第16話 「二回目の感触」
かすかに高鳴る心拍の中、
彼女の胸の感触を確かめようと触る。
「っ!」
そして、俺の手が彼女の胸に触れた途端、
ヴィレナの体がビクン、と震える。
彼女の感触は、柔らか過ぎず、硬過ぎず、ちょうどいいぐらいの柔らかさだった。
これだ、この感触。初めて彼女を見た時から、おっぱいがずっと気になっていたんだ。
「ふぅっ」
やけに艶かしい吐息を吐いて頬が少し赤く染める彼女。おっぱいを触っていると言うのに、
ヴィレナは抵抗もせず、されるがままになっていた。
よく考えてみればこのシチュエーション……
かなり興奮するのでは。おっぱいだけに。
「……いかんな」
少しだけとは思ったが。
気を抜くとそのままハマってしまいそうだ。
そう思った俺は、その胸から手を離して自分を何とか自制する。
「……ふぅ」
そして、お腹に手をやる。
とはいっても触るのではなく、少し浮いて当てる感じだ。
何故お腹なのか?
おっぱいだと締まりがつかないからだ、単に。
「……!?」
俺はヴィレナに、とあるものをかけた。
自分の体の変化に惑いを覚える彼女は
俺にこう聞く。
「何を……したのです?」
「なに、ちょっとした魔法だ。」
「魔法?」
「ああ。今どんな感じだ?」
「ええと、なんですかこう……温かいものに包まれてるような感じで、心地良いですわ」
彼女は自分のお腹をさするように
軽く笑う。そんなヴィレナが魅力的に映ったのはここまでの話だ。
どんな魔法か? それはもちろん、“奴隷契約”だ。だが、“奴隷契約”にはレベルが設定されていることを俺自身忘れていた。
[奴隷契約] LV.2
消費MP:677
スキル使用者が主人、対象者が奴隷といった
関係を強制的に築くことができる。
ただし一度かけた契約は永遠的に継続され
解除することは出来ない。
詳しいことは下記のとおり。
1.主人の全ステータス9分の1の値が、
奴隷の全ステータスに加算される。
また、奴隷がレベルアップした際、加算される値も主人の9分の1の値が反映される。
(ただし主人のステータスに変化はない)
2.主人と奴隷は、互いにダメージを与えることが出来なくなる。奴隷と奴隷もまたしかり。
3.主人は奴隷のいる位置を常時把握出来る。
4.契約する奴隷の数に制限はない。
5.奴隷には、常に“HP自動回復 LV.1”の
効果が発動する。
6.このスキルのレベルを上げると
新たな効果が追加される。
……となっている。
今まで3人と“奴隷契約”をしたからなのか、
LV.2になったのだ。
色々な面がパワーアップしたが、特に
注目すべきなのは、5の“HP自動回復LV.1”だ。名前からして、何もしなくても
HPが徐々に回復していくモノなんだろう。
「……」
微笑んでいる様子の彼女に顔を向ける。
ヴィレナが心地良い感じがする、といったのもこれが理由だと思われる。
ヴィレナだけではなく、セミナ達も同じ効果を感じているはずだ。
……その心地良い感じよりも色んな欲が勝っているからなぁ、アイツら。
こうして、俺は
彼女と“奴隷契約”を交えた。
そして。
「それじゃ、そろそろ帰るよ」
「……え?」
ヴィレナは呆気を取られた表情をする。
「じゃあ」
ベッドから降りて、そのままこの部屋の出口であるドアに差し掛かる。
「お、お待ちを!」
「ん?」
「帰るって……まさか、これだけなのですか?」
本当にこれでいいのか、と問いかけるように
そういうヴィレナ。そんな彼女に
俺は自信持ってこう言った。
「ああ、お前のプライドに懸けて……な」
彼女のことを少し知れたお礼でもあるから。
心の中でそう思って言った。
「ラロス……」
初めて俺の名前を呼んだヴィレナは、
嬉しいのと、不安がまじった表情をして、
顔を伏せがちになる。
そんな彼女を見て、俺はひとつ提案をした。
「それじゃあ、また明日の夜ここに来るよ」
そう言ったら彼女ははっ、と顔を上げる。
「……分かりましたわ」
ヴィレナはその言葉に安心したのか、
少し口の両端を上げてそう言った。
……やっぱりコイツは大物だ。
自分がした報いは必ず受けなければならない。そんな信念が彼女にはある。
「あ、そうそう」
ついでに一言。
「お前のおっぱい、よかったぞ」
そう言って、そのまま部屋を出て
静かにドアを閉めたのだった。
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「……」
あのラロスという男に魔法をかけられたお腹をさする。ほんのささいな温かみ。それだけで
もう充分すぎるぐらいに、心地良かった。
誇り高きプライドのために、ラロスを拉致して
一言謝らせるまで帰さない。
そのつもりだった。
だが、ついさっきラロスから奇襲を受けたのだ。自分のプライドに懸けて、自分のした行いの報いは受ける。
「ラロス……」
彼の名前を口にすると、不思議な気分になる。
この気分は決して嫌ではなかった。
もしかすると、ラロスは他の人とは違う何かを持っていると本能がそう判断したのかもしれない。
現に、わたくしはラロスを拉致したというのに
彼は、穏やかな表情で“わたくしのプライドに懸けて”と言って……少し胸を触られ、不思議な魔法をかけられるだけで済んだのだ。
「うぅん」
わたくしは少し乱れた髪をかきあげて整える。
いや……まだ済んではいない。
だって彼は明日また来ると言ったもの。
本当にあれで済むかどうかはまだ分からない。
『お前のおっぱい、よかったぞ』
何がよかったの。
立ち去る際にそう言う男は、違う意味でかなり印象的だった。
……そういえばきちんと帰ることが出来るのかしら、ラロス。
そんな彼のことを、わたくしは心配していた。
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彼女の部屋を出てすぐに“瞬間異動”を使って
自分の部屋に帰る。
「……」
ついさっき俺が拉致られたというのに、
セミナ達三人は相変わらずベットで気持ちよさそうに寝ていた。
「……ふっ」
そんな三人を見て頬が少し緩む。
まったく……コイツらといい、ヴィレナといい
この異世界は面白いことがたくさんある。
そう考えながら俺は眠りに入った─────
つづく
次回予告
拉致から帰ってきたラロス。
そんな彼に来る次の日はどうなるやら───
面白かったら幸いです。
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