同居生活2日目の朝
「それじゃあおにぃ。私大学に行くけど、ちゃんとバイト探しててよね」
「無論だ。普段ただただ頭を空にしてソシャゲをしているわけではないということを証明してやろうではないか」
「あ、だいじょぶ。期待はしてないから」
「くくく・・・我が妹は少しばかり実の兄を見くびりすぎじゃあないか?」
「レンジの中にパスタ入れておいたから、お昼はそれチンして食べてね。じゃあ行ってきます」
「待て待て妹よ。人生、そう焦ってもしかたないとは思わないか?」
「おにぃは焦ったほうがいいと思う。で、なに?講義始まっちゃうから、用があるなら手短にね」
「なに・・・仮にも女として生まれたのだ。男に対してチンなどと言うものではないと思ってな」
「おにぃ男だったんだ。用はそれだけ?」
「いやなに。外に出るのなら、ついでに買ってきてほしい物があってな」
「なに?あ、履歴書なら昨日のうちに買ってきたよ」
「履歴・・・ふ・・・過去を示す紙など俺には不要だ」
「いや使えよ」
「そうだな・・・これまで課金したソシャゲでも書き記しておくか」
「ゲーム会社にでも就職するの?」
「バカを抜かせ。履歴書というものは見せる相手にどういった印象を与えるかが重要となってくる。高学歴か低学歴かは些末な問題なのだぞ妹よ。もちろん企業や採用担当者によって多少の差はあるだろうがな」
「おにぃがまともっぽいこと言ってる・・・傘持ってこ」
「つまりだ。その人物、この場合は俺だな。俺が過去に課金したソシャゲを相手に伝えることで、俺が爆死しない程度に課金している有能な人材だと伝えることができるのだよ」
「よくわかんないけど、それどこに書くの?備考欄?」
「おいおい妹よ。履歴書にはこれまで学んできたことを書き記す適切な場所があるだろう?」
「学んできたことをって・・・もしかして学歴?」
「そう!学んだ履歴と書いて学歴!そこ以外のどこに書くというのだ低能なる妹よ!」
「学歴は通った学校の名前を書くところでしょ」
「くく・・・いい言葉を教えてやろう。発想の転換だ」
「学歴にそんなこと書いたら、ふざけてると思われて採用されないよ?っていうか最悪、面接の途中で追い出されるかも」
「ふ・・・そのときは所詮、その程度の脳しか持ち合わせない相手だったというだけのことさ」
「履歴書は私が代筆してあげる。ってかします」
「くく・・・俺はそれでも構わんさ」
「構えよ。じゃあ行ってくるね」
「待て妹よ。まだ話は終わっていないぞ?」
「なに?まだなんかあるの?」
「買ってきてほしい物があると言っただろう?数分前のことすら覚えていないとは、大学生としてやっていけるのか兄は心配だぞ?」
「私はおにぃの将来が心配。で?なに買ってくればいいの?」
「iTunesカードだ。間違えてもGoogleのカードを買ってくるんじゃないぞ?」
「行ってきまーす」
「待て待て。お金はきちんと渡してやるというのに。優しい兄でよかったな」
「おにぃ。昨日私が言ったこと憶えてる?」
「んん?昨日だと?当たり前ではないか。俺は低能な女子大学生と違って、物覚えがすこぶるいいのだ」
「じゃあ言ってみて」
「たしかあれだな。今度ハンバーグの中にチーズを入れるとか言っていた。そのことだろう?」
「ファイナルアンサー?」
「ふ、また古い言葉を知っているじゃあないか。昔懐かしいクイズ番組の有名なセリフだったな。番組が終了したのはいつ頃だったか・・・?」
「どうでもいいよそんなこと。それより、課金禁止って言ったよね?」
「くく・・・なんの権利があって実兄の人生を阻害しようとしている?」
「むしろおにぃがまっとうな人生を送れるよう応援してるんだけどなぁ」
「まっとう、か・・・お前にとってまっとうとはなんだ?まっとうな人生とはなにを指している・・・?」
「なんか哲学的な質問してきたよこいつ」
「おいおい。哲学をバカにしているのか?それに、兄に対して『こいつ』呼ばわりは感心しないな」
「哲学をバカにするつもりはないけど、おにぃのことはバカにしてるかもね」
「くく・・・そんなことを言っていいのか妹よ?お前が中二までおねしょしていたことを友だちにバラシてしまうぞ?」
「あ、もうこんな時間。じゃあ行ってくるね」
「おいおいまだ話は終わっていないぞ・・・・・・ふ、行ったか・・・まだお金も渡していないというのに。まったくせっかちなやつだ。あいつの旦那になるやつは相当苦労するな・・・しかたない。めんどうではあるが、俺が直々に買いに行ってやるとしよう・・・・・・ん?財布が見当たらないな・・・・・・」
―――終わり―――