1-1-07 ノルン・フィーバー‥沸騰する女達 21/4/25
20210425 加筆修正
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恒星間万能移民船『ハコ』諸元
※武装はありません
第五期(ハコ端末24面体)
孵化から155日経過
船体は亜空間に次元潜行中
外観 六角柱状のクリスタル、船色 碧色
基礎船殻完成・NT1000トン
内部拡張中 265,954立方km
(5,000平方km、半径39.89km)
全高60m 全幅35m
主機・次元転換炉 現在5基
船殻用ナノマテリアル 在庫 284トン
昴の工作用 在庫 15トン
◆
ケース1、鷺ノ宮 都 の場合
「母さん‥‥だよな? 一体どうしたんだよ‥‥その姿は。昔から見た目と歳が一致しない親だとは思って居たけど、物には限度というもんが有るだろう~、何処で整形してきたんだ?」
「うふふふっ♪ 見違えたでしょ~。基礎化粧品を変えたの、知り合いが新開発した美容クリームでね、これ1つでお肌のお手入れは終わりなのよ。生まれ変わった様に化粧のノリがいいし、もうスッピンでも表を歩けるわよ~」
「もうそれ、化粧の域を超えてるだろ。整形したのかと思ったが違うのか? 休みとって帰ってこいって言うから、様子を見に来てみればどういう事だよ?」
「お義母さま、それはどこのクリームなんですか?」
「おまえ、そんな事は今どうでも良いだろう」
「どうでも良い筈無いでしょう、貴方は黙っててください! お義母さん教えてください、どこのクリームなんですか?」
「聡美さん、これは私の知り合いが開発した化粧クリームなのよ。私も4ヶ月モニターをしたんだけど、日に日に綺麗になっていくのが分かってホントに若返っているのを実感しているの。まだ発売前で機密事項なのだけれど‥‥、でも私の紹介で、貴女にも発売日の優待券を貰ってあげるわ~、貴女も一緒に会員になりましょうね♪」
「ゼッ、是非お願いします。絶~対ですよお義母さま!」
オ~ホホホッ♪ これは嫁に対する大きなアドバンテージよ。
希美サマサマだわ。
昴くんには、足を向けて寝られないわね。
ケース2 、長谷川 真澄 の場合
私の旦那は、長谷川修一、天文観測所の所長をしているの。
私は、専業主婦で42歳、天河希美さんとは大学の先輩後輩よ。
田舎の観測所だからのんびりしていて、都会ぐらしに疲れていた私はこっちに移ってきて5年、ホッとしていたのよ。
体の弱かった娘の銀河も健康になって、昴君たちと仲良くしているわ。
銀河も手がかからなくなったし、私も何か仕事を始めようかしらと思っていたところよ。
急な修一さんからの電話に呼び出されて観測所に来てみれば、後輩の希美(39歳)が大学時代のように若返ってるじゃない。
昴くんを放置して(監視の話は聴いている)仕事人間してた筈なのに‥‥、お肌ボロボロだって嘆いてたのに‥‥、これはどういう事よ。
先輩は、私より若く見えて良いですねなんて、どの口が言うのよ。
絶対にその若さの秘密を聞き出してやるわ!
ケース3、ある女性研究員 の場合
私は、天文観測所に所属する研究員です。
仕事の出来る28歳になりますが、そろそろ結婚相手を決めないと30過ぎたら厳しくなりそうだな~と思いながら、男性研究員を顎で使っている今日此頃。
同僚の天河夫妻をいつも遠い目で見ていました。
穏やかそうな旦那さん、少しイケイケな奥さんで二人共優秀な研究員です。
やっぱり年下を捕まえるのが成功の鍵かしら、な~んて思っていたら、夫婦して長期休暇をとってバカンスに行くって言うじゃないですか。
ヤッパリ出来る人は、職場で無理も通るんだな~と遠い目で送り出したんですが、ハワイのお土産持って挨拶に来た奥さん‥‥、別人になってるじゃないですか!
私より若いって反則ですよ、どういう事ですか?
整形ですか? エッ、違う! 教えてください、私これから相手見つけるんですから、お願いします、どこまでもついて行っちゃいますから。
この後、研究所は阿鼻叫喚の坩堝と化した。
新しい化粧品シリーズ『ノルン』の発表とともに中高年を中心に、一大ブームとなるまでそう時間はかからなかった。
完全紹介制・個人登録制にもかかわらず口コミとその効能に、世の女性達は狂喜乱舞した。
少数ながら男性会員も入会し、特に著名人や芸能人を筆頭にセレブの中に広まっていく。
その後、飽く迄も基礎化粧品としてのクリームのみを販売し、その他の化粧品の縄張りには踏み込まない姿勢が他の化粧品メーカーからは、好意的に受け取られ共存していく事となる。
しかし、基礎化粧品から各種ファンデーションや乳液をセット販売している大手メーカーは、その秘密を探る為にあの手この手を駆使し暗躍する事になるのだった。
◆
「「「「「メリー・クリスマス」」!」」♪」
現在、俺の家に集まって、子供会のクリスマスパーティーをしている。
沢山の料理とケーキが用意され子供達だけでパーティーをしているのだ。
母さんたちは、化粧品ノルンシリーズの発表と本契約に忙しく、日曜で休みなのを良い事に観測所の女子研究員も駆り出されているらしい。
オバちゃん校長や銀河のママさん、村の主要な女性(80代)もみんなが役場に併設されてる公民館に集まって、ワイワイやっている最中だ。
その他、祭りに来ていた関係者や村から街に降りていた元住民、その家族関係者の多くが発表と実際に試用モニターをしていた女性の容姿を見聞に来ている。
今回は、親しい関係者以外は、モニターの家族などでも招待状の無い方はシャットアウトしているらしい。
どこから話を聞きつけたのか、化粧品関係の雑誌社から取材の申込みまで有ったらしいが、今回はご遠慮いただいたそうだ。
まだ海の物とも山の物ともつかぬ物を 大々的に世に出すわけには行かないと断りを入れて、あらためて記者会見を開きますのでその時はよろしくお願いいたしますね、とニッコリしながら、どうせ新進メーカーだと思って叩く気だろう、分かっているぞとプレッシャーを掛けていたそうな‥‥母さんが。
そんな訳でうちが託児所兼パーティー会場となっているわけである。
「昴くん、うちのママ、ゆうべから契約書とにらめっこしてたんだけど、あのクリームのだよね。ママがすごく綺麗になっててお父さんも機嫌がいいんだけど、この先の事が心配だったみたい。大丈夫だよね?、希美おばさんが社長だし‥‥」
「うん、心配いらないよ~、チャンと身内価格にしているはずだし製品に偽り無し! 俺が保証するよ」
「身内って‥‥、昴くんが身内‥‥」ポッ。
「あ~、銀河ちゃん赤くなってる~」
「こらっ双葉、あんまり銀河をからかうな、あとが怖いからな」
「ふ~んだ、健太は黙ってケーキ食べてればいいのよ。昴にーちゃんゲームやろ~」
「お~し、今夜はみんな泊まってっていいからな、親抜きで夜更かしすんぞ~」
「「「お~~~」」」
「あんまり羽目を外すなよな、後で怒られんの俺なんだからさ」
「生徒会長は、心配性だな、あははは~」
「ネエネエ~昴ちゃん。このプレゼントでくれたハンドクリームってお母さんが使ってるのと何処が違うの?」
「へっ、基本的には一緒だけどコッチの方が少し濃い目かな‥‥」
「昴にーちゃんは、私と銀河ちゃんにもっと綺麗になって欲しいんだよね~? ダヨネ!」
「そんな~♪」
「そのクリームは下手な傷薬なんかより綺麗に治るし、霜焼けや虫に刺されても効果があるからね。ニキビなんかにもオススメだよ」
「ニキビ! オイッ昴、俺にもそれをくれ!」
「フ~ン、生徒会長もお年頃なんですね~、グフフッ♪」
「うっ、うるさ~い!」
「「「「キャハハハ~♪」」」」
◆
その頃、アメリカのホワイトハウスでは、クリスマスイブ前日だというのに深刻な顔を突き合わせていた。
「国務長官、先のハッカーは見つかったのかね? 既に4ヶ月も経つというのに何の足取りも掴めないとはどうゆうことだね。我が国の優秀な捜査官は何をしているのかね?」
「はい大統領、申し訳ありません。インターネットを普及させて、世界中の情報を我が国が一手に握るという計画は、ほぼ成功を収めていましたが、8月2日早朝に情報局のデータベースへの侵入を許してしまい、その後わかっただけでも、財務省、運輸省、エネルギー省、環境保護省、国土安全保障省、国務省はてはペンタゴンのデータベースまで、ほぼ同時にハッキングされた事がわかっていますが、未だに犯人の消息も見つかっておりません。現在、世界中に調査の網を広げております」
「何ということだね。ミイラ取りがミイラになったとは‥‥、それでこれ迄調査で被害はどこまで分かっているのかね?」
「はい大統領、その被害なのですが、今の処は被害らしい被害は見つかっておりません。調べれば調べるほど逆に、入力ミスやデータの不一致を修正した痕跡とそれを対する指摘がなされており、ハッキング以前よりもデータ処理の効率が上がっております。特に予算の改ざんや裏帳簿等が見つかり、会計監査院(GAO)は蜂の巣を突いた様な騒ぎになっております」
「それはどういう事だね? 国務長官。今回のハッカーは、我々に塩を送ってきたというのかね。ウ~ン、善意の押し売りでここまで混乱するとは‥‥どこまでステイツを馬鹿にすれば気が済むと云うんだね‥‥。君、どんな事をしても犯人を突き止めるんだ、分かったね!」
「ハッ、了解いたしました、大統領!」