2-1-10 木星まで出張…自業自得と人はいう 21/7/16
20210716 加筆修正
5440文字 → 7377文字
そのころ日本の経済産業省、荒垣事務次官は頭を抱えて知恵を振り絞っていた。
不味い、非常に不味いぞ。
今、世界中の科学の目が木星に向いているというのに、何をヤッてるんだ彼奴等は…。
事の発端は、とある海外のスカイウォッチャーが木星近傍に異常な局地的赤方偏移現象を観測した事から始まった。
これが原因で世界中の天文台や天体観測者の目を木星に集めてしまったのだ。
どうやら局地的な重力場赤方偏移現象の様で、今回観測されたのは木星周辺で盛大に動き回った宇宙船の大出力な重力推進現象を拾ってしまったらしい。
同時刻、木星の裏では異星の王族(年少だが王族の端くれ)がこれからの事を話し合うために訪れている……らしい、もしかすると地球の運命が決まろうかという矢先のこの騒動だ。
こんな騒ぎになったのは、普通なら観測できない様な微細な情報まで拾ってしまった民間の優秀すぎる光学複合センサーに由来する。
まったく迷惑なもの作りやがって……と、どこの製品なのか調べてみたら(株)タウルス謹製って天河の処かよ!
お前らいったい何やってくれてんだよ!
この騒動で、注目を集めた光学複合センサーの性能は折り紙付きの評価をもらったらしく、今世界中から注文や問い合わせが殺到しているらしい。
パラメーターシート(※1)をキッチリ書かせて規制しないと、何に転用されるか分かったもんじゃないから頭が痛いなんてもんじゃネ~ぞ。
それにしても彼奴等、何時の間に木星の裏側になんて宇宙ステーション打ち上げたんだ……。 (打ち上げたのではなく、現地で建造されたのですがそこら辺は認識の違いです)
宇宙法に基づいて、個人での平和的な宇宙開発は規制されて居ないはずだが、それは飽く迄も個人ではロケットの打ち上げ何て行為そのものが、事実上不可能だからだ。
出来ない事を規制しても意味が無いって事なんだろうけれど、昴くん達に言わせれば先にヤッた者勝ち、先駆者はヤリ逃げが出来るって論法なんだろう。
宇宙法には、如何なる国も領有権を認めないとは決められているが、そこに住んではイケないとは書かれていないし、使ってはイケないとも書かれてはいない。
日本の宇宙開発もまだ探査機の打ち上げが始まったばかり、国際宇宙ステーションの完成までには早くて後5年は掛かる見通しだ。
日本もISSの建設に参加しているし、NASDAからJAXAへの統廃合も2ヶ月後の今年10月だ。
日本の関連法律の整備もこれからだろうし……んっ、其れを狙って既成事実を作るためにやってるのか?
民間が人工衛星を打ち上げて宇宙開発に資本が投下されるのには、まだまだずっと先の話だろう。
しかし、昴くん達がそんな悠長に世界が動くのを待てるはずも無い、こりゃ~確信犯だな。
仕方のない話だよな、最悪は人類滅亡、エクソダスを実行するにしても全人類の脱出なんてのは土台無理な話だ。
いったい、どこに逃げるって言うんだ?
経緯を知ってれば誰でも分かる話だ、たぶん昴くん達はもう準備を始めているんだろう。
当然、木星の宇宙ステーションもその一部だろう事が想像できる。
俺達にはどうしようもないし静観するしか方法がないのが現状だろう、出来るだけ穏便に進める事は無理なのだろうか。
去年から経済産業省の主導で進めていた水素発電ユニットの事業化は、順調に軌道に乗せる事が出来た。
次の段階として、現在使用されている原子力発電施設の冷却装置や安全装置に使用されている電源を水素発電ユニットに順次置き換えるプロジェクトを進める。
原子力発電施設に現在設置されている既存の非常用発電機は、安全基準をギリギリで満たす為に設置されているのが現状だが、それは正直な処で安全設備にかかるメンテナンス費用の負担やイザという時の安全性を完全に担保できていないのが実状だ。
原子炉は、何か有っても急には止められない。
万が一、非常用の電源を確保する為のディーゼル発電機や冷却用給水タービンが止まってしまい、原子炉の冷却が出来なくなったら待った無しでメルトダウンの危機である。
出来れば老朽化した原子炉から順次廃炉に移りたい処だが、資金も人手も確保できていないのが現状だ。
原子炉は、作る時に解体する時の費用は計上していない。
作りっぱなしで壊す訳にも行かずと、ここまで迷惑な施設も珍しいが放って置く訳にも行かないだろう。
今までは頭の痛い案件だったが、安全な廃炉に関してアルキオネさんからアドバイスを貰っている。
まず冷却装置周りの安全対策を早急に、全ての原子炉に施す。←今はやっとここを始めたばかり
危険なレベルの放射線により活動が制限される作業は、昴くんのところのオートワーカーをレンタルすることで解決する。
これらのオートワーカーは有害な放射線と急激な温度変化に晒される宇宙空間での活動を基礎にして開発されているので、十分に原子炉のメンテナンスや廃炉処理を実行できる。
人と違って休むことを知らない機械達にお願いしてしまいましょうという計画だ。
何かと厳しい作業者の安全にも配慮しつつ、悪環境下での正確で迅速な処理を目指す。
水素発電ユニットが十分に普及すれば、日本中にある50余りの原子炉を全て廃炉にするのが目標だ。
俺が事務次官をしている内に、日本中の電力事情を改変してやろうじゃないか。
ちなみにアルキオネさん、オートワーカーのレンタル費用は、格安でお願いします。
※1 海外に製品・技術を輸出する際、輸出令別表第1や外為令別表で規制されている貨物や技術に該当しているかどうかを記載する判定用紙
◆
メガフロートでのリゾート体験から帰って来た私達女性大臣は、直後から出席した国会の本議会で注目の的になっていた。
確かに直前まで女性大臣が軒並み欠席していた事も問題ではあったのだが、そこを突っ込むと誰も休みが取れなくなるので此処はスルーされた。
今回は、10月から本格稼働するメガフロートの視察という言い訳も有るし、それに関しての国会での質疑応答の時間も取られている。
私が最初に壇上に経った時、面と向かって質問相手から本人確認された時には、シテヤッたりと内心ほくそ笑んでしまったのはナイショの話だ。
視察してきたメガフロートの情報の中から、今回公開して良い内容をマイアさんに纏めて貰っていた私達には、野党に付け入られる様なスキも無く何の心配もいらなかった。
メガフロートが今後日本に及ぼすだろう技術革新や当然発生する経済発展について、予想される展望などを説明する。
最初は各大学が中心に成るが、特に経済的に困窮している優秀な個人の研究者や技術者に研究開発環境を広く提供し、日本の技術を促進させようというのが趣旨である事。
民間の一企業、皆さんはもうご存知だろう(株)タウルスが資本を投下してこれからの技術開発をする環境を整えたので、『日本の基礎技術の底上げを一緒にしませんか?』と提案された事が発端で有る事。
既に、太平洋上には巨大な研究施設が完成して居り、過酷な使用に耐える事を実際に体験してきた事などなど。
外務省を通じて以外にも、直接にメガフロート所有企業へのコンタクトが海外から盛んにあり、実際に報道されている通り宇宙開発に直結する研究が実施されている事。
まだ報道されていないが、今回の視察にはメガフロートをベース基地にした海洋開発の研究も可能である事などなど、話題には事欠かなかった。
ちなみに国会議員風を吹かせて圧力を掛けようとしても、全てシャットアウトされる事をこの場で先に述べさせてもらった。
この時に吹き上がったヤジがすごかった……『お前らだけズルイ!』とは本音がダダ漏れである。
フンッ、鼻で笑い飛ばしてヤッたら、国会が一時休廷となったほどだったのには笑うしかなかった。
国会が終わってからのマスコミの取材合戦も凄いことに成った。
10日ほどの現地視察と休暇で、参加した女性大臣が軒並み生まれ変わったように若返っていたからだ。
見た目は控えめにしたのだが やっぱりよく見れば分かるらしい。
国会中継を取り上げたニュース番組やテレビ放送でも話題になったらしく、もっぱらカメラ写りの方ばかり聞かれる事となった。
この時テレビ局では、アップになった映像と視察前のアップの映像が並んで映され、コメンテーターの整形医師などの詳しい説明により、普通のエステぐらいではここまで違いが出ないはずだとか、整形では無いのかなど、喧々囂々……。
その後、交友関係のある女性や各国の大使夫人、果ては大統領夫人からも連絡が来たのには驚いた。
映像の伴うテレビ報道とは、本当に凄いものだと改めて再認識したお盆だった。
◆
「あのさ~、木星の裏側に秘密基地作ってたなんて、俺は一言も聞いてないんだけど~、ハコが出迎えに行ったって聞いてはいたけど……なんで行きっぱなしに成ってて、俺たちが出張ってゆくことになってんの? ブツブツ……」
現在の俺たちは、アルキオネに拉致られて改造バスコンで移動中だ。
ちなみにもうそろそろアステロイドベルトを抜ける辺りまで来ている。
キャプテンは当然として、なぜかジェニーと銀河達もワイワイと同乗している。
夏休み中とはいえ、こんな所に来ていて良いのか?
疑問に思う今日この頃……。
などと現実逃避している場合では無く、随分と遠くから沢山のお客さんが来ているらしい。
ワザワザ挨拶にって事らしいんだけど、これうちの親じゃなくて良いのかな?
[マスターで良いんです! 当然です、これは決定事項です!]
そんな力まんでも良いのに……。
ウ~ン、程なく俺たちの乗る改造バスコンは、木星の裏側に回り込んで予定の地点に到着したんだけど……随分とちっこいのが見えて来た。
3枚重ねの薄~いパンケーキ見たいなのが見えて来たんだけども、エッエッエッ、側に寄ったら随分とでっかいんですが、皆んな窓に張り付いて眺めてるよ。
ウン、分かる分かる。
[宇宙では物の大きさが認識しづらいですからね、近づくとその大きさが分かるでしょう。この反物質燃料生成ステーションは、この先宇宙開発で使用するエネルギーとして銀河で広く使用されている反物質を生成して補給出来るようにするための宇宙ステーションです。これから宇宙開発をするための前線基地としての大きな役割があります。大きさは、最大直径70Km、最大高5Kmの万能型宇宙ステーションです。マスター、そうむくれていないで皆んなと一緒に楽しんだほうが得ですよ、簡単な経緯はご説明しましたが詳しくはお母様からお聞きくださいね]
「……ハァ~…了解、俺をビックリさせようと思って色々としてくれるのは嬉しいんだけどさ、物には限度というものが有ると思うんだよね」
[エッ、マスターが私達にそれをおっしゃるんですか? 限度ですか、よ~くご自分の胸に手を当てて考えてみてください]
「ウウウッ、特大のブーメランだった! 身に覚えがあり過ぎて胸が張り裂けそうに痛い……」
[茶番はこの辺にしてそろそろ着陸しますよ、皆さん一応安全のためにシートベルトを着けてください]
「「「「「「「「了解」」ハーイ」アイサー」」」」」
◆
俺たちの改造バスコンは無事にステーションのプライベート桟橋に着陸した。
出迎えのハコが乗り込んで来たので、このまま自走して移動するようだ。
[皆さん良くお出でくださいました。地球人類でここ、木星圏まで来たのはマスター達が最初ですよ。夏休みの思い出に、たくさんの楽しい経験をしていってくださいね]
「それで早速で悪いんだけどさ、詳しい話を聞きたいんだ。シャシ姫とバクーン以外に団体のお客さんが来てるんだって?」
[肯定。シャシ姫を追いかけていらしたディーヴァ族の第三王女御一行様です。護衛の親衛艦隊を引きつれて来てますから、それなりの団体さんですね]
「それで対応は? ハコの事だから抜かりは無いんだろうけどね」
[肯定。メガフロートに続いてここの試験運用には丁度いいでしょう。下手に地球人を連れて来ると勝手が違ってしまって混乱すると思いますから、宇宙船乗りが最初のお客さんになってくれたのは却って良かったと思います。元から燃料補給用の中継ステーションとして作りましたから利用者モニターになってもらっていますよ]
「ホウホウ、お得意様ゲット~! って処かな?」
[肯定。そんな処ですね。交友関係を広めて顧客を集め地盤を固める事で、我々が逃げ出さなくても良い気風を作ります。時間稼ぎにも成りますし、情報をコントロールして与えて相手の出方も探れるでしょう、ウフフフ]
「ウッ、久々にハコの暗黒面を垣間見た様な……、そうするとここもメガフロートと同じ様にメローペが仕切るのかな?」
[肯定。あの娘の適正がこんなに役立つとは思いませんでしたね。最初に義体を着込んでキャプテンと遠征した時、はしゃぎ回っていたのが懐かしく感じますよ。既に各種ドロイドやオートワーカーの制御と統制に関しては、私を超えています。他のシスターズも独自の進化をしているようですね、これから先が楽しみです。嗚呼そうでした! マスターにお願いが有ったのでした]
「何かな? ラーフⅡ世の方はこの後の打ち合わせが終われば、直ぐにでも手を付けて今月中には仕上がると思うんだけど、それとは別件?」
[肯定。シャシ姫がプレアデスアークⅠ世の居住空間をいたく気に入られまして、ステーションの宿泊施設に引っ越さずにこのまま利用したいと思います。それでプレアデスアークⅠ世から降ろしてこのステーションの方に居住空間をを移転したいと思います。つきましては直結している小型次元転換炉Bのマスター承認が必要になります。プレアデスアークⅠ世の予備の次元転換炉ですので、転換炉ごと取り外してステーションに移転したいと考えています。その後、プレアデスアークⅠ世には新しい次元転換炉に載せかえてバージョンアップもお願いいたします]
「あらら~、それは大仕事だね。先にそっちを終わらせないと今日当てにしてた寝るところに困るかな……。皆んなにも少し手伝ってもらおうか、アルバイト代出すからさ~」
「「「「「「「いいよ~」昴ちゃん任せて」お小遣いゲット~」リョウカ~イ」俺はあんま役に立たね~ぞ」ヤッター」エエエッ」
[皆さんがお手伝いですか?]
「そうだよ、結構優秀なんだ~」
そうですか、もうそこまで村の皆さんも強化が進みましたか。
後ほど適正とレベルを検査させて頂きましょう。
これは楽しみが増えましたね。
[では早速、プレアデスアークⅠ世の次元転換炉Bを下ろしちゃいましょうか。マスターの手を借りれば30分も掛かりませんしね]
「うん、固定されてる亜空間に影響は出無いと思うけど念の為に居住区からは出てもらってね。準備ができるまでこのままドライブしてステーションの中を周ろうか」
[では、引率はこのままアルキオネに任せます。また後で合流いたします。アルキオネ、頼みましたよ]
ハコは、そう言い残して改造バスコンを降りていった。
と思ったら、3分ほどでぞろぞろと引き連れて又合流してきた。
[準備ができるまで少々時間が御座いますので、顔合わせと一緒にステーションの視察ドライブをお願いいたします。シャシ姫様はもうご存知だと思います。後ろのお二人は護衛のカリン様とマリン様。そして、シャシ姫様を追ってこられたディーヴァ族の皆様、代表の第三王女ラクシュ姫様、そして側近のカーリー艦長。後ろに付いてきたのがお調子者で怠け者のバクーンです!]
「ちょちょっと~、その紹介はひどいんだな~。皆んなのモフモフ・アイドルのバクーンなんだな~、よろしく~♪」
「ハコのマスターの天河昴です。間接的にこのステーションの主って事になります。よろしくおねがいします」
「先の通信以来じゃの~、シャシじゃ、仲良くしてたもれ」
「ラクシュです。急な来訪を心良く受け入れてい頂き感謝いたします。よろしくおねがいしますね。それにしても凄いものをお持ちで……」
「護衛のカリンと申します、よろしくおねがいします」
「私も護衛……マリン、よろしく……」
「カーリーと申します。ラクシュ様の親衛艦隊の司令を拝命して居ります。この度は、我が艦隊の整備と補給、乗員の上陸まで許可頂き有難うございます。代表しましてお礼いたします」
「え~と、そちらのメイドお二人はラーフさんとサーベイヤーさんで間違い有りませんか?」
[昴くん、よろしくね~。私がサーベイヤーⅠ世、この義体の出来は素晴らしいの一言だね。お礼を言っておくよ]
[私がラーフです、この度は船の改修まで請け負って頂きまして有難うございます]
「はい、この後ハコのバージョンアップも一緒に行いますので、後ほど細かい仕様の打ち合わせをしましょう」
「昴殿、よろしく頼むのじゃ。ついでにバクーンも扱き使っていいからの~」
「そんな~……。昴く~ん、僕たち友達だよね~?」
「友ならなおの事、手を貸すのが道理であろ~。怠けるでないわ!」
バスは再び走り出し、一番うしろの席でガックリと肩を落とすバクーン。
この一行は、この先どこに向かって走ってゆくのか、まだ行き先は決まっていないようである。
◆
「昴ちゃん、私達は何を手伝えばいいの?」
「そうだね、それぞれ役割分担を決めておこうか。まず銀河には、作業時の余剰エネルギーのモニターとコントロールをお願いするよ。双葉と裕美ちゃんはこれから向かうメンテナンスヤードの管制をお願い。聖さんにはステーション側の移転先の整備をお願い。メローペと情報交換すれば教えてくれるはずだよ。健太と尊は船のバラシと転換炉の積み下ろしをワーカーで支援してくれ、管制室からリモートで動かせるはずだ。最後に愛子ちゃんは、今回が初めてだから見学かな……俺達がどんな事を勉強して出来るようになっているか見て感じてね」
「「「「了解」双葉にお任せ」分かりましたわ」ラジャー」
「「オウ、任せろ」うん分かった」
「……見てるだけで良いのね、ホッとした~」
「愛子、そう心配すんな。昴は出来ネ~事は頼まねえよ。そのうちみんなと同じ事が出来るように成るさ、焦る必要はネーさ」
「そうそう、健太が真面目に仕事してるか、よーく監視してくれてれば良いんだよ。何なら後ろからしばき倒してもいいからね」
「オイ双葉、それはネーだろうよ」
「「「「「「「アハハハハハ♪」」」」」」」




