第9話 「魔王はただの女だった」
「もう一度聞こう。何をしにここに来た?」
いっそう目くじらを立てる魔王。
「まぁまぁ、とりあえずこれやるよ」
そんな彼女に、俺はミルクをあげた。
とはいっても彼女との物理的な距離は離れてるもんだから投げるしかなかったわけだが。
幸い、魔王はそのミルクを手で受け止めた。
「……我に、ミルクをくれた人間は貴様が初めてだ」
「そりゃどーも」
感心したような素振りを見せる。
そして、彼女はそのミルクを口にして
あっという間にミルクは無くなった。
「さて」
あー美味しかったと言わんばかりの表情をする魔王。……やっぱりテレアの言う通りミルクを
よく飲むやつはおっぱいが大きいらしい。
「さっきの質問に答えろ」
先ほどの表情が嘘のように
威圧的なそれに変わる。
やはりミルクごときに釣られる奴ではないか。
「……」
どう言おうか……。
何を隠そう、俺がここに来た目的は
この魔王を“奴隷”にするためだ。
もし男なら当然速攻で倒していたが
女なら……ぜひとも“おっぱいを語り合う会”に
参加してもらいたい。
人間とは違う種族ならなおさらどんな話が
聞けるのか楽しみじゃないか。
だからコイツを“奴隷”にして仲間に入れるのだ。……まあ、魔王クラスとなると
どれぐらい強いのかも分からないから
100%とも言えないが。
……よし、こういう時はかっこよく言おう。
俺はゆっくり右手を上げて、魔王を指差す。
そしてニヤッ、と笑い……こう言った。
「お前を“奴隷”にするためだ」
決まった。
どうしよう、今猛烈に嬉しい。
こういうこと前から言ってみたかった。
……と思うのもつかの間、目の前に巨大な
火球が迫ってきた。
┈ ドォオーン!! ┈
「我を“奴隷”にするだと? ハッハッハッ! 笑わせてくれるわ、人間風情が!!」
悪笑いを浮かべて、勝ち誇ったような声を
出す魔王。
「…ゲホッ」
巨大な火球が見事にヒットしてしまい、
周り一帯は煙でいっぱいだった。
……どうやら魔王は俺が死んだと思っているらしい。
体じゅうを見回したが、ダメージはなかった。
煙で充満してる間にステータス画面を開いてみるとやはり HP 6142/6142 のままだった。MPも減っていない所を見ると、ノーダメージのようだ。
「うーむ」
魔王には聞こえないぐらいの小さな声で
唸る。どうするかな。煙の充満具合を見ると
まだまだ明けそうにない。
そういえば、確か……
スキル一覧を開いて、思い当たるスキルを
押す。
[俊足] LV.1
消費MP:0
音速をも超える速度で
移動が可能になる。
レベルを上げると、移動できる速度が
さらに速くなる。
なお、このスキルは固有スキル扱いのため
常時発動となる。
常時発動か。それは助かる。
いちいちスキル画面を開いてやる手間を省けるため優秀なスキルだ。
よし……いっちょう、やるか!
俺は煙が少し明けてきて、魔王の姿が見え始めた時、すぐに魔王に向けて移動した。
「な……ッ?」
魔王が声を発する時は、もう既に
俺は彼女の頭にある角を左手で掴んでいた。
そして俺はこれ以上ないぐらいの悪顔を浮かべてこう言った。
「いいおっぱいしてたのが、運の尽きだな」
そう言って彼女の顔目掛けて殴る。
……
…………
………………
……もちろん、本当に殴ったわけじゃない。
寸止めで止めておいた。
パンチの速度が速すぎなためなのか、
彼女は目を閉じる暇もなく……ただ目を開いただけだった。
寸止めにも関わらず衝撃波が発生したのは
想定外だが。
「ぐッ、貴様ァ……!!」
こんな状況であるにもかかわらず、
殺してやる、と言わんばかりの勢いで声を上げ、角を掴んでいる俺の腕を掴んでくる。
その掴んできた手は魔王に似合わず、
細くて、華麗であり……ただの女の手だった。
……仮にも彼女は魔王だ。
魔王である者が人間風情に遅れを取るなど
あってはならないこと。
そういえば、セミナに似てんなコイツ。
ハッ……だからこそ、“奴隷”にしてやりたい。
俺は的外れな思考を浮かんでいた。
彼女は俺の腕を掴んでいる手に力を込めたが
やはりそれほど強くは感じられなかった。
そのため、俺は……
「あっ!?」
俺の腕を掴んでいる彼女の手をすばやく掴んで
両手とも上に上げ……椅子の背もたれに押し付けて
固定し、束縛みたいなポーズを取らせる。
「は、離せ…ッ!」
彼女は懸命にこのポーズを解かせそうと
力いっぱい暴れるが、それも俺の力の前では
無力だった。ちなみに、俺の視界下では彼女の谷間が
ハッキリ見えてて鼻血が出そうなのはここまでの話だ。
「おい、お前……」
そして自分の顔を彼女の顔に思いっきり
近づかせ、あと数cmでキスしてしまいそうな
距離まで近づかせる。
「な、何を……!?」
慌てめいた彼女はもはや、魔王などではなく
ただの女と化していた。
そして俺はまた悪顔を浮かべ、
彼女にこう言った。
「お前を、俺の女にしてやる」
「……え?」
すると、彼女は呆気を取られたような表情を見せる。……それから数秒後。
「わ、我を……お前の、女に?」
しどろもどろな様子で確認してくる彼女。
まだ彼女の腕を押さえているため、
体をもじもじと動かすしか出来ないが、
それが逆にぷるん、と胸を揺らす原因となる。
……それは置いといて、
もちろん、と俺は頷いておく。
「ッ!」
すると、突然顔が赤くなり、
顔から湯気が出てきそうな感じになる彼女。
え、何コイツ可愛いんですけど。
そう思うのも無理はなかった。
魔王だけあって顔も良い、体つきも良い上
人間と違う種族。
いつもと違った興奮を覚えずにはいられなかった。
「はぁ……ッ」
そして彼女は嬌笑を浮かべて、
トロリとした赤色の瞳で俺を見つめる。
そして、ゆっくり口を開いてこう言った。
「分かった……」
それを聞いて、俺は無言で
彼女と“奴隷契約”を交えた。
こうも上手く行きすぎると後々が怖いぜ。
……どうやら、俺は彼女の好みに
ドンピシャのようらしい。
おっぱいがデカいやつは皆マゾリストなのか?
そう思わざるを得ないほどの豹変ぶりだった。
こうして、このゲームの魔王である彼女は
めでたく俺の“奴隷”となったとさ。
これで終わりみたいな感じ出すけど
まだ序の口だからね、コレは。
つづく
次回予告
無事、魔王を奴隷にすることが出来たラロス。
そしてセミナとテレアの元に戻る途中で…?
面白かったら幸いです。