3-1-04 天命の粘土板…その名はオヒューカス 22/5/28
20220528 加筆修正
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白い大型車両は、ユックリとしたペースでバチカン市国へ入り市街を通り抜けていった。
そしてそのまま滑るように立ち入り禁止区画へと入ってゆくのだった。
「一般人・外国人立入禁止の区画になります。ここからは、関係者でも自由に出入りは出来ません」
高位の関係者用駐車スペースに車両を止め全員が降車した。
アルキオネが一人留守番をする事になった。
「昴君とハコさん、保護者代理として橘様、王族と護衛の方は私と御一緒下さい。大変申し訳有りませんが残りの方は、ジュリオ神父がご案内いたしますのでサン・ピエトロ大聖堂をご観光下さい」
橘のオヤジさんは、海外ではかなりの有名人でここにも何度か来たことが有るらしい。
ビックリだよね!
「了解しました。それじゃオヤジさん、ハコ、シャシ姫とラクシュ姫、カリンとマリンとラーフは俺と一緒に行こう。ジュリオ神父さま、みんなを宜しくおねがいします」
「分かりました。では皆さん、ご案内致しますので、どうぞこちらへ」
「では私達も奥に向かいましょう。教皇がお待ちに成っているでしょう」
「ここには何度か来た事があるが奥まで入るのは初めてだな~、昴さまさまだ」
「ホウッ、ここが地球の宗教のトップが居るところジャな、勉強になるのぅ」
「本当に、稀なる経験ですわ♪」
「さあ、行こうか」
パウロ大司教を先頭に、俺たちはバチカン宮殿に入りローマ教皇庁を目指した。
目的地に到着すると、そこには大きな観音開きの扉があった。
左右には、修行中らしい若い神父がドアボーイの様に控えており、パウロ大司教が手を挙げると、頭を下げながら音も立てずにドアを左右に開いてくれた。
開かれたドアの奥、豪華な応接セットと補佐をする神父のサイドテーブルを左右に中央には現在の教皇、ローマ法王がニコニコとこちらを見ながら微笑みを浮かべている。
しかし、その笑顔を台無しにする様に目の下には隈が出来ており、かなり疲れた様子が伺えます。
「只今戻りまして御座います、教皇におきましてはご機嫌麗しく……」
パウロ大司教は苦笑を浮かべながら頭を下げると、法王が席を立ち近寄ってきました。
「ああっパウロ、よくぞ、よくぞ戻りました。一日千秋の思いで待っていましたよ……では、そちらの方々が?」
「はい、こちらの召喚に応じられて私がお迎えに上がりました天河昴殿と従者のハコ殿、保護者代理の橘十兵衛殿、異星からのお客様として阿修羅族第108王女のシャシ姫様と従者のラーフ殿、護衛のカリン殿とマリン殿、デーヴァ族第3王女ラクシュ姫様です」
「大変遠いところを良くおいで下さいました。現教皇の職についておりますクレメンス15世です。気軽にカルロとお呼び下さい」
ローマ法王がこちらへ向き直り、深々をお辞儀をしました。
ギョッとしましたよ。
普通しないでしょう、法王が腰を折ってお辞儀するなんて……。
それに何か軽すぎる様な……。
「立ち話も失礼です、どうぞそちらにお掛け下さい」
今までずっと頭を下げていた補佐の神父がお茶の支度に音もなく席を外しました。
パウロ大司教も一仕事終えた所作で、その場を離れようとしましたが心細かったのか教皇から声がかかりました。
「パウロ、貴方にもこの場に立ち会って欲しい、お願いできますか?」
「御心のままに……」
頭を下げて了承の意を返すパウロ大司教。
カッ、カッコいいぞ!
「まずは、我々の召喚に応えて頂き、改めてお礼を申します」
「いえいえ、1年近くも無視するような真似をしてしまいまして、大変申し訳有りませんでした。何ぶん宇宙の方で色々と取り込んでおりましたので……、くわしい真相までは説明できなくて心苦しいんですが……」
「ええええ、分かっております。昨今の地球を取り巻くあれこれが実は昴殿が中心に起きているだろう事など、私はひとつとして存じあげない事です」
サラッと、遠回しにお前が原因だろうって云ったぞ、このジジイ!
「アハハハッ……」
「前置きは止しましょう。単刀直入にお聞きします、昴殿は叡智の継承者ですかな?」
「叡智とおっしゃいますと?」
「太古の人成らざる者達の知恵と技術の事です。神の御業とも言える知識の事ですな」
「(これ、絶対何か確信があって言ってるよね……、あれを見せてみようか)」
[(肯定。多分ウンサンギガに纏わる何か確証をお持ちなのでは無いでしょうか)]
「それは、何かこれに関係するお話でしょうか?」
昴が差し出した左手中指に嵌ったウンサンギガ当主の指輪からキラキラとホログラムが浮かびあがりました。
そのホログラムには、古代シュメール語で『第49代クリエイトマイスター・アマカワ・スバル』と表記されウンサンギガ一族の紋章が映し出されたのです。
側に立っていたハコとラーフは、俺の方へ跪き頭を垂れています。
「おおおっ、やはり間違いありません! 貴方こそが継承者です。叡智を受け継がれし聖人の中の聖人……」
「エッエッエッ!? それは、どういう事でしょう」
興奮した様子で、法王が捲し立てました。
「失礼、いきなり大声を上げてしまいまして大変申し訳有りません。実は、カソリックの教えが始まる前から我々が秘蔵している遺物が存在しています。そしてその遺物に関して教皇にのみ口伝にて受け継がれて来た伝承が有るのです。『天命の粘土板』とその所有者についての伝承が……」
「『天命の粘土板』ですか、それはどういった物なのでしょう?」
「伝承にはこうあります……、悪神に簒奪されし『天命の粘土板』を真の継承者へ返すべし、さすれば人の世に闇を晴らす光明が訪れるであろう。と言うものです。そして、その指輪の紋章と文字は紛れもなく『天命の粘土板』より浮かび上がった光る紋章に相違有りません」
[天河昴の従者、ハコと申します。失礼ですが法王様、その紋章は何時ごろから光出したのかお分かりに成りますでしょうか?]
「ええ、覚えていますよ。2003年4月1日の深夜の事です。間違い有りません」
「ア~、納得した! 俺だわ、それっ!」
[肯定。間違い有りませんね。マスターが一族継承の儀を成し遂げられた日時に一致いたします]
「あん時は、流石に死ぬかと思ったからね」
するとニヤニヤしながら、シャシ姫がちゃちゃを入れてきました。
「ほほ~う、何やら仔細があるようじゃのぅ。後で詳しく聞かせてもらおうかのぅ」
[肯定。それでしたらアルキオネにお聞きになれば宜しいかと、あの娘なら喜々として実況ライブ映像付きでマスターの勇姿を解説してくれるでしょう。あの娘は、あの経緯以来マスターにメロメロですから……]
「ほうほうほう、これは良い事を聞いたぞ! ラクシュも一緒に昴の武勇伝を聞こうではないか」
「ええ、勿論ですわ♪」
「まあその話は、取り敢えずコッチに置いておいて……」
両手で眼の前の空気を挟んで脇によけるジェスチャーをする昴。
「その『天命の粘土板』とはどういった物なのでしょう?」
「そうですね、直接ご覧に成ったほうが早いでしょう、どうぞご案内いたします」
教皇自ら案内をしてくれるらしい、これって良いのだろうか?
◆
ゾロゾロとやって来ました、地下宝物庫! へと続く階段。
これは如何にも何か隠してありますって雰囲気の入り口です。
LEDランプを持った教皇を先頭にみんなでゾロゾロとついていきます。
割りとハイテクですね、火気は厳禁なんだそうです。
エレベーターなんかは無いらしく扉と階段のリレーを繰り返すこと15回。
一体何処まで下りるのかなと思っていたら、やっと目的地に着いたようです。
行き止まりのドアの前、左右にはそれぞれ槍を持った甲冑が立って居ます。
置物かなと思っていたら、入り口で槍が交差しました。
人が入ってたんですね、ご苦労さまです。
先頭で明かりを持っているのが教皇だと分かり慌てて槍を戻しました。
通って良いようです。
ドアが開けられるとそこは、古びたレンガを積み上げて造られた地下倉庫の様な処でした。
壁には魔除けでしょうか、魔法陣のようなものが描かれ御札がベタベタと貼り付けらるています。
そして、奥まった壁に半ば埋もれるようにして、目的の遺物は存在しました。
「こちらが『天命の粘土板』です。どうぞ御覧になってください」
近寄って良く見ると、『粘土板』と云われていますが粘土などではなく重金属を粘土状に固めた造形物のようで見かけの何倍もの重量があるようです。
縦2m、横1m、厚さ30cmほどで重量は15tほどは有るでしょうか。
人の頭の位置に10cmほどの水晶が埋め込まれており、そこから放射状に幾何学模様の筋が『粘土板』全体に走っています。
水晶の下の部分には、縦30cm横50cmの滑らかな黒曜石の様な部分が四角く浮き出しています。
んっ、これは……。
「触ってもいいでしょうか?」
「どうぞ、遠慮なく触れて頂いて結構です」
それじゃ~許可は取ったし、一丁やりますかね……。
黒曜石の部分に指輪の嵌った左手を置き、マスター認証を実施した。
「ウンサンギガ、第49代クリエイトマイスター天河昴、マスター権限発動。……あれ~これはガス欠っぽいね。ハコ、チョッとここにエネルギーラインを繋いでくれるかな……」
「肯定。こちらですね」
ハコは、戸惑いなく胸部外郭装甲を開き、胴体内部からコードを引きずりだして粘土板に突き刺しました。
いきなりのハコの行動に、教皇は目ん玉が飛び出すんじゃないかってくらいに見開いて凝視しています。
パウロ大司教が後ろに回って背中さすってる、優しいね~……。
『天命の粘土板』にエネルギーが供給されるにつれて光が流れ始めました。
全体の幾何学模様が明滅し、くすんで光を失っていた水晶が仄かに輝き出します。
そうすると、手を押し当てていた黒曜石の部分に文字が流れるように浮かび上がりました。
その内容は……。
〈マスター権限を承認、『貴方が私のマスターか?』〉
「ッ! そのネタは、何時頃から使われだしたんだ~~? ってごめん、チョッと錯乱した」
[否定。これはインターフェイスの形をしていますが拘束具の様ですね。外部回路からの応答を見ると通常の自由なコミュニケーションを封じられ、限定的な司令コードを強制的に走らせる為のシステムの様です]
「て事は、コアの部分はこの水晶体だね。粘土板本体は拘束するためのギブスってところかな……これ壊しちゃっても良いでしょうか? カルロ様……」
「そっ、それは……本来の持ち主と成られるのは、昴殿です。構いません、やってください!」
教皇、決断が早ッ、思い切りが良いね~。
そうじゃなくちゃ教皇なんかに成れないか~!
俺は、両手のひらの聖痕を光らせて粘土板に押し付けた。
粘土板は、押し付けた手のひらの部分からドロドロと溶け出すように形を崩していった。
巨大な粘土板だった拘束具は見る見るうちに溶け崩れ、そこにハメ込まれていた水晶体だけが昴の手のうちに落ちてきて残ったのだった。
「終了です。ですが、少し待ってくださいね……」
水晶に手をかざした処、水晶の上に空間ディスプレイが浮かび上がりました。
素早く指を走らせ、制限されていた設定を修正してゆきます。
これは、殆どの設定がディセーブルに成っていますよ、悪質だ。
手足どころか五感以外の外に向かうセンサーの殆どが殺されていました。
「思考パラメーターの制限を解除。外部センサーへの接続完了。出力用インターフェイス接続・完了。音声認識回路接続・完了。音声出力回路接続・完了。こんな所かな~、どう? 聞こえるかな俺の声が……」
俺の手のひらから浮かび上がった水晶体が明滅しながら活動を開始した。
[……ッ…あァ……ワ…た…しは、どう…し…て……、コエが…聞こえ…ま…す。我が主よ……]
「オオッ、神よ……」
様子を伺っていた教皇、跪いちゃったよ。
「よしよし成功。それじゃ~君は、自分の今の状態を把握できるかな? 俺が第49代クリエイトマイスターの昴だ」
[わたし…は、エクストラ…な…ンバー・エ…イト、せいめいのゆりかご…の、インターフェイス・コアユニット…です]
「君のメインコアは、どこに有るのか分かるかい?」
[現在の絶対座標情報が入力されておりません。現時点の地球の自転軸を確認、ここから東の方角になります]
「やっぱり東か~、それで君の本体の現在の状態は分かるかい?」
[……休眠状態のようです。再稼働は……キャンセルされました。起動出来ません]
「君の思考回路に混濁はない? どういった状況だったのか覚えているかい?」
[思考に混濁は見られません、がっ記憶に欠落が多数存在します。映像情報は、船から引き離された時点で記録されておりません。断片的な医療用ナノマシンコントロールのログが残っておりますので、治療記録等は出力できると思います]
[肯定。では、失礼します……記録回路に接続しました。ログデータを確認。こちらは後ほどレポートにて提出いたします]
「うん、宜しくね。『生命の揺り籠』は少し長いかな、君の名前は『オヒューカス』なんてどうかな。元は医療船みたいだし医療の神アスクレーピオスの杖からへびつかい座だから『オヒューカス』どうかな?」
[私のなまえは『オヒューカス』、……私は、オヒューカス……]
「今はメインコアからのエネルギー供給が切断していると思う。さっきハコが充電したから2・3年は大丈夫だろうけど油断しないでね~。この子の面倒はしばらくハコが見てくれるかな」
[肯定。畏まりました。私はハコ、エクストラナンバーXのハコです。後であなたにピッタリの義体を用意してあげますからね]
オヒューカスは、ハコに任せておけば大丈夫だろう、問題はこっちかな~。
教皇が跪いてこちらを見上げてトランス状態になっていて戻ってこない……魂が抜けたようだ、どうしよう此れ?
◆
私は、『生命の揺り籠』。
今は、『オヒューカス』という名を頂きました。
かつては星の海にあって、数多の生命を癒やした医療の船。
生を司ると云う事は、同時に死を治める事と表裏一体の力。
ウンサンギガ一族の中でも当主の他には、限られた者しか接触することを禁じられた船。
そう、あの傲慢なる簒奪者マルドゥークがこの世に生を受けるまでは……。
簒奪者マルドゥークは天帝エアの子息にして、ウンサンギガの一族に生まれた血を分けしハイブリッド。
その知謀と三眼族由来の異能の力は他に類を見ず、時の天帝が野心を刺激されるほどでした。
優秀なるマルドゥークは、限られた者に選ばれるほどに才能があり更なる努力を重ね若くして次のウンサンギガ当主の候補にまで上り詰めました。
しかし彼にも唯一の欠点がありました、それはハイブリッドゆえに子孫を設けることが出来ない事です。
如何に寿命を延ばすことが出来ても、子を設けることが出来なければ一代限りで滅ぶ事になるのです。
その現実に我慢の出来なかったマルドゥークは、私に云いました。
「汝の御業にて、我が子を成すに尽力せよ』
クローン培養から遺伝子操作、有りと汎ゆる試行と失敗を繰り返しましたが、彼の者が納得する結果は得られませんでした。
『無能なる者には、見合った対価を……』
傲慢なるマルドゥークは、誰にも知られること無く私に対価という名の枷をハメたのです。
15tの重量は行動の自由を奪い、装置は情報の取得選択を阻害し、私を全盲聾唖のオブジェと変えたのです。
そして、ウンサンギガ一族の次期当主では満足出来なかったマルドゥークは、天の川銀河連合中枢にて謀反を起こしました。
下準備として邪魔をするだろうウンサンギガ一族の権能を、私の力を使い弱める事に成功したマルドゥークは、父なる天帝エアを傀儡としようとしましたが、エクストラナンバー5の介入により失敗に終わりました。
命からがら逃亡したマルドゥークは、私の力で作り上げたクローン体で死を擬装し、力の弱ったウンサンギガ一族に全ての罪を着せ、密かに私自身に乗って実験保護惑星テラに逃げ伸びたのです。
ほとぼりが冷めるとマルドゥークは、実験保護惑星テラで創造の神とされていた|エンリル《第48代クリエイトマイスター》を裏切りの神と断罪し、我こそは正義の太陽神であるとしてその神聖を成り代わりテラの支配権を奪いました。
その後マルドゥークは、都市国家バビロンを興し4000年に渡り君臨したのです。
マルドゥークは、バビロンに塔を築きました。
この塔は、この時『生命の揺り籠』のインターフェースユニットから『天命の粘土板』へと名を変えた私を安置する為の司令塔、ジグラッドです。
そして、追手から隠していた私の船の上に立てられたのが、バべルの塔でした。
私の船を使ったバベルの塔の機能は、強力な洗脳精神波の増幅でした。
バベルの塔へ増幅の為に使用するエネルギーを抽出するためです。
そう、システムのメインに組み込まれていたのが私の船であり、それをジグラッドから操っていたのです。
医療に特化した私の船は、武器や闘争に力を発揮することはほぼ出来ません。
最初にマルドゥークは、自分の延命調整を行うと下僕達には僅かなエイジングに止める事を餌として従わせていました。
その時に使っていたのが私『天命の粘土板』なのです。
そして、都市国家バビロンだけではなく、大陸全土を支配下に置くためにバべルの塔を作ったのでした。
しかし、これを逸早く察知した反マルドゥーク派の筆頭エンキは、バベルの塔が動く前に破壊するため決起する事にしました。
エンキは、その技術で密かに一族を増やしスサ地方の王族に身をやつしていました。
そして、スサの精鋭によりジグラッドは破壊され、残りの一族は計画の失敗にそなえ大陸の東に向けて逃げたと聞いています。
エンキは、バベルの塔を破壊する為、船に乗り込み重力コントローラーを暴走させたのです。
武器を持たない私を破壊するためには、他に手段がなかったのでしょう。
私を操作する事が出来るのは、マルドゥーク以外にはエンキだけだったからです。
この後、マルドゥークがどうなったかは分かりません。
残された『天命の粘土板』は、本人の意志に関係なく色々な所を渡り歩き、今に至ります。
私の記憶はここまでです。
◆
ウッワ~ォ!
オヒューカスの始めた独白を聞いてその場にいた全員ドン引きだよ~。
俺達は、一先ず『白鯨』に戻り、ハコはオヒューカスの情報の整理。
アルキオネは、オヒューカスの義体の準備に取り掛かりました。
シャシ姫達は、そんなアルキオネに纏わり付いていたので、俺の冒険譚を聞くための交渉をしているのだろうと思います。
あのあと、教皇は放心状態から一転、やばい薬を決めた危ない奴の様にハイテンションで捲し立てはじめ、俺の聖人認定を絶対にするんだと叫びだし、一人駆け出して行きました。
残された俺達は、パウロ大司教に案内され取り敢えず車に戻ったのです。
「覚悟しておいて下さい。あの方は、ああ成ると誰も止められないのです。落ち着きましたら後ほど改めてご連絡致します」
と、言い残してパウロ大司教は、カルロ教皇の元に戻っていった。
しばらくすると、ジュリオ神父と共に皆んな戻って来て、教皇の元で何が有ったのかを聞きたがっていました。
全員揃ったところで、通信回線を母さんと月のセントラルやバクーンに繋ぎ、何故かナース服の少女の姿に成った『オヒューカス』が、過去の記憶を独白したのだ。
「そうするとだ、儂らはその東に逃げたという生き残った一族の末裔って事かのう?」
と、橘のオヤジさんが一言。
「そう言えば、『MIKADOレポート』に、スサノオの尊が出てくるけど、スサの王って事じゃないの? 大陸の東の端まで逃げたのは、バベルの塔の洗脳電波から出来るだけ離れたかったとすれば辻褄が合うわね」
と、キャロルさんがつぶやいた。
「オオッ~、符合するじゃね~かよ!」
と、シゲさんも納得のようだ。
「重力コントローラーの暴走か~、過去の重力変異と今の地形図からすると……死海あたりかな。あそこは地球で一番海抜の低い所で、ー405m、最大水深は433m、今も水深は下がり続けている。もしかして、まだ船が生きてて動き続けているのかもしれないね」
[肯定。船が圧壊していないのであれば、メインコアはこのくらいでは破損しません。現在も稼働している可能性が大きいと思われます]
「エンキの事だから、マルドゥークに奪還されない様に、こんな手を使ったんだろうね」
「それでどうすんだ? こりゃーかなり大掛かりな事になりそうだぜ、昴よー」
『経緯は分かったわ。こちらでも使えそうなものをピックアップしておくから、とにかく昴達は挨拶回りを終わらせて一度帰ってらっしゃい。今直ぐにどうなるものでの無いでしょう、有力な情報が有っただけでも儲けものよ』
「分かったよ、母さん」
『そうか~8番ちゃんは、マルドゥークが地球に~乗ってちゃってたのか~……』
『月の方で引き上げに行きましょうか? そちらで手を出すと国だの民族だのと色々煩いでしょう』
「確かに、アトランティスの時がいい例だよね。絶対に周りが騒ぎ出すだろうし、ただじゃ済まない」
[肯定。場所が場所だけに、密かに引き上げまで行うというのは難しいと思われます。取り敢えず木星で使用している耐圧に特化した調査用プローブを打ち込んでおきましょう。引き上げをするのは必要な情報が揃ってからでも遅くはありません]
「了解、ハコに任せるよ」
[肯定。承りましたお任せ下さい。最悪、船は破壊してでもメインコアを確保することが出来れば、いくらでも再建は可能であると考えます]
「うん、そうだね」
何とか船ごと引き上げてあげたいな~。もしかするとエンキの事も何か分かるかもしれないしね。
 




