第10話 「めんどいことに巻き込まれた」
「ふぅ」
魔王城からまた[瞬間異動]で
以前使った“ラノッヒ”の近くにある林に飛ぶ。
「ふふっ……♡」
ちなみに俺の横には“気配隠蔽”をかけた
魔王がいる。
彼女の名前は、ロエルと言うらしい。
ゲームではただ、魔王としか表示されなかったため初めて知る名前に俺は少し驚く。
「ラロス……」
ロエルは俺の名前を呼んでは、ニヤニヤする。
“奴隷契約”を交えて以来、ずっとこんな調子だ。
「ロエル。さっきから何ニヤニヤしてんだ?」
「え? だってラロスを見てると自然と頬が緩んでしまうんだ。こうなってしまった責任は取ってもらうぞ、ラロス……♡」
「はぁ……」
これはあまりにも、豹変とは言い足りないぐらいの豹変ぶり。
嫌悪感を込めた瞳で俺を見つめていた彼女は
もうどこにもいないようだ。
そんなわけで、“ラノッヒ”の中に入り
アイツらの待つ場所に出向く。
その途中で起きたのは────
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ロエルと横に並べて街の中を歩く。
彼女は街の様子になど気に留めないで
じーっと俺の顔を眺めつつ歩いていた。
そんなじーっと見つめられると
気になるぞ。そんなに俺の顔が良いのか?
そう思った矢先、俺の目先に何やら
たくさんの男どもを後ろに連れている女が
こちらに向けて歩いてくる。
この街にいる人々は彼女を避けるように歩いていた。
……なんだありゃ。
その女は見事なほどの金髪をして、
長さは胸辺りまで伸びていて
髪のサイド部分はドリルみたいに下に向けて
グルグルと巻いていた。
いかにも、お嬢様ですと言わんばかりに
黄色のドレスをしていた。そのドレスは
動きやすさを中心に作られたためか、
足元ではなく膝下までしか伸びていなかった。
……俺はお嬢様、とかそういうのは
あまり好きではない。
何しろ、ここに転生する前の世界では
貧しかったからだ。お金がある、というだけ
で妬ましい気持ちになったのを今でも少し覚えている。
今はもうどうこうはしないが、いい気分はしなかった。
関わらないでおこう。
彼女達とすれ違う際に、出来るだけぶつからないように避けた。……はずだった。
「ッ」
何故か彼女と肩がぶつかってしまう。
今、この女からぶつかりに来たぞ。
そうとしか思えないほどの不自然さだった。
「ちょっと……ぶつかったわよ。謝って貰えないかしら」
「はぁ?」
そっちからぶつかってきたくせに
何故俺が……
「あなたのような貧困の方が、貴高なわたくしに触れたのです。どうせなら地面に頭を付けてもらなくてはね」
「俺のどこを見て、貧困だと?」
「決まってますわ。そのボロボロなマフラーに、燃えたあとがある黒い服が、です」
いや、それロエルにやられたあとだから。
着たくて着たわけじゃねえよ。
心の中で反論しておいた。
オホホ、と明らかに高笑いを浮かべる女。
彼女の後ろにいる野郎どもも俺を見て
バカにするように笑った。
「……」
少し苛立ちを覚えた。
どこまでも人を見下すかのような態度。
この異世界にも、嫌なやつっているんだな、と
改めて認識した。
「この女…ッ!」
気がつくと、俺の隣にいたロエルがおぞましい表情で
手からマグマに近い威力の火球を出していた。
“気配隠蔽”のおかげで、ロエルの姿や声は
この女にも周りにいる人にも分からない。
ただ、魔法は別だ。魔法はその人自身ではない。そのモノが本人から離れた瞬間、それは他のやつに見えるもの、触れるものと化する。
「……待て、ロエル」
出来る限り、ロエルにだけ聞こえるような
小さな声で彼女にそういう。
「ラロス……? でもッ!」
彼女は納得出来ない表情で、お嬢様風な女達を睨む。
ロエルは……俺の代わりに睨んでくれているのだ。まだ出会ってから時間が浅いが彼女のいい所を知れてよかった。
「ありがとう。でも、お前ほどのやつが
手を汚す必要はないよ、コイツらは」
そう言うと、彼女は納得したのか……
手から出していた火球をどんどん小さくして
しまいには消滅させた。
「……早くしてくれないかしら、わたくしが待ってあげているというのに」
「いや、何様なんだよお前」
彼女は不機嫌な表情になる。
それが合図のように、後ろにいた野郎どもが
前に出てきて俺を囲むように移動する。
それを心配そうな表情で俺を見つめるロエルだが、“大丈夫だ”とアイコンタクトを送る。
「早くやっちまわないと、血を見るぜ」
「無理にでも頭を付けたいのか?」
いかにも護衛です、と言わんばかりの
マッチョ達は俺を挑発するかのような言動をしてくる。
「さあ、跪いて頭を下げなさい」
さもないと酷い目に合うわよ、と言わんばかりにニヤッ、と笑う女。気がついたら、俺達の周りには人が集まっていた。なんだ? どうした? 喧嘩か? などという
声が聞こえてくる。
まずいな、ここで目立つような真似はしたくない。むやみに攻撃なんかしてしまったら
確実にこちらのせいにされる。
となれば───────
「断る」
「……はぁ?」
彼女の表情は打って変わって不機嫌な表情になる。
「大人しく頭を下げればよろしいですのに」
もういいわ、と彼女は俺を囲んでいる
野郎どもに合図を送る。
「おう、おとなしくしろ」
「歯ぁ、食いしばれよ……!」
そして野郎どもは俺を目掛けて
殴りかかってくる。
そう、これを待っていたんだ。
向こうから仕掛けてきた以上、受けて立つ。
それだけで周りに与える印象が少しでも良い方向になる。
さあ、どこからでもかかってこい──────
つづく
次回予告
めんどくさい奴らに絡まれたラロス。
はたしてラロスはどう出るのか──!?
面白かったら幸いです。