2-5-02 踊る国連…勝手な人々 22/1/29
20220129 加筆修正
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さて、国連総会の議場での出来事は、世界各国にそれまで以上のショックを与えた。
アメリカはもとより、今迄月へと色々と打ち上げていた大国小国は揃ってどう言い訳したらよいか頭を悩ませているようである。
でも話の筋を良く考えてみると、地球を寄越せとか無条件降伏しろとか言っている訳では無いように聞こえる。
◎しばらく留守にしていた我が家に帰って来たから、地球のクリスマスに引っ越しの御挨拶をするよ。
◎留守の間に、月に訪ねてきた人を知ってたら教えてね。
◎今後は予告無しで訪ねてくる様な礼儀知らずは、ご遠慮するよ。
と、言っている訳で、だから地球にどうするとも言ってはいないのだ。
留守の間は、予告しようがないからアポ無し訪問が免除されるのかは、また別の話だろう。
多分、門前払いを受けるのが関の山だと予想される。
何にしても、世界中の首脳陣は想定外の隣人にこれからどう接して良いのかも、誰に相談して良いのかも、前例の無い事だらけで途方に暮れるしか無かった。
互いのメンタリティーの違いから、何か一つでも間違えて殺し合いに発展するなんて事が起きようものなら、それは不幸以外の何物でも無い。
ロシアは腹のそこで呟いていた……アメリカを差し出して友好を結ぼう…。
幸いな事に我が国は、月ロケット開発に失敗し、まだ月ロケット計画は中止となったまま一つも前に進んでいない。
中国は、喜んでいた……アメリカを人身御供にして、有人ロケットの技術を我が国が貰おう!
我が国は有人ロケットの打ち上げには成功し、宇宙飛行士も辛うじて生きて帰還する事に成功した。
だが2ヶ月間もの缶詰生活でパイロットは、半死人だった。
有人ロケットの打ち上げには、アメリカに遅れること42年。
この機会に差を縮め宇宙開発でトップに立ってやろう……などと取らぬ狸の皮算用を巡らせていたのだった。
片やインターネットに漏れた情報は(あれは漏れたと言って良い物か?)、勝手に一人歩きを始めていた。
勝手なデザインのエイリアングッズやおかしな新興宗教の乱立に始まり、武器弾薬の買い占めやシェルターや地下室の注文が多数に上ったのだ。
手近なところでは望遠鏡や双眼鏡はどこも品切れ状態で、光学機器メーカーは何処もてんてこ舞い。
世界中のスカイウォッチャーから(株)タウルスにまで注文が殺到した。
これに味をしめたうちのおかん……(アッ痛~! 頭叩いたらいかんヨ)。
お母様が(株)タウルスのブランドで理想の望遠鏡を作ろうぜと言い出した。
父さんは、元々が光学系の技師だし自宅の反射望遠鏡も父さんの自作の品だ。
母さんは、情報処理系の人間だから電波望遠鏡の調整はしても、1から望遠鏡を作ったことは無いそうで、普段から随分と父さん達を羨ましいと思っていたらしい。
どうして電波望遠鏡には個人所有出来る物が無いのか?
基本原理は衛星通信のパラボラアンテナと一緒だし、作ろうと思えば出来そうな気がするが天体観測で受信される電磁波は微弱で収束するためのパラボラが巨大になる傾向にある。
収束精度を維持するパラボラの形状は回転放物面から波長の1/10程度以下のずれであることが求められる。
更にパラボラに歪みを出さないため軽い素材としてアルミが使用されていることが多い。
そして、パラボラの口径は10m以上になることが多く、いかに軽い素材を使用しているとはいえ場所を取ることから個人での所有が難しいということも上げられる。
それじゃ~諦めるのか?
否! 断固として否! で有る。
今まで使用されて来たアンテナ素子は、巨大なパラボラで収束された電磁波を高精度で受信する事と全天候露天での使用に耐えるように堅牢に作られている素子ユニットの解像度限界が問題になっている。
そうだ、解像度を上げるために巨大なパラボラで微弱な電磁波を収束している訳である。
もし高精度なアンテナ素子をミクロン単位で敷き詰めることが出来れば、収束に使用しているパラボラ部分が省けるのではないだろうか?
ちなみにアルマ天文台のアンテナヘッドには、バンド1~10までの大型アンテナ素子が詰め込まれている。
ちなみに最近軍事利用されているアレイレーダーという物が有るが、あれはアンテナ素子を複数均等に敷き詰めることで使用に耐える精度にした物だ。
これ、電波望遠鏡にも使えるんじゃネ! と、思って形にしてみた。
最小単位の形は1辺1mの正三角形、厚さ30ミリのハニカム形成したセルロースナノファイバーをベースに、1本長さ25ミリ極細の多目的超指向性マイクロアンテナ素子をシールドされた蜂の巣状のパネルに集積してみた。
集積度は何と25万、なんだコレ!な品物が出来上がった。
「昴、お前はまたヤッちまったな。冴島先生が泣くぞ……」
「あら、表に出さなければ良いんじゃないの? うちで使うだけなら……ああっ!」
「それは、主客転倒だ。俺たちは、市販できるサイズの電波望遠鏡を開発していたんじゃなかったか? 希美、思い出してみろ……」
「そうだったわね、でもこれを世に出さないのは勿体無いわよ。お蔵入りにするのは絶対に……」
「え~と……あのね~……」
「何だ、昴。言いたい事は、ハッキリと言って良いんだぞ」
「これは、ブロック的なユニット構造にしてあるから連結して数を増やせる設計にしてあるんだ。必要な集積度を補充するため追加出来るから、1つでも動かせるけど、後から必要数を増やしていけるようにしてある。パーソナルコンピューターへの情報用ブースターには接続用のコネクターを12口付けてあるから、12ユニットまで連結して接続することで、一台のパーソナルコンピューターで制御出来るようにしてあって、揃えると六芒星になるんだ。どう、格好良いでしょ」
「「?!」」
「12ユニットをフルに連結すると、きっと凄いデータが見られると思うんだ」
「フムッ、このユニット軽いからその大きさなら個人でも作ろうと思えば作れるか……希美さん、どう思う?」
「ユニット一つなら最悪手で持って指向したり、小型の赤道儀で十分支えられるわね。小規模な天文台でもフルセット有れば十分な情報量の電磁波を観測できると思うわよ。12と言わず100とか1000の規模で連結して並列起動したら……♪~」
「また飛んでもない物を……性能が良過ぎるというのも考えもんだぞ。でもこれに多目的光学CCDの情報をリンクしたら、新しい視界がひらけるかもしれんな~……」
「何しみじみにしてんのよ。早くこれを商品化出来るか冴島さんにお伺いをたてに行ってきなさいよ。タウルスの主力商品にするんですから、特許の方はエレクトラにやらせるわ」
哀れ、父さんは母さんに蹴り出されて、トボトボと某工科大学へと出かけて行くのであった。
◆
『もしもし、それで譲の奴はもう帰ったんだな?』
「ああっ、さっきまでここで昴くんの開発した新製品のプレゼンを熱く熱くかたっていったよ。荒垣よ~、どうする? これ!ホントに商品化していいと思うか?」
『そんな事言っても、もう製品が出来てんだろ? 諦めろ、天河一家のあれは治しようがねえ』
「はぁ~~、こんなの市販したらスパイ衛星も丸裸にされんぞ。それも一般人に(笑)」
『ちなみに希望小売価格は?』
「アンテナユニットが単価12万、ブースターと制御ソフトのセットが30万、高性能な連動赤道儀が10万、ここに市販のパソコンを組み合わせるとあら不思議、携帯出来ちゃう電波望遠鏡の一丁上がり。ちなみに最小セットでも精度は折り紙付きだし、アンテナ19個まで拡張できる仕様だ」
『絶対にフルセットで買う好事家が殺到するぞ、最小単位が個人でも高性能なパソコンとセットで100万で収まるなら食指の動く人間はいるだろう。エイリアン騒ぎで宇宙への関心が高まっている今だからってのも有るがな』
「希美さんの事だ、その辺の事は織り込み済みだろうよ」
『だろうな~……怖いよな~女は……』
「そうそう、解析された情報に先に販売されてる光学CCDユニットのデータをあわせるとって、これ付属のソフト上で合成出来んのか? すると更に精度が上がるとか……偉い代物だぞこれ。普通に天文台が乱立する未来が見える様だ」
『どうする?』
「聞いてるのは俺の方なんだぞ!」
『ふむっ……どうせそのうちバレるだろうさ、遅いか早いかの違いだろ?』
「ま~そうなんだがな……でも、何でこの忙しい時にぶち込んで来るかね~」
『この際だ、希美さんの商才に乗ってみようじゃないか。こういう時だからこそ出したかったんじゃないのか? あそこはそういう一家だよ。バクーンの引っ越し挨拶が済んだら、他からのお客さんの相手も正式にする事になりそうだし……星間国家って体裁を整えるにはどうしたら良いんだ? 国連主導なんてお題目では纏まる話も纏まらんだろう』
「どっかでヤラカシてくれないかね~、そしたら足並み揃うと思うんだがな~。今の内にヤラカシタ国にはご愁傷さまと言っておこう」
『そう言えば河口の婆さんが、近々にアポを取ってくれって言ってたな。外務省も大わらわらしい、その反面宮内庁の方は静かなもんだぞ』
「譲が皇室にも手紙を出したって言ってたから、その件じゃね~のかな。でも宮内庁が静かってのは解せね~な、何か裏があんのかね」
『既に昴達は内偵されてたりしてな、俺は一寸心配になってきたぞ』
「変な事言うなよ……アソコって得体が知れないところが有るからな~。ハコの姉さん達には捕捉されていないんだろ? 大丈夫なんじゃねえのか」
『もし向こうから接触してくるようなら、俺達も知らない何かが有るのかもしれないぞ。現にバチカンからは、露骨な勧誘と招待が来てるからな。そうそうあの大司教は今はどうしてるんだ? 帰らずに居座ってるんだろ……』
「まだ粘ってるみたいだぞ。丁度都合がいいからって教会区画を割り当ててやったら、ちゃっかり宣教師気分で住み着いちまったみたいだぞ。礼拝に来る信者で結構な人気みたいだぞ」
『流石、大司教ともなると神経あ図太いな。長期戦に持ち込む気満々てか、当初の予定では2週間で帰るって言って無かったか?』
「今回の手紙の件で、バチカンも蜂の巣を突ついたような騒ぎらしくてな、しばらく帰らなくても良くなったそうだ。本人は今回の騒ぎに巻き込まれたくなくて責任を本国の方にぶん投げたみたいだな。随分と長い間休みも取れていなかったらしいからメガフロートでしばらく骨休めするんだと言ってなにやら『ホッ』としているらしいぞ。実は自分が今回の騒ぎの一番の震源地に居るとも知らずにな……」
『そりゃ~気の毒に……『灯台下暗し』『知らぬが仏』ってか……』
◆
ここは千代田城跡地、俗に皇居と言われているところ。
ある会話が、窓の無い一室で交わされていた。
「……そうですか、今代の継承者は13歳に成るのですね。既に頭角を表していると……」
『周辺の人間も優秀です。母親は優秀なシステムエンジニアで起業を果たし、父親も優秀な技師で継承者の成果物を世に出す為に知人の経済産業省事務次官を頼り、結果を出しつつあります。昨年から自衛隊をはじめ大学病院や国立の研究機関に試験導入された水素発電ユニットは、僅かな起電力(現在はボタン電池)で常用に足る電力を水から安全に発電する事に成功しています。経済産業省の荒垣事務次官は、原子力に代わる第4の電力として、行く行くは日本のエネルギーの自給自足を念頭に置いて活動している様に見受けられます』
「我が国は自然エネルギー以外は、すべて海外からの輸入に頼っていますからね。経済産業省としても頭痛の種という処でしょう」
『まだ未確認情報ではありますが、件の少年の尽力でロボットを使った原子力発電所のメンテナンスと廃炉の準備にも入っている模様です。安全が担保出来るのであれば言うことなしですが上手くゆくのでしょうか』
「原子炉は、危険なゴミと成りうるものですからね。私もチェルノブイリの惨劇は記憶に新しいところです。我が国は世界で唯一の原子爆弾被災国として出来るだけ早く原子力発電からの脱却を果たしたいのが正直な心境です。陰ながら助力するように手配してください」
『ハッ、畏まりました。引き続き影から動向を監視致します』
「良いですね、彼らには絶対に悟られては成りませんよ。古事記編纂から日本書紀にて隠された一族の歴史は、決してまだ世に出しては成りません。かつて異能に目覚め日本の歴史を成した者達は、必ずと言ってよいほど時代の節目に現れる傾向には有りました。しかし、これまでの長い歴史の中で真の継承者と言える者は終ぞ現れませんでした。貴方のこれまで集めた情報に依れば、恐らくは彼に間違いは無いのでしょう。しかし、真の継承者が現代に現れたとなれば……新しい時代が来るという事なのでしょうね。彼が我らが民族を率いるに足る人物か、はたまた人類に仇をなす魔王と成るか、その答えは我々の対応如何で変わるかも知れません。間違えることは許されませんからね。そこに来て先の異星人からのメッセージです。我が一族の古い伝承に残る通りならば、我々は生命体として次のステップに進むことに成るかもしれません。その鍵と成るのは恐らく真の継承者と目される彼の少年でしょう。この時期に数々の発明と宇宙開発の為の組織づくりを始めた……タイミングが良すぎるとは思いませんか?」
『まことに、お上の仰る通り……』
「其方も私の内舎人となって何年に成ろうか?」
『かれこれ43年ほどに成ろうかと……』
「苦労を掛けて済まないがもう少し励んでおくれ……。もしも先方に悟られたとしてもその命を粗末にせず、私の使いだと伝えてかまわない。必ずや返事を持ってここへ帰ってきなさい」
『御下命、承りました……』
スッと影に消えた配下の姿は既にその瞳にはなく、そこには一人静かに茶を飲む老人が居るだけだった。
「さて、この先どの様に転がるのか全ては霧の中、希望の持てる未来でありますように……」
◆
[姫様、もう直ぐ本星です。何度もお聞きしますが、やっぱりまたソル系に行くんですか~]
「そんな事は決まっておろう、聞くだけ野暮と言うものじゃ。パーティーなのじゃぞ、妾が行かずしてなんとするのじゃ!」
[多分今度は、絶対に一人で行くのなんて許して貰えませんよ~(言い訳がめんどくさいし……)]
「その時はその時じゃ、母上に相談じゃのぅ」
[絶対に大事になる事、請け合いですね(あの方が出てくると最悪、国が滅びますよ。やめてあげて~)]
「こちらが土産を貰ってばかりでは、阿修羅一族の名折れじゃと思わんのか? 少しは返さんとな。それに何ぞ悪い予感がするのじゃ」
[ほほ~、姫の予感は良く当たりますからね~(大体当初より被害が甚大になるんですが、不思議と人死だけは回避するんですよね、この姫)]
「……パーティーに、スイーツは付き物。あそこのは、別格だった!」
「お主、完全に胃袋を掴まれたようじゃの~、確かに美味では有ったが~ウ~ム」
「滞在期間中の料理は、地球に存在する料理のホンの一部らしいわよ。是非制覇しなければ♪」
「お主もか、この食いしん坊姉妹が……」
其処には、パーティーと聞いてよだれを垂らす姉妹が姫の後ろで、あーだこーだと美食談義に花を咲かせていた。
おまえら、護衛がそれでいいのかよ?
 




