2-4-04 プレオープン…もう勝手にしやがれ! 21/11/28
20211128 加筆修正
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現在は、世歴2003年10月1日・午前8時。
本日正午のオープニングを前にメガフロートのメイン会場には、昴の地元の村関係者50有余名、(株)タウルス職員15名+253名、警察官および警備関係者152名、ヘルプに応え集まった全国のプレアデスナイツのメンバーから選抜された150名(384名の内234名は抽選にハズレ涙を飲んで欠席)など、錚々たる顔ぶれが整列して待っていた。
警備の警察官を除いて、殆どの関係者が統一された服装を身につけていた。
黒いツナギに銀のラインが入り、背中には(株)タウルスのロゴと牡牛座と星座スバルをデザインしたイラストが見える。
ここの正規スタッフの制服だ。
このツナギに紫のグラデーションで夜空を表したキャップをかぶる。
このツナギ、普通のツナギ作業服に見えるが無駄に高性能に出来ている。
まず、防刃仕様になっているので矢鱈と丈夫だ。
そして、防汚仕様で完全防水と来ている。
空調服にもなっており、どんな環境下でも体温を一定に保ってくれる優れものだ。
暑い時には涼しく、寒い時には暖かく、急な環境の変化にも柔軟に対応してくれる。
組になっているキャップもヘルメット並みに頑丈でバイザーを出すことで顔面を守ってくれる。
そして、警察官の皆さんはセパレーツの新設計の制服だ。
デザインは官給品の制服に準じているが、強度と性能はスタッフ制服のツナギと同じである。
既に南国の太陽からは強烈な日差しが降り注ぎ、10月とはいえ気温はうなぎ登り。
普通なら涼しい顔で整列なんてしていられる環境で有るはずがないのだが……制服がチャンと仕事をしてくれているようだ。
「エー、皆さんの努力のおかげで、本日無事にここを公開する事が出来ます。本当に有難うございました! そして、本番はこれからです。頑張って乗り切りましょう! では、ラジオ体操第一……」
タン……タ……タタン…タン、タン……タ……タタン…タン……
みんなで、ラジオ体操をしていた。
◆
今まで南鳥島への足と言えば、海上自衛隊の不定期便に加えアメリカ海軍の協力で飛ばしていた定期便と母島から民間のプレジャーボートをチャーターするくらいしか方法が無かった。
小笠原諸島の父島・母島まで本土からフェリーで24時間。
更にそこから小型船で10時間以上も掛かるという事で、昴は少しテコ入れをすることにした。
先のクルーザー販売のコネから、大型船舶免許の持ち主にもコネが出来たのだ。
貨客船船長のアテが出来たので48mほどの完全EV船舶を10隻ほどドックで自作し、本土直通便として就航させることにしたのである。
この船、48mとプレアデスアークⅡ世より一回り大きいが水素発電ユニットの乗り物でのテストを兼ねており、振動対策や出力調整の実証実験とデモンストレーションも兼ねている。
更に水流ジェット方式を採用し非常に高速での運行が可能になった。
早い話が、今までは船を乗り継いで片道36時間ほど掛かっていたところを直接メガフロートまでおよそ半分の18時間で来れるようになったのである。
そしてちなみにこの船、すでに他からの引き合いも来ており、データ取りが順調に進めばOEMで他の造船会社での製造販売の計画が進行中である事をお伝えしておこう。
日本は、周囲を海に囲まれた島国である。
日本政府も今回の実証実験で、今までに大型船や飛行機がどれほどコストが掛かっている物なのかを再認識することになった。
そうそう、なぜこの船が48mとなったのか、もっと大型船でも良かったのでは無いか?
これにはれっきとした理由が存在する。
それは全長50m以上の船は基本的に決められた航路上を航行しなければならず、航路上でのスピードは12ノット以下での運用が義務付けられているからだ。
だから逆にそれ以下の小型船なら決められた航路上を航行しなくてもいいでしょって事だ。
今までは、通常市販されている小型船で12ノット以上なんて出る船はほとんど存在しないんだけどね。
話をメガフロートのほうへ戻そう。
メガフロートには密閉型の大型ドックがあるが、それとは別に南鳥島と反対側に港湾施設としてもそれなりの船が接舷できる港が用意されている。
通常は、今回就航する10隻の高速船とあらかじめ予約して入港許可を取った船舶だけが寄港を許されており、海上自衛隊、海上保安庁、アメリカ海軍などもこの中に含まれ、立ち寄る事の出来る新たなる寄港地となった。
あくまでもここは私有地で私設の港であり、無許可での入港や滞在は認められないが特別に緊急避難等が認められる場合もある。
それ以外で勝手に使用した場合、警察により拘束及び船の臨検が実行される。
武器や危険物に違法薬物の持ち込みなど厳重に調べられることになるがこれは仕方のないことだろう。
違法船舶には隠し場所が沢山あり薬物の密輸やサンゴなどの密猟があとを絶たないのが現状だ。
それにテロ対策も厳しくせざるをえない状況から、港にはそれぞれの簡易基地施設が用意された。
本日正午から始まるプレオープンには、取材陣や来賓がおよそ500名、早速今日引っ越してきた学生や研究者とその家族が2862名、ラッキーにも抽選でイベント参加が当たった一般の招待客が1000世帯6211名・1世帯最大7名までが対象と、およそ1万人弱の来訪者が押し寄せていた。
そして10隻の高速船を使っても一度に運べるのは1500人ほどであるため、今回特別に大型クルーズ船を3隻チャーターしている。
船を出してくれた船会社からは、今後も3000人収容できる貨客船を1隻、週1の定期フェリー航路としてはどうかとの提案がなされたようだが、実現するかは定かではない。
どうもこの話、小笠原諸島が現在ユネスコに世界遺産の申請がなされているらしく、これを周遊するツアー便にメガフロートも組み込みたいという意向のようであるらしい、商魂たくましいことである。
学生はともかく、通常は単身赴任になるだろう技術者や研究者の家族も可能な限り一緒に住めるように、妻帯者用のマンションも用意され、来春からは学園も本格的に動き出し、関係者の子弟も転入のため入居が決まっている。
今回も例にもれずお祭りには付き物の野次馬や出歯亀、特に仲良くもしていない国の不審船がウロウロと周りに寄って来ており、連日海上保安庁の保安船に追い立てられている光景はここ1週間ほどの風物詩とも言える光景だ。
そして本日は、特に異色を放つ船が港のど真ん中にデ~ンと居座って、周りを威嚇している。
アメリカ海軍が誇る第7艦隊の旗艦、揚陸指揮艦ブルー・リッジが母港の横須賀から出張してきており、港のアメリカ海軍用の施設に物資の搬入を行っているのだ。
マギーさんから話を聞いたところ、どうもプレアデス・アークⅡ世を停泊させている立場上、今回は横須賀基地司令の我儘を多少大目に見る事になったらしい。
余程のことが無い限り横須賀基地から離れられない基地司令ほか幹部職員達や、今回参加するアメリカ本土からの要人の移送を理由にこじつけてブルー・リッジを持ち出して来たらしい、子供カッ!
聞いてはいたけれどアメリカって国の人間はどんな所にでも自分の国を持ち込んで、アメリカのスタイルを崩さないんだよね。
ブルー・リッジによって持ち込まれた物資がどこの大型スーパーの引っ越しカッて位の大所帯でビックリしたよ。
そうか、揚陸艦持ち出してきた理由はそれか!
それに引き換え海上自衛隊の方は、随分と控えめである。
南鳥島の基地は増設される事となり、今まで不足していた電力やライフラインはメガフロートから提供されるようになり、格段に住環境のグレードアップが図られた。
メガフロートへの直接の飛行物体による移動は、公私共に許可されていないので航空管制は南鳥島の海上自衛隊基地が行っている。
冷やかしに飛んできて直接降りようとした馬鹿もいたが、メガフロートを沈降してやったら慌てて高度を取り直し南鳥島へ降りていった。
当然、基地では海上自衛隊と海上保安官に捕まり事情聴取とキツイお叱りを受けることになった。
逮捕も出来ないので、お情けで高い金を払って補給をしてもらい帰っていったらしい、ホントに馬鹿である。
メガフロートと南鳥島は、幅10m長さ1kmの浮き橋で繋がっており、現在は電力と水、そして通信用のケーブルも繋がっている。
供給しているのは当然の様にメガフロートであり、南鳥島はその恩恵に預かっている事になる訳である。
浮き桟橋は、両サイドが幅2mほどの動く歩道になっており、足を乗せれば右サイドは前方へ、左サイドは後方へ20分ほどで端から端へと運んでくれる。
中央は少し広めの安全帯となっておりゆっくり歩く者や立ち止まってメガフロートと南鳥島を眺める者達に使用されている。
南鳥島を繋ぐ浮き桟橋からゲートをくぐるとスーパーやレストランなどの商業区が存在し、メガフロート中央管制センターを望む中央広場を通り反対側にホテルや各種厚生施設、巨大なスパリゾートのほか合同庁舎を含む警察のメガフロート分署、海上自衛隊とアメリカ軍の官舎を抜けて港へと続いている。
中央管制センターの正面、中央広場に設えられたステージにはメガフロートのオーナーであり創設者の天河 昴、相談役の冴島 浩司、オブザーバーとして経済産業省事務次官の荒垣 聡、来賓として文部科学大臣の戸山 淳子、外務大臣の山口 和子、海上自衛隊の事実上のトップ・海上幕僚長の置田 重造、そしてアメリカ海軍の名前も知らない……ウ~ン呼んでないのに軍艦でやってきた横須賀基地司令の人など、錚々たるメンバーである。
『ではこれより、テープカットを行いたいと思います。正午の鐘と同時にハサミをお入れください』
ゴーン、ジョキン!、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン
パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ、パチ
『皆さま、長らくお待たせいたしました。只今、研究棟及び各種厚生施設が開放されました。御利用及び見学者は順路へとお進みください!』
鐘の音とともに、来賓により開場のテープにハサミが入れられた。
それと同時に、今まで固く閉め切られていた施設のゲートが一斉に開放された。
我先にと雪崩込んでゆく研究者や招待家族、そして案内する為のスタッフ達。
順路には来賓達に続いて金魚のフンのようにマスコミ関係者がゾロゾロと付いて回っていたのだった。
さあ、ここまで来たら後は成るようにしかならないよね。
俺は俺に出来ることを精一杯するとしましょうかね。
 




