2-2-02 月の修復?…こっそりとね 21/7/28
20210728 加筆修正
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確認して分かった月の現状は、酷いなんて物では無かった。
理不尽としか言いようが無い、思いもよらなかった所に命の危機は転がっているものである。
誰も月がこの様な状態だと気が付かずに、不用意に月の開発になど手を出してしまっていたら……。
ある日突然、コアによる重力バランスが崩れてしまったとしたら……。
そこにどんな事故が起きるだろうか? 想像しただけでも背筋がゾッとする話である。
話を聞いた母さんがその場で泡を吹いて倒れたのが、当前の事だと想像できてしまった。
多分その時母さんは、無意識に最悪の結果をシュミレートしたんだろう。
バクーンとサーベイヤーには、君達のヤッたことは人類滅亡のスイッチに知らずとはいえ手を掛けていたんだって事なんだと、懇切丁寧にグチグチとセツセツと説教してやった。
幸い今回も奇跡のようなことが起こっていた訳なんだけれど、この世は奇跡と不思議に溢れているよね。
◆
マイアからの連絡を受けて母さんは、直ぐに月に行って重力バランスを統括しているコアにコンタクトを取れって言って来たんだけど、良いのかね~?
俺たちが勝手に月を弄っちゃっても……。
後でイチャモン付けられるのも面白くないよねって言うか、何で地球のためにいい事して文句を言われなくちゃいけないのかが不思議なところなんだけどさ、どう考えても文句を云われる未来しか想像できないんだよね、人類って罰当たりだよな。
でも月の現状を説明して人類に対処できるのかって聞かれても『無理!』って答えしか出てこないんだ、気が重いよな~。
これ、事後承諾でも良いのだろうか……いつかはバレるでしょ?
「昴、ここは人類を敵に回したとしてもすぐさま動くところだと俺は思うぞ。な~に、味方になってくれる大人は沢山いるはずさ。後の事は俺たち大人に任せて、昴の出来るベストを尽くせ。実際にこれは君にしか出来ない事だろう? 誰にも遠慮する必要はないさ。ちなみに人の成功した功績をよく言わないのは只の嫉妬や妬みだ、気にするな。俺も現役の頃は散々言われたくちだ」
普段無口なキャプテンの励ましで、俺も決心がついたのだった。
「分かったよ、俺に出来るベストで良いんだよね」
「ああっ、普段常識をあげつらう奴等の度肝を抜く様な結果を期待してるぞ、ウワハハハハハ~」
なんか木星に来る時も、キャプテンは一人静かにウキウキしているのは気がついていたんだけど、久々の宇宙旅行にあの時からタガが外れていたんだね。
普段だったら絶対にキャプテンが言わないだろう言葉が聞けてしまった。
ラーフの改修作業をしばらくの間待ってもらい地球に取って返した俺達は、アルキオネの護衛艦で再び宇宙へと飛び出した。
改造バスコンでは、月で色々とヤルには約不足だからだ、持っていける資材も道具も足らないだろうからね。
それにアルキオネの船は、護衛艦とは名ばかりの特殊工作艦だからである。
プレアデスアークⅠ世の様に内部にドックは無いけれど、その資材運搬能力と工作艦としての機能には、ほとんど遜色の無い船だからだ。
プレアデスアークⅠ世が動けない現在、ベストの船だと思っている。
ついでに母さんがマイアの船でサポートに付くことになった。
マイアの船は、電子戦特化のステルス艦だ。
高い情報収集能力と欺瞞情報の発信能力を持ち、戦況を有利に牽引する力がある。
味方の船や一定範囲の隠蔽なども得意技だ。
ついでだからここで他のシスターズの船も簡単に紹介しておこう。
先に述べたように、マイアの船は電子戦特化のステルス艦。
そしてアルキオネの船は特殊工作艦。
エレクトラの船は万能艦、姉妹たちの船の能力を限定的にすべて持っているらしい。
タイゲタの船は、艦隊指揮艦、無人艦や無人艦載機のコントロール艦。
ケラエノの船は、次元潜航諜報艦、次元潜航して敵陣深く潜り込んで情報収集や嫌がらせ工作を主任務にする船。
アステローペの船は、病院船兼補給艦。
そして俺には全容が分からないのがメローペの船。
本人いわく、『巨大ロボットは正義!』なんだそうで、俺にも詳しい事は教えてくれなかった。
側で聞いていたアルキオネも、くすくすと笑うばかりで……。
最後にヒュアデスの船は、遠距離攻撃特化艦、超遠距離からの正確な予測砲撃を可能とする船らしい。
出来れば過激な装備は使わずに済めばいいのにな~と思っているが、理不尽には理不尽で対抗しないと泣き寝入りも出来ずに存在そのものが危ういという事を身を以て経験したのは記憶に新しい。
よって当初の方針を少し修正して、泣かされる前に泣かす事にした。
兎に角、掛かる火の粉は払わせて頂きましょう、それだけの力が俺達には有ると信じて……。
話が随分と飛んでしまった、戻しましょうかね。
現在の月の詳しい状況としては、次の事があげられる。
1、複数のコアが月の地殻に潜り込んで粉々に破壊している
2、クレーターの中心に30m級の大型コアが稼働状態で存在する
3、中心の大型コアを核に、32個の大小コアが網の目のように重力場を発生させて、月の地殻を補強しながら、他の破損していないコアを包んでいる
状況から見ると、最初に月に喰い込んだコアは防げなかったけど、重力ネットが間に合ったコアは保護され、そして砕け散るはずだった月も辛うじて難を逃れたってところかな~。
普通なら重力場を維持する燃料が尽きた時点で月が崩壊を始めるんだけど、コアのエネルギー源は次元転換炉によるところだから、今の所は燃料切れも起こさずに現在に至るわけだね、うんほんとに奇跡だわコレ。
コアを回収するにしても、バランスを保っている地殻や他のコアを固定している重力場を一度消さない事には何も出来ない。
コアは固定されている重力場がなくなっても現状壊れる心配はないから、月の地殻を先に修復しないことには、地殻を支えている重力場を消すことは出来ない。
ネットワークの核になっているコアがどんな性格の子なのかは、実際に話してみない事には何ともいえないけど、兎に角コンタクトを取って一緒に考えましょうかね。
さあ、いざ月の裏側へ……。
◆
さて~、月の裏側に仲良く2隻並んで俺達は月面を見下ろしておりますが、入ってくる情報を見れば見るほど頭を抱えたくなって来るんですがどうしましょう、何処から手をつけたら……ウ~ン。
状況をもう一度分析してみよう。
月面裏にある大クレーターの中心に存在する30m級の大型コア、蜘蛛の巣状に32個の5m~15m級コアがネットワークを形成している。
ただし、それはクレーターの表面だけを見ただけで奥行きを丹念にサーチしたところ、削った鉛筆のように破砕された地殻をえぐっていることが分かってきた。
喰い込んだ多数のコアにより破砕された地殻を繋いでいるのは、バランスを取った重力場による地蜘蛛の巣のような力場体だ。
力場体が消失した途端に、月はその形を維持出来ずにバラバラに崩壊するだろう。
もう小手先でどうこうできる代物でないことは、誰が見ても明らかだ。
「どうすんの? これ……」
[力場体ネットワークの中心となっている大型コアへのコンタクトは、月崩壊防止の対策をとってからの方がよろしいかと思われます。コアを刺激して力場体のバランスが崩れ崩壊が始まった場合、もう取り返しが付きません]
「バラけないように月にネットでも掛けちゃおうか。アルキオネ、シミュレートしてくれるかな? 月を1kmの正三角形の網目で包むとすると、結節点に重力プローブが何個必要になるだろう?」
[……そうですね、月の表面積はおよそ3,793万平方km。1辺1kmの正三角形の面積は、0.43301270189222平方kmですから、ここにグラビティープローブを割り振るとすると87,595,583個以上必要になります]
『8,760万個……かなりの数ね、ケレスの自動工場でも使わないと何ヶ月も掛かっちゃうんじゃないかしら。昴は、グラビティープローブの基礎設計と検証をしてセバスチャンにデータを送りなさい。ケレスでの製造が完了したらエレクトラとアステローペに取ってきてもらいます』
「了解、グラビティープローブのコントロールはタイゲタに任せられるように艦載機と同じコントロールコードにしとこうね。アルキオネはコアを掘り出した跡地に収まる基礎……この規模だと新たな重力場をコントロールする為の基地かな……基礎構造の構築を始めてくれるかな」
[廃棄されたコアを回収撤去したあとに月を支える事になる施設ですね、了解しました。ルナベース建造シミュレート開始します、……終了。艦外に浮きドックの構築を開始します]
「ちなみに聞くけど、今分かってるだけで回収可能な廃棄コアは何個ぐらい埋まってるの?」
『こちらで調査した結果だと、ザッと7,000個ぐらいかしら。サーベイヤーの記録からすると1万5,000個以上が投棄されてその約半数が形態を保ったまま休眠状態を維持しているみたい。休眠状態を維持できなくなった物や破損したものは砂状に崩壊してしまっているようね』
ルナクオーツの砂はコアの主な構成素材として再利用出来る、これも回収だな。
グラビティープローブは、重力コントロールと姿勢制御、エネルギーラインは船からまわすとして……こんなもんかな……。
「よし、モックを作ろう。アルキオネ、手伝って」
[了解しました。マザーマシンにナノマテリアル注入開始します。モックアップの完成までの予想時間、32分40秒です。同時に完成時の予測されるスペックのシミュレート開始します。シミュレートによる構造上の最適化を実行、終了。モックアップへアップデートしました、完成予想時間4分25秒加算されます。艦外浮きドックの稼働可能な初期完成時間は6時間後の予定です]
『マイア、地球の様子はどうかしら?』
《現在、良い意味で月への注目は少なくなっています。みなさん木星に夢中ですね。主要な観測機器も木星に焦点をしぼっていますよ。アルキオネ、用心してプローブには迷彩機能も載せておいてね。どんなに小さくしても見つかる時は見つかる物だから、先日の木星の件みたいにね……》
「ウッ、耳が痛いんですがマイアさん、いじめないで……ヨヨヨよ」
《マスター、泣いたマネなんかしても意味はありませんよ。地上では譲さまが本当に泣きながら火消しに当たっていますが、見通しは未だ立っていませんよ]
「うわっ、それじゃコアの拾い上げにアポートを頼もうかと思ってたんだけど無理かな?」
《ええ、当然それは無理ですね》
「あちゃ~、人海戦術で力押しするしかないのか~。手の開いてるシスターズも動員しないとまずいかな~。動員できるオートワーカーは今何台?」
《現在直ぐに動員できるワーカーは、981台。各施設の拡張やメンテナンスに稼働中の物を集めての追加300台ってところでしょうか……》
「今回、スピード勝負だもんね、ウ~ン」
[無ければ作りましょう。我々の強みはそこじゃないですか]
「そうだねアルキオネ。ケレスにはプローブの製造と並行してワーカーも増産して貰おう。幸いワーカーは既存のデータからすぐに作れる」
『軽く試算して見たんだけど、あそこの製造能力なら一気に万単位で製造ラインを組めるわよ。2・3日で目処が立つんじゃないかしら』
3時間後、セバスチャンから進捗の連絡が来た。
《ホッホッホッ、ここをフル稼働させるのは何年ぶりでございましょうか、感無量ですな~。御下命の製造ライン10万の構築は先程完了致しました。まもなくラインの第一陣が完成いたします。一ロット10万個が5分間隔で出荷されますので3日少々でご希望の数量に達するかと思われます。並行してオートワーカーの生産も開始致しました。こちらは、此処で3日間に生産できる限界数を揃えさせて頂きます》
「うん、頼んだよ。セバスチャンには急に無理言ってごめんね」
《いいえ、マスターからお仕事をいただける事は望外の喜びでございます。マスターにお仕えするのが我々の使命、存在意義でございますれば喜び以外ございません。今回のお話をお聞きした処、休眠状態のコアが大量に手に入りますとか。流石にわたくし単独ではコアの生産は無理でございますから、嬉しい情報でございますね。これで御用意している船達に火が入れられるというものです》
「エッ、用意していた船って?」
《ハコ様から生産委託を受けた物でございます。マスターは、お聞きになっておられませんかな? 既に初期生産分600隻の船体は完成しております。ジェネレーターが間に合っておりませんのでこのままでは一隻も動きませんが……。マスターがこちらに詰めていらっしゃれば護衛艦に使ってらっしゃるノーマルコアが月産100個ほどは作れるのですが……残念ですな~》
「あれ~? ケレスにも次元転換炉の製造プラントはあったよね」
《はい、御座います》
「ハコは俺が何も指示しなくてもノーマルコア作ってたけど……」
《それが出来るのは、ハコ様だけでございます。あの方は、ご自分のコア内部に独自のプラントをお持ちでいらっしゃいますので……。通常、次元転換炉の製造には運斬技牙の技術者の承認が必要ですので、承認無しで次元転換炉を製造出来るのは、唯一独自のプラントをお持ちになっているハコ様だけでございますよ。現在、次元転換炉の製造承認が出来るのは、御当主として認められているマスターだけで御座います。ですから、ここの設備で次元転換炉のコアを増産できるのはマスターのみとなります。ハコ様であっても、ここで次元転換炉のコアを作ることは出来ませんので、現状は船体のみの製造となりました》
「やっぱり作らせていたのはハコなんだね?」
《はい、そうで御座います。転ばぬ先の杖だと申されておいででしたよ。いつか必ず役に立つからと……》
「こんな頼りない主で申し訳ない、これからも迷惑掛けると思うけどよろしくね!」
《ありがたいお言葉。そのお言葉はハコ様にも直接お伝え下さい。マスター第一の下僕ですので、殊の外お喜びになられるでしょう》
「うん分かった、伝えるよ」
《ホッ、ホッ、ホッ》
「なんだ、昴は知らなかったのかよ、俺は知ってたもんね♪」
「なんで俺が知らないのにお前が知ってんだよ、健太」
「決まってるじゃね~か。俺達とセバスはツーカーだからな。俺達も宇宙船の勉強したいって言ったら見学させてくれたんだ。銀河も知ってるぜ」
「エ~、言ってよ~」
「昴ちゃん、このところ忙しすぎて村にあんまり帰ってこないじゃない。皆んなで地下ドックで勉強してるんだよ。お手伝いできるようにって、ネ~?」
最近、皆んなの腕がメキメキと上がってるのはそういう事か……。
ハコやシスターズの仕込みだと思ってたんだけど読みが外れたな……まさかセバスチャンの仕業だとは思わなかったよ。
「「「「そうそう」褒めても良いのですよ」アハハハ」…バレた~」
「私は健ちゃん達に連れてってもらった時、びっくりして……」
「あん時は愛子がチビッ『言っちゃダメ~』、モガモガ……」
真っ赤になった愛子が健太に飛びついて口を塞いだ。
「健太、あんたは~……、チャンと謝んなさいよ。そんなだと嫌われるわよ」
「…愛子、ゴメン…」「ウン…」
《ホッ、ホッ、ホッ、ホッ、ホッ》
「セバスチャン……どういう事かな~?」
《皆さん、とても優秀でございます。立派にウンサンギガの資質をお持ちでいらっしゃる。ただ見過ごすことなどわたくしには無理でございます。それに、やがてはマスターの支えとなって頂くのですから多少の依怙贔屓はスパイスのようなものと存じます》
「ハァ~……ほどほどに頼むね。皆んなも無理だけはしないように……」
「「「「「「「大丈~夫♪」ハ~イ」問題ありませんわ」ウン」任しとけ」ナンとかなるよ」チョッと不安…」




