2-4-02 御意見番登場…橘十兵衛&芝繁 21/11/26
20211126 加筆修正
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儂は、橘 十兵衛 82歳。
自他共に認める天才的なメカニック……と言えば聞こえは良いが、要は下町の頑固な機械工じゃ。
まあ、他人より少々腕が良かったのが幸いして外国からも直接注文が来るぐらいの知る人ぞ知る機械工じゃった。
しかしそんな天才メカニックも依る年波には勝てず、頚椎症から来る手の痺れは、メカニックとしての儂には致命的じゃった。
79の時に首の頚椎手術に挑むもあえなく失敗、手の痺れを止めるどころか病状は悪化するばかり、それまでは動いていた体も今ではほとんど動かせなくなる始末じゃ。
儂は絶望した。
このまま何も出来ずにお迎えを待つだけなのかと人生を諦め、儂は寝たきりの介護老人に成り果てていたんじゃ。
じゃが、そんな儂にも転機が訪れた。
もう覚めるはずの無い昏睡の中に居た儂に、語りかける少年の声が聞こえたんじゃ。
その少年が儂に夢の中で語るのは、どうせもう諦めた命ならパッと咲かせてから散っても良いんじゃないかという悪魔の囁きだった。
技術者とは因果な商売で、自分の納得したことには命を掛けるのに、納得できないことには指一本動かさん事もあるんじゃ。
少年は、そんな儂の窮状を事細かくその場で分析し、改善案を提示してきおったんじゃ。
このまま寝たきりでは、そお遠くない日にお迎えが来ること。
そんな事は、儂にも分かっとるわい。
じゃが治療を任せた医者は、最初治ると言っていたのにもかかわらず手術に失敗したと分かると、『高齢だから元通りに改善するとは限らないんですよ』と手のひらを返して手術の失敗は決して認めようとはせなんだ。
こんな仕打ちを受けたんじゃ、警戒するなと言う方に無理があると思わんか?
しかし、少年が儂に提示した改善案は医者から見た物ではなく、俺等技術者サイドから検証した物だった。
儂は心底ズルいと思った、そう思わんか?
訳の分からん医学用語を並べられるのではなく、今儂の体のどこが悪さをしていてどこをどうすればどれだけ良くなるのかを対面で一緒に検証させられてみろ……そして少年は囁くんじゃ。
『俺にはこれ治せますよ、こんなふうにネ……』とな。
この夢がどれくらい続いたのか儂にはよく分からんが、それほど長い時間では無かったんじゃろうと思う。
少年は、儂の体は治しておいたからこれで寝たきりを終わりにして、残された人生を又モノ作りに費やしてください、と言いおった。
そして序のように言ったんじゃ、『出来れば一緒に面白おかしく色んなモノを作りませんか?』とな……。
夢の中での口約束じゃし、儂は受けあった。
『良かろう、鍛えてやるから期待して待っておれよ!』
他人の夢の中にまで入ってくるぐらいじゃから、見かけによらずそれなりの事は出来るんじゃろうと笑って安請け合いしたんじゃが……目が覚めて吃驚したという訳じゃな。
夢から目覚めると儂の手を握る娘……と言うには少しとうがたつぐらいの女性が居った。
結城忍と名乗った彼女の肩書から、これはさっきの夢の続きで間違いないらしいと思った儂は、大騒ぎになる前にここを出ろと慌てて家から追い出したんじゃ。
状況の分からない彼女には、少々酷い対応じゃったかも知れんが仕方がなかったんじゃ。
それからは、いやはやほんとうに大変じゃった。
面倒見は良いんじゃが人騒がせな介護ヘルパーさんや、儂に縋って泣きじゃくる娘達や親族。
連絡を受けて駆けつけた社員や友人をあしらいながら、時間を追って嘘のように回復してゆく体と記憶に残る少年との会話に連絡先の電話番号、あの結城忍という娘が口にした会社名。
調べてみたら夢に出てきた少年は、最近テレビや新聞の一面を賑やかにしている張本人で、ニッコリVサインで見せられた週刊誌の表紙を飾るカラー写真の人物じゃった。
見舞いに来ていた親族の何人かに聞いたところでは、今年の5月に小笠原諸島の南の海に人工の浮島を一晩で作ったり、宇宙開発を謳い文句に七夕に新聞社や各種メディアを集めて目の前で試作宇宙船のテスト飛行を公開したりと、今話題の天才中学生らしい。
こりゃ~詐欺や騙りでは無いじゃろうと夢の記憶に残る電話番号に電話をしてみたんじゃ。
直ぐにあの結城忍という娘が電話に出て、しきりに不思議がって居った。
儂は笑いが込み上げてきて、堪らえながら喋ったもんだから随分とぶっきら棒になってしもうた。
電話の向こうでは、『どうして教えてもいないのにこの電話の番号を知っているんですか?』としきりに不思議がっておった。
ふむ、スタッフでも限られた者にしか教えていない番号と見える。
夢に出てきた少年は、随分と悪戯好きの坊主の様じゃな、……面白そうじゃ。
電話を切って、今では痺れの取れた手を数度グーパーしてみる。
儂は、又スパナが握れるんじゃと再認識して、目頭が熱くなった。
そして好きな機械いじりが出来る事に、腹の底から笑いがこみ上げてきおったんじゃ。
◆
俺は、芝 繁 66歳。
今はホームレスだが、チョット前までは整備士の神様とまで言われていた理屈っぽいオヤジだ。
今の若い奴らは、禄な仕事も出来ね~のにやれ給料が安い、やれ休みが少ない、残業はしたくありませんと好きな事ばっかり言いやがって……でも、会社から首にされたのはそんな奴らではなく俺だった。
俺が無職になった途端に妻君には逃げられ、弁護士から慰謝料の請求書が届き、不動産は全部取りあげられ、やっと満額貰い始めた年金も半分持っていかれた。
残りの年金では家賃だけで生活費が残らない。
その結果、俺は路上生活者となった訳だが、ある意味気楽な毎日だった。
残飯を漁りながら壊れたスクラップを直してはリユースした物を、リサイクルショップに持ち込んで売ってもらい日銭を稼いでいた。
そんな事を続けていたら、修理の腕を買われて今では週イチでリサイクルショップでジャンク品修理のバイトをしている。
ただ仕事が簡単過ぎてアッという間に終わってしまい、時給しかもらえない立場としては苦笑いしか出てこない。
今の世の中、何の保証もないパートのそれも日雇いなんてヤクザなホームレスに優しい職場なんてのはどこにも有るわけが無え。
偶々テレビの修理をしてる時に映った特別番組で、中学生ぐらいのガキが南の島で特大のラジコンを飛ばして遊んでいやがった。
時間は腐るほど有るんで、仕事の合間や古紙回収なんかしながらこの生意気なガキを調べてみると凄い小僧らしい事が分かってきた。
俺ももう少し若ければなんて夢を見ていたら、全国で引退した技術者や科学者、死にそうな学者や医者なんかが、この小僧に声を掛けられて南の島に行ってるっていうじゃ無~か。
もしかしたら俺の所にも来るかもしれねえ、イヤっ絶対来るはずだ!
それからは、血眼になって情報収集に明け暮れた。
だが10日も経つと最初の頃の熱も冷めてきて、俺なんかの所に来る筈もね~かと諦めかけていた頃、ダンボールハウスの前に黒いワゴンが停まったんだ。
よく見るとそれは、星座のスバルと牡牛座がデザインされたワゴンだった。
キッターーーーーーーーーーー!!!
ワゴンから降りてきたのは、20代後半くらいの若い女で結城忍と名乗った。
俺が調べた情報通りだ。
これで俺もこんな最低な生活とはおさらばできる。
うれしくてはしゃぎ出したい内心をお首にも出さずに、迎えに来た女に内心を悟られないように耐えた。
大喜びで待ってましたなんて言ったら、絶対に舐められるだろう。
俺は、敢えて苦虫を噛み潰したような顔で、女の説明も禄に聞かずに『早く連れて行け!』と言って勝手にワゴンに乗り込んだんだ。
何だこのワゴン……こりゃ~普通の車じゃね~な、一切の音がしなかった。
乗り込んだあとにプシューてエアーの抜ける様な音がして街の雑踏が聞こえなくなった。
まるで気密扉を閉めた時みたいで、その後に乗り込んできた女も運転する様子も見せずにさっき途中だった説明を続けて始めやがった。
何時の間に走り出したのか窓の外の景色は後方に流れている。
走り出した音も振動も移動しているはずの加速度さえも感じない。
……このクオリティーで自動運転だと……なんて車だ。
イヤっ、これが宇宙船を飛ばすって公言してるガキの技術力か?
ワクワクが止まらね~~♪
女が何かくっちゃべっていたが、このときの俺の耳には全然何も入って来てはいなかった。
◆
「う~ん30点、こっちは25点、これは頑張ったな55点だ。素人の日曜大工としてはまだまだだが、小学生の工作としちゃ~マーマーじゃね~か」
「ウウウッ、オヤジさん厳しすぎるよ~。それに俺は今年から中学生!」
「何を、泣き言いってやがんだ。こちとら戦争で焼け出されて何にも無くなっちまった焼け野原の日本で、右も左もよく分からねえなか腕一本でのし上がってきたんだ。職人なら出来て当然、おメエが当たり前の事がやれてねえから教えてるんじゃねえか、よ~くその耳をかっぽじって聞きやがれ!」
「そうだぞス~坊。このカミナリおやじの講釈が聞きたくて、外国から三顧の礼で迎えられるぐらいの話なんだ、有難がってやれよ~♪」
「シゲ~…。テメエは人の事は良いから早く自分の仕事をしやがれ! そっちの最適化はもう終わったのか? アァ~~ン」
「こっちの応りは取れたから、直ぐに実証実験に入れるぜ。ほとんどリアルと変わらねえシミュレートが出来るから早いしムダもほとんど出てねえ。ここは職人には天国だぜ♪」
「浮かれてね~で、早くそれをやっつけて次に行けや…。期限までにやらなくちゃいけねえ仕事は山のように詰まってるんだからよ~」
「分かってるって。そうガミガミ言われなくても期限までにはキッチリ仕上げて見せるさ」
「周りで見てるおめえらもチンタラ仕事してんじゃね~ぞ。ここのプレオープンの10月1日まではもう間がね~んだ。日本中から目の肥えた研究者や学生が大勢集まってくる。こっちが舐められね~様にキッチリとした仕事を見せつけてやるんだぞ、いいな!」
「「「「「「「「「「オウッ!」」」」」」」」」」
現在、俺達は橘のオヤジさんをトップに据え、新規に入社した技術スタッフ200名によるメガフロート細部のダメ出しと各種手直しを突貫でやっている真っ最中である。
新規スタッフの内200名が技術スタッフ、残りは事務方と医療スタッフ58名に分けられる。
メガフロートはこれまで2度、部外者を招いての情報公開をしていた。
しかし、短時間だったことや特別な話題が他にあった事が幸いして、今の所は細かい所まで突っ込まれてはいなかった。
素人や若手の技術者は誤魔化せても、玄人にじっくりと分析されれば随所にアラが目立つ。
オヤジさんレベルから見ればどこもかしこも穴だらけ、丸裸にされるということが今回の事で良く分かったのだ。
トホホホホ……。
まさかオヤジさんの仕事初めの第一声が『やり直し!』だとは、俺は予想もしていなかったよ。
◆
ここメガフロートに俺等がやって来て一週間、儂は自分達の積み上げてきた物が如何に薄っぺらい物だったのかを思い知らされた。
そんな事は当たり前の事なのかも知れね~が、焼け野原の何も無くなった日本を世界でも有数の技術立国にしたという矜持みたいなもんを少なからず持っていたし、それがプライドにもなっていた。
「ここの技術はス~坊のもんだ。俺等に手伝える事なんてほとんど残ってねえんじゃね~のか?」
「そんな事無いよ。この技術は、俺達のご先祖様が残した物を俺がアレンジした物なんだ。オヤジさん達にも十分使う権利が有って然るべきだと俺は思うんだよね。確かに無闇矢鱈と世の中に拡散したら戦争になるのが想像できるだけのオーバーテクノロジー、この場合はロストテクノロジーと言ったほうが正しいかな。だけど俺達には今はそんな事も言っていられないのさ」
「じゃがな~ス~坊、それはお前さんがやることじゃなく、世の大人たちがやらなくちゃいけね~事じゃね~のかい?」
「おやっさん、ス~坊を弄りたいのは分かってるけど俺達大人の仕事を始めようや。恥ずかしい話だが今の地球でこんな技術や歴史を公表しちまったら、途端に戦争が起きるだろうさ、間違いないね」
「ウ~ン、仕方がねえな。シゲ、片っ端からダメ出ししていくぞ、ここが一般に公開される期日までに全員で改修をすまさなきゃならね~。ぶっつけ本番になっちまうがしかたがあるめ~」
「エッエエッ、改修って?」
「ス~坊、よく聞けよ! ここは、技術者や研究者から言わせると目の毒になるもんが、それこそその辺にゴロゴロと転がってるような所なんだ。無闇矢鱈とこんなお宝を見せびらかしちゃいけね~よ。どんな聖人君子でも変な野心に火が点いちまうぐらいの事が起こってもおかしかね~んだぞ」
「そうゆう事だ、キッチリと世間様からは見えなくして少しずつ小出しにしていくんだ。どんな下心が隠れているか知れねえが立場の有る人間というもんは、こちらに利用価値が有るうちは、余程の事が無い限り味方で居てくれるもんだ。人間はその辺単純だ、切れるカードは出来る限り隠して数を揃えて置くのが駆け引きの鉄則だぞ。相手がどんな情報を望んでいるのか、喉から手が出るほど欲しがっている物が何なのか、相手の立場や今の役職や社会的な地位なんかから読み取るんだ。顔を合わせる前から勝負は始まっているんだぞ、分かるか?」
「「「「「「「「「ウンウン」」」そうそう」」情報戦だぞ」」」」
「ふ~ん、俺はここの技術は、全部見せるつもりで居たんだけども……駄目?」
「絶対に駄目だ! こんなモノ晒したら毒にしかならね~よ。今の人類には、まだまだ早すぎるな、せめて貧富の差がもっと少なくなれば自然と戦争や地域紛争なんかも少なくなるんだが……下手に手を出すと火に油って事にもなるからな~慎重に事をはこばね~と不味いだろう。プロジェクトチームでも立ち上げね~とな~」
「各大学にここを貸し出す代価として課題を出すってのはどうだ? ここにはそれなりの頭脳が集結するんだろ」
「冴島先生に選考した時のデータを出してもらうね」
「複数の課題を出して妥当な解決案だったら報奨を出すとか、特典として順に施設を開放していくとかだな」
「それを叩き台にしてス~坊の技術を小出しに投入すれば、抵抗も少なくて済むだろう。何事も苦労無しで与えられた物ってのは、どんなに素晴らしい技術でも陳腐化するのが早いし、それが当たり前だとなった時が一番恐ろしいんだ。その良い例を挙げるなら、今のK国なんかゴネれば何でも貰えるもんだと思ってやがる。それがおかしな事だと気が付かず当然だと思い込んだらもう駄目だ。人間て生き物は、楽な方に転ぶんだよ」
「確かに周りから、どんなに可笑しいから止めなさいと言われても止めない人っているよね」
「あれはもう病気だ、依存症と言っても良い。彼等に限ったことじゃ無いんだがな。人間なんて弱いもんだ、群れなくちゃ何にも出来ね~生き物なのさ」
「現実を悲観するのはそのぐらいにして、俺達の出来ることをやるぞ! 決められた班ごとに散ってくれ、次の打ち合わせは19:00晩飯の時だ。みんな気張れよ!!!」
「「「「「「「「「「オウッ!」」」了解」」」ガッテンだ!」」」」
「それじゃ俺は、月の方の進捗を確認してくるね。メガフロートは任せた」
「オウッ、気をつけて行ってきな」
「しかし、月がぶっ壊れるとはね~……みんなが知ったらパニックどころの話じゃ済まね~よな……」
「ほんと、ス~坊達が居て助かったぜ」
◆
[アルキオネ、それは本当なのですか?]
[はい、お母さま。私達の使用している重機・オートワーカーですが、橘氏と芝氏に設計の見直しをお願いした件です。素材の配置構造と組み合わせ、機体バランスの調整を彼等の指導のもと行った処、機体重量の20%軽減、機体強度の15%増強にともない稼働時間が30%延長され作業効率は60%以上改善される事が確認できました。メローペの話によると機体が軽く丈夫になったので前より早く動けると御機嫌な様子です]
[流石ですね。日本の匠は、我々の予想の斜め上を征くのですね。今回のデータを元にワーカーの製造工程の見直しを行いなさい、しっかりとフィードバックさせて頂きましょう、ウフフフ……]
[了解いたしました]




