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1-4-04 記憶との邂逅…継承と昴のぼやき 21/5/20

20210520 加筆修正

5717文字 → 6026文字




 昴の通信通り、南極に開いたゲートよりケレス内部へ入ったハコ達は、ケレスの核であるコントロールセンターの造船用桟橋に入港したのだった。

 ケレスのコントロールセンターは、直径およそ100Km程も有る人工の構造物だった。

 そして、其処は運斬技牙の墓所であり、過去のライブラリーの残された図書館だったのだ。


 ダダダダダダダア~~~、ヒッシと俺に抱きつく母さん。

 メイド姿のハコ達とガードスーツ姿の銀河達6人をぞろぞろと引き連れていた。

 俺は今、母さんに抱きつかれて身動きが取れない。

 ギシギシッ、戦闘用スーツが軋んでる……チョット待って母さん。


「昴~ゥ~、どこも怪我は無い?」


「ギブギブ、落ち着いて母さん、大丈夫だよ怪我なんかしてないから……」


[否定。相当の精神疲労と筋肉疲労が認められます。覚醒直後の暴走による遠距離テレポートと長時間の肉体強化(ブースト)の影響です。速やかな休養が必要です]


「看病は、私に任せて!」

「銀河ネエ、ずるい! 私も……」

「まっ、生きてりゃ良いさ♪」

「ホッとしました……」

「……良かった~……」

「昴にいちゃん、大丈夫?」


「ハコ~、あまり過激な事を言って皆んなを興奮させないでよ~。母さん、とにかく落ち着こうよ、ねっ! 健太、おめ~な~……」


「分かったわ。それでここの説明は、してくれるのよね~、昴!」


「俺もまだ来たばかりなんだ、一緒に聞きにいこう。管理人、案内を頼むよ。それと、出来れば普通に呼吸出来るようにしてくれないかな」


《了解いたしました。施設を休眠状態から通常稼働へ復帰いたします。継承者の生体情報の提供をお願いいたします》


「オイッ、イキナリ態度が変わったな……。分かった、ハコ頼むよ」


[肯定。銀河連合通常プロトコルでデータを転送します]


《ほうほう、これは本当に懐かしい。ここが 放棄されて以来でございますな、このプロトコルでの会話は……》


 なんか召使いの様な対応だ。

 聞こえてくる声も初老の執事の様に聞こえる。


「管理人って言うのも変かな……、セバスにしよう、今日から君はセバスチャンだよ」


《拝命いたしました。只今より(わたくし)はセバスチャンと名乗らせて頂きます》


 造船用の桟橋からは、10人乗りのエアカーに乗せられてコントロールセンター中央部まで30分ほどを移動した。

 ハコ以外は、エアカーの後ろを飛んでついてきている。

 それでどうしてハコは、俺の膝の上にいるのかな?


[肯定。マスターがまた跳ばない様に重しが必要かと……]


 俺は、ス~と視線をそらした。


「あんたが跳んで消えた後、この子も大変だったんだからね。淡々と指示出してるから、落ち着いてるのかと思いきや、トチるはコケルは内心テンパっていたらしくて大変だったんだから、ホント!」


「ハコさんがコケるとこ、初めて見たかも……」

「「「うんうん!」」」

「動きがちぐはぐだったな!」

「………」


[否定。希美さま、そして皆さん。今その話は必要無いかと……、またマスターが暴走したら跳んで行かないようにシールドを張りますので、密着しております♪]


《ホッホッホッ、仲がよろしい様で大変微笑ましいですな。マスターはサーヴァントに好かれているようで大変よろしいです》




 ◆




 ここがコントロールセンターの中心?

 墓石のようなモノリスがズラリ並んでいる。


「セバスチャン、ここはなんだ?」


《ここは、運斬技牙(ウンサンギガ)一族の歴代継承者のライブラリーです。やがてマスターの記録もここに残されますが、それよりも前任者のメッセージをお受け取り下さい……》


 一番手前に有るモノリスが、迫り上がりほのかに光りだした。

 そして、手前の空間に映し出されたのは、小柄な黒髪の女性だった。


【何時の日か、ここに戻って来るだろう最初の子孫に、我らの全てを伝え残します。私は、最後のクリエイトマイスター、エンリル。天帝の手先となった同族、マルドゥークの裏切りにより、謀反の罪を着せられた運斬技牙の一族は、その権能を奪われたのち主星ニビルに幽閉されてしまいました。かつて銀河の高位知性体をまとめ上げ、天の川銀河連合を創設せし十二種族、そしてその頂点に立ちし三種族の補佐を務めし我ら運斬技牙。星を渡る船を作りし我らを、天帝の手先となりその出世欲と我欲の為に一族を裏切ったのは、天帝エアと一族の間に生まれたるマルドゥーク。保護惑星テラに逃亡したマルドゥークは、保護されし我らの子等に間違った支配を行い、神として君臨しています。何とかマルドゥークの暴挙を止めようとしましたが、天帝は我らの幽閉だけでは飽き足らず主星諸共の破壊に及びました。月に逃げ込めた僅かな生き残りも残すところ私一人となりました。マルドゥークは、多種族とのハイブリッド、子孫は残せません。テラにはマルドゥークを追って我が夫エンキを差し向けました。エンキはテラの子等に我らの因子を与え、子孫として生き残るでしょう。そして何時の日か、ここにたどり着く事を信じて、無限ドックを休眠させて残します。権能を剥奪された我らでは、その機能を1000分の1も使うことは出来ず宝の持ち腐れでも、ここまでたどり着く事が出来た者であれば、使いこなせる事でしょう。ここをどんな事に使っても、それは貴方の自由です。個人に託すには過ぎたる力、使いようで神にも悪魔にも成れるでしょう。願わくば、皆の幸福のために使われることを切に祈ります。そして最後に、貴方の未来に幸多からんことを…。ありがとう、スバル】


 エッ! メッセージが終わった途端に、俺はバタンと白目を剥いて引っくり返った。


[[[[[マスター!]]]]]

「スッ! 昴ゥ~」

「「「「昴ちゃん!」昴兄ちゃん」キャー」!!」

「昴、どうした?」

「昴兄ちゃん!」


 この時、左手の指輪を媒介に俺にだけメッセージと共に伝えられた40万年に及ぶ情報の重圧に、俺の意識は呆気なく押しつぶされたのだった。

 それは、この一族が積み上げてきた歴史であり、技術の試行錯誤から生み出されたオーパーツの数々だった。


 実際に使用されれば銀河やこの次元さえ消し飛ぶような物から、痛くない歯の治療法まであらゆるジャンルに渡って積み重ねられた技術技法、材質とその製法、実は現在の銀河連合を支配する全種族の成り立ちに、何かしらの関わりを持っているらしい事などなど、『ああ、これは消されるワ♪』と、納得してしまえるだけの理由が一気に俺の脳みその中を通り過ぎていった。




 ◆




 それから、俺が気がついたのは三日後、医療カプセルの中だった。


「知らない、天井(カプセル)だ」


 なんて、お決まりのセリフも素っ裸では()まらない……。


《お目覚めですか? マスター。お着替えはこちらにご用意いたしましたので、どうぞお着替え下さい》


 !? ……誰……このナイスミドル……執事?


《私はセバスチャンでございます。ハコ様からサポートAI用の汎用ボディーを頂きましたので、私なりにアレンジしてみました》


「嗚呼そう、良かったね。それ、君にも使えるんだ?」


《ハイ、マスターのお使いになっている技術は、運斬技牙の基本の理にかなっております。ほぼそのままで転用が可能でした。流石は後継者となられたお方の作品です》


 うわっ、最初の頃の受け答えとは雲泥の差。これ、ほんとに同じ人格か?


「セバス、俺はどうなったんだ? 母さん達は?」


《マスターは、継承(けいしょう)の儀による圧縮された記憶(ライブラリー)に意識を飛ばされてしまいました。いい具合にリミッターが働いてブレーカーが落ちた、と言ったところでしょうか。その後、医療カプセルの中で3日3晩お眠りになっておりました。通常、継承の儀をお受けになった方は一月ほど寝込まれるのですが、流石、マスターは歴代とはデキが違いますな。3日で目を覚まされたのは、最短新記録でございます。ハコ様達は、ここのシステムを把握するとおっしゃいまして各施設に散っております。お母さまの希美さまは、ライブラリーに籠もられたまま出て来ておりませんが、マスターの目が覚めた事をご連絡しましたので、追っ付けこちらにいらっしゃると思われます》


 プシュ~、スライドドアが開いて母さんが駆け込んできた。


「昴、ちゃんと意識は有る? 私のこと覚えてるわよね?」


[マスター、脳に異常はありませんか? この馬鹿のお陰で危うくマスターを洗脳されるところでした]


「「「「昴ちゃん」兄ちゃん」くん」」

「おう、生きてるか~?」

「大丈夫?」


《洗脳とは酷い言われようですね。あれは正式な継承の儀で、ここを預かる者は例外なく受けねばならない通過儀礼なのですよ》


[否定。予告もなく危険であるかもしれない処置を行うなど言語道断です。マスターが規格外だったから良かったものの、廃人になっても可笑しくないだけの情報が一気に脳に流れたのですよ。少しは反省しなさい!]


《ほほほっ、これは失礼いたしました。私も1万年ぶりにお帰りになられた一族の方々を前に、この機を逃しては一大事と少々焦っておりました。(いささ)か配慮が足りませんでした。大変、申し訳ございませんでした》


「それで、ここは使えそうなの?」


[肯定。この施設は言ってみれば、運斬技牙一族の技術と歴史の集大成とも言える施設です。権能を剥奪される前には、銀河連合の技術の深奥を極めていた場所と言ったところでしょう]


「すごいわよ昴、私がアクセスできる情報だけでも、地球を一端の星間国家にするだけのものが揃っているわ。生命の発生から強制的な進化、文明の発展を見るためのシミュレーションを実際にやってみたり、伊達に創造の神を名乗るだけ有るわね。肝心な所はあんたしかアクセクス出来ない様にロックが掛けてあるけど、こんなの1つでも地球の政治家に見せたらヒットラーいいえ狂った神が何人生まれてくるか分かんないわ。くわばらくわばら……」


「うん、俺も強制的に見せられたからね。有る意味、今の地球人も似たような事はしてるけど、ここまで行くと正気の沙汰を疑うっていうか、嗚呼メンタリティーが全然違うんだって納得もしたよ。行き着くところまで行って、気がついた時にはほとんどの種族の暗部を覗いちゃったもんだから、邪魔になったのかな~って思うほど……。多分、天帝エアは自分の息子にその辺を纏めさせようとしたんだろうけど、息子のマルドゥークはあまりの内容に野心の方が勝っちゃったんだね。天帝は、息子の歯止めが効かなくなったので、一族まとめて闇に葬ったってところかな……、肝心のマルドゥークにはまんまと逃げられて……」


《当たらずとも遠からずといったところですな。尻に火のついたマルドゥークが一族を囮にして、自分はテラに逃げ込み、エンリル様に成り代わってテラを支配してしまいました。兎に角当時は、混沌を煮詰めた様なありさまで、後手後手にまわっておりましたので、ここに逃げ込めた一族もわずか数十名というお粗末な次第でした。結局、主星の崩壊に巻き込まれたここも、半壊状態でしたし手足をもがれたような状態の一族には為す術がなかったのですよ》


[マスター、やはり速やかに地球から逃げ出すか、迎撃する算段をしないと我々には破滅の未来しか無いという事です。運斬技牙一族が生き残っているとわかったら、またバクーン達のような始末屋が来るでしょう]


「これ、公にしたら・・国家も宗教もひっくり返るよね?多分」


「ひっくり返るわね!」


[肯定。間違いなく!]


「「「「昴ちゃん」双葉は着いてくよ」あた…」私も……」

「お前と居ると退屈しね~な~♪」

「???」


《ホォ~ホッホッホッ♪》




 テラに逃げ込んだマルドゥークは、まず創造神エンリルに成り代わってエンリル教を乗っ取った。

 マルドゥークの言い分はこうだ。

 エンリルは、創造神だがどうしようもない乱暴な神であり、悪神である。

 神と(あが)めるならば自分を(たた)えよと、信仰の矛先を自分に向けさせた。

 マルドゥークは、正義の英雄神であり善神であると当時の地球人類に刷り込んだ訳だ。

 本当に、エンリルはいい面の皮、泣きっ面に蜂と言った所だよね。

 エンリルを封印した地を冥界としたようだけど、そうするとケレスが冥界ってことになるのかな。

 マルドゥークを追ってきたエンリルの夫・エンキは、女神ニンフルサグとの間に女神ニンサルを作った。

 そして女神ニンサル()との間に女神ニンクルラを作った。

 さらに女神ニンクルラ(孫娘)との間に女神ウットゥを作り、ウットゥ(ひ孫)との間に8人の神を作ったらしいんだけど、近親相姦と言うよりコレ絶対交配実験だよね。

 後にエンキは繁殖・豊穣を司る神とされているところだけど、試験管ベビー作りすぎじゃね。


 そして女神ニンフルサグだけど、(のち)に女神ニンティとなり後世(こうせい)フリル人の女神ケヴァとなり、旧約聖書・創世記でエヴァと読み替えられたみたい。

 とするとエンキがアダムって事になるのかな、禁断の果実(交配実験に依る運斬技牙の因子の付与)とすると、話の筋が通るんだけど。

 怒り狂ったマルドゥークは、エンリル神の名をかりて、当時の地球での基地(エデン)よりアダム(エンキ)エヴァ(ニンフルサグ)を追放した。

 アダムとエヴァは、当時奴隷として作られた地球人類にまじり交雑する事で子孫を残した事になってるけど、この辺は五里霧中……。

 これが、今の地球人類の捻じ曲げられたルーツであり、シュメール人はその後、宗教や神と讃えられるところには、マルドゥークの関与した情報で捻じ曲げられた信仰がはびこる事となる。


 どうすんのコレ?

 下手に騒いだら、宗教関係者は発狂するよ。

 それにしてもマルドゥーク、貴様はうまくやりやがったな。

 一番美味しいとこ持っていった感じだ……そしてとびっきりの(くず)だな。

 幸いにしてマルドゥークには、交配する力がなかった。

 エンリルから奪い取った『天命の粘土板?』は、寿命は伸ばせても自分の遺伝子を変革することは出来なかったらしい。

 コレって延命調整だよね? 技術者(笑)かよ。

 その後、旧約聖書ではマルドゥークは悪魔、悪神として取り扱われているから、この辺でマルドゥークの支配から解放されたんだろうね。

 マルドゥークが居なくなって、シュメール文明が世に出るまでの、およそ四千年間はマルドゥークが支配していたってことかな……流石長生き。


 未だに解読が済んでいないシュメール文書だけど50万枚にのぼる粘土板は、一部散逸しちゃってるけど旧約聖書の元になったとも言われているしね。

 今更済んじゃった事は、どうしようも無いし、ここから巻き返すって言っても、俺は別に神様になりたい訳じゃない……。

 高位種族の裏の事情を知ってるのは、今のところ記憶を受け継いだ俺だけ……。

 でも、ケレスのライブラリーと継承システムが有る限りこの記憶は引き継がれていく事になる。

 絶対に消しにかかってくるだろコレ、ドウスル……。


1,対抗して戦う……敵戦力が分からない時点で詰んでる

2,逃げ出す…………残り時間がどのくらいか検討案件

3,和平交渉…………やるだけ無駄かな?


 一番現実的なのは、2番の逃げ出すだけど……天の川銀河連合の支配の外って言うと、やっぱり別の銀河に逃げるしか無いのだろうか?





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