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3-1-01 アカデミー入学…潜入!職員会議 22/3/4

20220304 加筆修正

8851文字 → 9878文字




 世歴2004年4月1日。

 この日、ある一つの新設校のイベント風景がテレビで生中継されていた。

 太平洋のド真ん中に新設された学び舎の最初の一ページ、入学式の光景である。

 これから新しい時代を担って行くだろう者達の、第一歩をいま世界が注目している。




『新入生代表、天河(あまかわ) (すばる) 君』


「はい!」


 名を呼ばれた昴がステージに上り、中央にあるマイクへと歩いてゆく。

 丁寧なお辞儀の後、深呼吸を一つ、どんな言葉が飛び出すのだろう。

 

『いま人類は、新たなるステージへの一歩を踏み出す事になりました。そして、この同じ学び舎にいる皆さんには、この先の地球の発展と生き残りを賭けた未来が待っています。共に学び、共に競い、そして地球人の底力を見せつけてやろうではありませんか。新入生代表、天河昴!』


 昴の挨拶が終わるのと同時に、拍手と歓声が響き渡った。

 次に入れ替わりで挨拶するのは、順当に行って学校側の代表となるだろう。

 予想通り挨拶をするために一度立ち上がり掛けた鷺ノ宮(さぎのみや)校長は、なぜか予想を裏切り再び席に戻ってしまった。

 その様子を不審に思っていた出席者達一同をよそに、スルスルと上がった緞帳(どんちょう)の後ろからイタズラが成功したのを喜ぶように現れたのは、なんと今上天皇(きんじょうてんのう)その人だった。


『新入生の皆さん、御入学おめでとうございます。そして、この中継を御覧になって居るだろう世界中の皆さんにも、少しの間わたしのお話にお付き合いを頂きたいと思います』


 絶妙の間を取って続けられた話の内容は、びっくり仰天の話でした。


『昨年のクリスマスに、月に帰還され新たに人類の隣人となられたバクーン殿や、その他の宇宙からのお客様の相次ぐ訪問に、今の太陽系いや地球人類は、時代の転換点とも云える時を迎えているのだと私は思っています。皆さんは今、これまで想像もしていなかった出来事に遭遇して心穏やかでないと思います。その多くは、この先どうなるのだろうと心労を募らせてお出でだと思います。ですが私は、心配など一つもしておりません。皆さんは、どうして? それはなぜ? とお思いになるでしょう。それには当然訳があるからですが、簡単にご説明致しましょう。……それはそれは大昔のことです。我々の祖先達は、普通に日常的にあの方達とお付き合いをしていたからなのです。詳しい話しをしますと一晩掛かっても足りなくなってしまいますので又の機会と致しますが、とある事情により一部の方々を除いて彼らは宇宙に帰ったり表舞台から姿を隠してしまわれたのです。ですが彼ら稀人(まれびと)達がまたこの地球に訪れるようになりました! これは、本当に喜ばしい事では有りませんか。そしてこのアカデミーには、ご覧頂けるように日本人だけではなく多数の人種や地球に残られた方達の子孫の他にも、これから訪れる来訪者の方達も先触れとして共に学ぶと云うではありませんか。私もこんな歳(71歳)になりましたが、人生でこんなにワクワクする事が起こるとは思ってはおりませんでした。何を隠そう、私も通信教育の参加者として今日から皆さんと共に学ばせて頂く事になっております。どうぞ仲良くして頂きたいと思います、皆さん宜しくお願いしますね。そして、私の先程の(わけ)経緯(いきさつ)なども追い追いレポートとして資料とともに公表してゆきたいと思っております。今、ズルいと思った方もおられると思います、ですがご容赦くださいね。天皇なんてやっているのですから、珠には此のくらいの役得もないと悲しいじゃないですか。ただ、誤解しないでほしいのですが、私もコッソリとですが願書を書きましてね、とても厳しい書類選考に合格したと云う事だけは言わせて頂きますよ。ではみなさん、これから一緒に学び、共に次の時代を創ってゆこうでは有りませんか。通信教育生代表、MIKADO!』


 昴の時以上の歓声と拍手が沸き起こり、生徒も列席していた来賓や父兄もスタンディングオベーションとなりました。

 手を振りながら退場する天皇陛下を盛大にお送りしました。


 天皇陛下が退場し、少し落ち着いた処で鷺ノ宮(さぎのみや)校長の挨拶です。


『フー、予定外の珍事もありビックリしました。改めて、私が此のアカデミーの校長を務めます、鷺ノ宮(さぎのみや) (みやこ)です。このアカデミーは、此れまでに類を見ない教育システムを導入しており、この新しい教育システムの確立と検証を生徒と共に我々教員も一緒に学んでゆく機関となります。実は、私も通信教育生の一人として皆さんと一緒に学ぶ学生でもあります、仲良くして下さいね。この新システムは、これまで学ぶ意思は有っても時間的余裕の無かった方も無理なく新しい知識と研究に専念することが出来るようになるものです。このシステムは、睡眠学習と特殊なサーバシステム、そして専用のVRプログラムで実現します。皆さん、人類は今何処(どこ)に向かっているのでしょう? そして、何を目標に進めば良いのしょうか? 一緒に見つけてゆこうではありませんか。私達は、教育者として力の限りそのお手伝いを致します』


 鷺ノ宮校長の挨拶が終わり、続いて列席した偉い人のスピーチが延々と続きその日の午前中が丸々潰れる事になった。

 この時の映像は、その日以降何度も繰り返して放送された。

 そしてこの後、アカデミーへの入学や編入、通信講座への申込みがこれ迄以上に殺到することになる。

 更には、世界中から新システムに対しての問い合わせと運用に関して、国や教育機関から問い合わせが殺到することになったのと同時に、『日本の天皇は最高だ! なんてカッコイイんだ』と、その評価を爆上げすることにもなったのであった。




 ◆




 嵐のような入学式から1ヶ月が経ち、ローテーションなども落ち着いてきた頃、ゴールデンウィーク明けの今日、朝からメガフロートの大講堂には全教職員及び役員が集まり職員会議を行っていた。

 通常の学校であれば教職員会議の際は、生徒にはホームルームまたは自習を行わせるのが通例だが、ここではVRを活用して国会中継のように公聴出来るし、直接ではないが意見の主張や反対票の取りまとめなどが可能で実際に行われていた。

 早い話が小規模な国民投票をリアルタイムでやっているようなもので、これが下手な授業より勉強になるし面白いと云うことで、当然のようにVR通信講座の生徒を始め一般のTV地上波までが放送するまでに拡大していた。


 事の発端は、昴が生徒会長をイヤイヤ押し付けられた辺りから始まったのだ。


 訳知りの校長や講師陣(おやじたち)が、昴はすでに地球の殆どの学問をその頭脳に収めており、後は応用と経験のみが必要であること。

 命に関わるような経験を乗り越えた事で見掛けの子供では無い事から、初代の生徒会長を押し付けられたのだった。

 ただし、昴も生徒会長をイヤイヤ引き受ける代わりに生徒による自治権と教育方針などに対する生徒側の意見を取りまとめ、例えそれが国の教育方針だとしても駄目なものは駄目と主張出来る権利を獲得したのだ。

 言ってる言葉とやってる内容が普通の中学生とは思えないって?

 もう猫を被るのはやめる事にしたらしい……今更ではあるのだが。


 生徒会が手始めに行ったのは、アカデミーに関わる業務の透明化を看板に、授業だけでなく職員業務の方も全てVRサーバ経由で公開したのだ。

 これは、VR通信授業を受けられる全ての対象者、教員も職員も生徒も役員も見よう・参加しようと思えば出来るようにしてしまったのだ。

 要は常時、授業参観日にしてしまい、生徒だけでなく教員も参観される立場になったと言う訳である。

 これまでの教育機関は、まず知識を覚える事に時間を取り、習熟度をテストで判断していた。

 しかしここアカデミーでは、すでに知識は睡眠学習で習得済みなので、応用や経験を積むための実技、更なる習熟の為のレクチャーやプロフェッショナルとしての(きも)といった物を身につける為の訓練や血の(かよ)った知識を学ぶための場なので、生徒が教員の助手を努め準備を手伝うのは当たり前に行われる様になった。

 この影響は、すごかった。


 今までは生徒は知らなくても良かった裏事情、先生や職員が自分達の為にどれだけ色々な事を考え想定して授業を進め教材の準備をし、部外者の横やりから守り育てようとしているのかが全てにおいて(さら)されたのだ。

 今までは、ただ無為に教えてもらう立場に居た生徒達が教師や講師の助手と成り、同士と成り、そして一緒に学ぶ学友となったのである。

 

 そして例にもれず、人が集まると必ず派閥が出来て、そこに対立と悪意が生まれるのはどんな所でも避けられない物ではあるのだが、厳格にチェックしているにも関わらずにアカデミー内であってもそれは例外ではなかった。

 人は成長し、そして堕落する生き物であるとは誰の言葉だっただろうか。

 ここへ来た時は問題など起こしそうにもなかった人物も、外部の色々な誘惑や家庭の事情で弱みを握られたりと(しがらみ)を利用され、ヤりたくもない妨害や情報漏えいを強要される関係者が出始めたのである。

 しかし、人はそう云う悪意を敏感に感じ取るもので、隠れてコソコソと行われる悪事という物は往々にして不自然さを(さら)け出すものである。

 それらは不特定多数の目に晒されると違和感のようなものが浮き上がって見えて来て、特にここに居る優秀な知性を備えた生徒や外部通信教育生(専門職や法律家なども含まれる)の目をごまかす事など出来なかったのである。

 何を画策してもすぐバレるのだ。

 必ず尻尾を掴まれて報復される始末である。

 裏工作して与えた筈の損害が数倍になって熨斗を付けられて帰ってくる様になって、主導していた組織や企業・国家は悲鳴を上げた。


 更には非公開ならどんな言い訳もできる自信があったが、一種の公開裁判のように世界中の目に晒されてしまっては言い訳のしようが無いのだった。

 ここまで生徒会長が考えていたかは不明だが、開校からほぼ1ヶ月でアカデミーに潜り込んで来ていた膿を出し切り、助けられる関係者は保護し、敵対していた者や組織の活動には、既に報復を完了した事をアカデミー関係者へ報告したのである。

 その全てを公にする事で……。

 教職員や役員・政府関係者は、調査に関わった一部を除いて顔を引き攣らせてドン引きである。

 この時点で報復された者達は、悠長にTVなんて見ていられる状況では無くなっていただろう。


 ここアカデミーが異星人に縁のある者まで所属する教育機関だけに、どうにか喰い込みたい国家・企業・組織・個人は無数に存在し、悪どい手口を使っている者達にはそれに見合った御返しをしたのは当然の帰結というものだろうと生徒会長がぶち上げたのである。

 先生方も色々と生徒会主導で動いている事は分かっていたが、具体的に証拠資料に映像音声まで晒され、合法的にどういった報復手段を取り、その結果我々がどれだけの損害を出し相手に与えたのかが克明に報告された。

 警察・検察・自衛隊・NSAには一部ご協力頂いたが、FBIもインターポールもCIAもMI6も形無しである。

 そして、この時に放送された一連のやり取りは、これまで国や組織の中で泣き寝入りしていた者やその圧力に屈していた報道関係者から絶賛されるこのに成る。

 一般人からは下手なミステリー小説やスパイ小説より面白かったと好評で、通常の公開放送とは比べられない視聴率を稼いでしまったのだった。

 以降、度々公開され高視聴率を稼ぐことになる。


 副作用として、世界中から色々な捜査依頼や嫌がらせの相談が集まることになったのは困った話である。

 冷かしの浮気調査は別として、ミステリーサークルや不思議現象などの情報も集まり始めるに至り、アカデミーの制服を着た学生や講師がフィールドワークに世界各地を飛び回る姿と、その後始末にガーディアンズが駆り出されるという事が繰り返されるのだった。


 昴がタガを外すと 何でも事が大きくなると言われ始める最初の逸話である。




 ◆




 プレアデスアカデミー、生徒会司令室。


 ここには、影の執行部という物が存在する。

 生徒会と云うよりは、このメガフロートにと云ったほうがいいだろう。

 皆さんご存知、昴の私兵であるシスターズとその率いる諜報マシン部隊である。

 アカデミーから公開される情報も、使用されているシステムもその全てがシスターズのコントロール下にある訳で、当然やろうと思えば昴を支配者として洗脳してしまうくらいの事は、簡単に出来てしまう。

 でも彼女たちは、そんな無駄な事はやらないだろう。

 そんな事をしても、昴が喜ばない事を知っているからだ。

 では、どうしたら昴は喜んでくれるのだろうか?

 力ある者は、こちらが関わりたくなくても他者が放おって置いてはくれない。

 そんな面倒な相手にはなるべく自滅していただこう、ではどうするのか?

 敵の敵に情報をくれてやれば良いのだ。

 そして最終的には今までしてきた全ての悪さを、公に晒して人生やめていただきましょう! と、いう結論に達したのだった。



[マスター、教官A氏に接触したのはK国の工作員です。事務官Bにも接触した模様。いつもの手で宜しいでしょうか?]


「うん、あそこなら警告して駄目な時は、接触していた工作員の3親等までの詳しい個人情報を送りつけてやって! 悪い事してる人間ほど自分がされる立場に立つと弱腰になるからね。大体ブルって逃げ出すよ。それでも駄目なようなら薬盛って寝てるところを、公安に連絡してね。ついでに今までしてきた悪さの情報(のし)をつけてやって!」


[マスタ~、うちの仕入れ業者に圧力掛けてるの丸○商事の外事部門だよ。潰して良い?]


「ケラエノに任せるよ。でもチャンと調べてからにしてね。中にはイヤイヤやらされてる人も居るだろうから」


[アイアイッ、主導してる専務と外事3課の課長は真っ黒だから潰すね。社長に釘刺して情報を投書(なげぶみ)しときま~す]


「相変わらずか~でもいつまで経っても懲りないよね。なんでこんなに湧いてくるかな~」


[肯定。仕方ありませんよマスター。彼らには、ここが美味しい美味しいご馳走に見えてるんですから……地獄の一丁目とも知らずに……]


「こんなおっかない所、他には無いと思うんだけどな~」


「昴くん、だからね! 今回の様に、全て己がやった事を晒してやるのですよ。特に悪質なところを念入りに晒して、看板になって頂く訳です。分かりますか?『我らに手を出すと、お前達もこうなるぞ!』と云うようにです。その手口や何を狙っていたのか、そしてどんなしっぺ返しを食らったのか、詳しく晒して前例となって頂くのです。早い内にこういう(やから)には、表舞台からも裏からもご退場頂かないと後が面倒ですからね。同時にアカデミーの新システムに依る教育が如何に優秀であるのかのアピールにもなります。その辺もチャンと宣伝しませんと私のお給料に影響しますからね♪]


 キャロルさんは、最初嫌がっていた割にちゃっかりと(株)タウルスの広報担当部長として入社した。

 更には村の本社屋に居ても退屈だからと云うので、メガフロートに来て色々と口を出している。


「少し痛い目を見ないと堪えないってことだね。でもキャロルさん、程々にしといてね~。今回、ターゲットにされた人達にも落ち度や隙が有ったにしても、ウチと関わんなければここまで巻き込まれる事もなかったと思うんだ。だからね、お手柔らかに対処しといてよ。相談に乗って解決出来るような事なら、解決しちゃってね、出来るでしょ?」


[肯定。その辺に抜かりありません。文部大臣から紹介いただいた弁護士と司法書士に介入して頂く手筈になっております。払えない借金はありません。借金取りの方に問題が有るのです。目に見えて悪質な金融機関や業者には、全ての帳簿を開示していただいて司法の手に委ねます。成り済まし詐欺を資金源に違法な金融業を営む暴力団やチャイナマフィアには、悪夢を見せて二度とやろうなんて思いもしないように魂に刻んであげましょう、フフフフフ……]


「ハコさんや、村のおばあちゃんが被害にあいそうになったからって、そんな目くじら立てなくったってさ~」


[否定。いくらマスターのご意見でもこれだけは聞けません。あんな蛆虫共は、地獄に落としてやればいいんです。お許しがあれば、もれなく棺桶に入れて木星の大赤斑に投げ込んでやるところですが、今回は強制暗示でトラウマ植え付けるだけにしておきましょう。ア~、腹の立つ……]


「それにしてもハコさんてホントにAI?  絶対、中に人居るよね?」


[否定。私は正真正銘、昴様の船の管制AIです]


「……納得出来なーい」


《まーまー、マザーハコは特別製で、私達とは出来が違いますからね》


「私のフォウはこんなにもAIらしいのに……」


「俺に云わせるとお前も大概なんだけどな、ハコの親戚みたいなもんだし……」


[肯定。厳密には第三世代ナビゲーションAIですが、進化係数を可成り上げておいたので、そのうちキャロルさんを超えるかと……]


「! フォウ、お前もか~……ちなみにハコさんの進化係数ってどれくらいなの?」


[私の進化係数は、……インフィニティですね。特に制限は設けられておりません。昴様は、私に最高の船になるようにとおっしゃいました。そのお言葉を胸に実行しているだけに過ぎません]


「俺、そんな事言ったかな~? ハコが言うなら間違いないよね♪」


「そっ、そうなのね。(昴くんが騙されてるんじゃと思うのは、私の気のせいかしら。兎に角、ハコさんは規格外の化け物と言う事ね)」




 ◆




『皆さん、おはようございます。現場の不主真(ふすま)のり子です。本日は、公開中継中のプレアデスアカデミーの職員会議に突撃してみたいと思います。皆さんも、御存じの通りこの学校では職員会議が生徒のみならず一般にも公開されています。今回は、ここを運営していらっしゃる(株)タウルスの広報部長のキャロライン中里女史の御配慮により、我々が特別にVR接続の臨時アカウントを取得する事が出来ました。授業を受ける事は出来ませんが、メガフロートの公開区画と現在である職員会議の行われております大講堂に入場して参加出来るそうなので早速突撃してみたいと思います』


 不主真(ふすま)レポーターがスタジオの安楽椅子にもたれかかり、額に銀色のカチューシャを付けました。

 横に置かれた視覚野データ出力用のモニターには、手を振っている不主真(ふすま)レポーターの姿と音声が聞こえます。

 腕にはプレスの腕章と、首からはIDカードが掛けられているのがわかります。


『皆さ~ん、見えてますか~? 今私は、VR空間に無事にログインする事が出来ました。これから職員会議の行われている大講堂に、直撃潜入を試みたいと思います』


 モニターの中では、大講堂の前部西入口と書かれた観音開きの大きなドアの前に不主真(ふすま)リポーターが移動しており、ドアを押し開けて入っていくところでした。

 本人は気が付いていませんが頭の上にプレスの文字が……まるでテレビゲームのキャラクターの名前の様です。


『お邪魔しま~す、不主真(ふすま)で~す。なっ、何ですか? この吹き出しは? 中の皆さんにはこちらの声は聞こえていないようですね~』

  

 講堂内に入ると、不主真(ふすま)リポーターの声は空中に吹き出しとして表示されており、講堂内には聞こえていないようです。

 講堂に入るとプレス席が設けられており、ここに座れと空中に矢印が出ています。


『皆さん、ご覧いただけているでしょうか? プレス席の手元には、「発言したい時に押すボタン」と矢印で表示された大きな赤いボタンがありますよ。まるで早押しクイズ番組の席みたいですね~、でも今は使えない様です。質疑応答の時に使えるようになるみたいですね。ボタンの横にはキーボードが付いてますね、これは何に使うんでしょう? えっ、これでヤジを飛ばせるんですか??? さあ準備は万端です、会議の様子を聞いてみましょう。今、名物の生徒会長さんが今週の仕返しリストなる物をスクリーンに出しました、皆さん見えてますか?』


 大講堂のスクリーンに映されたのは、「ドキドキ? 今週の仕返しリストベスト3」と題された一覧表でした。

 講堂を映している画面にヤジが流れます。

 講堂では、周りの壁にヤジが滝の様に流れています。


 1位 北〇鮮            7回(毎日かよ!)

 2位 韓〇・国営企業        4回

 3位 蛇頭ほかチャイニーズマフィア 2回(流石に息切れしてね?)

 4位以下は、すべて1回で27件となります




「今週もオマイカ!」

   「懲りね~奴!!」

      「ウケル~w」

         「ギャ~ッハハハハ!」

「マンネリ化してね?」

   「wwwww」

      「草はやすなや!」

         「一昨日来やがれ!」

「お静かに~w」

   「・・・・・・」

      「アイも変わらずまた北か」

         「点もやめれ!」

「皆勤賞オメ!」

   「Mだな!」

      「ヤメて~キモい~w」

         「来週もおいでませw」


 ……この後、野次が延々と続くよ……


『一覧を御覧ください、相も変わらず懲りない方たちですね~。もう仕返しのネタも切れてきたので合法的でスマートな案を公開募集しようと思います。日本は法治国家ですよ~、あんまり過激なのはイエローカード送りますからね。3回溜まってレッドになったら、ここの出入り禁止にしますから覚悟してくださいね~。採用された方全てに、メガフロートへ一家で7日間ご招待しますよ~。抽選なんてケチな事も言いませんしドーンと爺ちゃんから孫まで3世代纏めて面倒見ちゃいますよ。皆さん奮って応募してくださいね~』


【今から24時間受付ます。奮ってご応募ください】


「テロップ来た~w」

   「太っ腹~!!!」

      「会長愛してる~♡」

         「俺もう2枚目♪」

「お前は3枚目半だろう!」

   「ハイ、タイジョ~!」

      「今度こそ採用汁!」

         「無理無理無理~w」


 もうお祭り騒ぎである、生徒会長の映ってるこの時の視聴率は、70%を突破した。


『では俺はここまで、教務主任にバトンタッチします。また来週!』


 この後、教務主任により今週のカリキュラムの擦り合わせと来客の視察スケジュールなどの申し送りに始まり、体調を崩した生徒の報告、教材の備蓄量と発注状況、天候に左右される研修のスケジュール変更などなど、流れるように消化されてゆく業務内容が報告されてゆく。

 

『現場の不主真(ふすま)です。いや~圧倒されました。会長さんのインパクト、強すぎてびっくりしましたが、チャンと職員会議は行われているんですね。もうそろそろ質疑応答ですね。通常公開記者会見なんかだと、質問内容を事前に提出したりするんですが、ぶっつけ本番アドリブでいいそうなので、是非私も突撃したいと思います』


「では、質疑応答に移ります。本日はゲストプレスとして不主真(ふすま)さんがいらしています。どうぞ質問をお願いします」


『はい、〇〇放送の不主真(ふすま)です、よろしくお願いします。では、校長先生にお聞きします。学校の職員会議にプレスが入るなんて前代未聞ですが、誰のアイディアですか? あとですね、学校業務って部外秘のところが大半だと思うのですがどうして公開しようと思ったのですか? 最後に、ここの運営資金てどこから出てるんですか? これだけ透明化の進んだこのアカデミーで唯一分からない処なんですがお願いします』


「はい、校長の鷺ノ宮です。まず一つ目は、貴方をここに手配した(株)タウルス広報部長のキャロライン中里女史の鶴の一声かしら、宣伝と対外交渉はあの娘が一手に担当してるからなのよ。二つ目は、生徒会長のアイディアね、私もここまで上手く行くとは思ってもいなかったわ。アカデミーでは『先生や生徒なんて垣根を取り払ってこれまでに無い新しいモノを作りましょう』ですって! 最後のは言っちゃっていいのかしら? えっ良いの! お許しが出たので説明しますね。ここの運営資金てほとんど掛かってないのよ、信じられないわよね~。今のところ自給自足で賄えちゃってるのよ。施設は、昴くんのだから家賃はタダで取られてないし、光熱費も自家発電でしょ~。食材は、植物工場と海洋牧場から良質の物が取れるし……。そうそう、職員の給料はチャンと出てるのよ? ここは、衣食住が全部タダだから、手取りが少なく見えてるけど都心と比べると50万以上には成るのよね~、信じられないけどホントの話よ~」


「ウォ~、就職して~、来春お願いします!」

   「嘘だ~;;、信じられね~~><」

      「良し、そこの職員と結婚しよwww」

         「貯金が年600万!フォ~~w」

「目指せ!メガフロートでアルバイト~w」

   「何とか縁故で!!!」


【ちなみにウチは縁故大歓迎ですよ~、ただし信用第一なのでyoro~♪】


『ありがとうございました~。VRのハズなのに、この熱気は凄いですね~。現場の不主真(ふすま)がお伝えしました~』



 この日、史上最高視聴率が記録されたらしい……嘘~?






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