2-1-06 ラーフとコンタクト…そして現地改修 21/6/19
20210619 加筆修正
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ここは木星の裏側、ハコが建造している反物質生成プラントの近傍だ。
今まさにラーフⅡ世とハコが邂逅しようとしている。
《指定のランデブーポイントに到着しました。ソル系第5惑星の衛星軌道上に人工物を確認、反物質生成プラントと思われます。前方、プラントのシールドに開口部が開きました、このまま進入します》
[こちらハコ、ようこそ太陽系へ。地球までエスコートしますので、そのまま私に着艦してください。ドッキング体勢スタンバイ。下部船倉部の開口開始します]
木星の反物質生成プラントとラーフⅡ世の間、今まで何もなかった空間に唐突に現れたハコの船体が、真ん中から左右に割れてその巨大な船倉があらわになっていきます。
《ハコの船倉待機区画への着艦を開始します。タイミングはそちらに、ユーハブコントロール》
[了解、アイハブコントロール。ドッキングシーケンスに入ります]
ハコの前方に停船したラーフⅡ世を 前進しながらハコが飲み込んでいきます。
[固定アームにてラーフの船体を固定します、ドッキング完了。船倉を閉鎖します、艦内重力復帰、完了。船倉内気圧正常に加圧中、終了。もう船外に出られても大丈夫ですよ、今お迎えに伺います]
「ホホウッ、このまま地球に征くのじゃな?」
《はい、エスコートしてくれる様です。我々がそのまま地球に下りると面倒な事になるそうですので、お言葉に甘えましょう。ここでバクーンと合流してから地球に向かうそうですから少しのんびり出来そうですね。しかし、こんな辺境にこの様なプラントが作られているとは誰も知らないでしょうね、ざっと見ただけですが阿修羅王国のプラントより数世代進んだ物と推測できます。ほぼ無人で反物質燃料が作られているようですよ。何に使うんでしょう? 地球ではまだ核燃料しか使えないはずですけど……》
「そんな事は、本人に聞けばよかろう。もう直ぐ迎えに来るのじゃろ、バクーンが来るまで時間はたっぷりあるのじゃ」
《噂をすれば……、迎えが来たようですよ、こちらの搭乗口を開放いたします。では、下りましょうか》
ハコの内部に明かりが灯りました、かなりの広さです。
中央にラーフⅡ世が停船し巨大な固定用アームで固定されています。
ラーフⅡ世の下部が開きスロープになりました、搭乗口の様です。
船倉の奥の壁がスライドし自走するソファーに乗ってメイドが一人現れました。
スロープの前で静かに停止しました。
[お迎えにあがりました、本船のゲストルームにご案内いたします]
「その方がこの船のAIのハコじゃな。妾がシャシじゃ、見知り置けよ」
「護衛のカリンです」
「……マリン……」
《ラーフです、よろしくね》
[はい、私がこの船の管制AIのハコです。まずは船内をご案内いたします、シートにおかけください。この船は少々広うございますので移動しながらご説明いたします]
「???そんなに大きな船には見えなかったけど……」
「姉さん、失礼……思ってても言っちゃだめ……」
[本当の私は恒星艦移民船ですが、まだ完成に至っておりません。今、皆さんを迎え入れた船体はマスターの用意して下さった仮の物で、多目的工作艦となっております。動けないと不便ですので稼働できる様にとマスターが作ってくれたのが今の船体となります。まずはこちらをお着けになってください。艦内移動に必要なパスと情報端末となっておりますので危険は御座いません。ラーフには、同系の管制AIとして認証登録を行いますね。でも余り深い所に潜られるのも嫌なのである程度のレベル制限はさせていただきます、良いですね?]
《了~解、つなぐね~》
ハコが各人にブレスレットを支給し、ラーフとの間にレーザー通信を行った。
「ホホウ、随分と雅なブレスレットではないか? これは遊び甲斐があると言うものじゃのう。この船がどれほど広いのかこの目で見ようではないか、ほんに楽しみじゃの~♪」
「姫様、あんまりはしゃがないでくださいね、品性を問われますよ」
「ネーサン、貧乏ゆすりしながら言っても説得力無い……。二人共、オチツケ……」
動くソファーがゆっくりと動き出し移動していきます、徐々にそれなりのスピードで……
船内を案内するのに、グルっと20分ほど掛かりました。
船倉区画、工房区画、動力炉区画、コントロール区画、電算区画、艦橋などなど。
「フムッ、ちと尋ねるが、お主以外に人は乗っておらんのか?」
[肯定。この船は私のワンマンオペレートで動いています。厳密には、私も船の一部ですから無人オペレートと云っても良いでしょう]
「ざっくりと船内を見せてもらったところ居住区がないように思うのじゃが、それは人が乗っておらんからかの~?」
[イエッ、居住区にはこれから向かいますよ、ご心配には及びません]
三人はブレスレットの船内マップを目の前に広げて見ながら首をひねっています。
それは、艦内図の各ブロックのどこにも、居住区が表示されていないからです。
「そんなはずは無かろう、地図のどこにも居住区などは載っておらんぞ」
[フフフ♪ では、居住エリアに転移いたしますね]
その宣言と同時に、シャシ姫達は走行していたソファーごと光りに包まれて消え去ったのだった。
◆
シャシ姫御一行を乗せたソファーは、いつの間にか深い森の中を突っ走っていた。
緑の森に囲まれ木々の間にはバンガローやお城、ホテルだろう巨大な建物もチラチラと見える。
ソファーは、真っ直ぐ続く道路を正面のお城に向かっているようだ。
「ここはどこじゃ?」
[ここが私の居住区ですよ。およその広さは1250万平方m、直径4kmの球型空間を亜空間固定しております。予備のジェネレーターにより維持管理しておりますので、船本体に異常が発生してもここには直接影響は有りません。もしも本船が消滅したといたしましょう。しかし、この空間は30日間はこの状態を維持することが可能です。居住区がそっくり巨大な避難カプセルになっていると想像してください。ここから見て地下に予備の脱出船と工房区画があり、その他の必要なものは全て揃っておりますので、嵐が過ぎ去ってから船を再建するなり、脱出船で最寄りの惑星に降りるなりすれば良いのです。目の前のお城は巨大なリゾート施設の一部です。この空間全てが居住区であり、レジャー施設であり、脱出カプセルであり、工房であるわけです。でも重ねてお伝えしますが、これは仮の船でありわたくしの本体ではありません、お間違えのなきように……]
「「「………」」」
開いた口が塞がらないようだ……。
3人とも、ポカ~ンとした顔で周りを見回しながら、移動式ソファーを立ちお城の入り口に佇んでいた。
いつの間にか日が傾き、きれいな夕焼け空になってきた。
周りはお城を中心に遊園地になっており、観覧車やジェットコースターに明かりが入り始め、イルミネーションに照らされはじめた。
にぎやかな音楽とともにカーニバルが始まった、一瞬光ったと思ったら空には花火が上がり、お祭りを盛り上げている。
《派手だわね~、とても楽しそうだわ。ここを遊び尽くすにはどれくらいかかるかしら~》
[全部のアトラクションを回るだけで10日ほどは必要でしょう。では、ホテルの方にチェックインしましょう、皆様をお部屋にご案内いたします]
お城を守るようにコの字型の建物が建っています、ここがホテルのようですね。
フロントには、ハコとは別のピンク色のメイドが控えて居ます。
[ようこそいらっしゃいました。ハコの娘、7女のメローペと申します。皆様がご滞在中は私がお世話をさせて頂きます、何なりとお申し付けください。早速ですがカウンターにあります情報パネルにブレスレットをおかざしください。最新の情報が更新され、ご使用になった費用等が精算されます。基本的に、金銭のやり取りの代わりにブレスレットにより仮想通貨にて精算されます。利用するサービス施設や玩具、お食事も同じシステムです。ブレスレットの情報パネルから接続してサービスをリクエストすることも出来ますし、ナビゲート機能を使えば使用法から場所、所要時間等まで詳しく知ることが出来ます。私を案内人としてご利用することも出来ますのでよろしくお願いいたします]
なんかメローペがソワソワ、ワクワク、ドキドキしていますね……
[メローペ、お客様そっちのけで遊びたいのは分かりますが、ちゃんとお世話するのですよ、良いですね]
[了解であります、お母様] ビシッと敬礼で答えるメローペ……
◆
ここはプレアデスパレスを正面に見上げるホテルの最上階、ロイヤルスイートの3階部分のペントハウス。
中央はガラス張りで下を見ると2階ホール吹き抜けでテラスには露天のプールやジャグジーまであります。
予備のゲストルームまで入れると寝室は10部屋、すごく豪華です。
現在は、パレードと花火を見ながらフルコースのお食事中です。
「ハムハムハム、この魚は何というのじゃ、蛋白でありながら程よい油とあふれる旨味、ホンに美味じゃのう~♪」
[姫様のお皿は、スズキのパイ包み焼きですね。まだこのあとに鴨のローストがありますよ、お腹いっぱい召し上がって下さいね]
無言で貪るように食べている護衛の二人、流石に姫様のお皿には手を伸ばしていませんが姉妹で取り合うように食べています。
[慌てなくてもおかわりは沢山ご用意してありますから、ごゆっくりお楽しみくださいね]
「アハハハッ、旅の間は料理の出来る者が居らず、軍で使用している携帯食料ばかりじゃったからな無理も無かろう。あれは腹は膨れるが、どうも味気なくてイカン。普通なら料理人達を乗せているのじゃが、コヤツらみんな気絶させて船から放り出しおった。困った奴らじゃ、ウハハハッ」
「姫様が全員放り出せとおっしゃたのではないですか、モグモグ……」
「確かに言った……、ムグムグ……おかわり……」
「食べながら喋るでないわ、下品であろう。でも妾はそんな事を言ったかのう~? 覚えておらんな~」
「「……ム~……」」
[ま~ま~、バクーン様が追いついて来られるまでは、この宙域に留まりますので、時間の許す限りこの船をお楽しみください]
「バクーンが来るまでに全部回れるじゃろうか……案内は任せたぞ」
「「任せた~」ぞ~……、ムグムグ…」
[ハイハイ、賜りました。万事このメローペにお任せあれ♪]
ほんとに大丈夫かな~?
非常~に心配だ……。
◆
しかし、バクーン以外のお客さんか~どんな人達かな~?
メガフロートのドックに宇宙船用のスペース開けるしか無いかな~。
そんな事を考えていると、いきなり目の前に空間モニターが開いた。
[マスター、チョッとよろしいですか、ラーフからのオーダーなんですが……]
「ウオッ! と~、びっくりした~。ハコは、いま木星だよね? お客さんとは無事に合流できたの?」
[肯定。現在は、木星の反物質生成ステーションでバクーンの到着を待っているところです。シャシ姫様御一行は居住区レジャーランドのパレスホテルのロイヤルスイートにチェックインして頂きました。絶賛お食事中ですね。ナイトパレードそっちのけで欠食児童のように料理を貪っていますよ。あの護衛2人組は料理が一切出来ないようですね、嘆かわしい事です。腕っぷしばかりの脳筋では要人の警護など覚束無いでしょうし嫁の貰い手にも困るでしょうに、地球にいる間に少し鍛えて進ぜましょうか……]
「フ〜ン、お手柔らかにね~」
[肯定。善処いたします。それで先程の話しに戻りますがラーフより船の武装強化を依頼されたのですが如何が致しましょう。取り敢えずラーフⅡ世の諸元データをお送りいたしますので検討をお願いいたします。どうにもバクーンが随分と手を抜いた船らしく、逃げ足早く兎に角速く飛べる……それだけの船のようですね]
ハコの横に新しい空間モニター表示が次々と追加された。
ラーフⅡ世の諸元データがこれでもかと空間モニターに乱立し並べられていく。
「……現地改修って事でいいのかな? ウ~ン……どれどれ……」
あ~、バクーンの他にコア船を弄れる人が居なかったんだね、把握。
バクーンでも直接のコアの調整はしてないみたいだね、ラーフ二世は出力に制限掛けて今の船体に無理やり載せたみたいだ。
ウ~ン、そうすると村のナノマシン調整ドック使うしか無いかな~。
このまま木星の反物質生成プラントで改修したほうが早そうだよな~。
地球まで来てからだと色々と面倒そうだし……。
[釘を刺すようですが、ケレスはまだご両親と銀河さま達以外には身内にも秘密ですからね]
「ハイハイ、分かってますよ~」
今のラーフⅡ世の諸元をざっと見ると、次元転換炉のエネルギー転換効率は7%ほど、これではストレス溜まるだろうね~、常時アイドリングから半クラッチぐらいでとろとろ走ってるスポーツカーとか想像できないよ。
空間拡張は元々オミットされてて、武装に回されていた出力を大幅にカット、ラーフは現在の船体の制御と有り余るコアの出力制御しかしていない状態っと、普通に出力上げると船体が分解する罠ですね。
これ人だったら、体中雁字搦めにされて指先しか動けない状態で、プールを泳がされてるオリンピックの水泳選手みたいな……、よく我慢してるよね。
随分と長い間、凍結処理されてたらしいから、船体動かせるだけでも気晴らしぐらいにはなるのかな。
ラーフⅡ世の要望は、安全と機動力を担保した上での武装の追加ですか……、元が弩級戦艦だし使われていないパワーソースは93%、足に20%、シールド出力20%も振っとけば何が来ても怖くないんだけど、今の船体が戦闘艦じゃないから華奢で振り回せないし、それに武装載せたいのね、そうですか。
デブリ用のレーザーくらいじゃ満足できないと、フムフム……目くらまし用のと時間稼ぎ用に10%ぐらい振って陽電子砲でも載せてお茶を濁すって言う事もできるけど……、これでも50%使用するから普通の200m級としたら相当なもんのはずなんだけど、どうしようかな~。
武装したからって、逃してくれる奴らばかりじゃないだろうしね~。
小型宇宙船一隻じゃ返って反撃が大きくなるんじゃないかな~、宇宙海賊なんていうのも居るみたいだし。
上手い事、今の船体をダミーに亜空間にまったく同じ艦橋と船室用意しといて、乗員にも分からないように安全なコア船に転送、ホントの武装した船体でパワーを100%使える様にした奥の手を隠しておくって言うのはどうだろう、ラーフが転送するタイミングで上手く調整してやるしか無いだろうけど。
襲って来た奴がいたと仮定して、見掛けより手強い船をやっとの思いで黙らせたら、殻を破って超弩級戦艦クラスのエネルギー量の戦闘艦が無傷で出てきたら、襲って来た方は涙目だよね、クククッ。
でも、外側だけと言っても壊されるの前提の船を作るのも嫌だよな~。
どうせダメージコントロールは、ラーフが全部自分で出来るようにオートワーカーで無人化するんだけど、その辺のノウハウはラーフⅡ世には無いよね。
今の船体には、清掃用のドロイドが10台しか乗ってないし、簡単な応急修理も無理なんじゃ無いかな~これ。
戦艦だった時は、いっぱい人が乗っててダメコンしてたのか~、偉い人は人使ってなんぼなんだね。
うーん、今までの船の補強と武装化は1週間もあればなんとか……、コアを移す戦闘艦どうしようかな……。
「ハコさんや、うちの護衛艦に予備のパーツってどの位残ってたっけ?」
[予備の護衛艦2隻のほかは全て予備パーツの状態ですね、10隻分はあるはずですよ]
「この予備の2隻も使っていいよね? みんなで自分の船は随分と弄り回してたけど、俺がいじるとどうなるか知りたいだろうし、それにしてもこの予備パーツて半分は皆んながカスタムして出た余剰部品でしょ、どんだけ弄り回したの?」
[オ~ホホホホッ、あの時は皆んなタガが外れていましたからね~]
「心配だな~、後でみんなの船の諸元も見せてよ。強度とか大丈夫~? なんかさ直接聞いたんだけど『秘密です』って教えてくれないんだよね」
[安全マージンはしっかり計算してありますし、自壊してもあの子達の船は基本リモートコントロール船ですからね。以前のアルキオネの様な無様は晒さないようにちゃんと対策してありますよ]
[お母様、その話はもうしないと仰言ったじゃないですか、……もう……。マスター、あんな事は今後絶対起こしませんからご安心ください]
「マーマー、失敗は成功の母だよ。次に活かせれば良いのさ。アルキオネも拗ねないで、俺を手伝ってね」
[……私も手伝う……]
「タイゲタも手伝ってくれるの? ア~暇なのか。ケラエノがやり過ぎて一気に外敵が減ったからね~、それじゃお願いしようかな」
二人も手伝いが居れば随分と捗っちゃうな~。
取り敢えず、新しい本体は二回り大きくして、この際デザインはこっちに任せてもらいましょうかね。
武装の陽電子砲は可動式のビット的なので良いかな~、今の船体って細身の鶴ッポイし足は早そうだけどね~、補強だけしっかりして下手に直接船体に武装すると壊された時に船体の方に影響出るしダメコンも大変だからね~。
普段は羽に引っ付いてて、攻撃する時は浮き砲台みたいに一定距離はなして使えば全面カバー出来ていいよね。
エッ、タイゲタは武装を一部これにしたい……。
良いけどタイゲタの船はもう十分に武装在るんじゃないの……、エッこれならもっと付けられる……ウ~ン確かに、マ~良いか。
ビットは、色々と使えそうだよね、遊撃機として使っても良いし、どうせ無人機なんだから特攻させても良いし、鳥型の船だからビットの形は矢羽ッポクまとめてと……。
「それじゃタイゲタには、強化用武装の羽型ビットをお願い。アルキオネは、護衛艦のジェネレーターから反物質反応炉外して次元転換炉Bタイプに仕立ててよ、補助エンジンとして使うから、プレアデス・アークⅡ世の時に手伝ってもらったから出来るよね?俺は全体デザインとバランス、キールの設計を始めるよ。護衛艦の2.5倍の大きさだし、芯に成るところは寄せ集めって訳に行かないもんね」
[[了解しました]分かった……]
さて、どんな船が仕上がるかな〜、クククッ楽しみだ。




