み出せていない俺に対し、先に歩き始めた永佳はこちらを振り返りながら、しーっと静かにしろという風なジェスチャーをしてくる。

 いったい何なんだ、まったく。

 仕方ないので、俺もそのまま二人の後をついていく形で歩き始める。

 舞ちゃんは俺に対してものすごく手厚く親身に色々優しくしてくれるいい子なのに、やばい奴って、俺は許せんぞ。

 確かに、今日のあれをみると少し俺のあほなところが移ってしまったのかもしれないと思わなくもないけど。

 俺はその後、そんな悶々をモンモンペンデュラムしているような気持ちになりながら会議に出席した。

 会議の内容自体は特に明日以降の新歓に関する確認がメインで、特に俺が気にすることはなさそうだ。

 強いて言うなら、なぜか俺は永佳と組んで外回りの勧誘という位置に配置変えをされたということだけだ。

 そして、明日は早速夜に新歓のお食事会という名目の宴会が催されるので、その注意事項を話して解散ということになった。

「灯貴、帰ろ」

 永佳がそう声をかけてくるが、俺と舞ちゃんはまだ仕事が残っている。

 先ほどの新歓合宿の行先を決めなければならない。

「まだやることあるから、先に帰っててくれ」

「やること?」

「新歓合宿の行先を決めるのよ。ほら、一年生は帰りなさい」

 舞ちゃんが永佳をさっさと帰らせようと冷たくあしらうが、その言葉を聞いて永佳は突然目を輝かせ始める。

 いったい何事かと思っていると、

「え、私あそこ行きたい! 青い池!」

 と永佳は突然友達同士の旅行のごとく行きたいところを上げてくる。そんなのが許されるはずはないのだが、俺は一つの候補に思い至る。

「そういえば、青い池の付近にセミナーハウスがあったよな? セミナーハウスなら宴会もできるし、安いしでみんなwin-winなんじゃ?」

「……確かにそうね。青少年の家だと結構口うるさいし、謎の朝の儀式があるから先輩たちは嫌だって言ってたのよね。セミナーハウスならそこまででしょうし」

「え、決定でいいんじゃね? セミナーハウスならどうせ同じような大学生ばかりだろうし、特に問題ないだろ。でかした、永佳」

「え、でも待って、春原くん。そんな簡単に決めてもいいのかしら?」

 舞ちゃんはもっと慎重に考えるべきだと言いたいのだろうが、正直、多くの候補を上げるのもその中から絞るのも面倒くさいし時間がかかりすぎるとしか思えないので、俺はそれでいい。

「じゃあ、家に帰ったらその辺のお金周りの情報を調べる。それで明日の朝すぐにゴールデンウィークの空き情報を電話して聞くから、それで問題なければってことにしようぜ。むしろこういうのは早く決めないと場所も選べなくなるだろうしな」

「で、でも……」

「じゃあ、永佳帰るか」

 俺は舞ちゃんの話などまったく聞こうともせずカバンを背負い、永佳を連れて会議に使っていた教室を後にする。

「す、春原くん!」

 と舞ちゃんが後ろから声をかけてくるが、舞ちゃんの慎重さに付き合っていたら何時に帰れるかわかったもんじゃない。

 俺は舞ちゃんに向かって手を振り、今日の別れを告げた。

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