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5-3-10 遭難33日目、神化?

長らくご無沙汰しておりました。大変申し訳有りません。

此の春から、職場環境がガラリと様変わりまして精神的負担が半端ないです。

やっと慣れて来ましたので更新を再開しようと思います。

ぼちぼち行きましょう!

3888文字






 俺は、夢を観ていた。

 そう、見るのでは無く、第三者として俯瞰(ふかん)して観ていると言った方が正しいだろうか。


 真っ暗な空間に一人浮かんだでいる俺。

 そして俺の眼の前には得体の知れない巨大な何かが存在した。

 巨大ななにかの向こうには虚空に空いた穴だけが認識できる。

 周りの物をすべて吸い込んでいる深く底の見えない穴。

 眼の前の何かからは強大な力と朧気だが意思だと察せられる様な雑多な思いだけが伝わって来る。


『・・・嬉しい・・・並び立つ・・・成長・・・どこまでも大きく・・・強き同胞・・・まだ小さい・・・早く大きくなれ・・・嬉しい・・・』


 繰り返し伝えてくるのは、そんな思いだった。


「何だ、お前は?」


『・・・父・・・母・・・宇宙(そら)・・・時空・・・力・・・分け与える・・・創造・・・破壊・・・誕生・・・死・・・有・・・無・・・陰・・・陽・・・始まり・・・終わり・・・』


「誕生と終末の獣ってところか・・・って、ここはどこ?」


『やっと己の状況を真に認識したようだな。ここは、この宇宙の中心にある穴の手前だ。このまま穴に落ちたらもう帰っては来られない。遥かな遠い別の宇宙への出口であり入口なのだ。それが例え意識体やアストラルの様な実体を持たない物であったとしても例外なく戻ってくることは至難だろう』


「出来ないとは言わないんだね」


(しか)り。(われ)は、行き来が可能だからな。しかし、今のお前ではまだ無理だろう。向こう側に通り抜ける事も出来ずに擦り切れて無となるだろう。だからここで留め置いた。我に感謝せよ』


「ああっ、それはご迷惑をお掛けしました。ありがとうございます」


 反射的にペコペコとお辞儀をしてしまったのは日本人の性だろうか。


『小さき者よ、お前はまだここを通るには早過ぎる。もうしばらく(10億年ぐらい)修行してから出直すことだ』


「えっ、10億・・・ですか?」


『では必要な事は、もう伝わったであろう。()く帰れ!』


「チョッ、待っ・・・」


 それは一瞬の出来事だった。

 大きな黒いヒレの様なもので押し返されたと思ったら、目が覚めたのだった。

 目の前には泣きじゃくる嫁達が群がっており、俺をグルリと取り囲んで見下ろしていたのだった。


 どうやら俺は、意識を失ってから相当可怪しな事になっていたらしい。

 体が透けて存在が薄くなったり、光ったと思ったら真っ黒になってみたり、何重にもダブって見えたりと、それはもう賑やかな状況を一晩中繰り返していたらしいのだ。


 そんな事がおよそ一昼夜続き、さっき目が覚めると同時にそれまでの怪奇現象はピタリと無くなったそうだ。


 そして今、嫁達による説教は、峻烈(しゅんれつ)を極めていた。

 非常に耳が痛い、そして足も痛い。

 正座させられて足は感覚が無いほどシビレている。(コラッ、双葉。足を突付くんじゃない! ミゼーアは、膝に乗ろうとするんじゃない)

 みんな、これまで言いたくても言えなかったことも沢山あったのだろう。

 色々と溜まっていたのは、俺だけじゃなかったんだということが分かった。

 ここでやっと腹を割っての家族会議となったのだった。


 ジェニーが吠えた。


「この苦境にあって家族を守り無事に地球に帰るという事は、大変な事だ。ここに居るみんなも理解している。だが、それを旦那様が一人で背負うことはない」


 ラクシュが言葉を繋ぐ。


「家族となった私達が居るのです。何処でだって王国を築く事は可能ですよ」


 銀河がぶった切る。


「太陽系には主星もほぼ完成状態で存在するし、ドクターアンやエンリル様も居るし、セバスチャンやセントラルにオヒューカスも居るじゃない。向こうがどんな状態になっていようと実家のみんなは無事なはずよ。昴ちゃんが気を揉んでも無駄でしょ」


 双葉が傷口に塩を塗る。


「だいたい向こうに居たときは自分勝手に動き回ってて、離れたから心配です。なんていうのは独りよがりも良いところだよ。いきなり王様になったからって直ぐに保護者する必要は無いと思うな」


 裕美が呆れてものを言う。


「あんたは、『家族を信用していない』って、遠回しに言ってんのと一緒なの。少しは反省しなさい!」


 シャシがとどめを刺す。


「どうせじゃ、邪魔者が居ないこの辺境で大帝国を築き凱旋すると言うのはどうじゃ? もう何時でも帰ろうと思えば帰れるのじゃろう」


 えっ、そうなの?

 聞いてないんですけど!

 聖が説明してくれた。


「前回のデス・ストリーム突入で全ての要件が揃ったそうですよ。現在船体の全面改装に入ってます。もう旦那様抜きでも安全に航行できるそうですから、ハコさんってやっぱり凄いですよね」


 えっえっ、どういう事?


[肯定。私は、スゴイんです!]


 俺が動揺していると、これまで説教に参加していなかったハコがドヤ顔で現われたのだった。


[何にしてもマスターの顔に張り付いていた真っ黒な隈が取れただけでも私は満足です]


 リリアナが混ぜっ返した。


「本人は気が付いてなかったみたいですけれど、あれは端から見ていても酷過ぎました。何時倒れるのか気が気じゃ有りませんでしたから・・」


 えっ、俺ってそんなに酷かったの?

 全員が首を縦に振っている。

 自覚が無いにも程があると突っ込まれた。


 そして、何気に銀河が手鏡を渡してきたので覗き込むと、そこに写っているのは(ひたい)から左右の蟀谷(こめかみ)に掛けて綺麗な白金色の幾何学模様に入れ墨された俺の顔だった。

 話に聞いた目の下に張り付いていたらしい隈は、綺麗さっぱりと消え去り髪の色も若干変わっていた。

 ナンジャ! コリャー・・・。

 俺の容姿は、気絶する前から比べると随分と変化してしまっている様子だったのだ。


「また進化……いや、今回は神化かのぅ~♪」


 などとシャシが呑気に呟いている。

 どうやら額の入れ墨は神紋という代物らしいのだが詳しくは分からないらしい。

 らしいと言うのは、ハコの詳細なアナライズにも存在は確認できても詳細不明と出るらしいのだ。

 これは、ソト(・・)ちゃんやあの神父(・・)にも該当する案件であるらしかった。


「昴兄ちゃんも、晴れて人外の仲間入りか~。中身は然程変わってない気もするけど」


 変わってたまるかよ!




 ◆




 宇宙船DSPAⅢ(デスパースリー)は、その立ち位置をハコの外殻艦から巨大な儀体へとその存在を変容させていた。

 その外観は、巨大生物の何か(どう見ても昆虫なんだが)へと変え、現在進行形で変態している真っ最中だったのである。

 艦内も様相を一変していた。

 これはもう宇宙船じゃない。


 全長2km以上の銀色だった体は、時間と共に黒に近い燻し銀に変色し要所を鮮やかな金と蒼で縁取っていた。

 巨大な昆虫の様な姿、それはどう見ても巨大な(ハチ)……羽が有れば立派な女王蜂の姿であったのだった。


「随分と様変わりした様だ……と言うよりも、結構思い切ったんじゃない?」


[肯定。これは、一つの賭けでした。いままで収集してきたデータからはじき出された最適解は、この姿だと言っています。あの絶対領域に入るには、あそこで生きられる条件反射が可能な生物、生身の身体が必要であると云うことです。すなわち宇宙船の状態では無理なのだと云うことが答えでした]


「……それで自分が嫌いな昆虫を選ぶ辺りは、やっぱりハコだよね」


[肯定。昆虫は、その外骨格構造の堅牢性を笠に着て生存している生物です。単体では脆弱であるにも関わらず予想外に攻勢に出ることが見受けられます。それは、手足がもげた程度では直接生命に関わることも少なく、多数で群がる事で巨大な生物をも撃退し生存率をあげる事にあります。ある意味ではとても合理的な生物であると言えます]


「そして機械とも相性がいいんだよね」


[肯定。その単純な生体構造から多様な可動式機械のモデルとなっており、我々も情報収集用の小型端末(プローブ)に度々利用しております]


「ふむふむ……」


[単純な生体構造と堅牢性。そして注目するべきは、パワーウエイトレシオの高さでしょう。自分の体重の数倍の物を動かしてしまうほどのトルクと瞬発力を持っています。そして癪に障ることにその外骨格構造は、過酷な環境下での活動にとても向いていると言えます。ちょっと対策すれば直ぐにでも宇宙に出られるぐらいのポテンシャルを持っている訳です。過去の地球でも昆虫は微生物から進化したのではなく惑星外から来た種ではないかと言われていました。ウンサンギガが来訪する以前から地球の環境に馴染んでいたのです]


「俺は昆虫は嫌いじゃないから良いんだけど、みんなの意見は?」


[肯定。然程気にしてはいないようですね。Gだけは、やめてくれとは言われましたが・・・(わたし)の事はさておき、マスターの現状について分かったことをお伝えいたしましょう。とわ言っても既に認識されているようですね]


「ああっ、うん。太陽系が認識できる・・・って事は、このまま直接跳べるって事だよね」


[肯定。そうなります。これまでの苦労が何だったのか・・・と言いたいところではありますが、これも経験の結果だとしたら仕方のないことです。一気に跳ぶにはそれなりのエネルギーを必要としますのでまだ無理ですが、それにしても数百億光年先を認識できるって、もう人間やめてますね]


「やめてくれ、自覚してるから・・・」


 超長距離の量子ジャンプを可能にするために消費されるエネルギーは、膨大な量になるだろう。

 しかし、もう危険を犯してデスストリームを通る必要はなくなった。

 短時間(1時間くらい)なら問題ないらしいが、未だに何が起こるかわからない空間に挑むよりは安全に帰るほうが良いだろう。


 計算に依るとエネルギー充填が完了するまで およそあと9日。

 この後何もなければ、出産予定日の1週間前には太陽系に帰れる計算である


 何もなければ・・・。




 母さんの出産予定日まで、残り後16日。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 何もなければ。 ウンウン盛大なるフラグですなぁ。ある意味でそれでこそスバル君ですな。 [一言] 嫁~ズによる説教には笑ったわ。まぁスバル君は反省は5割いかないだろうけどね。
[気になる点] 誤字報告するか迷ったので、ここに書き込んでおきます。 2箇所ほど、「非道い」と書かれているところがありましたが、文脈的には「酷い」ではないでしょうか?(意図的に書かれているならすみま…
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