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3-1-05 聖人…天河昴 22/6/23

20220623 加筆修正

4006文字 → 4768文字




 翌朝起きると、世の中はすごい騒ぎになっていた。

 案の定、教皇がやらかしてくれたのだ。


 日本から来た少年が、バチカン秘蔵の聖遺物を復活させるに留まらず、正式にその所有者として認証されその奇跡に同席した教皇に認められた。

 これは、神に認められたと云う事に等しい奇跡らしい……。

 そして、この奇跡にハッチャケた教皇様は朝一で世界中に向けて生きた聖人の誕生を公表しやがりました。


 ここで説明しておきましょう。

 まず聖人認定されるには、2つの要件を満たさなければ成らないらしいのですが、その1つ目が、福者と成り奇跡に等しい行いを成すこと。

 これは、その人物の詳しい情報を集め、専門家たちが聖人にふさわしい人物か審査することで、認定される事になっている。

 しかし今回この情報は、パウロ大司教がこの1年間でバチカンに俺の偉業を逐一送っていたらしく、簡単にクリアされてしまった。

 パウロ大司教から出されていた報告書によると、若輩ながら日々奇跡にも等しい実績を積み重ねているという、ベタ褒めの内容が多数バチカンに送られる事となり書類上何の問題もないそうだ。

 そして1つ目の奇跡、出来れば癒やしの奇跡を認定されること。

 メガフロートで奇跡の様な治療法を試している事が伝わっているらしい(神代の医療技術を今風に焼き直していると報告書には記載あり)、パウロェ!

 そして2つめは、本当の奇跡を起こすこと。

 今回の聖遺物の復活は、これにあたるらしい。

 実際には、教皇の目の前で自重無しで色々と奇跡(物の形を変えてみたり、判読不能の文字をスラスラ読んだり、石版と会話したりエトセトラetc……)を連発したので、これらを列記して置くとの事でした。


 ちなみに『天命の粘土板』は、壊してしまったので見かけそっくりの動くレプリカを置いてきました。

 あれが無くなるとやっぱり不味いらしいので……。

 ちなみにレプリカと言っても、地球の冶金術ではまだ作れないオーパーツなのには変わりがなく、ちゃんと動く様にした『天命の粘土板』のレプリカは、シュメール語で表示される御神籤(おみくじ)としてこの後もバチカンにて保管展示される事になりました。

 ついでにそれらしい翻訳機をオーパーツ仕様に改造して寄贈したら、ここでも絶賛されてしまいました。

 未だ完全なシュメール語の翻訳は完成しておらず、学術的にも凄い功績なのだと褒められた訳です、またヤッチマッタよ! 知らなかったんだ。


 そしてこれらの遺物は、はれてサン・ピエトロ大聖堂に展示され、今後一般に公開される予定だそうです。

 保管を任せ寄贈したのと変わらない聖遺物のレプリカ、それもちゃんと動くとなったら世界中から人が集まるのは、当然の結果でしか有りませんよね。

 そこには俺の名前がデカデカと説明付きで置かれる訳で……どうしろっていうのさ?

 ま~聖人に認定されたからってどうという事もないか~と、その時は軽く考えていたのですが大きな認識違いであることを知ったのは、この後少ししてからでした。

 生きて聖人認定された例はこれまでのは一例も無く、早い話が生きた聖人は神の使いの様な扱いをされるのだという事です、それもバチカン公認で……。


 時間を負うごとに激しくなる通信の嵐、世界中の宗教関係者からラブコールが凄いこと凄いこと。

 その日は、日本の自宅や会社、メガフロートなど俺の関係するいたるところに問い合わせが殺到したそうだ。

 キャロルさんは、俺との独占対談の本を出すと張り切っていましたよ。

 かたや警護の権堂さんは、青い顔で頭を抱えていましたが……。


 後日、シュメール語の翻訳機の方に大きな注目が集まり、未解読だった過去の文献が大量に翻訳された事から、科学・医療の他に考古学にも貢献したとして、ここでもノーベル賞の候補に上がることになるらしいのはずっと後の話。

 ハコに云わせると、うちではシュメールの粘土板などは既に翻訳済みで、母さんとジェニーが読み漁っているらしいですよ。

 ほんと、好きだよね~。




 ◆




「チョッと洒落になんないね、これは……」


[肯定。しかし、現状では仕方がありません。もともとマスターは、最重要なVIP待遇が妥当だと考えていましたが、やっとこの世の認識が追いついてきた様ですね]


「エ~、メンドイよ! これじゃ~変身でもしないと表歩けないじゃん」


[肯定。ハードスーツで完全武装でお歩きになることをお薦めします。マスターの安心安全は全ての人類の幸せに繋がります]


「それ、どう繋がるのさ?」


[肯定。マスターが害された場合、残された我々は総力をあげて敵対者と目される者の全てを殲滅する為に行動を開始致します。それが神であろうと悪魔であろうとたとえ全人類が相手であろうとです。所謂(いわゆる)、そう云う事です]


「……そっ、そうなんだ(そんなヤンデレは要らんと大声で叫びたい!)」


「スー坊、絶対に死ぬなよ! 絶対だぞ。銀河の平和、イヤっ、地球の俺達の幸せのために!」


「シゲさ~~~ん……」


「だってそうじゃねえか、こいつら抑えられるのはスー坊だけなんだからよう。それにおめえに危害が及ぶ事なんかこいつらが許すかよ。100歩譲って何か起きたとしても涼しい顔で全部弾き返すだろうぜ」


「そうじゃのう、妾でさえラーフが居るお陰で、護衛無しで叱られることもなくこうして遊びに来られるんじゃ。お主にはハコだけで無くシスターズやセントラル、他にも沢山の仲間が付いておろう」


「大丈夫ですよ、私達も居りますから、イザと成ったら身を挺してでも……ポッ♪」


「昴ちゃんは私達が守るから大丈夫! 伊達にジェニーさんに格闘技習ってないからね」


「えっ、銀河はそんな事してたのか?」


「此処に居る皆んなは習ってるよ、ネ~~」


「「「「うん」そだよ~」任せて!」嫌々ながら俺までヤラされているぞ」


「僕もキャプテンに習い始めたよ」


「……(たける)、お前もか……、権藤さん……」


 権藤さんの方を向くとバツが悪そうに視線を反らされた。


「んっ、ああっ昴には言って無かったな。みんなはお前といつも一緒にいるんだ。護身術ぐらい覚えてないと人質に取られたりした時に大変だからな。みんなは優秀だぞ、俺も3本に1本は取られるくらいだからな」


「なっ、そういうことだよ。スー坊は、死なねえ程度に好きなことしてれば良いのさ」




 ◆




 俺達は、早々にバチカンを後にし……船に逃げたのだった。

 単純に人が集まると云う事が、あんなに怖いと思ったのは初めてだ。

 祭りやイベントで集まるのでは無く、狂信者の様に全員が俺に向かってくるのだ。

 恐怖以外の何者でも無いんですけど!

 芸能人や有名人、政治家なんかは日々これを(さば)いて居るのかと思うと、それだけで尊敬してしまいそうになる。

 俺も多少は人の前で話す事に慣れてきたつもりでいたが、狂信に近い群衆の怖さという物を思い知らされた。


 兎にも角にも俺達は、逃げ出すために『白鯨』に飛び乗り光学迷彩を駆使して隠し、人であふれる道路は走れないので邪魔にならない程度の低空を飛行して港まで移動した。

 ところが港にも人が押し寄せており、俺達の船の前に待ち伏せする人の群れが居座っていた……。

 このままでは乗り移ることも出来ないので仕方なくプレアデスアークⅡ世をオートで出港させ、『白鯨』はそのまま上空を並走させること1時間。

 港からかなり離れて人目が切れた所でキャプテンとハコがプレアデスアークⅡ世に飛び移り、上部デッキにゲートを展開。

 『白鯨』は、スルリとそれをくぐって車両用ガレージに停車したのだ。


 いやー、スパイ映画さながらの脱出劇だった、今頃ドキドキしてきた。


「皆んなお疲れさま、ホテルに移動してゆっくりしよう」


「『白鯨』が飛べるのは知ってたけど、実際に飛ぶのはトレーラーの運転とは別物よね……。昴くん、フライトシュミレーター作って!」


「エーー、良いんですけど、自分で飛ばす気ですか? フォウに任せればいいじゃないですか」


「自分の車が飛べるんだから、やっぱり自分で操縦したいじゃない」


[エー、私に任せてくださいよー。『白鯨』は、私の体みたいなもんなんですから~。それにぶつけたらどうするんですか~]


「そこは、アンタがフォローしてくれるんでしょ、頼りになる相棒さん!」


[デヘヘヘっ♪](うん、たしかに操縦が上手い……)


「うーん、仕方ないですね。それじゃ皆んなで訓練しますか、ついでだし……」


「ほう、戦闘艇の操縦じゃな。妾も混ぜるのじゃ!」


 結局この後、キャプテンを教官にみんなで訓練することに成ったのだった。




 ◆




 俺達は、一路イギリスへと思っていたんだけど、少し海の上でほとぼりを冷ます事になった。

 日本を出る時には、『用事を済ませて早く帰ってらっしゃい』と言っていた母さんからも、『今は、帰ってきちゃ駄目よ。日本も凄い事になってるから……。あんた今度はいったい何をやらかしたの? まったく、やっぱりトラブルメーカーよね~』と、連絡が来た。


 これ、俺のせいじゃないよね?

 エ~~、全部俺のせいなの!


 予想外に出来てしまったこの無駄な時間に、ケラエノが単独で死海に飛ぶことになった。

 オヒューカスの情報を検証するための探査用プローブを打ち込むためだ。

 ついでにスパイ用の昆虫型ロボットもばら撒いて来てもらう。

 ケラエノは、いつも俺達が足に使ってるトライクで、空を飛んで消えていった。

 背中には、デッカイ葛籠(つづら)を背負ってである。

 さて、帰ってくるまでのんびりしようか。


 プレアデスアークⅡ世は、地中海のド真ん中でぷかぷかと漂っている……周りをイルカやクジラ達のほか多数の魚の群れに囲まれている。

 遠目には、魚達が壁になって近寄れない船舶に囲まれていたりする。

 頻繁に無線が入ってるみたいだけど、ジェニーが適当にあしらっているようだ。

 なんでも『保護するから我らと共に』とか『奇跡を我が手に』とかエトセトラetc……。

 目の前の現実を奇跡と捉えられない、目ン玉の濁った方達とはお近づきには成りたくありません。


 プレアデスアークⅡ世が止まったままだと、動けなくて困っているんだろうとヘリまで飛ばしてくる始末で、余計なお世話とジブラルタル海峡の方へゆっくりと船を進める事にした。

 懲りずに後を付いてくる雑多な船たち。

 航行の邪魔だからどっか行けといっても、ガス欠に成るまで付いてくるのが殆どだった。

 余りにも煩いので、夜になったらステルス発動して密かに大西洋に抜けてしまった。

 翌日、自分たちが周りを囲んでいた目的の船は、目の前から忽然と消えさり遥か遠方の大西洋上に移動しているのに気が付いた金魚のフン達は『俺達は奇跡を見た!』と大騒ぎしていたらしい。

 ああっ馬鹿らしい、付き合いきれんわ!。


 プレアデスアークⅡ世は、ケラエノの帰還を待って、ゆっくりとグレートブリテン島へ向かった。

 今回、ロンドンのバッキンガム宮殿に直接挨拶にって云うのは流石に失礼だろうと言うことで、イギリス海軍の3つの軍港の内の1つデヴォンポート海軍基地に向かうことにした。

 そしてそこは、西ヨーロッパで最大の軍港であり、イギリスが保有する原潜の燃料基地でも有るのだ。

 先日、メガフロート沖での旗艦を勤めていたアルビオン級揚陸艦アルビオンも今ここに寄港しているらしいのでとても都合がいい。

 何にしても早く用事を済ませて、日本に帰りたい処だけどそうも言っていられないのが実情だ。

 イギリスでは、どうしても会わなければいけない人が居るのだ。

 そして、出来ればその命を救いたいと思っている。


 流石にここは、紳士の国。

 デヴォンポート海軍基地では、ファンや狂信者に追いかけ回されることもなく、先日のお礼をすることが出来た。

 今度はメガフロートに遊びに来て下さいと挨拶を終え、俺達はその足で急ぎケンブリッジ大学へ。


 そうだ、彼に会って話をしなければ……。

 そして、出来ることなら延命を……。

 彼には、余計なお世話かもしれないけれど……。






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