第一章 魔術師殺し②
「やあ。早かったね。二人仲良く来てくれて、私は大分助かっているよ」
東京都、新宿のとある裏路地に一軒の探偵事務所がある。
柊木探偵事務所と呼ばれるその場所は、僕の仕事場でもあった。
その日は一日フリーだったため、同じく一日フリーだった杏とともにやって来ている――といった形であった。
「別に二人仲良く、という点に着目する必要はないじゃないですか……。ところで、連れてきましたよ、彼女。言いたいことがあるんじゃないですか?」
「うーん、お似合いだよ、ってことかな?」
「私は帰らせて貰う」
「待った待った、悪かった! 私が悪かったよ、許しておくれ!」
踵を返し、帰ろうとしていた杏を呼び止めた夏乃さん。
そもそもこの夏乃さん、何者なのか――ということなのだが。
柊木夏乃。
柊木探偵事務所をついこないだまで一人で経営していた彼女は、かつてとある因習のあった集落に住んでいたらしい。そこを脱した今は、東京の新宿という好立地な場所で、一人探偵稼業に勤しんでいる、という訳である。
では、僕は何をしているのか、ということについてだけれど。
それは簡単だ。主に僕がやるのは夏乃さんのスケジューリング、事務所の片付けなど……簡単に言えば、秘書的な役割に就いている、と言えば良いだろうか。といっても、僅か一年ぐらいの出来事であるために、そこまで重要視していることではないのだけれど。大学が忙しかったら休んでも良い、なんて言われているぐらいだし。
それはそれとして。
「私は魔術師について聞きに来たんだけれど」
ソファに腰掛ける杏。膝をもう片方の太ももの上に置いて、偉そうな感じを醸し出している。ジーンズなので、パンツが見える心配はない訳だが。
それを聞いた夏乃さんは、机の上に置いてあったファイルのうち一つを投げ出した。
それを受け取った杏は、
「……私は書類を見るつもりはないのだけれど」
「良いから見ろ。そこに答えが書いてある」
「……分かった。見れば良いのね、これを」
そう言って、彼女はファイルの表紙を開けた。
僕も後ろからそれを眺める。すると一ページ目にはこう書かれていた。
――連続飛び降り事件についての考察
「連続……飛び降り事件?」
「聞いたことはないかな? 最近起きている、連続飛び降り事件のことだよ。まあ、警察は『自殺』として片付けたいらしいのだけれど、遺族がそう思いたくないらしくてな。私が警察のつてを使って何とか手に入れた捜査資料のコピーだ」
「……うわ、相変わらず法律すれすれのことやりおる」
「良いんだよ、それくらい。……ところで、見たか? 捜査資料の中身を」
「これと魔術師に何の関わりが? 正直、何も関わりがないように見えるけれど」
「まあ、話はこれからだ。それに関わっているのは……魔術の名門、火野家だと言われている」
それを聞いて、ぴくりと耳が動いた杏。
「火野家って……マジで? まさか、そんなことが?」
火野家。
僕も聞いたことのある、魔術の名門のうちの一つである。
そもそも魔術師というのは現代において、裏稼業を専門に扱う専門家のような存在になってしまっている。例えば、裏稼業の人間とつながっていたりするのもよくある事例の一つだ。
その中でも、柊木家も魔術の名門に数えられる。とどのつまりが、彼女――柊木杏も、魔術の名門の令嬢、という訳だ。現在は破門されてしまっている訳だが。どうして破門してしまったかどうかについては、今語るべきではないだろう――。
「そもそも、魔術師なんて数が限られているからねえ。私と君みたいな変わり者も居る訳だし。魔術師自体の数が減少傾向にある、というのもどうやら笑えない話ではないと思うんだよ、私は」
「そりゃそうですね、っと。……で? その火野家と今回の事件に何の関係性が?」
「最後のページの地図を見てくれ」
そう言われて、彼女は最後のページを見る。そこには新宿区の地図が印刷されていた。そして、印刷されているその地図に×印が書かれている。恐らくそれが被害者が飛び降りた場所なのだろう。そして、そこから描かれている線が一つ。それが示しているのは――。
「……六芒星を含んだ……魔方陣?」
魔術を囓っている人間なら、少しは分かる『魔方陣』。
その基本形が描かれていた。
「そう。その魔方陣の中心にあるもの……それは、何だと思う?」
魔方陣の中心には、ある屋敷があった。
「まさか、それって……」
「そこには書かれていないが、私は既に誰の家か突き止めてある。火野在処、現在魔術の名門たる火野家を束ねている長老の名前だよ」




