灯
空が暗くなり太陽が全く見えなくなった頃爺が目を覚ました。
「大丈夫か」
「あぁ、大丈夫じゃ。体力的には自力で下りれる。じゃ、もしもの事があるこの植物から少し離れたところで野宿するぞ」
「そうなるのか、分かった。俺は何も出来ないぞ」
「そうか、適当に教えるから手伝うんじゃ」
「はいよ」
「こっちへ来い」
元来たであろう道とは違う道へ爺は歩き出した。
意識がなく来た道が分からないが、爺が向かった道が絶対に来た道じゃない事は分かる。
爺が歩いた方向は上に向かう崖に向かって歩きだしたからだ。
「また上に登るのかよ」
「村とここを見て分かるじゃろ。村よりこっちの方が森の木が生き生きしとる」
「そ、そうだな。ぜ、全然違う」
マジか。
全然違いが分からん。
同じような木じゃん。
生き生きって知るかよ。
どこを見たんだよ。
「止まっとらんとさっさと来んか」
爺は崖を登り始めていた。
前登った奴よりましなのは分かる。
高さが半分もないからだ。
でも、暗くてぼやけてあまりよく見えない。
今度の登る崖の方がヤバそうに感じる。
「早く来るんじゃ。わしが足かけたとことか手をかけているとことか分からんとお主登れんじゃろ」
「あっ、ちょっと待ってくれ」
「待っとるからはよせんか」
「何か優しいな」
「やっぱり先に行っとるからな。早く来るんじゃぞ」
「嘘嘘。待ってくれ」
俺は爺の指示通り崖の窪みに足をかけ手をかけ登る。
暗いしあんま見えん。
クソ。
指示されてるけど全く理解できん。
マジで手探り状態だ。
どうして俺は回復系以外の魔法持ってないんだ。
ネトゲでヒーラーしてたからってこれは酷すぎる。
せめて、もっと凡庸性が高い魔法覚えてろよ。
『ライト』とか、覚えておけば楽だったのに。
「おい、心の中でぐちぐち言っとらんとさっさと登らんか」
「じゃあ明るくしてくれよ。見えづらいんだよ」
「仕方がないのう。『ヌールリヒト』」
何を唱えたんだ。
てか、何も変わらんじゃん。
「目を閉じろ」
「えっ」
分からんが閉じとくか。
ん、何か温かみを感じる。
何が起こってるんだ。
「目を開いてもいいぞ」
「おう」
俺が目を開くと目の前の崖が橙色に光っていた。
まるでヒーターみたいだ。
ほのかに温かいのはきっとそういうとこだろう。
「最初から使えよ」
「かなりのMPを消費すんじゃ」
「そんなの俺が回復してやるよ」
「そうか、でもお主の魔法体に悪いんじゃよな」
「知るかよ」
「まぁ、別にいいがな。そんな事言っとらんとさっさと登ってこんか」
「お前が言ってきたんだろうが」
「お前とはなんじゃ、少し前までは村長と尊敬の念をもって言っておったじゃろ」
「尊敬の念?ちげぇ~よ。尊敬の意だよ」
「お主気持ちこもってなかったのか」
「当たり前だろ。出会い頭で殺そうとしてくるやつを尊敬出来るか」
「そんなこと、あったかのう」
「なんだとこ゛ら゛」
「口答えするならこうじゃ」
爺がそう言った瞬間崖から光が消えた。
あ゛あ゛ふざけんなよ。
「ふざけんなよ、殺すぞ」
「わしは爺じゃからよく聞こえんなあ~」
「マジでふざけんなよ」
「『ゲヴェーア・デ』」
「おい、ふざけんな!俺の事殺す気か」
「ん。よく聞こえんな。わしは先に言っとくからな」
「いや、それだけは」
「ん?」
「ゴメンって」
「仕方がないのう」
爺は『ヌールリヒト』もう一度使い周りを照らした。
さらに、俺にニヤニヤしながら「感謝するんじゃ」って言ってきた。
マジでぶん殴りたかった。
だが、ここで放って行かれたら俺はどうしようにもないから従ってやった。
もちろん登り切った時に思いっきり殴ろうとした。
爺には分かり切ったかのように避けられた。
マジでキレそう。
「さっさと行くぞ」
「てか、どうして植物から離れていくんだよ。離れるんだったら楽な下に行こうぜ」
「さっき言ったじゃろ。下の方が栄養だったり魔力だったり吸収されやすいんじゃ」
「なるほど、出来るだけ上に行くって事か」
「そう言う事じゃ。分かったならさっさと来るんじゃ」
「はいよ」




