3-1-02 留学?…目の前には巨大宇宙船 22/3/7
20220307 加筆修正
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世歴2004年7月20日、アカデミーの一学期も今日で終わりだ。
さっき終業式が終わり、さあ昼飯に行こうとしていた処を校長室に呼び出された。
昴とその取り巻き達を含めた生徒会役員の面々は、半年前に別れた見慣れた連中を再び目の前にしていた。
「今日から此処に留学して来たシャシじゃ、仲良くしてたも!」
「シャシ様の護衛のカリンです。宜しく」
「……同じく……マリン……」
[皆さんお久しぶりです。メイドのラーフです、又よろしくお願い致します]
「ごきげんよう、ラクシュですわ。もう半年ぶりになるのですね。楽しくなりそうですわ、昴様♪」
ラクシュと銀河が、目の前で火花を散らして睨み合っている。
オイオイ、こんな所で喧嘩すんなよ。
「生徒会の諸君には、彼女たちのフォローをお願いしたいのよ。ここアカデミーには決まった教室も無いからね、施設やシステムの使い方を良く教えるように、以上!」
「校長~;;」
「詳しい話は、あとで希美さんに聞きなさい。どうせ君が撒いてた種なんでしょ?シャシさん達の面倒は君が見るようにね、皆さんも仲良くしなさいよ」
「「「「「は~い!」」」」」
「姫様達、半年前に主星にお帰りになったのでは無かったんですか?」
「そうじゃ! ヒヒ爺のところに輿入れする筈だったのじゃがな、急に破談になっての~、父さまの話じゃとしばらくの間ごたつくだろうから王都を離れておれとおっしゃってな、序でジャから見聞を広めに来たのじゃ~」
「王様は、今頃、絶対へこんでるわ~♪ 姫様が、大喜びでアッサリと主星を飛び出てきたもんね~」
「……緊急避難?」
「大丈夫ですよ♪ ウチのカーリーも動いてますからね」
「あれっ、今回はカーリーさん一緒じゃないんですか?」
「はい、母さまが出張るというのでカーリーがロータスⅠ世で後詰を預かるとか言っておりましたよ」
「エッ、……まさかあれ使うんですか? 外装一新したばっかですよ、ヤメておいたほうが……」
「母様は、ああ見えて性格が私よりシャシ様に似ていますから……オホホホっ」
「妾もヴィシュヌ殿が直接出張られるとは思わなんだ、びっくりじゃよ。じゃがあの宇宙船があれば安心じゃ。ここで朗報を待とうでは無いか? のう昴殿」
「イヤイヤイヤ、あれは使っちゃ駄目でしょうよ」
「なんじゃ知らんのか? 三眼共が幅を効かせているのは、お主たちウンサンギガの残した唯一の古代兵器を所有しているからじゃ。文句を言いに行っても禄に人の話を聞かずに要求ばかり吹っかけて来るのじゃ。珠には痛い目を見んと分からんのじゃ! 躾じゃよ、シツケ!」
[天帝軍のあれは、コアシステムを排除して造られてますから質が悪いんですよ。かなり古~いモデルなんですけど、現在の各種族の武器でも太刀打ち出来ませんからね。今の私なら何てこと無いんですけど……。それであの種族、ま~日頃の行いでしょうかね~、随分とあっちこっちで恨みを買いまくってますから、今回は自業自得ですよ]
「もしかして、アプサラス様も?」
「当然、出張っていようの~。ヴィシュヌ殿は、アヤツを見せびらかしたいだけじゃと妾は思うんじゃがどうなんじゃろう。そんな訳で母上は今頃、昔なじみのカーリーと轡を並べておる頃じゃ♪」
まったく、なんて血の気が多いんだよ。
王族ってみんなコンナノばっかなのか?
「母さまの事ですから、そんな酷い事にはならないと思いますよ。ただ、切れると怖いです、ウチの母さまは……普段は、必要以上に優雅にフワフワしてるんですけど……タハハッ」
「ウチの母上は、直ぐに手が出て来るのじゃ。ゴチンと拳骨を落とされるのじゃ! 父様はやさしいのじゃがの~」
[男親とは、いずこも変わらず娘には甘いものですよ]
「ウ~ン……それでウンサンギガの残した古代兵器てどんなのかな? データはあるの」
[肯定。セバスチャンのデータベースにそれらしい物がありますね。『インドラの矢』と云う思考制御エネルギー誘導兵器の様です。三眼族は、千里眼能力に特化した種族ですので非常に相性が良かったのでしょう]
「なら大丈夫だね、まともに食らってもエネルギー兵器なら全部吸い取るからね。ハヌマーンならブラックホールを光速でぶつけられでもしない限りは、空間歪曲場を纒ってるから弾くでしょ。あのコンビならどんな攻撃もまず当たらないだろうけど。でもコアシステムを排除してるってことは、動力は反物質反応炉辺りだよね、オーソドックスな選択だけど効率悪そうだなァ~」
[肯定。近傍に中規模のブラックホールが確認されて居ますので、もしかしたら……]
「エ~縮退炉なんて実現するのは凄く現実的じゃないからね。ハコの予想してるのは、ブラックホールの降着円盤近傍にエネルギー吸収用のプラントを用意しておいて送るようにするって事だと思うけど、無尽蔵のエネルギーを確保出来るかもしれないけど、そんなの制御出来るのかな~? エネルギーがオーバーロードしたら一巻の終わりの様な気がするけど……」
「昴様なら簡単に実用化出来ますよね?」
「出来るけどやらないよ~、意味ないでしょ。やるだけ無駄だし~、使えないよそんな非効率で汎用性の無い物はね。使えない物はゴミと一緒さ」
「わははっ、お主の駄目だしは容赦がないのう、じゃが無駄な物なのは同感じゃな。マッ、そんな訳で妾たちはしばらく厄介に成るのじゃ、宜しくのう~。それにしても地球の海とは沢山の生き物がいてにぎやかじゃの~」
「ご厄介になります。ジュルリ……美味しそうなお魚……」
「……ご馳走になる……」
「不束者ですが、どうぞよろしくお願い申しあげます。ポッ♪」
「ウキィー!ガルルル……」
ドウドウドウ……、銀河は興奮しないで仲良くしてね。
果報は寝て待てって云うし、姫様達の相手でもしながら準備だけは怠らないようにしとこうかな……。
「それじゃ、みんなでお昼食べに行こうか。(ハコ、エクストラナンバーからの情報は逐一チェックしといてね)」
[肯定。(了解いたしました。いつでも出られる準備をしておきます)]
◆
夏休みに入る直前、異星の姫様達が留学に託つけて地球のメガフロート、所謂俺のところへ避難して来ていた。
1学期終業式から数日後、俺がそんな姫様達をぞろぞろと引き連れて向かっているのは、メガフロートの目の前に鎮座ましますアトランティスの旗艦アガルタだ。
ゼウス達からアトランティスのレストアを頼まれたまでは良かったのだが、現状の確認と建造当時の状態データを解析するのに既に半年以上かかってしまっている。
オーディンの話の通り、アトランティスはこのままではもう宇宙には出られない程に老朽化が進み、現在まともに稼働しているのは旗艦アガルタと片手で数えられるほどの艦艇で、その割合はおよそ10%ほど。
全ての船のドッキングを解除して90%をパージ、稼働できる10%のみでならば取り敢えず宇宙には出られるかもしれないと思う。
しかし、昔のようにまともに飛べるかどうかは別の話である。
辛うじて稼働できている部分も老朽化が思った以上に進んでおり、かなり酷い事になっている。
多分、空中に浮き上がった途端に端からボロボロと崩壊が始まる事だろう。
しかしまた、良くもこんな状態でここまで移動してきたねと詳しく聞いてみた所、普段から海洋循環の海流に乗って世界中の海中を浮遊して周回していたらしい。
文字道りの浮遊大陸となっていた訳だ、どんなに探しても見つかるはずがないよね。
アトランティスの表層、外周にドッキングされていた艦艇は一律に腐食と崩壊が進み、その殆どが瓦礫と化していた。
検査した早い段階で、この部分は全てパージされ補修用の素材に還元してしまった。
この時、無秩序にバラすと稼働状態に無い部分は深海に沈んでしまうので一々面倒である。
まず旗艦アガルタを完全修復するに当たり、半年掛けて解析したデータに基づいて俺なりにアレンジを施している。
当然、このままのアトランティスでは、船体が巨大過ぎるのでバラす……これは決定事項。
ゼウスが煩せ~な、黙って見てろよ。
このままじゃ重力を振り切る為にどれだけのエネルギーが消費されることか、想像もできな~よ、ダイエット!
それに100隻以上の船を全部直すなんてまだるっこしい事してたら、一体何年掛かることか、考えるだけで鬱になるじゃね~かよ。
では、どうするのか?
まず、現在修復中の旗艦アガルタの他には、修理する宇宙船を単体で動ける5隻だけに絞る。
そして、残りは全部亜空間に放り込んじゃおう! と話してる側から実行していった。
その場にいる全員に、盛大に吹かれたのは見ものだったよ。
修復中の旗艦アガルタには、亜空間を恒久的に維持するだけの中型のコアシステムを追加してある。
要はロータスやピオニーの様に亜空間固定された凡そ直径100kmほどの亜空間を作り、そこに使えなくなった船を元に居住空間とファクトリー等の街を組み上げようというプランであるのだが、取り敢えず放り込んでおこうねって事だ。
放り込まれた不要な部分の船は、後に全て素材に還元して新しい大地としたのだった。
でも、チャンと残すべき所は分解せずに、新しい居住区やファクトリーに組み込み今まで通り使用できるようにリフォームすることで工期を短縮した。
これだけで船を稼働させるエネルギー総量は、旗艦アガルタと5隻の僚艦だけで元の7%ほど、実に93%カットの省エネを実現したのだ。
アガルタ内部の亜空間維持用のエネルギーは、独立したコアシステムによって維持管理されるが、これはサービスといったところだ。
何だかんだ言っても、これまで地球と人類の面倒を見て来た事に変わりはない。
そして現在、全長35kmのアガルタと10kmの僚艦5隻だけを残して、メガフロートから見ると太平洋側には島が点在するような景色に変わっている。
実際に目の前に250kmもの陸地がデンと居座っていた時は、邪魔物以外の何物でも無かったのだ。
こんな邪魔で物騒な物は早いところ排除しないと、メガフロートで行っている海洋開発や、その他定期運行されている艦船の運行にも支障が出るだろう事は、誰でも想像できる。
それに、碌でも無い輩がちょっかいを掛けてくる前に少しでも早く見通しを良くしたかったと云うのが本音でもあるのだ。
実は、相当煩く国連や大国からの上陸して良いか? 調査して良いか? との問い合わせがあった。
それに無断で上陸した奴らも数知れず存在するのだが……バクーンから。
『勝手に上陸しちゃだめだよ。戦争になるからね』と、立ち入りを禁しされたのだった。
現在のアトランティスは、計画通りにその余計な体積を亜空間に移行し終わり、残った旗艦アガルタと5隻の艦艇の御色直しが急ピッチで進行中である。
人手がないので、大量の自動修復用マシン(単体では1mm~10cmほど)を投入してアガルタの亜空間を維持しているコアの管制AIに修復も丸投げした形だ。
これ、いざという時のダメージコントロールの演習にもなっているようなので、特に問題が発生しない限り俺達は高みの見物と洒落込む事にしている。
此のために半年も掛けて、徹底的にアトランティスの構造解析を行った成果でもあるのだから。
そして今、資格も許可も無くアトランティスに取り付こうとすると、無数の蟹に似た大小のモノキュラーマシンに集られる事になる。
駄目だと言われても懲りない人間というものは尽きないもので、嫌になる。
『いやいや~、これが地球人類の本質だろ? 色々な意味でしぶといんだ』 なんてゼウスは言ってたけどね。
この修復用モノキュラーマシンは人や生物には危害を加えないが、無機物、特に着ている物や持っている金属等は全て分解されるので、丸裸にされる……見たかネ~よ、スッポンポン!
武器も無線期もお金もカードもメガネもアクアラングやゴムボート例外ではない。
直接接舷などしようものなら、それが小さなボートだろうが巨大な潜水艦だろうがアッと言う間に集られて尽く分解されてしまうのだ。
素っ裸で泳いで逃げる工作員……近くにはメガフロートと南鳥島しか無い訳で、その結果俺達は、見たくもない全裸男達の海水浴を拝むことが度々発生した。
その中にシーシェ○ードのメンバーが居たのには驚いたけれど、彼奴等は環境保護団体なんて言っているのは真っ赤なウソで正真正銘のテロリストなんだね。
「昴様、こちらの宇宙船は修理が済みましたらどうされるのですか? 行き先は無いのでしょう」
「一先ず、月へ移動する予定ですね。持ち主が今は皆んな月の臨時職員として働いていますし、今まで住んでた宇宙船が近くにあったほうが良いでしょ。それに、こんな物が目の届く所にあると変な野心を持った奴等が沢山寄ってくるしね。手の届く所には無いほうが良いと思うんだよ」
「ふむ、こんな物扱いも可愛そうじゃが身の程知らずな輩という者達は何処にでも居るものじゃからのぅ。隠して置ける場所があるのならば、それが良かろう。まったく折角皆と朝飯を釣っておったのに、裸族を釣り上げた時にはビックリしたのじゃ……朝から変なものを見せられて大いに食欲減退じゃよ」
「それは、ご愁傷様でした」
「昴の処にも圧力を掛けてきているのではないか? まっ無駄であろうがの~」
「ええっ、ほうぼうから来てるようですけどね、相手にする必要もありませんから。言い分なんか聞いてたら無駄に疲れるだけですしね。バクーンから公示はしてありますから、問い合わせはあっちにお願いしたいんですけどね~」
「それは無理なんじゃない? 現物が此処にあるんだし……だいたい昴ちゃんはいつもそうよね……、ハ~希美おばさんの苦労が分かるような気がするわ」
「難しい事は大人にしてもらわなくちゃ、子供じゃ舐められるからね。自分達のしている事がどれだけ愚かな事だとしても分かろうとしないんだ、今の地球では仕方がないのさ」
「それでこの船は、あとどれくらい掛かるのじゃ? 急いで終わらせて早く妾をヨーロッパという所に案内するのじゃ!」
「エーっ、姫様ついてくるんですか?」
「当然じゃろう! ここに居る間は昴に付いて離れるなと母上からも厳命されておるからのぅ。のう? ラクシュ殿」
「はい、言われずとも自ずから昴様の手助けが出来るぐらいにお成りなさいとお母様からも言われておりますから、何処までもお供いたしますわ」
「ガルルルルルルルルッ……」
「……はぁ~……」
世歴2004年7月29日、アトランティスは、自力で飛べるまでの修理を終え月に向けて飛び立っっていった。
この後、細かいメンテナンスや最終調整は月のドックでオーディン監修の元行われる予定だ。
気に入ってくれると良いんだけどな。
ゼウスの文句は、有っても一切受け付けないからな、以上!
◆
少し話を戻そう。
旗艦アガルタを解析した結果を見ると、動力はおよそ3種類に分類される。
核パルスエンジン、反物質反応炉、そして初期の相転移炉だ。
どうも最初は核パルスエンジンが主機で、後から燃料の要らない相転移炉に切り替えていったらしい。
ただ、光速を超えるほどの出力はどちらも得られなかったらしく、反物質反応炉を採用して初めて超光速航行を実現したらしい。
亜空間の存在とそれを移動に利用できる事にはかなり早期に気がついていたらしいのだが、テレポートの様に短距離転移を大質量で行うまでには途方も無い時間が必要だったらしい。
まずは死に瀕している主星系からの脱出、そして永遠とも云える真空空間を放浪する旅路。
長過ぎる時間は、彼らに真空其の物を利用する相転移炉と質量を膨大なエネルギーとして取り出す反物質反応炉を持つに至った訳だ。
分析した結果からも分かっているのだけど、彼らの船は地上に下りる様には出来ていなかった。
いや、下りられるけど片道切符だったのではないかと思われる節が有る。
ピクリとも動かない相転移炉と大気中で動かしたら不味いだろう核パルスエンジンの存在だ。
更には、反物質反応炉の燃料は既に尽きかけていた。
十分な燃料が会ったとしても、あれだけの質量を軌道上まで持ち上げるのは至難の業だっただろう。
一応は重力制御も出来るみたいだけど、対象が大きすぎるのだ。
これが無重力に近い真空空間ならば、あれだけの質量でも航行が可能だろう事は分かる。
だが、惑星の重力井戸の底では身動きも取れないというのが実情だろう。
彼らから聞いたわけではないけれど、今になっては地球から逃げたくても逃げられないし、結局は地球で最後を待つだけなのさ、と云うのが本当の理由だったみたいだ。
しかし今後は、アガルタと5隻の宇宙船が自由に使えるようになるし色々と行動の選択肢も増え事だろう。
鬱になる原因が無くなれば、これまでの様な刹那的な馬鹿騒ぎも減少するのではないですかと、ハコが云っていたよ。
若干パラノイヤ的なところのあった彼ら神々の原因が、こんなところに有ったとは、今まで誰も気がついていなかったそうで、お互いにびっくりである。




