5-4-01 遭難43日目 帰還準備の日々
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帰還跳躍用のエネルギー充填を開始してから9日が経過した。
計算上一気に太陽系へ跳ぶだけのエネルギーは、既にチャージされている。
多少の誤差もあるだろうし、跳んだ後エンプティー状態で漂流なんてのはもうゴメンである。
充填は、現在も継続されている。
転移完了したら直ぐに何かに巻き込まれる・・・ナンテ事も想定して置かなければならない。
兎に角俺達は、引きが強すぎて色々とトラブルに巻き込まれるのは、最初から織り込み済みで行動しないと行けないだろう。
なんか自分で言ってて悲しくなってきた。
ハコの巨大義体は、DSPAⅢあらためQueen Wasp、略称を”クイーン”と呼ぶことになった。
ほぼ外殻が形成されたあとでドロドロだった内蔵とも言える各機関の再配置と効率的な接続がなされた。
外殻内は、ハイブリッドナノマシンで構成されたリキッドメタルが満たされ、各種機関(器官)を内からも外からも守っている。
結局のところこの機体には、緊急時の操縦室兼司令室以外に人の居住できるスペースは存在しない。
オールメンテナンスフリーでハコが自分で調整を行う以外は、昴がシンクロして再調整を手伝うくらいのことしか出来ない。
自己再生によるところがほとんどであり、文字通りのオーガンシップ・生きた宇宙船となったのだった。
その反面居住性は、当然のように最悪であるので通常の居住区は亜空間に確保されている。
それ以外だとメインコア内に元から存在する亜空間の居住空間だが、今ではこちらも惑星規模にまで拡張が進んでおり、ハコ達の迷宮となっている。
更には、昴とのシンクロによる創造神の力で生み出された広大な宇宙空間は、すでに星系宇宙の規模を大きく外れようとしていた。
新しい宇宙とも言えるこの世界は、小規模な銀河規模にまで成長しようとしていた。
そういった訳で全長が2kmもあるにもかかわらず、隙間が一切無く余剰スペースなどほとんど無い何かになっていた。
それじゃ艦載機など積めないだろうと思われるが、その辺は亜空間が存在するので問題なかった。
先に述べたが現在のメインコア内に存在する内部宇宙には、すでに居住惑星のほか自動工場衛星や整備ドック用コロニーが多数存在する。
まだ内部宇宙内の物質密度は元素創造が追いついておらず空間内の密度は希薄のようで、資材に使用する質量物質等は、外宇宙から取り込んでいる段階だ。
内部宇宙に恒星系が誕生すれば、元素転換の効率が進む事で不足している原子などの変換も促進され満たされてゆくだろう。
ウンサンギガの使用する次元転換炉は、エネルギー量の多い高位次元から必要なエネルギーを吸い出す井戸の様な原理の永久機関であるが、分子密度の高い高位次元からエネルギーではなく質量ガスなどを持って来ることが可能となればエネルギーからの物質変換の過程を経ずに質量物質を増やすことになり、やがては原料惑星等も必要がなくなるだろう。
これにはまだまだ時間が掛かるだろう、しかし時間さえあれば実現する未来である。
随分と脱線した、話を戻すとしよう。
この9日間、俺達が暇だったかというとそんな事は全然無く、直援の無人艦や艦載機の創造を行っていた。
これは、働き蜂や兵隊蜂と言って良いものだ。
見た目も大小様々な蜂に似せて創ってみた。
大きい物では30mほどと単独で恒星間移動も可能な代物から、小さな物は4cmほどのオオスズメバチサイズで大気のある惑星活動を主にしたものまで各種10種類ほどである。
その主な目的は、敵対者への牽制と無力化攻撃にある。
数と機動力で牽制し、攻撃は毒針をひと刺しするだけである。
死傷させる事や撃墜する必要は無い。
ここで言う毒とは、相手の行動や制御を乗っ取るウイルスやプログラムを内包した自己増殖型ナノマシン細胞の注入にある。
これには俺の神としての支配能力を最大限優先するアンテナ的な機能が組み込まれている。
宇宙船や機械は元より、生体・動植物にも効果がある。
直接命を奪うことは出来ないが強力な麻痺及び洗脳に近い効果が期待できる。
現在天の川銀河系の外園で暴れまわっている邪神の眷属にも有効に機能するだけの強制力が付与されており、今の俺なら何億光年離れていても顎で操作できる代物だ。
太陽系に帰ったら敵対している勢力を片っ端から全部乗っ取ってやろうかと考えている次第だ。
[随分と悪辣な仕様ですね。洗脳中の意識は残っているのでしょう?]
「ああ、言うことを聞いていれば気持ちよくなれる。悪いことをしなければ良いんだよ。ただし、倫理観は俺のメンタルに依るところが大きいから絶対は無いかな」
[マスターが容認できない様な思考形態の生命体に対してはどうするのですか?]
「最悪は滅ぼすけど、取り敢えず眠ってもらって先送りかな。そのうち対策案も出てくるでしょ。寿命もなくなった事だし昔の文明みたいに次の世代に丸投げすることもないさ」
[肯定。確か古代ウンサンギガ一族は、地球を支配下に置く段階で旧支配者を眠らせて封印したんでしたね]
「そうそう、まだ太平洋の底の亜空間内に眠らせて封印されたままだよ。もう現在の亜空間的な封印は、有ってないようなもんだし微睡みから漏れる精神波が悪さをする事が有るみたいだよね。いつ空間の綻びから出てきてもおかしくないんだ」
[肯定。腐っても神の端くれですか、始末に終えませんね。それでですか、軌道エレベーターのアンカー作業の時に封印の上書きをしていたのは……]
「知性が無い訳でも無いんだけど欲求に正直なんだよ。今も7大欲求のうち睡眠欲を強制することで眠らせているけど外的刺激による欲求の解放は、出来るだけ控えてほしいところだよね。頭の上で戦争なんかするのは、以ての外さ」
[肯定。太平洋戦争がオーストラリア方面にまで波及していたらと思うとゾッとしますね、今頃取り返しのつかない状況になっていたでしょう。私は、マスターとも出会えずに今もバクーンの倉庫で埃を被ったままでしょうか]
「今の俺なら説得も出来るさ。でも邪神の眷属が雄叫びをあげた時は冷や汗が出たけど、まあ言うことを聞いてくれないようならデスストリームにでも放り込んじゃうけどね」
[肯定。あそこから生きて出られる保証はありません]
「初見殺しだよね、あれは…アハハハハ……」




