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魔術同盟 ~Magic Alliance~  作者: 巫 夏希
第一章 魔術師殺し
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第一章 魔術師殺し④

「やあ、おはよう。……いや、時間的にはこんばんは、と言うべきかな?」


 僕が起きた時間は、ちょうど夕方だった。


「……もうそんな時間ですか?」

「そんな時間ですか……じゃない。私がせっかく飯を買ってきたんだ。冷蔵庫に冷やしてあるから、レンジでチンして食えよ。冷やしたまま食べるのは気味が悪いからな」

「……そうですかねえ?」

「そうなんだよ。馬鹿が」


 いてっ、小突かれた。


「私は自室で寝ているから何かあったら連絡よろしく。出られるかどうかは分からないけれどね。今のうちに言っておくわ」

「それ、笑顔で言う台詞じゃないですよね……? 一応上司なんですから、それくらいちゃんとしてくださいよ」

「えー? そんなこと言われてもなー。やっぱり魔術師関連のことは魔術師に任せた方が素早いって言うか? そんな感じだしなー。魔術師とは何の関係性もないのに、ただの遠縁ってだけで魔術関連の依頼が舞い込んでくるこっちの身にもなって欲しいくらいだよ☆」

「……そのために、杏を雇ったんじゃないんですか、まったく……。分かりましたよ、取り敢えず魔術師を見つけたらどうすれば良かったんでしたっけ?」

「殺して良い?」

「だーめっ。ちゃんと連れてきなさい。殺すか殺さないかはこちらが決めること。もっとも、警察に預けたところでちゃんと扱ってくれるかは分からないけれどね。虚数課なんて場所があるぐらいだから、何とかやってくれるとは思うけれど」

「虚数課? 何ですか、それは」

「知らん。何でも、『警察じゃ扱わない事件』を取り扱うのが専門の部署らしい。私のクラスメートがそこに務めているから色々と情報を得るんだ。もしかしたら、出会すかもしれない。ここの名刺は一応持って行けよ」

「そんなことあったら奇跡のような確率じゃないですか……。まあ、持って行くに越したことはないですよね。分かりました、分かりましたよ。ちゃんと持って行きますよ」

「それから、もう一つ」


 夏乃さんは指を一本立てて、僕に見せる。

 いったいどうしたのかと思っていたら――、ひそひそ声で僕にしか聞こえないように言った。


「彼女の機嫌を損ねないようにね。彼女が居ないと魔術師関連の事件を解決に導くことは出来ないんだ。それぐらいは分かっているだろうね?」

「……分かっていますよ、それぐらい」

「だったら、良いんだ!」


 夏乃さんは持っていた袋のうち一つを僕に手渡した。


「……これは?」

「アイス。好きだろう? 彼女」

「……そうですね」


 僕は袋を受け取って、中身を見る。

 ハーゲンダッツのアイスクリームがご丁寧に二つ入っていた。


「それじゃ、あとよろしくー。あ、アイスクリームは食事の後に食べるんだぞ! お姉さんとの約束だからね!!」

「何がお姉さんだ、もうすっかりおばさんの年齢のくせに……」


 その言葉は運が良いのか悪いのか、彼女に届くことはなかった。

 だから先ずは一安心。

 アイスクリームを冷凍庫に仕舞い、弁当を二つ、サラダを二つ冷蔵庫から取り出す。同じメニューにしているのは、どちらがどちらを食べても良いという判断なのだろうか。どちらにせよ、こういう配慮をして貰えているのは有難いことだ。僕はそう思いながら、弁当を何分チンすれば良いか確認しながら、電子レンジに弁当を一つ突っ込んだ。


「……うう、おはよ……」

「何だ。未だ寝ていたのか」


 すっかり、夏乃さんが起こしたのかとばかり思っていたけれど。


「何だ、未だ寝ていたのか、はないだろ……。ふわあ、良く寝た……」

「寝たのなら、サラダを食べる準備をしてくれ。これから夕食だ。豪華にコンビニ飯だぞ」

「わあい、コンビニ飯大好き」

「心にも籠もっていない言葉だな!」

「そういうもんじゃないのか?」

「そういうもんだったのか……」


 僕は落胆する。

 落胆したところで何が始まるのか――って話になる訳だけれど、そんなことは関係ない。どうだって良い、というのが精神だ。僕は僕の生き方で生きていく。彼女は彼女のやり方で生きていく。ただそれだけのことなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。


「……サラダ……嫌い……」

「嫌いとか言うなよ。せっかく夏乃さんが買ってきてくれたんだぜ。好き嫌いはしない方が良いと思うけれど」

「……うーん、せめてごまドレッシングだったら食べられるような気がする……」

「だったら僕のと交換してくれ。僕のがごまドレッシングだったはずだ。……杏のドレッシングって何だったっけ?」

「フレンチドレッシング……」


 正直、得意か苦手かと言われたら苦手だけれど――杏が食べられないというのなら食べるほか道はない。捨てるということは許されないのだから。そう思いながら、僕は交換することを了承するのだった。



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