第6話 「私が恨む悪人は変態でした」
どこからか現れて、どこかに去っていく。
そんな感じの悪人。名前はまだ聞いていない。
少し前までは、魔王打倒!で進んでいたのに。
いきなり仲間たちを瞬殺してきたのだ。
いや、殺してはいないけど瞬殺したのと同じぐらいのほどだった。
そして、今。
この男の妙な技で束縛され、私───セミナは身動きが取れない状態だ。そして、コイツに汚されようとしている。
「や、やめて…ッ!」
「今さらやめると思うか?」
男は思いっきりいやらしい表情を浮かんで
こちらに近づいてくる。
もう……覚悟を決めるしかないの?
生まれてこの方、好きな人などいなかった。
“いつか、好きな人が出来た時のために”と、
ずっと純潔を保ち続けて来たのだ。
それが。よりにもよって。
「ふっふっふっ」
よりにもよってよく知らない相手に奪われるなんて
思いもしなかった。
「……ッ!」
素直に助けを乞わなくてはいけない。
さもないと身を汚される。
しかし、それを声にしようとしても出来ない。
私は──────どうしようもないバカだ。
「さあ、覚悟しろよ……?」
男の手がこちらに伸びてくる。
もう……ダメだ。
私ここで汚されちゃうんだ。
そんな思いを抱えて……
目をつぶり、歯を食いしばる。
「あ、自己紹介忘れてたな。俺はラロスって言うんだ」
「……は?」
ここで自己紹介するの? こんな場面で?
「お前は?」
「………あぇ? あ、セ、セミナよ」
あまりにも拍子抜けだ。
「なるほど」
そういってラロスの手がこちらに伸びてくる。
なんなの、この男?
恐怖ももちろんあったが、戸惑いもあった。
「っ!」
ラロスの手が私の体に触れた瞬間、
ビクッと体を震えてしまう。
「……え?」
しかし、ラロスの次の行動は
私が想像していたのと違った。
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セミナとテレアの肩を優しく掴んで
体を起こす。
彼女、肩を触れた時に歯をくいしばっていたようだが……まぁ、いい。
テレアの方はまだ、恍惚としていた。
長すぎねーかこの女。
「ふっ」
なんだか可笑しく思えてきて
思わず笑いがこぼれる。
顔をセミナの方を向けると、彼女は……
何故かポカーンと開いた口が塞がらない状態だ。
木製テーブルから1つのイスをベッドの前に置く。そのついでに、テーブルの上に
置かれていたメモ帳とペンを持っていく。
ふむ、どうやらこの異世界のものは現実世界と近いようだ。
置いたイスに座ってそのメモ帳の裏を見ると、
“エルフ商店”と書かれたマークが
右下に書いてあった。
そのまんまじゃねーかおい。
心の中でツッコんで、
改めて女二人と向き合う。
「おい、セミナ」
相変わらずポカーンとしていたセミナに
そう声をかける。
「……な、なに?」
ようやく正気を取り戻したセミナ。
慌てめいた様子がなんだか可愛く見えたのは
ここまでの話だ。
そして、俺はこう言った。
「共におっぱいを語り合おう」
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「……は?」
何を言っているんだろうか、コイツは。
満喫の笑顔で俺を見つめるラロスに
ただポカーンとしてる他になかった。
「教えろ。お前のおっぱいは何カップだ?」
いや、この状況でカップのこと聞くか普通?
ここまで来て私はようやく気づく。
いつものラロスなら恐らく問答無用に
ヤってくるはず。なのにコイツ……
今のラロスは胸のカップを聞いてくるのだ。
「お、おっぱ……? な、なに言ってんの……!?」
「何をって……そのまんまおっぱいのことを聞いてるんだ」
至って真剣な目差しで私の瞳を見つめてくる。
胸のことでこんなに真剣になる男を、
生まれて初めて見た。
そして、私はふとこう思った。
ああ、そういうこと。
この男は私をたっぷり焦らしてからヤるつもりなんだ。
そう思ったら少し心に余裕が出来た。
「……そんなまどろっこしいことしないで、さっさとヤるだけヤれば?」
自ら墓穴を掘ってしまったような気がするが
そんなことは気にしなかった。
……ラロスは疑問を抱くような表情をする。
「ああ……? だから今ヤってるんだろ」
「は?」
二度目のは? が出てしまった。
胸のサイズの話がか?
どうも、話がズレているような気がする。
「イヤ、ソノ、フクヲヌガストカ?」
あっけからんとした態度のラロスに
気が抜けてしまい、カタコトになってしまう。
「服を脱がすぅ~?」
有り得ん、と言わんばかりの表情をする
ラロス。
「そこまでやるつもりはねーよ」
え……どういうこと?
何回も敵として戦っているうちに、
少しはラロスのことが分かったと思った。
しかし、さっぱりこの男が分からなくなってしまった。
「俺はただ、セミナのおっぱいのことが知りたいだけだ」
彼は足を組んで、ペンで私の胸を指差してくる。
ハタから聞けば最低の発言だ。
「で、何カップ?」
私は悟った。
コイツ────ラロスがそこまで悪人では
なかったこと。そして。
「お、教えるわけないでしょうがぁああ!!」
おっぱい魔人だったことを。
「ダメか。ならどうやってそこまで大きく出来た?」
「なッ……」
すかさず次の質問へと変えてくるラロス。
確かに私の胸は平均ぐらいだとは思う。
むしろもっと大きくしたい……って違う違う。
考える所そこじゃない。
「早く教えろ、さもないと揉むぞ」
指を動かして、いやらしい手つきを
見せつけてくるラロス。
「も、もう、揉んだじゃない……!」
まだ一度も揉まれていないのならまだしも
既に揉んだやつに言うセリフとしては
有効じゃない。
あの森の出来事がフラッシュバックしてくる。
「……っ」
その時感じた扇情的な感情が高ぶってくる。
それに思わずふるふる、と頭を振る。
……胸を揉まれたの、初めてなんだぞ私!!
どうしてくれるの!?
ああ、それがどうしてよりにもよってこの
おっぱい魔人に……
「ごほん」
ラロスから咳払いが聞こえる。
「あれは……若気の至りだ」
そんな真面目そうな顔で
そういうことを言う辺り、本当の変態ではないだろうかと思ってしまう。
「若気の至りで、済んでたまるかっつーの」
そう言った。それを聞いたラロスは
うーん、と顎に手をやって唸る。
「そうだな、すまなかった」
そう言ってラロスはなんと頭を下げてくる。
あまりにもの出来事に、私は混乱した。
「は、え……?」
頭を下げた……?
いやいや、おかしいよこの状況。
どうしちゃったの、ラロス?
悪人なら悪人らしくしてよ。
じゃなきゃ私どう反応したらいいかわかんないじゃん。
ラロスは頭を下げた状態から首を上げて
しっかり私の瞳を捉える。
「で、何カップ?」
「Dよッ!!このおっぱい魔人!!」
変わり身の速さに
つい、反射的にそう言ってしまった。
「はッ……!」
「なるほど、Dか」
至って真面目な表情でメモに書き込むラロス。
「や、やめて!」
やっぱりコイツは悪人だ!
まさか心まで弄ぶなんて!!
「それにしても、“おっぱい魔人”か」
なかなか面白いことを言うもんだな、と
感心する素振りを見せるラロス。
「ぐぅ……ッ」
一生の不覚だった。
まさかコイツの口実に乗って良からぬことを
言ってしまった。
「で、どうやって大きくしたの?」
「も……もう言うもんですかッ……」
私はそう言って口を固く閉ざした。
こうして、私とラロスの奇妙な
“おっぱいを語り合う会”は口火を切った──
「はッ! な、何が…!?」
「「あ」」
恍惚から目を覚ましたテレア。
……そうか、テレアもいたんだっけ。
つづく
次回予告
己の欲望通りに、かわよい乙女との
“おっぱいを語り合う会”を開いたラロス。
そして、ついに“奴隷契約”を──────!?
面白かったら幸いです。