2-4-12 2003年10月下旬…昴と月と 22/1/18
20220118 加筆修正
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昴は、ハコから現在の経過報告を聞きながら何かを弄っていた。
[マスター、10月25日時点での太平洋上の廃棄物回収とマテリアルへの分解生成は、予定の30%を消化しました。90%まで進めた辺りで現在のメガフロートの設備では飽和する事が予想されます。今の堆積している廃棄物の量は減らせても、日々流れ着くゴミの量は増加傾向にあります。太平洋ゴミベルトが確認されてから15年間で堆積した廃棄物をすべて取り除くのは無理としても、ほぼ綺麗な状態に戻すには1年を要します。積極的に回収船ワダツミを活用した方が効率的と考えますが如何でしょう?]
「ああっ、いいのいいの。メガフロートの補修用の資材分を集めてくれてれば……、もう今の規模のメガフロート5基分くらいは集まったでしょ。ワダツミにはさ、取り扱いが難しいゴミや危ないゴミを重点的に集めてもらえればOKだから。太平洋のだけでも全部回収して処理してたら相当量のマテリアル素材になるでしょ」
[肯定。当初の予定道り地球からは、出来るだけ資源を持ち出さないお積もりなんでしたね]
「そそ、要らない物を少しもらって後の資源は地球の外で調達することにしようね。後々泥棒だとか因縁つけられるのは面白くないからね」
[肯定。それでも絡んでくる有象無象は無視で宜しいのですね]
「うん、基本方針としては関わらない方向でよろしく。あんまり五月蝿い様なら色んな証拠てんこ盛りにして公に暴露してあげて、人の事をかまってられないようにね」
[肯定。分かっておりますよ、ケラエノが喜びます。それで気になったのですが、先程からマスターは何を弄っておられるのですか? 私が見たところ次元転換炉のミニチュアの様に見受けられますが……。実物は、手のひらに乗る様な物では有りませんし?]
「おおっ、よく分かったね?! そのとおりこれは次元転換炉で正解だよ! 今どこまで小さく出来るか試作中なんだよね」
[否定。その大きさで起動出来るのですか? ウンサンギガの技術でも、最小で5mほどは必要なはずだと思われますが……]
「うん、俺もその辺は調べてみたんだけどね……、最初に次元転換炉が発明されたのがその大きさみたいだね。理由は、そのサイズが転換炉を臨界状態にするのが一番抵抗がなくて安定するらしいんだよね。その後出力を上げる為にどんどん大型化していったみたいだよ。今の大型次元転換炉はみんな100mくらいあるんだけど、もうそれ以上に大きくしても出力は上がらないよね。だから今は、複数を並列起動して必要な出力を賄ってる訳だけど……、ウンサンギガ一族には、元々時空間認識能力なんて便利な権能が有ったからだと思うんだけど小さくする方には研究が一切されてないんだよ」
[?! それはびっくりの回答ですね。それでマスターは、次元転換炉の小型化に成功されたのですか?]
「うーん微妙なところかな~。まだ少し不安定なんだよね、これが……。そもそも次元転換炉ってさ、要はエネルギー量の多い次元からこっちの次元に安全にエネルギーを汲み上げる井戸みたいなもんでしょ。次元のエネルギー偏差が大き過ぎるからそのへんの調整が難しくてさ、一度動き始めると無限に流れ込んで来るエネルギーをどうやって絞るかが肝だった訳なんだけどね。この間作った亜空間コンデンサーの応用でその辺の調節が出来るようになったからさ、小型化しても余剰分をそっちに逃して貯めて置けるようになったから暴走を防げるんじゃないかなと思ってね、やっと実用化出来たってところかな~。とにかく起動と同時に暴走って言うのは無くなったから色々とデータ取って一番バランスの良いところを模索中~」
[ほうほう……]
「今までは、入れ物が小さいと流れ込んでくるエネルギーに耐えられなくて自壊しちゃってた訳なんだけどさ、手頃な亜空間コンデンサーと組み合わせたことでその辺がクリアされたって訳。今はどこまで安定した状態で小さく出来るのかの試作中ってところだね。試験の度に爆発しなくなったのが有り難いよね、ほんと……」
[肯定。……本当に素晴らしい進歩です。もうそのサイズなら個人装備として使用出来るのでは有りませんか?]
「うーん、個人装備として乗せるのならハードタイプのガードスーツ辺りなら可能かな。出来れば管制AIとペアにして安全に制御させてやれば完璧だと思うよ」
[早速、耐久試験に回しましょう。……いま計算した所、個人兵装で供給できるエネルギー量が二桁は跳ね上がります。それに、母船からのバックアップ無しでも恒星間が渡れるレベルの単独航行が実現出来ますね。問題となるのは、センサー系が宇宙船と比べて貧弱ですので安全に航行するため常時シールドを張りませんと……ハードタイプならそのまま敵艦に突っ込んだりしますから強度に問題はありませんが流石に恒星に突っ込んだりしたら死ねますからね。取り敢えずシールド出力は3倍にしておきましょう]
「その辺の調整は任せるよ。具体的な安全マージンは、宇宙船を運用してる君達に任せておけば安心だしね。俺は、これをもう少し小さく……そうだねペンダントサイズくらいまで挑戦してみるからさ、結果が出たら教えるよ」
[肯定。良い結果をお待ちしております。ただし、危ないことはお控えください。テストはリモートでも出来ますので……]
「了~解~、起動テストは他でやるからさ安心していいよ」
◆
次元転換炉の小型化は、盲点でしたね。
そういえば日本人の得意技の魔改造といえば、小型軽量化して汎用性及び携帯性を持たせるのが基本でしたね。(いや、違うからね其処……小さくすると消費電力が減って汎用性が高くなるって前例が有るからやってるんであって、何でも小さくすれば良いってもんでもない)
しかし、新技術を開発したからと言って難なく次元転換炉の小型化を成功させてしまうとは、我がマスターながらナント恐ろしい御仁でしょう。
指摘された内容は確かに納得するものですが、それを難なく形としてしまうなんて、技術と技術を結びつけて更に昇華させるまでのタイムスパンが短すぎます。
でも以前苦肉の策でこしらえた亜空間コンデンサーを転用することで、ウンサンギガ一族が40万年にわたって一つの壁としてきた小型軽量化を難なくクリアーしてしまうとは、呆れて開いた口が塞がらないという心境です。
やはりマスター昴は、我々と出会うべくして出会った運命の人物なのだろうと再認識いたしました。
基礎設計上では、完成まで30年は掛かるはずだった私の造船工程は、マスターとのマッチングにより約6分の1にまで短縮されました。
しかし、3年が経って再計算したところに依ると、造船にかかる時間は更に加速していることが分かりました。
私でさえもまだハッキリと何時になるかは予想出来ませんが、思ったよりもかなり早い段階で私の船内環境も整う予定です。
既に想定していた内部空間の亜空間固定は終了し、木星からは内部亜空間を満たす為の元素転換も開始しました。
ここまでのアドバンテージを取れたのには、反物質生成ステーションが大きなウエイトを締めています。
日々生成される反物質エネルギーで、亜空間固定作業をブーストした結果です。
対外的には、来たるべき日に備えての燃料ステーションなんて言っていますが、自分が使う為に作ったんですから当たり前なんですけどね……。
何にしても、色々と材料と言えるものがそろって来ました。
まだまだ予断を許さない状況では有りますが、粛々と準備を進めてゆくといたしましょう。
◆
2003年10月下旬、月の要塞化は、昴の予想を遥かに超えて進んでいた。
それはまるで植物が大地に根を張り幹を太らせるように、その成長に果ては見えません。
その全容を把握している存在は、管制AIのセントラルのみ……。
実際の工事を進めているAI玄武にも、その全容は知らされていないらしいのです。
元は、深さ350kmの位置にあったルナベースは、月の中心核にまで場所を移され当初の5倍以上の大きさに巨大化しています。
根の様に伸ばされたエネルギーパイプと資材通路用のトンネルは、月の隅々にまで張り巡らされて、栄養を送る根のようです。
元々は、月崩壊につながりそうな亀裂や空間を無くす為だったはずの補強工事も、その亀裂や空間は補強され倉庫やドックスペースとなり、ルナベースを包み込む複数の内殻が形成されるに至って月全体が一つの巨大な要塞となりつつあります。
地球の衛星としての月は、その恩恵を残しつつ全く別の物に変わろうとしているのです。
もう元に戻せと言われても戻し様がないので、その時は同じ質量の天体か質量物質でも代わりに置くしかないだろう状況です。
今年9月にヨーロッパ宇宙機関によって打ち上げられた月探査機スマート1は、スイングバイとイオンエンジンの推力で月軌道まで到達するのに15ヶ月も掛かるらしいですね。
そして最後には、月面に衝突して探査を終わらせるとか……随分と勿体無い事をするもんだと思います。
気が向いたら回収しておいてあげるとしましょう。
どうせ今の地球の探査技術では、カムフラージュされた月の全容は毛ほども知ることは出来ないだろうし、隠しておくのもあと僅かな期間です。
探査機が到達する頃には、すでに月の全容も公になっている事でしょう、ご愁傷様です。
そういえばイオンエンジンは、日本の小惑星探査機ハヤブサにも使われていたけれど、やっぱり技術提携とかしてるんだろうな~。
人類の月へのロマンや執着は今後も衰える事はないと思いますけど、先に使ってたのはバクーンで間違いはないので、月着陸アポロ伝々はスルーする事となりました、ごめんなさいね。
ま~、先に使ってたと言ってもゴミ捨て場なんですけども、この際そんな事説明する必要はないでしょ~よ。
今後、月軌道上に設置される予定のステーションは、設置される位置に建造するのでは無くケレスでまとめて建造され、期日までに所定の位置に移動させる事にしました。
それぞれ離れた所で別々に建造するとなると管理するのも大変だし、まとめて建造したほうが手間がかからないという判断です。
そんな訳でセバスチャンに任せる事になったんだけど、月と共に地球を守るガードステーション、ルナ2・ルナ3・ルナ4・北極・南極の5つのステーションを連携して管理するのは月のセントラル。
要望と言う名の厳しい注文がセバスチャンに殺到しているらしくて、あのジェントルマンが俺に泣きついてきたのでした。
[スバル様、お忙しい処を申し訳ありませんが、セントラルに一言苦言を頂けないでしょうか?]
「どういう事? ステーションの建設はうまく行ってるんでしょう?」
[はい、当初のスペックはクリアいたしました。あとは艤装を済ましてコアとなる管制AIを選定するだけなのですが……]
「セントラルが何か言ってきたんだね?」
[仰せの通りです。アヤツの子飼いにしていたステーションコア……これまで月でセントラルに合力していたコア達なのですがその中から管制AIを選ばせろと横槍を入れてきましたので苦慮しております。此方にも都合と言う物がございますし、私がスバル様から直接依頼された品物です。あまり他に勝手をされても如何なものかと思いましてご相談申し上げた次第です]
「ア~、あのオバさ…『何かしら?』……お姉さんは、拡大解釈の代表みたいなところが有るんだよね~。良かれと思って動いてくれるのは有り難いんだけど何でも大事にしちゃうから……うん、分かった俺の方からも話を聞いてみるよ」
[申し訳有りませんがお願いいたします。イヤハや、エクストラコアに序列は御座いませんが、最古参のコアと致しましては立場も御座います。何でもハイハイと二つ返事で動く訳にも参りませんので……。アヤツ、どうもスバル様の為にと肩に力が入り過ぎている様子なのですが、私からはその辺をあまり強くも言い出せません。なにせ私も人の事をとやかく言える立場に有りませんし、ケレスの稼働状況をアヤツに突っ込まれると黙るしかない様な次第でして……]
「アハハハ、君には悪かったね。俺がステーションの建造をセントラルから取り上げたみたいな形で、ケレスの工廠にフル操業なんて持ちかけちゃったから、余計に風当たりが強くなったみたいだね」
[アヤツも不在だった主や張り合う相手、更にやり甲斐のある仕事が出来て嬉しいのでしょうが このまま暴走させる訳にも参りません。……話は少々変わりますが、月より回収された7000個余りのコアに依る予備艦隊計画ですが、工作艦200隻、護衛艦1000隻の方は2004年1月には準備が整いまして御座います。残っていたコアの内5%が施設管理用コア、残りは大小艦船用のコアとなりますので予想より遥かにスムーズに準備が進んでおります。先にハコ様から建造を依頼されておりました簡易版移民船100隻の進捗状況ですが、こちらの完成は2005年4月頃の予定です。こちらも移民船に適合するコアが揃えばとなっておりましたが、ハコ様からの情報提供による教育が進めば然程問題無いと予想されます。ちなみにご存知とは思いますが、先行して建造されていた護衛艦500隻は、既にハコ様の直掩として木星ステーションへ配置されており、現在10隻単位の小艦隊でソル星系域内の哨戒任務に就いております]
「もうそんな事してたんだね。でも、それホントに必要なの? 今までは必要無かったんでしょ」
[先日の皇女来襲で少なからず太陽系の情報は、天の川銀河連合の中央に流れたでしょう。一度漏れた情報は必ず一人歩きを始め、これを防ぐ事は事実上不可能です。目聡い者は、必ずチョッカイを掛けてくると思われます。警戒していて間違いはございません。まだ此方の防護システムが完全ではない今だからこそ、手数で補うしか方法が有りません。大丈夫、ハコ様に任せておけば連合総出で押し掛けられない限りは保つでしょうから心配いりませんよ]
「了~解、それじゃ後は任せたよ。セバスチャン」
[仰せのままに、マイマスター]
◆
「それでさ~、そこで聞き耳立ててるのはセントラルかな? ここに白虎が居る「ナァ~~ン」時点で筒抜けなのは分かってるからワザと聴いて貰ってたんだけど、何か俺に言いたい事があるなら聞くよ……」
『マスターもお人が悪い……、確かに各ガードステーションの建造をケレスのジジイに取られたのにはちょっと腹も立ちましたが、マスターが仰言った通り短期間で5基となると手が回らなくなるのも道理。ただ月の出城ともなる各ガードステーションです、信の置ける者達に任せたいと思うのも分かって頂きたいところで御座います』
「うん、それは分かるけどね……君は報告、連絡、相談が大事だって習わなかった? 君が昔は報告される側だったのは知ってるけど、同じ立場の者が複数いる状況で勝手に動いちゃ駄目でしょ。俺かハコに必ず相談して横の調整を頼む事、何でも事後報告で済むと思ったら大間違いだからね、分かった?」
『……了解いたしましたマスター、以後気を付けます』
「分かれば良いんだけどね、それで他には?」
『はい、件のキャスターと子供たちが月に到着致しました。プロジェクトの要ともなる人物ですので、お知らせまで……』
「了解、直ぐ顔を出すよ。一通り月の案内しといてくれると有り難いんだけど俺がやったほうが早いかな~、バクーンには俺が引き合わせるから……」
『……子供達をあの穀潰しに会わせるのですか?』
「そう言わないであげてよ。本人も反省してるんだから、ね!」
『……分かりました。こちらの準備を進めてお待ちしております』
「うん、頼むよ」
ま~だ、セントラルはバクーンの仕打ちを根に持ってるんだね。
もう仕様が無いな~、人と違ってAIは時間が経ったからって忘れたりしないから、どうしようもない時は強権発動するしか無いのかな……。母さんにでも相談してみるか。




