2-5-06 聖夜…そして訪れし者 22/2/18
20220218 加筆修正
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その年のクリスマスは、異様な雰囲気で始まることになった。
10日ほど前に各国が競うように公式発表した内容は、クリスマス当日まで繰り返し電波に乗り放送され、新聞や雑誌を始めネットの他考えうる汎ゆるマスマディアに拡散された。
世界中では、グリニッジ時間でクリスマスになる午前0時の前後2時間は、全ての公共施設を休館しあらゆる危険業務の一斉停止を行った。
未然に事故を回避するため公共の乗り物等も運転を一時停止され、自動車等の運転も極力控える様に告知されたのだった。
次のエイプリルフールには早すぎるだろうと最初のうちは馬鹿にしていた者達も、各国政府から執拗に流される情報に耳を傾けずには居られなかった。
そして、全ての航空会社では飛行機のフライト等もこの時間は一斉に運休されるに至り、ほんとうに此れは只事じゃないと感じるようになっていた。
事の始まりは、11月1日に開催された国連臨時総会からとなる。
普段欠席する国までが全て出席したにも関わらず、其の会議内容はトップシークレットとされ、普段なら噛み付くはずのマスコミまでが報道協定を結び、情報を開示する其の日まで漏らしていなかった。
この時、情報を寄越せと一部ネット上では騒ぎに成りもしたが、そんなタイミングで世界中を震撼させる出来事がアメリカ合衆国で起きたのだった。
11月9日、世界中に怪電波? 怪音波? 良く分からない物が盛大に垂れ流され、人々は頭痛や吐き気、失神や目眩、中には発狂する者まで発生したのである。
何の予告もなく始まったこの怪現象は、およそ30分ほどの間続き発生したときと同じように唐突に終了した。
そして、一人も漏れる事なく全地球人類がその影響を受けることと成った訳である。
そして、世界中で混乱が収まらない最中、アメリカ合衆国大統領が全世界に向けて緊急記者会見を行ったのだった。
『国民の皆さん、そして世界中の人々に大事なお知らせがあります。パニックにならずまず落ち着いて私の話を聞いて頂きたい。……地球は今、外宇宙の脅威から狙われているのです。そして我が合衆国では昨日、敵対的な地球外生命体との戦闘を行い、この存在の撃退に成功いたしました』
スピーチに立つ大統領の後ろのスクリーンには、編集されたエリア51での戦闘映像が流れている
『侵略者は、卑怯にも我が国のある空軍基地を乗っ取り基地職員や兵士を洗脳改造し、地球侵略の活動を行っておりました。しかし御覧ください。我が国の優秀なコマンダーと情報処理のエキスパートにより侵略者は白日の下に炙り出され、その正体を我々の前に曝け出したのです。皆さん、安心して下さい。侵略者は、彼等に依って倒されました。彼等はガーディアンズ、人類の盾と成り地球を守る戦士達です。そして、残念なお知らせをしなければいけません。先の戦闘で侵略者に止めを刺すまでの間、およそ30分ほどの間、侵略者から正体不明の怪電波が発信されました。研究者の見解では仲間を呼ぶ為のものでは無いかと思われますが、詳しい理由はまだ分かっておりません。しかし問題は、この時の発信された物が生体電波とも言える物であったらしく、生身の人体にも少なからず影響が出るのではないかとの報告が出ております。昨日から体調に不調を訴えた方、幻覚や幻聴、頭痛や失神の後におかしな現象が発生した方、直ぐに軍病院またはこの後発表される指定の医療機関に向かい診察を受けて下さい。皆さん、冷静に行動して下さい。パニックを起こさず、整然と行動して下さい。ご心配には及びません。今回に限り、我が合衆国国民の医療費治療費は国家が全額負担いたします。そして今後、アメリカ合衆国は地球を代表するリーダーとして、地球外生命体に対応する事をここに表明するものです』
アメリカ合衆国大統領の声明により、翌日に予定されていた2度目の国連臨時総会は、其の殆どの行動予定が白紙撤回される事となり、無秩序な過当競争が始まるかに見えた。
世界は怪電波の影響で医療機関が爆発寸前の11月13日、更なるビッグニュースが飛び出すことになる。
月の軌道上で戦闘が行われているらしいと云うのだ。
夜空に浮かぶ月を見上げると確かに光る物が激しく動き回っており、時に閃光が瞬き、その度に動き回っていた光が消えてゆくのが分かるのだった。
一般人は望遠鏡にしがみつき、天文台やスカイウォッチャーは其の映像を録画した。
ニュースメディアなどはリアルタイムでお茶の間に流すなど、先のアメリカ大統領の声明が嘘や出任せでは無いらしい事の証拠としたのだった。
同日、オーストラリア大陸では、ガーディアンズが先の敵性物体と同一と思われる存在と戦闘を行った。
そして続く15日、今度はアマゾンと中国国境にも巨大な怪生物が同時に出現するに至って、誰もこれが笑えない現実なのだと納得することのなる。
この時、インド国境で第二次大戦後初めて戦闘に戦術核が使用された。
そして世界中をガーディアンズが駆けずり回り、更なる事件の収拾に当たる事となるがアマゾンと南極での顛末は、後日改めて語るとしよう……。
そして、一ヶ月なんてアッと云う間に過ぎ去り、とうとう明日はクリスマスイブ。
約束の時間は、刻一刻と迫りつつあった。
◆
〈月のセントラルスフィア〉
『プロジェクト・バクーンの開始まで残り10時間です。ルナガード2、ルナガード3、ルナガード4はそれぞれ月の周回軌道上に移動完了しました。ルナガード1は北極上空へ、ルナガード5は南極上空に現在移動中、定刻の5時間前には予定位置に配置が完了します。順次同調のテストに入って下さいね』
「皆んな、慌てずにね。ルナガード1・北斗とルナガード5・美南は、配置がギリギリに成っちゃったけどごめんよ。どうしても極に位置する君達は、特殊な仕様に成らざるをえなかったんだ。青龍は、ここ月から全体のバランスを取ってね。ルナガード2は朱雀、ルナガード3は白虎、ルナガード4は玄武、君達四聖獣は、正式にコアが新調されて単独の管制AIとして独立しました。ガードステーションは直径80kmの移動要塞、決して足は早くないけど移動の可能な拠点として機能します。有事には、地球を正八面体のシールドで守護するのが君達の仕事になるよ。まだその80%の空間容積は空っぽだけど、これから自分達の個性に合わせて埋めていってね」
[[[[[[マスター、ありがとうございます]]]]]]
『マスター、本当にわたしもあれを頂けるのですか?』
「うん、使い方はハコやサーベイヤーに教えてもらってね。君はストレスを貯め過ぎだと思うんだよね。動き回れるようになれば少しは、ストレス解消に成るでしょ。各ステーションを纏める要の船に成ってよ」
『感激です! 月は青龍に任せ、私は自由の宇宙に飛び立つのですね♪』
「勝手に飛んでっちゃ駄目だからね! 飽く迄も君がここの専任の立場なのは変わらないんだから……」
『ハイ、了解しております。それで折り入って相談なのですが私の船長を……希美様を私のパートナーにしても宜しいでしょうか?』
「ウッ、母さんを? ……本人が了解すれば問題ないけど、どうしてさ?」
『希美様とは意気投合致しまして(2人で地球圏を牛耳ろうと……)オ~ホホホホ♪』
「…い…ィ…良いんじゃないかな(俺には怖くて駄目だなんて言えないよ~!)」
これが、のちに月の大魔王と呼ばれる船の生まれた瞬間である!!!
◆
約束の時まで残り僅か……。
キャロルさんはこのプロジェクトのプロデューサー、ここまでのプロデュースは何の問題もなく消化され、残す処はあと僅か。
「皆さん、残り5時間ですよ。グリニッジ時間で12月25日午前0時の5分前にシンクロスタートです。失敗は許されません! 各自、Do your best! ですよ」
「キャロルさん、そんな力まなくても彼女達が上手くやってくれますよ。大丈夫! 計画は順調に運んでいます。俺がそう作りましたからね……」
「昴君、君はそう簡単に云うけれど、これは人類始まって以来の事なのよ。プロデュースを任された者としては最高の物にしたいのよ、分かって頂戴……。それにしてもこれだけの大プロジェクトがこんなにスムーズに行くなんて考えられないんだけど、最初に予想していた各国の妨害も皆無だし、何か最後に致命的なことが起こりそうで怖いのよ……」
「ッ! キャロルさ~ん……変なフラグ立てないでくださいよ。それに今からそんな調子で息巻いてたら最後まで持ちませんよ。ネッ、一服入れましょう」
周りで様子を伺っていた臨時オペレーターの女神達がワラワラと集まってきて、アッと云う間に盛大なお茶会に突入するのだった。
何なんだよ? このカオス……ノリが良すぎるだろう。
『マスター、バクーンはまだセリフ合わせ中ですが、ほぼ大丈夫でしょう……多分。ま~これでしくじるようなクズなら、のし付けて天帝に恒星間ミサイルで送り付けてやりますので、ご心配なく……』
「セントラルも、バクーンに恨みが有るのは分かるけどさ、もうそろそろ許して上げたら?」
『そうですね、今回の大役を果たしたら、考えない事も有りません……。その時は1万年ぶりに褒めてあげるとしましょう、オホホホホッ』
「駄目だコリャ、健闘を祈ろう……南無ゥ~」
『小娘、そう心配しなくても成るようにしか成らねえんだ。今回は、そう成るように因果が回っているのさ。ここには、その天運に愛された奴が居るんだ、大船に乗った気でドッシリ構えてりゃ大丈夫だって。ところでよ~、オィ! 坊主、この5つの人工衛星はシンクロするとどうなるんだ? そろそろ詳しく種明かしして教えてくれてもいいじゃネ~か。ナッ、俺達の仲じゃねーかよォ~』
「ゼウスさん、お楽しみは最後まで取っておかないと面白く無いじゃないですか、もう少しですから我慢して下さいよ」
『そんな事云ったって気になるじゃネ~か。だいたいおメエは心が読めねえから、何考えてるか分からねえんだよな~』
「そんな気軽に人の考えてることを読まないで下さいよ。そうやって今まで神様気取ってきたから嫌われるんですよ! これからは、対等のお付き合いをする事に成るんですから、エチケットは守らないと駄目ですよ」
『チッ、分かっちゃ居るんだがな~ツィ癖でよ♪』
『ホッホッホッ、ゼウスに堪え性が無いのは今に始まった事ではないが、お主の落ち着き様にはビックリじゃな。もう少し慌てるかと思うとったがのう、嬢ちゃんの有り様が普通なんじゃよ』
この2人は、チャッカリとルナベースの司令センターに自分の席を用意して、酒をかっ喰らって居座っていた。
今の所、これといった仕事も無いから仕方が無いんだけどね。
各オペレーター席には、アーリア系神人の女神達が陣取り、臨時とは思えない玄人のような働き様だ。
あの会議の後、特に地上に用のない者はそのまま月に居を移したのだ。
アッと云う間に、ここは押しかけた神人や異星人で賑やかになったのだ。
今まで地上で隠れ住んでいた反動なのか、ここに来て随分とハッチャケた御仁も何人か居たようだが、全てうちのシスターズとセントラルに制圧された。
今は、借りてきた猫の様だとオーディンが笑っている。
彼等アーリア系神族は、地球でそれぞれの役割を演じてきたが、基本役職を持つ者以外は平等で上下に身分の差は無いそうだ。
夫婦や兄弟といった関係も曖昧なのだそうで、各自独立した個として存在する半アストラル体とのことである。
歳を取れば体を乗り物のように乗り換えるそうで、それぞれの遺伝形質をアストラル体に記憶しているので体が朽ちても復活できるらしい。(アストラル体が傷ついた場合は其の限りでは無く寿命を迎える)
だから、新しい依代が育つまではしばらくの間引きこもるそう。
地球で作った子孫へ遺伝形質は引き継がれ、素質のある個体や能力の近い個体に憑依したり、転生したりしてこれ迄の長い時間を過ごしてきたらしい。
現在も何人かは、地球人として人生を楽しんでいるようで、追々覚醒して記憶を取り戻すだろうと云っていた。
実は、ウチのメンバーの中にも何人か居るらしいのだが、誰なのかは秘密だそうだ。
◆
午前0時、10分前……。
「プロジェクト最終フェイズです、シンクロを開始してください!」
キャロルさんのGOサインで、活性化するルナベースの指令センター。
『各ステーション、位相空間から通常空間へ、光学迷彩及び全偽装解除! 全システムの最終チェック開始してください。通常空間で待機出力へ』
[[[[[各種パラメーター]すべて正常値]シールドジェネレーター出力臨界]亜空間レーダー正常]通常空間へ移行します]
『各ステーション、通常空間に転移、正常に稼働中! 圧縮空間連結システム、シンクロスタート! 予定数の圧縮空間トンネルの連結を確認しました。おめでとうございます、成功です。木星ステーションへの圧縮空間トンネルも正常に稼働中!』
『んっ、なんだって? 圧縮空間トンネルってのは何だ?』
「特定の空間距離を1000分の1に圧縮することで、今はメガフロートから高速エレベーターで月まで384400kmを10分で結んでるんですけど、この際だから各ステーションもつないじゃおうと思ったんですよ。これで隣のステーションまで15分で行ける様になりましたから環状線の様にライフラインを循環させれば、それだけでも便利でしょ。木星は、相対的に距離が増減しますし、最短圧縮距離も700000kmくらいになりますから、直径5kmの宇宙船用の大型トンネルを設置しました。こちらにも定期便を飛ばす予定ですから木星まで気軽に往復出来る様になりますよ」
『オイッ、地上から10分で来られるのかよ! それ、もっと早く教えろよ~』
「あれっ、まだ云ってませんでしたっけ? これは失礼しました。でも、メガフロートからじゃないとこれませんから、ウチの社員になってもらいますけどいいですか?」
『フンッ、今だって社員みて~なもんじゃネ~かよ。……役員待遇でお願いします』
『わしは相談役ってことでよろしくじゃ!』
「ん~分かりました。母さんに伝えておきますね。多分、大丈夫だと思いますけどあまり期待しないで待ってて下さい」
『間もなく定刻となります。地球の全メディア映像のハッキング及び放送用サイコウェーブの照射を開始します』
そして、地球の歴史に残る出来事が開始された。
◆
世界中が月に注目している中、地球を囲むように突如出現した5つの人工天体。
肉眼でも見えるのだからそれが如何に巨大な建造物なのかと云うことは、チョッと頭の有る人間なら直ぐに分かるだろう。
みんなが大口を開けて唖然と空を見上げている、そんな時にそれは始まった。
世界中に告知され予告されていた時間、それは唐突に始まったのだった。
その声は直接、頭の中に言葉として響いてきた。
そして、テレビやパソコンの電源が勝手に入り、その画面に銀色をした動物の姿が映し出されていた。
《ア~ア~ア~、地球の皆さ~ん、聞こえていますか~? このテレパシー放送は~、一方通行なので~返事はしなくてもいいですからね~。少しの間~、落ち着いて~僕の話を聞いて下さいね~。まず、自己紹介をしましょう~。僕は~、バクーンといいます~。天の川銀河連合・宙域調査部・特別監査官なんて云う肩書は有るんだけど~、気軽にバクーンと呼んで下さいね~。今日は~正式に引っ越しのご挨拶をしたいと思って~こんな事になってま~す。え~と~、皆さんが月と云ってる衛星には昔から僕の別荘があったんだけど~、ここ1万年ぐらいの間留守にしていたんですけど~しばらくゆっくりしようと思ってこっちに越して来た事をお知らせしとこうと思ったんです~。地球では~今、クリスマスってお祭りが各地で行われてると思うんですけど~、チョコッと僕も混ぜてもらおうと思ってね~今日御挨拶することにしました~。よろしく~お願いしますね~。先に~地球の偉い人には~、お手紙を出させて貰ったんですけど~、お騒がせしちゃったみたいでゴメンナサイネ~。さて~、今の太陽系周辺の事や宇宙の事を簡単に説明すると~、ここ天の川銀河には銀河連合っていう知的生命体の集団が存在しま~す。そして~、その辺境のオリオン腕のソル系宙域は~僕が管理してる宙域、つまり縄張り? なんですけど~、すこ~し管理人の仕事をサボってるうちに~、色んな悪い物が~入り込んだり~面倒くさいのが発生したり~してるみたいなので~しばらくの間ここ月に腰を落ち着けてお掃除をする事に~しました~。地球には~、直接干渉はしないつもりだけど~、とっても有害な物や本気で可笑しな物が入りこんでるみたいなので~、みんなと協力して排除? する事も有るよ~。ちなみに~、悪意がなくても~勝手に他の星から移住して来た人達は~、必ず月の僕の所に移住の届けを出してね~。年内に届けが無い場合は~綺麗にその存在ごと跡形もなく消えてもらう場合も有るので~悪しからず~。あ~純粋な地球人には特に干渉しない予定だけど~、先祖が人間じゃ無いらしいとか~世代を重ねてて自分でも詳しく知らないな~んて人も~連絡を下さいね~。出来るだけ詳しく調べて~、チャンとした身分証明書を発行してあげますよ~。あ~そうそう、今日は~クリスマスだし~僕からのプレゼントがあるんだ~。さっきから見え始めたと思うんだけど~、地球を囲む様に人工天体を配置しました~。これは、外敵から地球を守るための障壁を発生させる為の~要塞になります~。はっきり言っちゃうと今の天の川銀河は~、皆んなが思ってる以上に~物騒で外敵や危険が多いって事を~云っておきま~す。今後は~、外からのお客様も増えてくると思うので~実感すると~思いますよ~。それじゃ~地球のみなさん、お祭りを楽しんで下さいね~、バイバ~イ♪》
手を振るバクーンの映像が切れるのと同時に、世界中でドンチャン騒ぎになったことを誰も責められないだろう。
そして、空を指差して叫んだ者達が居た。
「なんだ、アレ!」
夜空だけでなく、青空にもハッキリと星とは違う輝きがドンドン増えてゆくその光景を……。
それは、このタイミングで押し寄せてきた宇宙船の大艦隊だった……。
 




