夏の思い出
女神の力を授かった男子高校生の、非日常が始まる--。
結論から言えば、女神の日常はとても忙しいものだった。
女神の代理だという話をだせば、あらゆる世界でいいようにこき使われるのだ。やれ干ばつだの、やれ、日照不足だの。夏の空は目まぐるしく変わる。夏といえば、花火大会とか海開きとかそういうイベントとかに浸ってきた俺にとって、女神の夏休みは期待以上の非日常だった。
女神の力を手に入れた俺は異世界への転移門を開いて転々と渡り歩き、家よりも大きなヒマワリを咲かせて食糧難の村へヒマワリの種を配って回っていた。
突然、咲き誇るヒマワリに雷が落ち、モクモクと立ち上る煙からゼウスが現れた。
ゼウス曰く、女神から禁断の果実を奪い世界を混沌の渦に巻き込もうとしているものがいるという。
「まさかこんなことになるなんてね」
俺に女神の異能を与えた張本人はのんきに言って、アイスコーヒーをストローで飲み干した。初めて会ったときには随分子供っぽく見えたけれど、コーヒーなんかを飲んでいると少し大人っぽくも見える。
事の顛末はこうだ。
女神、アウクソーは俺と別れたあと地球でバカンスを楽しんでいたらしい。女神の力を使ってビーチを占拠し、召使いとして自立行動させていた植物生物が大暴れ。女神の力を渡してしまったこともあり一人では抑えきれずゼウスに呼び戻された俺とアウクソーの二人でようやく抑え込んだのだ。
元あった姿を取り戻した地球を見てゼウスの怒りは静まった。
こってり絞られた俺たちは女神の力返上もとい、反省会を初めて会った公園近くの喫茶店でしているのだ。
「力も返してもらったことだし、夏休みももうおしまい」
「そう……だな」
なんだかんだ楽しかったこの非日常が終わってしまうことが、惜しく思えた。
「また来年会いましょ」
女神は、会計を押し付けて俺をおいていってしまった。
明日からは俺の日常が始まる。