5-4-02 遭難44日目
飛んでもなく遅筆に陥っておりますが今年もよろしくお願いします。
2150文字
その日、天の川銀河と邪神との接触面との反対側に異変が生じていた。
これまで精力的に天の川銀河側に攻め込んでいた邪神勢力の外側、一番活発な部分に散発的な停滞が出始めたのである。
その犯人は、邪神の眷族が蔓延る空間を我が物顔で飛び回り毒針を刺して回っていた。
触手に捕まることもなく、次々とおぞましい邪神の眷属の間を渡り歩いていたのは、どう見ても昆虫・大小の蜂の姿だった。
飛び回る蜂を捕まえようと振るわれる触手も、その蜂の毒針に一刺しされると一瞬で縮み上がって動きを止めていた。
毒が広がらぬように血流を止めようともその毒は、生き物の様に勝手に傷口内部で増殖を開始し邪神の眷族体内で独り歩きを始め、やがては癌細胞のように全身に広がっていった。
この状態になると如何に邪神の眷属であってもその体を自由することはできず、最早生きた土塊に等しい存在へと成り下がるのだった。
更には、感染した個体を取り込んだ個体も同じ運命を辿っていた。
習性としてだろうか、活発な個体ほど周りの物や仲間をその身に吸収し大型化しようとする傾向にあったので、感染は見る見るうちに進むことになったのだった。
しかし、銀河同士の接触同化の範囲は、あまりにも広大である。
銀河全てに行き渡らせるには、これから数万年は掛かるだろうと予想された。
「取り敢えずこれで敵の足は止まるだろうから、天の川銀河内部に入り込んでる奴らに集中できるよね」
[肯定。これまで足止めに掛かっていた戦力を銀河内部の掃討に回しましょう。それでこれから増えてゆくデクにした個体はどうしますか?]
「アストラルの浄化が可能なら邪神の軛から開放したいね。神とは言ってもあれは、歪んだ進化の末に出来上がったものだろう。ソトちゃんからの事情聴取を紐解くと見えてくるのは、どうせどっかの誰かさんの嫌がらせなんじゃないかと思うんだけどね。しかし、ソトちゃんの話だとあそこまで悪化するのに4億年以上も掛かってるらしいんだよね、アレ。つくづく神様って気が長いと思うよね」
[肯定。神から見れば僅かな時間なのでしょう。比べる事自体が間違いです]
「銀河同士の衝突と生存競争は、億年万年単位だからから仕方がないのは分かってはいても、ついつい比べちゃうよね」
[肯定。吾々は、たかが数万年の進化しか経験しておりませんから仕方のないことです。過程を想像し結果を予想できているだけでも大した物と言ったところでしょう。褒められる事はあっても自ずから貶めることもありません]
さて、俺達が今居るのは、おおいぬ座矮小銀河の外側、銀河同士が接触している反対側の何も無い宙域である。
おおいぬ座矮小銀河を視界に収めてその向こうへ突き抜けると、そこは天の川銀河系が存在するという位置関係である。
此方側にうちの軍勢が居ないことは、最初から分かっていたがあまりにもおおいぬ座矮小銀河が無防備で拍子抜けしていた。
「ぜんぜん反撃してこないね」
[肯定。そういう指令系統が無いのでしょう。飽くまでも奴等の攻撃対象は、天の川銀河系と周辺の星系ということです]
「それじゃ今のうちにバラ撒けるだけバラ撒いとこうか。今のうちにお膳立て居ておけば後が楽だろうし、敵の数は半端な数じゃないからね」
[肯定。此方側全面に対邪神ウイルスを拡散します。実際に効果が出るまでおよそ数年~数百年は掛かると予想されますが宜しいのですか?]
「いいのいいの、むこうに抗体が出来て耐性つけられる頃にはこの戦いは終わってるからさ・・・そんなに待つ必要は無いはずだよ」
[肯定。効果が出るまで現状を維持して無理な攻勢は控える方針で良いわけですね。今後は、地元の発展に手を尽くすか、新天地の発見に時間と力を使う事になるでしょう。別の宇宙にも目処が付いてきましたしやることは選り取り見取りですよ]
「後は時間が解決してくれるから疲れない程度に頑張るさ。長期の停滞は、衰退に繋がる事になるから適度な緊張は必要だけどね。時間が有るからと現状に胡座を掻いていると座布団をひっくり返されるから気をつけないと……またどんな嫌がらせがあるか分かんないし……」
[肯定。ナイ神父対策は、厳重に行っております。次には、遅れを取ることの無いように持てる手段を全て出してでも、目にものを見せてやりましょう]
「滅ぼせないにしても、封じ込める事が出来るだけの算段はついたからね……今はこれでいいのさ」
[……意外です。片手で滅ぼせるだけの力を獲得されましたのに……]
「力を有るだけ目一杯使ってたら疲れるじゃないか。のんびりしようよ、ネェ〜」
相変わらずの怠癖は、抜けないのですね。
でもそれ以上に働いておられるのも確かです。
今後もマスターが万年寝太郎に成らない様に周りが動かなければいけませんね。
[この後は?]
「取り敢えずメイズスターに向かおう。ソトちゃんに挨拶しとこうと思うんだ。当初の予定でも挨拶に行く手筈だったしそれが順当でしょ?」
[肯定。メイズスターに向かいます]
直径800mの黒光りする球体が動き出す。
さっきまで威容を誇っていた全長2kmの巨大な女王蜂は、羽や四肢を折り畳み体躯を丸く縮めると黒光りする球体に姿を変えていた。
球体は、闇の中に溶ける様にその空間から掻き消えていった。
母さんの出産予定日まで、残り後6日




