第5話 「スキルのありがたさ」
スキル一覧を開いたら、見覚えのないスキルが
ずらりと縦に並んでいた。
“資金作成” “奴隷契約” …などなど、
いかにもそれっぽいスキルが多い。
「なるほどな」
試しにステータス画面に戻ってみると、
やはり自分のレベルが19になっていた。
そのことから考えると、レベル50の敵……を
倒したからだと思われる。
……野郎どもに目を向けると、
相変わらずノビていた。
どうするかな。
試しにこの“資金作成”のスキルを押してみる。
[資金作成]
消費MP:程度による
消費MPによって、
ゴールドを生成することが出来る。
また消費MPが多ければ多いほど
生成できるゴールドの量も多くなる。
ほおーお金を生成出来るのか。
なんとまあ都合主義な……
そういえばMPはいくつあるんだったか、と
ステータス画面に戻る。
MP 4056/4056
あれ?“望遠鏡”でMPを1使ったはずなのに
いつのまにか回復してる。
まぁ……気にしないでおこう。
とりあえず1000ぐらい使ってみるか。
先ほどの“資金作成”のスキル画面に戻り、
使ってみる。
[どのぐらい使いますか?]
アイテムを売る時に個数選択するみたいな感じの枠が出てきた。
1000、と…
消費MP 1000 → 100万ゴールド
100万ゴールドか。
まあ、それなりにはいいんじゃないか。
このゲームをプレイしていた時は
軽く億は超えていたけど。
最終決定の枠を押して、ゴールドを貯めておく。
……あ、すっかりスキルに集中していて
二人のことを忘れかけていた。
その二人に目を向けても、
何も教えてはくれない。
「……」
ギリリ……と睨まれる結末だ。
今度こそ何か使えるやつはないか、と
スキル一覧を眺める。
「……これだ!」
すると、今の状況に適したスキルが1つあった。そのスキルとは、“気配隠蔽”だ。
[気配隠蔽]
消費MP:154
対象一人の姿や声を隠蔽することが可能。
ただしスキル使用者だけは適用しない仕組み。
消費MPが高いな…
154×2 で……308。
まあ、レベル19になったわけだし
そんな大きな消費でもないか。
ちなみに“輪廻転生を極めし者”のスキルのおかげで
消費MPを80%軽減した値が表示されている。
つまり本来は、154×5で……770だ。
つくづくこのチート的なスキルのありがたみを感じた。
早速そのスキルを使って女二人に手を向ける。
「…ッ」
セミナの方は、何をする気?と言わんばかりの
表情をしていた。テレアもまたしかり。
「安心しろ、別に殺すってわけじゃねえから」
そう言って女二人にスキルをかけた─────
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「……」
俺は、“モガ”の反対側にある森の出口から出て
すぐ近くにある街 “ラノッヒ”の街道を歩いていた。
“ラノッヒ”は……異世界の街みたいな感じだ。
人もいればエルフ、獣人なんかも普通に歩いていた。……いいおっぱいしてんな、みんな。
「ねぇ! どこに連れていく気!? 離してってば!! 」
「あぅ…」
俺の右手にはセミナ。左手にはテレア。
それぞれ脇腹に寄せて抱えていた。
もちろんスキルのおかげで二人の声は
周囲にいる人々には聞こえない。
……しかし。
「ねえ、あの人何してるのー?」
後ろからそう声が聞こえる。
「しっ…見ちゃいけませんッ」
その会話からするとおおよそ親子だろう。
スキルのおかげで見えなくなったはいいが、
周囲の人々は、不審な目で
こちらを見つめていた。
まあ……はたから見れば何もないのに
“抱えている人”に見えるからなぁ……。
“気配隠蔽”のスキルには欠点がある。
それは姿や声が見えなくなっても存在自体は
隠せない。スキル使用者以外は、 話も触れも出来ないが、俺には……普通に姿が見えるし触れも出来る。
だからこうやって抱える他になかったのだ。
「……」
俺にだけ聞こえる罵声を浴びさせるセミナと
何故か赤面をしてめそめそと泣いているテレア。
あぁ、先が思いやられる……
そう思った矢先に前方に宿が見えてきた。
見えてきた途端、俺は歩くスピードを早めて
いち早くその宿の中に入った。
「いらっしゃ……い?」
この宿の主人と思われる男が
受付の向こうからこちらを見る。
当然こんな格好なもんで不審な目でこちらを
眺める。
幸い、俺達以外に客はいないようで
大騒ぎにはならないようだ。
受付の前まで出向き、
やがて主人の前に立つ。
「い、一泊 100ゴールドです……」
怖いものを見るかのような目でそういうオヤジの主人。
まいったな……主人はともかく、
今女二人とも抱えてるからお金出せない。
はてさてどうするかなこれは。
「な、なんで宿……まさか、乱暴する気ッ!?」
いっそう俺から離れようと暴れるセミナ。
いやまあ…そう思うのは仕方がないが、暴れるたびに……その……
胸が俺の腕に押し付けているって。
心の中でそう言った。
「はぁ…あッ」
その一方、テレアは何故か一人で勝手に
変な声を出して恍惚としていた。
……この状況は何だろうか。
前方には怪しい者を見るかのような目をしているオヤジ。そして下には、こちらを睨んでくる女と……恍惚としている女。
一生経験することはないのだろうか、と
思うぐらいの状況だった。
「……」
早く金を出さないとまずいことになる気配がする。……ええい、イチかバチかだ!
「よっ」
両手に抱えている女二人を少し上に向けて投げる。
「あっ!?」「きゃッ!?」
女二人が空中に浮いてる間に……金を出すッ!
「「きゃあッ!!」」
右ポケットから100ゴールドを出して、
地面に向けて落下し始める女二人を
拾うかのように素早く腕で抱える。
もっと女を大事にしろ、なんて声が聞こえたが
無視しておく。
「あ、おつりはいいです」
よく考えたら、あんな一瞬のことで
100ゴールドぴったり出せるはずもなく、
大体50万ゴールドぐらい出してしまった。
まあ、“資金作成”でいくらでも出せるわけだし
そんなお金に対して執着はなかった。
というか100ゴールドって安くないか。
「……」
主人は震える手で、ゴールドを手にとって
数える。この世界では珍しく日本と同じ
貨幣と硬貨のようだ。
やがて数え終わった主人は……
「5、50万ゴールドも……ですか?」
本当に貰っていいのか、と言わんばかりの顔をして
主人はそう言う。
「ええ」
「……!」
それを聞いた主人は何故か顔を伏せて動かなくなる。
「ラロス……!またどこかの家から奪い取ったのね!?」
そんな中、セミナが口を挟んでくる。
セミナの方に顔を向けると、やはり
睨んでいる表情だった。
ゲームの設定では、ラロスは盗みを繰り返す
悪党。しかも華麗と盗んでいくものだから
その正体は主人公達にしか知らない。
しかし……俺は盗みなんてしてない訳で。
「……」
無視しておく。
ねえ!耳掃除ちゃんとしてる!?とか
思わず笑ってしまいそうな言葉を投げかけてくるが、それでも無視してオヤジに向き直す。
「……ダンナさん」
「あ、はい」
いきなりオヤジが、真剣な目差しでこちらを
見つめてくるもんだからかしこまってしまう。
「ちょっと付き合ってくれませんか」
オヤジは受付カウンターの上に
“用事で出かけます”と書き置きをして
カウンターから出てくる。
「こちらに」
オヤジは受付カウンターの左側にある
階段に招き入れる。
「あの……主人?」
俺は言われるがままにその階段の方に出向く。
オヤジは無言で、そのまま階段を上る……のではなく下っていく。
なんだか異様な雰囲気に警戒を強めながら
オヤジについていく。
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「……ここは?」
階段を下りて、石の洞窟みたいな道路を
真っ直ぐ歩き続け、突き当たりからまた階段を上って……10分ぐらいの感覚で
やっと着いた一つのドアの前。
「場所が場所でして、長らくの間使われていなかった部屋です」
「なるほど」
オヤジは鍵を取り出し、ドアを開けて
中に入る。……俺も続いて入ることに。
ちなみに女二人はすっかり石の洞窟の雰囲気に飲まれて言葉を発しなくなっていた。
というかこのオヤジすげえな。
オヤジから見ればハニワみたいなポーズを
している俺を見ても一切表情を崩さない。
お金の力って凄いんだろうな…なんて
思っていたりしていた。
「おお」
ドアの中にある部屋は案外綺麗だった。
入ってすぐ左にダブルベッド。
右側にはキッチン、木製のテーブル…
必要最低限の生活用具が揃っていた。
「こちらから外に出ることも出来ます」
そういってオヤジは一番向こうのドアを開ける。その際に心地良い風が体に当たってくる。そのドアの左右にある窓から太陽の光が 部屋に差し掛かっていた。
「ここは……」
ドアの先に出て、俺の目に飛び込んで来た
景色は、どこにでもある異世界の街の景色。
色々な人やウルフ、獣人が賑わっている様子。
それは紛れもなく今、俺達がいる街
“ラノッヒ”の景色だった。
「50万ゴールドもらった以上は、この部屋を
あなたに差し上げます」
そう言ってオヤジはこの部屋のものと思われる
小さな鍵を渡してくる。
「え? いや、そんな気遣わなくても」
「いえ、50万ゴールドものの大金。せめてのお礼にと受け取ってください」
オヤジは誠意を込めて頭を下げてくる。
「…分かりました」
なんだか話がうまく行き過ぎな気もするが、
とりあえず承諾しておく。
オヤジは頭を上げてこう言う。
「ありがとうございます……ここはもうあなたの部屋ですので、どうぞご自由にリフォームしても構いません」
じゃあ、と満喫の笑顔で俺達が通った道を
戻っていくオヤジ。
「……」
そろそろ腕に抱えている女二人を
ベッドの上にやさしく下ろす。
「こ、この……」
ゲタモノ、と言いたそうな顔をするセミナ。
「あふッ……」
テレアの方はすっかり恍惚しきっていて、
もはや発情してるようにも見えた。
……試しに先ほどオヤジが出ていったドアを閉めて
みると、手で回せるタイプのロックが付けてあった。オマケに補助錠まで。それを見ると、
少しオヤジの言うことを信用出来るかもな。
……そう思った。
「ほう」
街の方に出るドアの方も補助錠付きだ。
異世界に補助錠なんてセキュリティがあること
自体驚きだが、この後のことを考えると、
どうでもよくなってきた。
厳重に洞窟の方も街の方も鍵を閉め、
補助錠も閉める。
もちろん窓にかけているカーテンも閉めておく。
「さてと」
女二人に向けて
いやらしい顔を浮かびながらゆっくり歩く。
「ッ、いやッ……く、来るな…ッ!」
セミナはこれから自分が何をされるのかを
察したのか、嫌悪感たっぷりの表情をして
どうにか束縛を解くよう体を動かして暴れる。
今のままでも大丈夫だろうが、
いざとなれば“奴隷契約”で何とか出来るしな。
テレアの方は……
「あふッ……」
まだ恍惚から目を覚めていないようだ。
どんだけマゾヒストなんだよコイツ……
まぁ、いい。
三人で楽しい宴を開こうじゃないか。
その名も……
“おっぱいを語り合う会”。
つづく
次回予告
誰にも邪魔されない場所に
たどり着いたラロス!
はたして“おっぱいを語り合う会”とは…!?
面白かったら幸いです。