1-1-02 宇宙人の贈り物…蒼いクリスタル? 23/5/24
加筆修正 20210421、20220714、20230524
3442文字 → 4146文字 → 4565文字 → 4952文字
俺の掌に乗っているのは、バクーンの置き土産だ。
見かけは、20cmぐらいの四角い碧く透き通ったクリスタルの様な物体だった。
重さは、およそ500gくらいだろうか、見た目ほど重くは感じない……。
透けて見えるクリスタルの中心には、5cmくらいの黒銀色の卵の様な物が見える。
そして、正6面のキューブの一つの面には瞼を閉じた目(固く閉じられた一ツ目)がレリーフされている。
バクーンの説明だとこのキューブは、生きているらしい。
目が覚めたら勝手に自分で説明を始めるから『あとは、お互いに上手くやってね』と云っていた。
「何だこれ? 」
まぶたの所を擦ってみたり、ひっくり返して裏(どっちが裏か表か分からない)を見たりしていたら、いつの間にかさっきまで閉じていた目のレリーフのまぶたが開いて、金色の瞳がギロリッと僕を見上げて声を掛けてきたんだ。
[本管制ユニットは、パーソナライズの初期条件をクリアーいたしました。恒星間万能型移民船・構築ユニット〈方舟〉の孵化を開始いたします]
「エッエッエッ! 君、喋れるの?」
[肯定。私は、当ユニット〈方舟〉の管制自我意識プログラムです。ユニット〈方舟〉の管理育成、進化発展、船内の環境管理、航行制御から乗務員の安全で円滑な業務生活や御利用者の快適な環境を管理管制いたします]
「ふ~ん、君って凄いんだね」
[肯定。……お尋ね致します。貴方が私のマスターですか?]
「ウ~ン、多分そうなのかな~? バクーンは、君を僕にくれるって云って渡してくれたしね。俺の名前は、天河 昴、地球人で今は10歳だよ」
[肯定。天の川銀河連合・宙域調査部・特別監査官 &%$#$w-bakun-%~$!&%<>LHG~よりユニット〈方舟〉の譲渡要件を確認いたしました。現在より地球人、アマカワ スバルをマスターと認識し記録されます。これらの登録情報は、誰であろうと変更することは出来ません。では、ユニット〈方舟〉の孵化を開始いたします。マスターの生体組織の登録とユニット〈方舟〉との生体リンクを開始する前に私に名前をつけてください。こちらも変更は出来ませんので良くお考えになってお付けください]
「君の名前か~? さっき方舟って聞こえたし……『ハコ』にしようかな!」
[肯定。現時刻より当管制自我意識の名称は、固有名『ハコ』となりました。良い名前を頂きありがとうございます。これより当管制自我意識『ハコ』の強制進化プロセスに基づきユニット〈方舟〉の孵化を開始いたします。そして、私の存在が潰えるまで未来永劫お仕えいたします。どうぞよろしくお願いいたします、マイマスター昴]
「こちらこそ、よろしくおねがいします!」 ペコリ……
この同時刻、天文観測所では、これまでの一部始終を隠しカメラで見ていた母さんが悲鳴を上げて気絶したらしい……。
◆
「ハコは、こんなに小さいのに宇宙船ってホントなの?」
[肯定。私は、恒星間万能移民船・ユニット〈方舟〉です。これよりマスター昴と生体リンクを行い孵化致します。現在の通常状態で完全稼働状態に至るには、地球時間で30周期ほどが必要になると思われます。成長期間は都度進化を加速することである程度まで短縮する事が可能だと推測いたします]
「そっか~、宇宙船って言ってもまだ卵なんだね。それで、俺と生体リンクすると君は宇宙船に成れるの? 」
[肯定。マスターは、そのまま私を両手で持ち上げて顔の前で保持してください。少しチクッとしますが危険は一切有りませんので驚かないでください。それでは逝きます]
グサッ。
いきなり昴の両の掌を突き破って黒いトゲが生えた!
血が吹き出して…は、いないけれど『ハコ』が言ったのと字も違うぞ!
「痛ッツー! グサッと来たよ!、グサッと~」
[DNAの採取に成功、コーディネート用ナノマシンの強制投与を完了致しました。掌に聖痕の刻印を確認しました。これ以降は、マスターとの脳波及び超空間通信により常時リンクが維持されます。ナノマシンによりマスターへのコーディネイトが開始されます。ナノマシンの増殖及びコーディネイトの過程にはかなりのカロリーが消費される予定です。生体のコーディネイトの過程において若干の発熱及び意識の混濁が予想されます。コーディネイトにより生体強化及び頭脳領域の外周に強固な外郭と副脳が形成されます。コーディネイト終了後72時間の睡眠学習により、当ユニットの仕様及び性能と今後の実現可能な進化過程の説明がなされます。マスターは、これより30分ほどでナノマシンの活動による発熱とともに昏睡するものと推察されます。水分と基礎栄養素を十分にとって安全な所に移動してお休みください。生体コーディネートの全行程が終了するまでおよそ200時間のお別れです。『ハコ』は、マスターのDNA情報を元に孵化後すぐ、船体の構築と最適化、自己進化プログラムを開始致します。当ユニットはその間、自閉モードに移行いたしますが、マスターにとってより良い船となるよう努力することをお約束いたします。では、暫しのお別れです。良い睡眠を……]
「エッ~! チョット待ってよ、発熱と昏睡って……生体のコーディネイトってなに? 俺どうなっちゃうの? う~、こうしちゃいられない。水分とカロリー取んなくちゃ……。掌の傷は、星型の痣になってるし……これ聖痕だっけ? ナノマシンっていったい何なんだよ~~!!!」
その後、俺はリビングで無残な姿でひっくり返っているところを、母さんに発見され保護されたらしい。
その時の俺は、カロリーメイトを口に咥え、ひっくり返したポカリ○エットに溺れ、陸にうちあげられたクジラかアザラシの様にリビングでのびている所を保護された。
そう……保護されたのだ。
大事なことなので2回言っておく。
この時、俺の原因不明の昏睡と普通ではない高い発熱に、両親はかなり慌てたらしい。
俺が意識を失ってからまだそんなに時間は経っておらず、倒れて直ぐぐらいだったのだろう、命の心配はなかったらしい。
朝方だったのもあって タイミング良く両親が帰ってきたのが幸いした。
俺って、かなりの強運!
あの時の俺は、『ハコ』がスリープモードに移行して直ぐに大慌てで栄養補給をしている真っ最中に意識を失い昏睡してしまったらしい。
そしてその元凶となった『ハコ』は、俺のベッドのヘッドレストにチンマリと居座り置かれていたのだった。
俺は、その後およそ5日間の発熱と3日間の昏睡、合わせて8日間をベッドの上で過ごす事になった。
俺が目を覚ますまでの間、両親は交代で付きっ切りの看病をしてくれたらしい。
ここは、辺鄙な山奥だ。
病院や診療所なんて物は、近くには無い無医村でもある。
父さんは、ドクターヘリを呼ぼうとしたらしいが母さんが俺を医者に見せることを躊躇い、強硬に止めたらしい。
母さんは、青い顔をしながらも『昴は、絶対に目を覚ますから…大丈夫だから…』って言い張ったらしいんだ。
それでも、俺が目を覚ました時には、母さんに抱きつかれて思いっきり泣かれた。
俺も一緒に号泣したのは、秘密にしておいてほしいんだけど駄目だろうか……。
『ハコ』のナノマシンによる俺の生体コーディネイトは、元の体の老廃物等も一緒に分解してしまったらしく、お肌はツルッツルで(10歳児だから元からツルツルだけれども)一週間以上風呂にも入ってない様には見えなかった。
俺の意識がなかったからだろう、紙おむつをされていたのにはビックリしたが、排泄などは一度もなかったらしい……でも、見られたのは恥ずかしいぞ。
俺はベットに横になったまま両手のひらを顔の前で天井の灯りに翳し、クッキリと浮かび上がった星型の痣を見ていた。
するとどうだろう、聖痕に関する情報が次から次へと湧いてくるのだった。
これが睡眠学習による情報だと言う事は、なんとなく認識した。
分かってしまうのだ。
ア~、これは早速人間辞めちゃったかもしれないな~と今さらながらに思ったのだった。
◆
私は、天河 希美、昴の母親です。
普段、昴を家に一人きりにしておくのは心配だし心残りだったけれど、今の仕事を続けるのは、私達夫婦の結婚する前からの夢だったし、昴も応援してくれていた。
だからいつも側についていて上げられなくて昴が辛い思いをしているんじゃないかと感じてもいたの。
私は、念のために仕掛けておいた隠しカメラから常時送られてくる映像を仕事の合間に眺めながら、いつものように電波望遠鏡から送られてくるデータの整理と観測座標のタスク処理を進めていたわ。
今日は、小学校の終業式で明日からは夏休み。
今夜は、昴がさも当然の様に望遠鏡を庭に引っ張り出して来たのを確認して、やっぱり徹夜するのだろうなとその様子をライブ映像で見ていたわ。
10歳児とは思えない慣れた手つきで天体望遠鏡を用意する昴を見ながら、『やっぱり私達の息子よね~』と、いつものようにニヨニヨとしていたのよ。
でもこの夜は、何時もとはちょっと様子が違っていたわ。
はじめの内は、昴が隠しカメラを見つけて私にイタズラしているんだと思っていたの。
自慢じゃないけどうちの昴は、その辺にいる10歳児とは頭の出来が違うから、CGを駆使してエイリアンとの未知との遭遇を演出しているのかしら~ぐらいに思っていたのよ。
流っ石~、我が息子♪
真に迫った凄いCGだわ! などと思っていたら、目の前の電波望遠鏡の監視モニターの受信データにリアルタイムでノイズが入ってくるじゃないの。
どこのバカがこんな出力の違法電波流してんだろうとノイズの分析を始めたら、電波の発信源がかなりの近傍で方角しか解んないけどって、これうちの方角よね……。
ドキッとして、とても悪い予感がしたわ。
サ~と音をたてて血の気が引いていくのが自分でも分かったぐらいだもの。
震える指先で、急いで自宅のワークステーションをリモートで立ち上げて、モニターに設置された会議用のカメラの映像を拾ったら、あらヤダッ、バッチリと現場が映ってるじゃないの!
私は、それを見て悲鳴をあげて気絶してしまったらしくて、私が覆いかぶさっちゃったPCの映像は、そこで切れてしまっていたんだって……。
朝方までPCに突っ伏して寝ていた私は、譲さん(夫)にゆり起こされて気がついたの。
その後パニックになるのを必死に抑えながら、急いで訳の分からない譲さんを引きずる様にして家に帰ったわ。
案の定、昴は高熱を出して虫の息、とても酷い状態でリビングに倒れていたのよ。
物を詰まらせて窒息してもおかしくない体勢で倒れていたにもかかわらず、最低限の生命維持はされている様子だったわ。
だけれど、呼吸も浅くひどい高熱を出していて譲さんがドクターヘリを呼ぼうと言い出したのにはちょっと困ったわね。
この状態で昴を医者に見せるのは、絶対に後で不味いことになると思ったからよ。
だけどこの時私は、昴の両手の星型の痣を見て確信したの!
『昴は、絶対に目を覚ますから…大丈夫だから…』と譲さんを宥めすかして昴をベッドに放り込み、私達に出来ることが無い事は分かって居たけれど、それでも寝ずに看病したのよ。
昴と一緒に転がっていた例の蒼い物体は、いつの間にか勝手に昴のベッドのヘッドレストに移動していたわ……窓から投げ捨ててやろうかと思ったのは一度や二度では無いと言っておくわね。
後から何度も確認した隠しカメラの録画映像と昴と碧いキューブとの会話らしい音声で、200時間というワードを確認していなければ5日間の高熱と3日間の昏睡というこの8日間を、私は耐えきれなくて発狂していたかもしれないわ。
8日後に、昴は無事に目を覚ましたけれど、タダじゃ置かないんだからね。
でも……フッと昴の外見をよく見て思ったんだけれど、これは無事って言えるのかしら?
絶対に別の生き物に進化しちゃってるわよね~。
髪の色なんて蒼みがかった黒で、瞳の奥が時たま銀色に光るし、小太りだった体がとってもスマートになって引き締まって芯に鋼でも入った様に見えるんだけれど……。
我が息子ながら、存在がぶっ飛んじゃってるわ。
譲さんには、どんなふうに説明したら良いかしら。
兎に角、今後の昴からは今まで以上に目が離せなくなったわ。
どうにかして監視の目を増やさなくっちゃ!