第2話 「え、なにこのチートスキル」
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「んおっ!?」
突然意識が戻り、起き上がる。
すると、俺の目の前には見知らぬ森が広がっていた。
いや、違うな。
ほど良い風が吹いていて、それに連なって
なびく木々の葉っぱ。
空を見上げると、少し赤が差し掛かっていて…
夕方に近い時刻だと分かった。
地面は少しぬかるんでいて
所々水たまりが貯まっていた。
一見、ただの森の中。
だが俺に映る……その森の景色には見覚えがあった。
「ふむ」
間違いなく、その森は、
先ほど俺がプレイしようとしていた
ゲームの中に登場する森だった。
……あの女神案外やるじゃねえか。
流石、いいおっぱいをしてるだけのことはある。
心の中で先ほど会った女神を褒めた。
一応確認に、と水たまりに顔を覗かせる。
するとそこに映った姿は……
駒田 康雄ではなく、ゲームの中に登場する
“最凶最強”の悪役であるギーゼ=ラロスの姿が映っていた。
「ははっ……」
今俺が置かれている状況が理解出来ず、
おでこに右手をやって笑ってしまう。
おいこら女神。
なんで男なんだよ。女にしてくれませんかね!?
女なら堂々とおっぱいを見れるし、自分でも触れるし!
手から感じるおでこの感触といい、髪の感触といい……明らかに
男である。
……いや、俺はゲームオタクだ。
ゲームオタクの名誉にかけて、何としてもおっぱいを……
「とりあえず、ここを出ないとな…」
そう、両手をグッと握って俺は
誰にも向けない声を出して……この場から離れる。
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何回もあのゲームをやり込んでいたおかげで
この森のマップが頭の中に入っていた。
そのため、苦もなく森から抜け出すことが出来た。
森から出てすぐそこから周りを見渡すと、
無限に広がった野原。
相変わらず風は吹いていて、
時刻も夕方に差し掛かっているからなのか……
赤と青がまじった空がまた魅力的で
思わず目を奪われそうになった。
そんな野原の真ん中辺に、
数々の建築物が集まる場所があった。
あれが“モズ”か。
その場所は、このゲームの
主人公の故郷である
“モズ”だった。
……正直、感激だった。
夢から、目を覚まさないでくれ。
俺は本気でそう思った。
だってそうだろう、自分の大好きなゲームの中にいてしかもゲームの中に出てくる景色を実際に目の当たりに出来るなんて
ゲーマーにとってこれ以上のご褒美はないだろうがッ!!!
「……ごほん」
己を静めるために、わざと咳払いをする。
そうだった、異世界で油断はすなわち“死”に
繋がる。……どうせ夢なんだからいいんだけど。
そうだ、せっかく有名なRPGゲームに来れたんだから
何か装備とかアイテムは持ってないのかな。
俺は試しに自分の体……ラロスの体をパタパタと
触ってみる。
「うわっ」
胸の場所に反応して
俺の目の前にステータス画面が映し出された。
そこに書かれていたのは……
ギーゼ=ラロス
LV.1
経験値 0/50
HP 771/771
MP 201/201
攻撃力︰ 243
防御力︰ 247
腕力︰ 243
魔力︰ 201
体力︰ 247
敏捷︰ 120
って俺レベル1かよ!?
ラロスの姿だもんだからLV99とか期待しちゃったんだけど。
……いや、それにしては
レベル1でこのステータスは破格的だ。
このゲームの主人公であるギクスのLV1時の
ステータスは大抵10とかその程度だぞ。
つまり……俺強すぎね!?
そう思えばレベル1でも充分強かった。
そんな時、ステータス画面の上に
“固有スキル一覧”と書かれた枠がある。
……これって指で反応するのか?
試しにその枠を押してみる。
するとステータス画面が固有スキル一覧に
変わる。そこに書かれていたのは
3つのスキルだった。
「な、なんだこのスキルは!?」
[輪廻転生を極めし者]
効果︰ありとあらゆる技や魔法の消費MPが
80%軽減され、本来の威力に、
最大MPに応じた量が加算される。
[世界に君臨する者]
効果︰レベルアップする際のステータス上昇量に10倍の補正が掛かる。
それに加えレベルに応じて、全ステータスに破格的な数字を上乗せする。
すげぇとしか言えなかった。
このスキルはハッキリ言ってチート級だ。
いわば俺のTREEEEE!!みたいな感じだ。
そして最後のスキルは……
[絶え果てぬ者] LV.1
効果︰HPが0になった瞬間、自動的にMPを100消費し、HPを全快する。
またこのスキルはレベルが付与されており、
レベルによって効果は上がっていく。
お、おお……まさしくチートの中のチートじゃないか!
HPが0になってもMPが残っていれば全快出来るのかぁ。
……最大MPを上げといた方が安心のようだ。
チートというか……バグってるんじゃないか? と、
心配になるぐらいのモノだった。
……おっぱいに関するスキルがあった方がよかったのは言うまでもない。
とりあえず、固有スキル画面の右上にある×マークを押して
消しておく。
「ん?」
すっかりステータス画面に集中していたせいか、“モズ”から出てきてこちらの森に向かってくる人影に気づかなかった。
距離があるせいか、その人影が誰なのかは
はっきりしなかった。
……そこの木に隠れるか。
ひとまず近くの木に隠れて、
何かいい技はないかとステータス画面を開く。
すると、“固有スキル”の横に、先ほどはなかった“技・スキル一覧”の枠が出現していた。
ひとまずこれ見てみるか。
その枠にタッチして開いておく。
そこに書かれていたのは……
「少なっ」
思わず声を出してしまうほどの少なさだった。
その数は……1つだけ。
その1つだけの技とは、“望遠鏡”だった。
試しにタッチしてみる。
[望遠鏡] LV.1
消費MP:1
10km範囲までハッキリ見渡せる。
効果持続時間は無限で、自らやめるまで
持続する。
おお、 まさしく今使える技だこれ……
ってMP使うのかよ。まあ、1だし
試しに使う価値はあるか。
そう思ってその技画面の下にある
[技を使いますか?]の問いに、出されている
[はい] [いいえ] の枠。俺は [はい]を押した。
「おおっ」
目を凝らして見ると、どんどん景色がズーム
していく。何かをかけるでもなく直接目に効果がかかるようだな。しかもスムーズに
ズームしたりアウトしたり出来るようだ。
これで先程の人影を……
「……げっ!」
その人影をハッキリ見据えると…
このゲームの主人公達一行だった。
一行は4人いるようで、
その先頭には主人公の姿があった。
ほー……本物の主人公ってのはカッコイイね。
やはり主人公だからか、ルックスは
良かった。
ってこういうこと考えている場合じゃない。
俺は悪役だぞ。出会いでもしたら確実に戦闘になる。
……とりあえず、ステータス画面を閉じて、
森の中に逃げ込んでどこかの場所で改めて考えよう。
そう思った俺は森に向かって走る。
高い敏捷のおかげか、いつもより
走るスピードが速かった─────────
次回予告
どうにか森の出口から離れることが出来たラロス。
そこで、“今やるべき事は何なのか” を考える。
はたして“やるべき事”とは───────!?
面白かったら幸いです。