第34話 「無自覚」
「わ……かりたい?」
ラロスさんがそういう“分かりたい”という言葉に強い衝撃を受けた。
分かりたいって一体何なのだろう?
「ああ。この花束を置いた人にとっては迷惑な話かもしれないけど……」
そんな私の前に、ラロスさんはこの集落の跡を見渡しながら、言葉を続ける。
「この人は、どういう気持ちでこの花束を置いたのか。どういう気持ちで、ここを去っていったのか」
「……」
ラロスさんは……もしかして、私の心が見えているのだろうか?
「そして、この場所に何かあったのか……こういうことが二度と起こらないようにするにはどうすればいいのか……」
私は何も言えなくなった。
だって、ラロスさんが言うその言葉は、
まさしく私の考え方と同じなのだから。
「出来れば……この花束を置いた人の力になりたい」
そう言って、ラロスはセレラの方に振り返り……眉を少し上げ、笑いながらこう言った。
「はは。俺おかしいかな?」
そして、気がつくと私の頬には一粒の涙が流れていた。
「……っ」
思わず、頬に手をやる。やはり頬から感じる感覚は嘘ではなかったようで、確かに涙がそこにあったのだ。
いつのまにか……泣いていたの、私。
気付かぬうちに泣いていた自分に驚きを覚える。
「セレラ?」
そんな私を心配するように見つめるラロスさん。そんな彼に、私は……
「……ラロスさん」
「ん?」
「おかしくなんてないです。……きっと、伝わってますよ。ラロスさんの気持ち」
私は、自分でもびっくりするほどの穏やかな気持ちで、彼に笑顔でそう言った。
「……そうかい」
よかった、とラロスさんはこの村を見渡す。
花束を置いて行った人が、私だというのに気づいたかどうかは……分からない。
ラロスさんって、ホント不思議な人。
以前、タマスがラロスさんに銃を向けた際も、
微塵たりとも動揺しなかった。
この私でさえ、たじろいたと言うのに。
私は、本能的に……ラロスさんのことがもっと知りたくなったのだ。
「お姉ちゃん? だいじょう……」
後ろから声がすると思い、振り返ると……ティニアがそこに立っていた。
「え? え? な、なんでラロスさんがここに?」
そしてラロスさんを見るや否や、大いに驚く様子のティニア。
「なんだ、ティニアも来ていたのか」
ラロスさんは軽く笑ってティニアを眺める。
そして、彼は……ティニアにも同じである説明をしたのだった──────────
「はわぁ……そうだったのですね~」
そして、ティニアは納得する表情を浮かべる。
「うん。そういえば、二人はどうしてここに?」
「そ、それは……」
「ん? ティニアが持っているその花束……」
「あ、これはおねえちゃ……んぐっ」
そう言おうとした、ティニアの口を手で塞ぐセレラ。
「わ、私の知り合いから頼まれたので! ここに持ってきたんですっ」
「あ、ああ。なるほど」
少々疑問を持ちながらも納得する様子のラロスさん。
多分、私は恥ずかしいんだ。この花束を置いた人は私であって。私のことを知りたいだのなんだの言われたら恥ずかしくなるじゃないか……。
ティニアの口を塞ぎながら、心の中でラロスさんを軽く罵ったセレラであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
──────────その帰り道。
「あの、ラロスさん?」
隣にいたティニアから声をかけられる。
「ん? どうかしたか、ティニア」
「お姉ちゃんに……何かしました?」
「え? いや、何もしてなかったと思うけど」
「そう……ですかね」
ティニアは、前に歩く姉の後ろ姿を眺める。
「ん~♪」
楽しそうに鼻歌を歌っているセレラ。
「だって、お姉ちゃん……鼻歌なんかあまり歌わないのに」
しかも、足取りまでが軽そうに見える。
「え、そうだったのか?」
「はい……絶対何かあったんですよね、ラロスさん?」
ティニアはこちらを見てそう言った。
……眉をしかめて。
「う、うーん」
とはいっても特に何かした覚えはないしなぁ。
強いて言えば、花束のことぐらいしか思いつかない。
「ごめん、俺にはわかんないや」
花束のことは……今はあまり言わない方がいい。そう感じた。
「……そうですか」
ティニアも、それを感じ取ったのか……すんなり引き下がった。
「ふんふんふん~♪」
その一方、セレラは……相変わらずご機嫌だったとさ──────────
つづく




