第31話 「その後のこと」
あの後、タマスの悪行は瞬く間に国中に広まり
彼は刑務所に入れられたのは言うまでもない。
騎士団の方々に連行される際、彼が発した最後の言葉は……
「ひっく……み、みず怖いよぉ……」
だった。あまりにも強力な“スプラッシュ”を食らったせいか……幼児退行していた。そんな泣きべそかきながら連行されていくタマスを見て俺は哀れんでいた。
そして、深夜であるにも関わらず、俺達は陛下が休んでいる部屋へと招かれる。……もちろん、全員“気配隠蔽”は解いておいて。
「おお……そなた達が、この国を救ってくれた……」
どこかしこも赤という色が使われていた立派な部屋で、陛下と呼ばれる人物はそう言った。
「陛下……」
陛下の姿を見かねたセレラとティニアは、悲しそうな表情でベッドに横たわる陛下の前に立つ。
「そんな顔をするな、セレラ。全てはタマスの思いを見抜けなかった私に責任があるのだから」
「ですが、陛下……!」
「のう、セレラ。責任を感じるのは分かる。だからこそ……責任を持って私のわがままを聞いてくれないか」
「……分かりました」
陛下の言葉に、少しの間考え込んでからセレラは“陛下には困りましたね”と言わんばかりの笑顔を浮かべた。
「ティニア。お前も、わざわざ私のためにありがとう」
「いえ、私はそんな……」
「今回の事態をいち早く判断し、この人達に助けを求めた。それだけでも立派じゃぞ」
「陛下……ありがとうございます」
ティニアもまた笑顔を浮かべてそう言った。
「うん……そこの者、ラロスさんと言いましたか」
「……あ、はい」
突然陛下が俺の名前を呼ぶもんだから一瞬反応が遅れた。
「なんでしょうか、陛下」
俺は、セレラの隣に立つ。
陛下はいかにも王と言わんばかりに威厳溢れる顔立ちに、白いヒゲがあった。
「ラロスさん。改めて、この国を救ってくれてありがとうございました」
「いえ……ここにいるみんなの助けがあってこその事です」
そう言って俺はセレラ達を見回す。
「ラロスさん……」
テレアは目をキラキラと輝いて俺を見つめていた。
「全く、美味しい所だけ持っていくのねアンタ」
憎まれ口を叩きながらも穏やかな表情を浮かべるセミナ。
「……」
ロエルは、安心したような、嬉しいような。その二つの感情がまじった表情を浮かべて俺に頷く。
そんな俺に、陛下は病弱ながらも笑う。
「……ティニア。本当に良い人を連れてくれたな」
「ええ、私もそう思います」
幸福に溢れる笑顔でそう言ったティニア。
「……?」
そして、陛下は何故か俺に向けて少々手招きをする。何事かと思い、陛下に近づいて耳を傾ける。俺にだけしか聞こえないほどの小さな声でこう言った。
「それで、セレラとはどういう関係なんですか?」
「……はい?」
セレラとはどういう関係かって……質問の意図が掴めなかった。
「どういう関係かって……別に今日会ったばかりですし」
「ああ、そうじゃったか」
ゴホン、とひとつ咳払いをする陛下。
「どうだろう……これを機にしてセレラと交流を深めては?」
「はぁ」
交流……ね。交流を深めるって具体的に言うとそういうことだろうか? 恐れ多いが陛下に意味を問いかけてみる。
「それはつまり……お付き合いを前提に交流を深めろ……とおっしゃる?」
「うむ」
今までで一番力強い目差しで俺を見つめる陛下。
確かにセレラは美女の類に入る。それに陛下の前で思うのもなんだが、おっぱいも良い。
これ以上嬉しいことはない。だが……
「……こりゃまたどうして」
虫が良すぎるのではないか? そう思った。
「む、まだ気づいていないのですか?」
陛下がそう言う理由。
それは何よりもラロスがセレラの隣に立ってから彼女の様子がおかしくなったからだ。
明らかに顔が赤に染め始め、そわそわと落ち着かないのだ。それを見たら誰でも察することは出来る。
「なるほど……セレラも苦労するじゃろうなぁ」
「?」
陛下が何を言っているのかさっぱり分からなかった。
「ああ……強制するわけじゃありません。私としては、どうか? というぐらいに留めておいて構いません」
「……分かりました」
そう言って俺は元の姿勢に戻ってセレラの方を向ける。
「……っ」
すると、セレラは何故かそっぽを向く。その頬が少し彩度が高かったのは気のせいだろうか──────────
つづく
次回予告
次は女子陣の話、二本立てです。