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第39話「それは俺のモノ」

「──────────はっ!」


突然意識が鮮明になる。


「あ……ラロス様!」


「大丈夫か? 突然倒れて驚いたぞ…」


目を覚ますと…俺はいつのまにか、ベッドに横だわっていて、ヴィレナとロエルがすぐそこにいた。


「ああ…俺は……?」


初めこそ記憶があやふやだったが……次第に戻ってくる。


「はっ!」


すぐさま自らの服装をチェックする。

……よし、どこも乱れていない。


倒れている間に何かされたということはないようだった。


あの状況で、意識が落ちてしまうなんてどんた失態を犯してしまったな…


「ラロス様……」


「ラロス……」


何やら意味を含めたような声で俺の名を呼ぶ二人。


体を起き上がらせて、相互に二人の顔に目をやる。


「ラロス様、目を覚められてはなんですが…」


「うん」


「1時間ほど、外出していただけませんか?」


「……はっ?」


真面目な顔をして、何を言うかと思えば……

少しの間だけ席を外してもらうとは。


これは何事か。


「この方とどうしても決着を付けないといけませんの…どうか、お許しを」


そう言ってヴィレナは心底申し訳ないように

頭を下げてくる。


「ラロス、我からもよろしく頼む」


ロエルも同じく頭を下げる。


どうやらヴィレナの単独…ではなくロエルも同意の上での事らしい。


「……わかった、くれぐれもやりすぎないようにな」


ため息をつきながらもそう言う。


そういう選択しかなかった。


「ありがたき言葉……」


「助かる」


──────二人の真摯な表情を見せられたら

断るにも行かないしな。


せめて二人の“決着”とやらが、穏便に済ませられるように祈るしかない。


────────こうして、家から出て街中を散歩することにしたのだった。


「……空気がうまいな」


日付が変わる時刻だからか、街は静寂の空気に覆われていた。


……そんな長い時間気絶していたのか、俺。


そう思いながら、満月が浮かぶ空を見上げる。


今思えば、本当に色々なことがあった。

ここに転生してきたのだって、ほんの1週間ほど前の話だ。


それなのに、もう1年ぐらいの経験をしたような気分だ。


セミナ。

テレア。

ロエル。

ヴィレナ。

ティニア。

セレラ。


───────1週間ほどで、こんな可愛くて綺麗な人達に出会えた。


これを“天国”と言わずになんと言うのか。


「…1時間、か」


まあ、そこら辺でも歩いていればすぐ過ぎるだろ……と楽天的にそう思いながらブラブラすることにしたのだった。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「……本当に誰もいねえな」


電気が消えていて、月の光だけが街を照らしていてかろうじて建築物が見えている状況。


ふと、歩を進めている足を止める。


こう言う街だと、酒屋か何かでワイワイやっているイメージがあるもんだから…そこに集まっているのかもな。


……酒、酒ね。現実にいた時は飲んだことがないが……思い切って飲んでみるか?


いや、それでもし酔ってでもしたら、ヴィレナ達に迷惑がかかるのかもしれない。


飲むなら後だ。


自分の中でそう結論を付けて散歩を再開する────────そんな時。


「いやッ……や、やめてくださいっ!!」


どこからか、女の声が聞こえる。


────こっちか?


声がする方向は、家と家の間にある細い道…いわば“裏路地”というヤツだ。


「へへっ、借金が払えないなら…分かるよな?」


なんともいやらしい声を出す男。


「お、お願いします…もう少し、待って下さい…」


「体で払いさえしてもらえばチャラにしてやるって言ってるんだよ、こっちはッ!!」


「ひっ…!」


借金取りの現場がそこで繰り広げられていた。


……ん?借金取りに絡まれているあの女……


「う…うぅ…」


“エルフ商店”の店主さんじゃないか!


……まさか、あの商店が経営に苦しかったとは思わなかった。


「い、いやぁ…ごめんなさい…っ」


片腕を強く掴まれ、振りほどきたくても掴まれる力が強くてそれが出来ない様子の店主。


「いいねぇ、その顔。ますます興奮するぜ」


目に涙を溜めている店主さんを見て、

そんなゲスい発言をする借金取りは…彼女の胸に手をかけようとする。


──────────やめろ。


俺は、無性に腹が立って…思わず舌打ちをしてしまう。


その次の瞬間、俺は……借金取りの前に立っていた。


「……あ?」


胸にかけようとしていた手を止め、こちらを睨む借金取り。


店主さんの方は、泣きじゃくっていて何が何だか分からないようでひたすら目をつぶっていた。


「なんだテメェは?」


「…彼女を離せ」


その一言だけを言うと、借金取りは何やら悟ったような表情を見せる。


「ははん。お前この女のツレか何かか。邪魔すんなよ、今いい所なんだからよ」


俺から視線を逸らして、店主さんの胸に視線を落とす。


「へへ…いい胸しやがるぜ」


──────そんな借金取りの行動を目の辺りにして、自分の中にあるど黒い感情がぶつぶつと湧き上がるのを感じつつある。


嫌がる相手に無理強いをさせようとするなんて、俺の美徳に反する。


「……それは、俺のものだ」


囁くように、そう言って……


「が…ッ!?」


目にも止まらぬスピードで、借金取りを壁に叩き付ける──────────


つづく



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