5-3-06 遭難28日目
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「ここは、何処だよ!?」
俺は、これまでの苦労が振り出しに戻った様な気持ちになって叫んでいた。
DSPAⅢは満身創痍、見なくても分かる。
「まーまー少しは落ち着きな。随分と予定外の所まで跳ばされちまったみたいだけど、兎に角宇宙船の状態確認と出た場所の確定はこっちでしておくからさ、旦那様は少し寝てなよ!」
ジェニーのそんなセリフが耳元で聞こえたのと同時に、俺は意識を刈り取られたのだった。
「お見事!」
ラクシュと聖がそそくさと昴を抱えあげて寝室へと運んでいった。
ミゼーアは何も気にしていないのだろう、尻尾を振りながらその後をついて行くのだった。
[肯定。マスターは精神的疲労がかなり溜まっておりました。転移事故からこっち、ほとんど睡眠を取っておりませんから当たり前といえば当たり前の状態でした]
「珍しいですね、昴さんが錯乱するのって?」<裕美)
「うーん、昔はよく『三徹開けだ~!』って騒いでたわよ」<銀河)
「その後授業中教室で居眠りして鷺ノ宮先生に廊下に立たされてたよね」<双葉)
[肯定。現在マスターは殆ど睡眠を必要としませんが流石に今回のイレギュラーは堪えたのでしょう。緊張の糸が切れてしまったものと思われます」
「仕方がないのでは……上手くすれば帰れたかもしれないと思ってたところを、強行して梯子を外されたようなものですし……ちょっとショックが大きかった様ですが……」<リリアナ)
「一人で全部背負い込むのは旦那の悪い癖だ。な~に、旦那のことだ。少し眠れば元に戻るだろうさ」<ジェニー)
[肯定。我々は今出来ることを行いましょう。マスターにばかり負担を強いるのはお門違いです]
錯乱した俺は、こうして制圧され強制的に休養を取らされるのだった。
◆
昴ちゃんは何もかも一人でやろうとする。
みんなに手伝ってとポーズを取って体裁を整えているつもりだろうけど、結局一人で全てどうにかしてしまう。
ハコさんが優秀なのは分かっているけどもう少しこっちの事も考えてほしい。
転移事故からこっち、みんな不安を抱えていたのは確かだ。
帰れないのではないかという不安、でも逆にこのまま元の次元の何もかも投げ出してみんなで面白おかしく暮らしてゆく未来が有ることも薄々分かっていた。
女とは打算的な生き物だ。
男と違って勝算のない勝負は避けるのだ。
そうやって子孫を残してきたのだから割り切るのも早い。
そして我々には、実際にやろうと思えば出来てしまうだけの力も技術も持ち合わせているのだから……。
「やっと夫婦になったんだから、もう少し私達を信頼してくれてもいいのに……」
今更愚痴を言っても始まらないがつい口をついて出てしまった。
[肯定。マスターは優しすぎるのでしょう。余計な物まで抱え込もうとするのが玉に瑕ですが……]
すかさずハコさんが会話に入ってきた。
いつの間にか後ろに……お茶の支度が整っていた。
「その御蔭で私達一族は助けられましたからね、文句などとても言えませんよ……ウフフフ」
リリアナも参戦してきた。
あれはやり過ぎだろうと思うが仕方がない、昴ちゃんだし……。
「しかし、有り余る力は周りを狂わせるものジャ。有象無象もよってくる。妾達はその防波堤の代わりをせずばなるまいよ。責任重大じゃナ~」
「シャシ様は楽しんでいるようにしか見えませんが……」
「ワハハハ、楽しくないはずがあるまい。旦那様と居るとワクワクが止まらないのジャ♪ 現に今の状況が答えじゃ、こんな経験はしたくても出来んジャろ?」
ジェニーさんが突っ込んだが柳に風だ、気にする素振りも見せない。
「まぁ、たしかに……その通りだけど……とらえ方だよね」
「フムっ、しかしここに居る者達は皆、一欠片も負担だなどとは思ってはおらんのジャ無いかな(クスクスクス)。旦那様にはその辺の機微が、まだまだ理解できておらんらしいのジャがな……」
私以外の全員がその言葉にうなずいている……えっ、そうだったの?
唖然としていた私の顔を覗き込みながらハコさんが止めを刺した。
[肯定。似た者夫婦とはよく言ったものですね。天然物は貴重ですからね、そのままの貴方で居て下さい]
「……」
絶句する私は……。
「アルキオネ、メローペも手伝って、早いとこ修理するわよ」
艦橋から跳び出してゆくのだった。
(今回、銀河の回でした)
母さんの出産予定日まで、残り後21日。




