第15話 「逆襲」
階段を上った先には、どこかで見たような雰囲気の屋敷の中だった。
「はっくしゅんっ!」
うー……誰か俺の噂でもしてるのか?
そう思えるぐらいの不自然なタイミングでくしゃみが出た。
「……ふむ」
気を取り直して……
あの女のイメージでは、夜でもガンガン電気を付けていると思っていたが、そんなことはなく電気は付いていなかった。
綺麗だな。
空に浮かぶ月の光が一定の距離で配置されている窓から漏れていたのが神秘的だった。
「……」
右を見ても左を見ても、鏡のように
同じ景色が続いていた。物の配置も全く同じという所から凝っているんだなぁとも思った。
……ちなみに、階段を上り切ってすぐそこには
地下牢と同じく南京錠がかけられていたが
同じくねじって壊しておいた。
「よし」
俺は小さな声を出して、“気配察知”を発動する。すると早速この屋敷にいる人の気配を察する。
……たくさんいるな。
やはり屋敷だからか、その人数は
軽く100人は超えていた。
その中から、俺を拉致した張本人であるあの女を探して見る。
こっちか。
あの女の気配の方向を察知し、その方向に向けて足を運ぶ。
同じ景色がずーっと続いていて、無限ループに陥ったような気分になる。だが窓から外を見ると確かに移動していることが分かるため、そんな気分は直ぐに消えた。
そして……一つのドアの前にたどり着いた。
「ここか」
この中からあの女の気配がする。
上の方を見ても、右を見ても左を見ても
あちこち見てもプレートらしきものはなかった。
……開けるか。
開ける以外にやることはないしな。
そう思い、俺は音を立てないようにゆっくり
ドアを開く。ドアの隙間から、バラのような香りが鼻を刺激してくる。そして、ドアを開けて中に入った。
そこで俺の視界に映ったのは、至って
普通な女の部屋だった。
いや、むしろ……可愛い系か。
タンスの上にはいくつかのぬいぐるみが置かれていて、この部屋の一番奥には、天蓋付きのベッドがあった。
……あ、自分に“気配隠蔽”かけるの忘れてた。
バレない方が何かと都合が良いため、
今ここで自分に“気配隠蔽”をかけておく。
そして、そのベッドに近づいてみる。
「あ、この女……」
柔らかそうな布団をかけて、すぅ……すぅ……と心地良いかのような寝息を吐いているあのお嬢様風な女がそこにいた。
「なるほどな」
俺を拉致したあの悪意に満ちた表情とは打って変わって、気持ち良さそうな寝顔をしていた。ただ一人の無粋な少女がそこにいた。
でも、コイツは俺を拉致ったんだ。情状酌量の余地はない。何でもかんでも許すだけの優しさなんて弱点にしかならない。
ふぅ、と息をゆっくり吐いて
どう飛べばより有効に驚かせることが出来るか。……周りを見渡すと、何枚かの白紙が机の上に置かれていたため、それを
丸めて先っぽを尖ったものにする。
「……よっと!」
「ッ!!?」
そして、俺はタイミングを合わせて、
少女の上に襲うように乗る。
そして声を上げさせられないように、口を
押さえて、速やかに先ほど丸めた紙の尖った先っぽを彼女の首に当てる。
彼女は目を大きく開いて何が起こったのか
分からないようだ。
何故紙かと言うと……単に刃物を持っていなかったから。それと、気がつくと目の前に男がいて首に何か尖ってるものを当たられている。
……そんな状況にいたらほぼ皆が“刃物”と認識するだろう。先入観を利用したものである。
「寝てるところ悪いが、騒ぐなよ」
そして自分の体を押さえつけている犯人が
俺だと分かった途端、目に力を込めて俺をじっと見てくる。その瞳はまだ死んでおらず、
ただ闘争心だけが燃えていたように見えた。
……コイツ、意外と気が強いな。
俺の好みのタイプだ。
ふと、コイツも俺の“奴隷”にしてやりたい。
なんて思っていた。
俺を拉致った張本人なのに、そういうことを考える辺り、まだ甘えを捨てきれていないのかもしれない。
「答えろ。どうして俺を拉致った」
だが、そんな自分もまたいいと思ったのも
事実である。
口を解放してやる代わりに、少しでも大声を出したら今すぐ殺す。そんな意思を示すように、
彼女の首に尖った紙を当てて、口を解放してやる。
「……そんなの、決まってます」
俺の意図が彼女に伝わったようで、小さな声であった。彼女は今、目線しか動かせない状態のため、首に当てているものが何かを確認することは出来ない。だがこの状態で尖ってるものを
首に当ててられている、と考えれば刃物だと思う人がほとんどだ。それを狙った作戦だ。
「誇り高きプライドを傷つけられたからですわ」
「……俺が何をした?」
彼女は眉をしかめ、力強い瞳でしっかり俺の瞳を捉えて離さない。
「もちろん、貴方が謝らないからです」
いや、アレはどう考えてもお前からぶつけてきたと思うが……
「お前からぶつかってきたんだろう」
「ええ、そうですが何か」
認めるなおい。せめてそこはあなたの勘違いじゃないかしら? なんて言ってほしかった。
「なら、俺が謝るのは筋が通らないはずだ」
「いいえ、筋は通ります。このわたくしが“謝れ”と命令したのですから」
この時、俺は一つ理解した。
この女は……“権力”で自分の存在意義を見い出すタイプだ。周りが自分にひれ伏せて初めて自分の価値を認められる。だからこそ、彼女は横暴な態度を取るのだ。
「……ははっ!」
面白い。ますますこの女を“奴隷”にしてやりたい。彼女がこれからどうなるのかを最後まで
見届けてやりたいと思った。
「何を、笑ってらっしゃるのですか?」
眉をしかめながらも、疑問を抱いた表情になる
彼女。
「お前のこと面白いと思った。だから笑ったんだ」
「……そうですか」
彼女はまんざらでもない表情のようだ。
俺を拉致った時のあの悪意に満ちた表情は
嘘なのではないだろうか、と思うぐらいの
ほどだった。ごもっとも、演技という可能性も捨てきれないが。
「俺の名はラロス。お前の名はなんと言う」
「……」
彼女は少しの間、黙秘する。その間は彼女の瞳から目をそらさず、しっかり捉えた。そして。
「ルハシア=ヴィレナと申します。どうぞ以後お見知りおきを……」
彼女に俺が乗っかっているという状況の下で、
凛々しい表情でそう言った。
コイツは……生意気なやつだが、大物だ。
直感的にそう思った。
「ヴィレナ……早速だが」
彼女に乗っている姿勢から少しジャンプする。
その時に彼女に覆いかぶっていた布団を一気に剥がして、同じ位置に落ちる。
「あ……」
その時、ヴィレナからやけに色っぽい驚きの声を上げ、少し頬を赤らめる。彼女の服は、ランジェリーパジャマというやつで、ピンク色をしており、胸の辺りが特に解放的。そのせいで、胸の谷間が見えていた。
ちなみに大きさはテレアやロエルには劣るが、
セミナと同じぐらいの大きさだ。
「これからすること、分かるよな?」
それを聞いた彼女はゆっくり目をつぶる。
それから数秒後、ゆっくり目を開けた。
「わたくしは、貴方を拉致したのです。どんな目に合わされようとも、文句は言えませんわ」
やっぱりコイツ……ヴィレナは他の女にない
何かを持っていた。大声で助けを呼ぶことも出来た。だが、彼女はあえてそれをせず
自分がやったものの報いを受け入れようとしている。もちろんアイツら三人も
それぞれ個性はある。それが互いに最悪な出会い方をしたこの女にもあった、という事だ。
「そうか、いい覚悟だ」
覚悟を決めた瞳をしていた彼女に、
俺は穏やかな表情で、そう承諾した─────
つづく
次回予告
遂に拉致った張本人であるヴィレナを追い詰める。そしてラロスは彼女に何をやろうとしているのか──────────
面白かったら幸いです。
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