下山
おぉ、まさか落ちるなんて。
今時間どのくらいだろ。
あっ、太陽だ。
てか、くっさ。
俺が下を無理やり見るとゴブリンの死体が数体あった。
爺はぐっすり寝てる。
まさか、俺が寝た後にゴブリンが来て、倒してくれたのか。
「おい、爺。俺を縛ってるロープ解いてくれ」
ぐっすり寝てやがる。
一切起きる気配がない。
クソ。
何か方法はないのか。
あぁ~。
動きて~。
眠ってる時はよかったけど、今はキツイ。
あ゛~。
こうなったら。
「『マナヒール』」
どうだ。
強制的に起こしてやる。
冬に母さんから無理やり布団取り上げられて学校あるでしょって叩き起こされた気分のはずだ。
さぞかし不快だろう。
はっはっはっはっはぁ~。
「あ゛あ゛なんじゃ~!」
「うわ、ぶちぎれやがった」
「お前か」
「怒んなって。ロープ解いてくれ」
「ッチ、仕方がないのう」
「機嫌悪すぎだろ」
「昨日は下のごみを処理しておって疲れとるんじゃ」
「そうだろうと思ったよ。村まで戻ってから寝ろよ」
「仕方がないのう。まぁお主の言う通りじゃな」
「そうだろ、さっさとしろ」
「さぁ、帰るかのう」
爺は木から飛び降りた。
そのまま下に降りる方向を探しだした。
あれ、俺のとこ忘れてね。
爺は降りる方向が定まったらしく、歩き出した。
ん。
俺のこと忘れてるんじゃなくて放置してるんか。
はぁ~。
ふざけんなよ。
あの爺。
マジでぶっ殺す。
「おい、解け。お~い」
クソ。
マジで帰ってこねぇ~ぞ。
あの爺。
怒りすぎだろ。
マジでふざけんなよ。
「クソ爺ふざけんなよぉぉぉおっ」
爺に向かって俺の叫びは中断された。
突然ロープが解け俺は自由落下を始めた。
やべ~。
流石に大けがするぞこれ。
誰がやりがったんだ。
上を見るとあくびをしながら爺が立っていた。
あのクソ爺がぁぁぁ。
って地面に
「『ヒール』」
〔グキッ〕
完全に骨が折れた音がした。
でも、痛さを感じない。
動ける。
特に違和感もない。
絶妙なタイミングで『ヒール』を撃てたらしい。
マジで危なかった。
少し見直してきてたが絶対にあの爺は許さん。
「おい、爺。俺を落下死させるつもりか」
「ついに爺呼ばわりか。お主も容赦ないのう」
「そう呼ばれてもいいだろ。俺の事そんなに嫌いかよ」
「お主が生き残る事は分かっとるわ。お主は異常に回復魔法と蘇生魔法のタイミングがいいからな。まるで歴戦の戦士じゃ」
「何言ってんだ。俺はまだ冒険者になって三日目だぞ」
「本当かのう」
「あとで、冒険者カード見せてやるよ」
「別にお主のような雑魚のカードなんぞ、見たくもないわ」
「なんだと」
「己惚れとるんじゃない。タイミングがいいだけで」
「俺がどれだけ『ヒール』使ってきたと思ってるんだ」
「そうかそうか、凄いのう。そんな事はいいからさっさと帰るぞ」
「ッチ、そうだな」
俺たちはその後、昨日通ったであろう道をまた通った。
川はしんどいし、草むらは少し湿ってるし。
植物のところに戻るだけでもかなり疲労感があった。
でが、その後の坂道はかなり楽だった。
登りは辛くても下りはかなり楽だ。
そこまでは本当に良かった。
俺だって下り坂で完全に忘れていた。
そう、一時間近くかけて登った崖だ。
降りるときはさらに倍。
二時間近くかかった。
登りよりマジで怖かった。
常に下を見てるため。
足ががたがた震えた。
それより、俺の隣をひょいひょい降りていく爺の方が怖かった。
踏み外して死ぬことはないだろうけど、本当に怖かった。
そして、死にかけで俺は村に帰ったのだった。
もう、本当に植物の元へ行きたくなくなった。
でも、きっとまた行かされるんだろうな。
この時がほんとに一番逃げたくなった。
泣きたい気分だ。




