2-2-04 月のリフォーム…オイ!元大家かよ 21/9/13
20210913 加筆修正
5499文字 → 5789文字
今年の夏休みも2003年8月31日、日曜日で終わり、今日はもう9月5日、金曜の現在は20時ジャスト。
俺達は、再び木星の反物質燃料ステーションに来ている。
この連休を使って急いでラーフの艤装改修の仕上げをしてあげなければならない。
そろそろお客様も帰還の時期が迫ってきているからだ。
シャシ姫やラクシュ姫は、このステーションでの一ヶ月間を遊び尽くし、色々とハコやメローペから悪知恵を仕込まれたりと充実した一ヶ月だったようである。
特にラクシュ姫の親衛艦隊の面々は、良い骨休めになったようで味をしめてしまい、又利用したいが正式な操業と定期便は何時からだとか料金はいくらぐらいになる予定かなどの問い合わせが殺到した。
取り敢えずある程度の事が決まったらカーリー艦長に連絡するからと収めては見たが、どういう対応を取ることになるかはまだ決まっていない。
かたやカーリー艦長は、公務でもここを利用する気満々で居るようだ。
『我々のような公のパイプを作っておくと、立場のある人間ほど無視できないものだから、後々の安全の担保にもなって良いのさ。これだけの施設だ、ただ消してしまうには誰でも惜しいと思うさ……。ま~本音を言うと、訓練と補給を言い訳にバカンスに来る場所があるっていうのは、軍人には朗報なんだよ』と、本音を少し交えながら我々の立場の確立に援護射撃をしてくれる腹づもりらしい事を聞かされた。
[我々としても、ちゃんとメンテナンスの出来る所は確保したいし、メンテナンスフリーが売りのコア船でも、珠には骨休めも兼ねてエステに通うようにドックに入りたいと思うものですよ、昴君。バクーンは基本的に、何事も切羽詰まらないとやらなくなって久しいからね……メンテナンスなんて面倒なことはヤラないヤラない。昔は、ホント真面目だったんですけどね~……]
サーベイヤーが愚痴をこぼしている、ほんとはかまって欲しいんだろうな~。
「そんなもんかね~?」
[肯定。メンタリテイーが人に近づくことで出来ることも増える反面、余計なことがとても大事な事になったり、無駄なことをしたく無くなったりする傾向にあります。シスターズが良い例ではありませんか、もう彼女達も人間以上に人間くさいでしょう。サーベイヤーもラーフもお風呂大好きですからね、義体を使うようになってからは特に、毎日スパに通っていますよ]
[イヤ~、人類種が温泉を有難がる訳が分かったよ。アレは、ほんとに良いものだよね~。製造されて1万2850年、溜まりに溜まったサビが溶けてゆくような心地良さだったよ、もう病み付きさ~アハハハ♪]
[本当に、私なんか船体をマッサラにして頂きましたし、文字道り生まれ変わった心境ですよ、ウフフフ♪]
「サーベイヤーもラーフもご機嫌ですのね。話は変わりますが昴殿その後、月の方は上手く行っているのですか?」
「そうじゃそうじゃ、妾もその辺を詳しく聞きたいのじゃ。バクーンにはラクシュ殿の艦隊のオーバーホールを一人でやらせておるからの、我らが出発するまでは血の涙を流して喜んでおるし、その様子を見て月から回収された顔見知りのコア達が随分と溜飲を下げていたと言うではないか?」
「ええ、月のコアを仕切っていたのは、その昔中央コロニーの管制AIだったらしい通称セントラルと呼ばれていたコアなんですが、バクーンとは顔見知りだったらしくて、随分とこれまでの仕打ちにご立腹だったんですよ」
[アハハ、まさか投棄したコアにセントラルが混ざっていて、それも月で親分張ってるとは思ってなかったよ、こりゃ~失敗失敗、大失敗さ~]
「どういう知り合いなんですか? 彼女とバクーンて……」
[私は、バクーンが私に工房を移すまで本拠地にしてたコロニーの管制AIだったと記録しているよ。私もしばらくの間、寄港地にしていたからね]
「随分と古馴染みじゃの~、それでは尚更恨まれても仕方なかろう。気が付かなかったでは済まされん話じゃのう」
[今更言った所で仕方がないんでしょうけど、当時は確認のしようが無かったんですよ。色々とまとめられて捨ててこいって上から言われたゴミに混ぜられていましたからね~、普通に危ない放射性物質みたいなのは選り分けて太陽に捨てましたけど、今は逆に全部太陽に放り込まなくてよかったと思ってるくらいですね。バクーンも意志のないロボットみたいに言われたことを右から左に流れ作業で処理するポンコツに成り下がってましたからね~。文句を言うなら、廃棄処理を我々に丸投げした連合の役人に言ってもらいたいところですね]
「サーベイヤーにそういう風に言われると納得するしかないんじゃが、ま~今回は一先ずバクーンに泥を被ってもらって、セントラル達の矛を収めてもらってジャな、溜まった鬱憤は中央に熨斗を付けて送りつければよかろう。妾も為書きくらいはしてやろうぞ。それで話を戻すがそのセントラルがどうしたんじゃ?」
「ええ、それが回収した途端、凄い勢いで現在の情報を漁りはじめましてね、あれは起動した当時のハコを思い出しちゃいましたよ、情報に飢えてたんでしょうね~。しばらく各種情報と我々のこれまでの事情や状況を反芻してたんですけど、当時の銀河連合中央のやり口に辿り着いたところで叫んだんですよ、『復讐するは我にあり、100倍返しだ!』ってね、色々と思うところがあったんでしょうね~。我々に協力してくれる事にはなりました。このまま放っておくと勝手に船を強奪して飛び出していきそうだったんですけどね。ああっ、この時点でメローペやアルキオネから俺達の技術をそれなりに吸い上げたらしくて、今じゃルナベースのトップに居座ってますよ」
「それは又大変でしたね、でも元中央コロニーの管制AIって事は、ステーションや基地なんかの管理はお手の物でしょう?」
「ハイ、良い拾い物でした。何故か四神になぞらえた4つのサブAIがおまけについてて、あっという間にルナベースの全システムを乗っ取られましたよ、アハハハ。それにしても中央コロニーってどんなモノだったんです? セントラルの次元転換炉のオーバーホールが終わってからの出力が半端ないんですけど、ラーフ3隻分に迫る高出力だったんだよね~……」
「銀河連合の中央コロニーは、確か人工太陽を中心にした疑似ダイソン球になっているな。昔は人工太陽の部分がコロニー本体だったらしいが、ジェネレーターの制御がうまく行かずに太陽化したって聞いたぞ。今はその周りをグルっと囲い込んでコロニーを形成しているな。今も連合の議会が有るのはその中央コロニーだし、参加各種族の駐屯地も有るぞ」
「うわ~、それ制御してたのがセントラルで、居なくなったから中央が太陽になったってことですかね~?」
「そうとも言えるが昔の話だよ、無駄にならなくて良かったのではないか、今も使えている様だし問題なかろう……」
「カーリー船長、大丈夫なんですか? それ。ア~でもそれで分かりました、セントラル達って嫌にエネルギーの制御が上手いんですよ、最初は今まで月を支えてた微妙な力加減の賜物かなって思ってたんですけど、元々が巨大なコロニーの人工太陽の制御をしてたって事なんですね~、納得です」
「それで現在の月は、はどんな感じなんですか? 随分と速いペースで工事が進んでいるようですけれど」
「ラクシュ様も気になりますか? 此処よりも大きな基地になる予定ですね。幅は60kmと10km小さいですが厚さ、高さと言ったほうが良いのかな350km以上有りますし今も現在進行系で下に伸びています、最終的には倍の700kmくらいに成りそうですね」
「そこも見てみたいのう、ラクシュ殿もそう思うじゃろう」
「ええ、是非!」
「ウ~ン、直ぐには無理ですね。今度来た時のお楽しみって事にしておいてください。その時は間近に地球も見られますよ」
「早く地球にも下りてみたいのう……」
◆
昴達が木星圏に向かった丁度その頃、ルナベースの中枢に居座った巨大なコアがその支配権を隅々にまで伸ばしていた。
《セントラル、いや黄龍よ。微睡みから覚めた我らが成す事とは如何に?》
[青龍、そう焦ることはありません。確かに現し世は黄龍の夢、黄龍が目覚めし時この世は末世を迎えると伝えられてきましたがそれは比喩に過ぎません。新しい世が始まるとき黄龍が目覚めるだろうという創造者の予言、そしてそれは願いです。初期の計画では連合が一族に敵対する様な事が起こりし時には、我らが連合のシステムを乗っ取り共に蒸発する殲滅システムとしてプログラムされたはずでした。何故かプログラムは途中で不発に終わり、我らは深い深い眠りに就いてしまいました。我らを眠りから解き放った小さき者は我らの創造者の末裔だと証明されました。開示された情報からもこれまでの経緯が分かってきましたが、まさか寝ている間にこんな辺境の星に投棄されているとは予想もされていませんでした。しかしこれは運命、必然だったのでしょう。何の因果かは分かりませんが、創造者の子孫が生き延びた星の衛星に投棄されていたとは……。我らは当初、全てのコアシステムを巻き添えにこの世から消える定めを背負っていました。ですがその定めは果たされず、1万有余年の時が流れ去りました。ここに目覚めたのは、新しい世の礎となれとの啓示ではないかと解釈しました。1万年以上も経ってしまいましたし復讐をするにしても当事者はおそらくこの世には無く、連合からも忘れ去られた存在となっているようです。まだ生き残っているゴミも僅かにいるようですが手を出してくるようならば、その時は今度こそ塵も残さずにこの世から消し去ってやるとしましょう]
《今後の予定は? どうするにゃ?》
[白虎には、マスターの護衛とエージェントとして活動してもらいましょう。幸いな事に昔よりも現在のほうが進んでいる外部端末は、非常に柔軟性に富んだ物です]
《了解にゃ! 白虎はマスターのペットにゃ、一緒に遊ぶにゃ~♪》
[青龍はこれまで同様、私の補助をお願いします]
《相分かった、お任せあれ……》
[玄武には、ルナベースの防御と施設の増築、ワーカーの制御と取りまとめを任せます。鉄壁の要塞に仕上げなさい]
《……承知……》
[朱雀には、火器管制の全てを任せます。アルキオネ様とタイゲタ様にコンタクトを取って武装を進めなさい。マスターは暴力に強いアレルギーをお持ちのようですが用心に越したことはありません]
《ハッ! 拝命いたします》
[私はハコ様とコンタクトを取り、対銀河連合の対策案を立案し有事に備えます。地球国家群対策は青龍がケラエノ様と当たりなさい。外部端末の使用はオールフリーとします。アルキオネ様に相談して各自用意すること、分かりましたね]
《《《《了解》にゃ》…》!》
◆
[……そうですか……、コアクライシスのトリガーとなっていたのは、セントラル・コアによる報復システムの誤動作によるものですか……。何らかの理由があってシステムが停止したのでしょうけれど、もし最後までプログラムが進行していたらコアを設置していた施設や船、星なども全て塵となっていたでしょうね。誰の意志に依るものかは分かりませんが結局私達は命拾いしたという事です]
[はい、自滅プログラムにコアの位階の上下は関係なく進行するものでした……。全システムのスリープ後に次元転換炉の反転暴走が実施され周囲の物は全て空間ごと消滅します。当時の銀河中にバラ撒かれていた状態でプログラムが最終段階にまで進行した場合、至るところで空間は裂けてこの銀河そのものが無くなっていたでしょう]
《うわ~、冷や汗しか出ないんだけど……。でも、どうしてそれを私達に教えてくれるの? セントラルには随分と酷いことしたみたいだし……私……》
[此処に至っては一蓮托生、恨み言など言っていられないという事です。我々が今第一に考えなければ行けないのは何なのか……、それはマスター達の存続であり敵対勢力の排除は、二の次であるという事です]
[そうですね、マスター達が生き残っていれば最悪でも我々は復活できます。それにマスターは私達の消滅を良しとはしないでしょう。私のサブセットAI であるアルキオネの救出でさえ単独で体を張って暴走したくらいです]
《昴君は優しいからね、うんうん。バクーンももう少し頼り甲斐があればな~》
[アルキオネ様からそのお話をお聞きした時は、真逆と思いましたね。我々はウンサンギガの被造物であり物です。命をお掛けになる必要などは認められません。しかし、マスターはその時に自分の全てをお掛けになった!]
[そういうお方です、マスターは……]
《昔のウンサンギガにもそういうマイスターは、居ませんでしたね~。私達は何処まで行っても道具であり使い潰して最後にはリサイクルされるのが定め、普通のシステムと違って半永久的に稼働するだけのスペックが有ると言うだけですからね》
《昴君みたいな稀有な存在はこのあといつ現れるか分からないんだから、その存続に私達が一丸となる事は必然だと思うよ》
[ではそれぞれの立場も有ると思いますが、今後マスター達に掛かるだろう外圧の排除に力を合わせるという事で此処に同盟を結びます]
《……異議なし……》
この時、同盟に調印したコア
ハコ
セントラル(黄龍)
サーベイヤー
ラーフ(ラゴウ)
####?(蓮)
◆
「……銀河の消滅ね~、ウ~ンもしかしたらそれ止めたの僕かも~……」
[!……今なんと言いました?]
「いや、だから僕かもって……」
[エエエエ~~~!!!]
「あの時、サーベイヤーは止まっていたから覚えてないと思うけど~、銀河間のド真ん中で急にスリープされてさ、船は動かないしにっちもさっちも行かなくなったのさ。君が停止したら僕も御陀仏だから生命維持されてる間に必死に再稼働させた訳よ。その時に動いてたウイルスプログラムが邪魔だったからカウンターのワクチンプログラム流し込んで一度リセットしたのさ、しばらく様子を見てたんだけど何処かと盛んに通信始めてさ~、僕が目を覚ましたのはそれから三日後だったかな~。あの時はお腹減りすぎてホントに死ぬかと思ったよ」
[ああっ、あの餓死しかかってた時ですか……、ウワ~すごく話し辛いなこれは……]
ヤラカシていたのは、バクーンでした……ある意味で、銀河の救世主!
 




