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魔術同盟 ~Magic Alliance~  作者: 巫 夏希
第一章 魔術師殺し
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第一章 魔術師殺し①


 僕が彼女の家に到着したのは、夜半のことだった。


「こんばんは。様子はどうだい?」

「……お前はいつまで私につきまとうつもりだ」

「まあまあ、そんなことは言わずに。杏の好きなアイスクリーム買ってきたから」

「……、」


 しばらく押し問答をしていると、アイスクリームに免じて許してやる、と言って彼女は漸く自らの身体で作っていたバリケードを外してくれた。

 やれやれ、いつまで警戒心を解かないつもりなのだろう。

 僕と彼女は、これでも幼馴染なのだ。幼馴染ならもっとちゃんとした付き合い方があるだろう、と言われるかもしれないが、それはそれ、これはこれ。僕と彼女――柊木杏はちゃんとした付き合い方をしている。

 柊木杏は、ちょっと風変わりな人間だった。

 赤いシャツに青のダメージジーンズ、ジージャンを羽織っていた。部屋の中であるにも関わらず、だ。普通なら『ちょっと変わっているな』ぐらいに思ってしまうかもしれないけれど、それが彼女の個性と言うのなら致し方ないと思うかもしれない。

 結局は――僕と彼女の関係性について、整理する必要があるだろう。

 何処まで整理すれば良いのだろうか。ええと、あれは確か三年前――。


「おい、アイスクリームをさっさと出さないか」

「……ああ、悪かったね」


 モノローグを良いタイミングで止められてしまったので、僕は少し溜息を吐いて、コンビニのビニール袋からアイスクリームを二つ取り出した。

 ハーゲンダッツのアイスクリーム。

 それが彼女の好きな物だった。俗物的だろう?


「スプーンを出せ」

「はいはい、分かっていますよ」


 スプーンを差し出すと、直ぐに蓋を開けてスプーンの袋を破って、アイスクリームを頬張っていた。そういう仕草が相変わらず可愛らしいというか何というか――。


「何だ? 私の顔に何かついているか?」

「ううん。何でもないよ」


 僕もゆっくりしながら、アイスクリームを食べることにしよう。そう思って、スプーンの袋を開ける。


「そういえば、夏乃さんのことだけれど」

「あいつがどうかしたか?」

「あいつ、って……。一応、『依頼』を貰っているんだから、そんなこと言わない方が良いよ」

「あいつはあいつだ。それ以上でもそれ以下でもない」

「だからって……」

「で? あいつがどうかしたか?」

「そうそう。また依頼を頼みたいから、近々事務所に来てくれって言っていたよ。何でも急を要するらしいけれど」

「またかよ。そんなに『魔術師殺し』の要望が欲しいのかね?」


 魔術師殺し。

 それが彼女に秘められた才能だった。

 魔術の名門たる柊木家にとっては、あるまじきことだったのかもしれない。現に、破門を喰らっているらしい。

 破門をするほどのレベルか?

 僕は思った。

 しかしながら、魔術師というのは、僕の窺い知れないところで色々とあるのだろう。魔術師殺しを抱えることが、どれ程大変なのかは分からないけれど。


「……アイス、」

「うん?」

「溶けるぞ、そのままだと」

「……ああ、そうだったね。悪かったね。気を回してしまって」

「良いんだよ。私はアイスが食べられれば、それで。ところで、依頼の件だが」

「うん?」

「明日、朝一で向かうから。夏乃に連絡しとけ」

「……それ、僕がやることかなあ?」

「良いんだよ、お前は私の命令を聞いておけば」

「分かった。分かったよ。僕は君の命令を聞いておけば良いんだね?」

「そうだ。そうだよ。お前は私の命令を聞いてさえいれば良いんだ。それだけで良いんだ」

「分かったよ。じゃあ、連絡しておくから」


 スマートフォンを取り出し、夏乃さんにSMSを送信する。

 この時間にも関わらず、直ぐに返信が来た。……というか、あの人いつ寝ているんだろう?


「返事、来たよ。明日にでも来て良い、ってさ。それじゃ、僕はアイスクリームを食べたら帰るから」

「嫌だ」

「何ですと?」

「泊まっていけ。今日はもう遅い。この時間に出歩くのも危険だろ? 私に依頼をするってことは悪さをする魔術師が居るってことなんだから」


 ……それはそうかもしれませんが。


「……あの、杏さん」

「どうした? 何か不満でも?」

「不満はまったくないんだけれど」

「じゃあ、良いじゃないか。今日はここに泊まれ。以上」


 アイスクリームの箱を僕に差し出して、笑顔を見せる杏。

 ああ、もう。

 そういうことを言いたいんじゃないんだけれどな。

 僕はそんなことを思いながら――箱を受け取って、


「分かったよ、今日はここに泊まる。それで良いだろ? 君の気が済むなら、それで」

「うしっ。だったら、私のベッドを使っても良いぞ」

「そしたら君が眠れなくなるじゃないか?」

「二人で寝れば良い」

「……君は情操教育をした方が良いんじゃないかな?」

「?」


 ここまで来たらとぼけているのレベルを超している気がする。

 流石にそれはお断りして――僕はテレビのある部屋に使われている――正確に言えば、ちょうど今彼女が座っているソファで寝ることを提案した。渋々彼女は了承する。てか、渋々ってのもどうかと思うんだけれどな――そう思いながら、今日はここに泊まることになるのだった。


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