5-3-05 遭難27日目
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一週跳んでしまいました、申し訳ない。
『パシッ』、『ギシッ』、『パキンッ』と嫌な音が艦橋に響いている。
普段なら聞こえる筈のない音だ。
今回、態と宇宙船全体から異音等を拾い集めて居るのだが……各所で船が軋んで来ているのが分かる。
てか、異音が聞こえる段階で駄目だろう……それは、船の何処かに歪みが発生している証拠でもあるからだ。
みんな等しく青い顔をしながら、今の状況の把握に努めてくれている。
「船体強度には問題は無い筈なのに何でこんなに……畜舎うッ」
[肯定。外部から船体に掛かる空間圧力が尋常ではありません。当初想定していた時空震レベルの乱流というよりもこれでは、空間自体にねじれが発生している証拠です。直接粉砕機の中に放り込まれたに等しい状態と仮定できます。マスターの張るシールドが保っていますのでこの程度で済んでいますが通常のシールドだけですと長時間は持たないでしょう。船が大きくなればそれだけ受ける圧力の総和も加圧面積も増えますから尚更です。ストリームの反転現象に起因するものと思われます]
[ガウッ!(オオゥ、頑丈なんだなこの船は……この先に合流点があるから気をつけろ、もっと荒れるぞ!)]
「エッ、ミゼーアはそんな事が何で分かるの?」
[ガウッガウン(当然だろう…妾はここで生まれたと言っても良いのじゃからな……弾き出された後こうして戻って来たのは数えるほどじゃがな……自慢じゃないが空間を捻るのは得意だ!)]
何故か得意げにそう云って胸を張るミゼーアがそこに居た。
想っても居ない水先案内人が出来た事になる、これは嬉しい誤算だ。
嵐の様な潮流の中を闇雲に進むのと船頭が居るのとでは雲泥の差である。
実は今現在、我々には想定外の事が起きている。
俺達が思っていたのと流れが違うのである。
予定した方向とは逆の方向に流されているらしい。
そして、想定以上の大嵐状態である。
デスストリームは、船の出力で航行するというよりもその流れに乗って移動した先で流れから降りると行ったほうが正しい解釈になるだろう。
現状では当然の結果として、正しい座標に乗り降りすることなどはとてもとても出来るはずがない。
大凡のタイミングでの乗り入れが精々であり、如何に予測演算に優れたハコが此方に就いているといってもまだまだ情報が少なすぎて最適な結果を出すまでには程遠い段階であるのだ。
しかし、ほんとに想定外だったのは予想していた進行方向と真逆に流されている現状である。
ミゼーアの眷族から逃げるためにデスストリームに飛び込んだまでは良かったが、飛び込んだら飛び込んだでどうやら予定とは逆方向に流されているらしい事が分かって、アワアワしている、そんな俺達に追い打ちのように激しい渦動乱流が襲いかかっているのだった。
[ガウッ(まあ奴等もここまでは入ってこれんからな……流石にすり潰されてしまうからのぅ)]
「俺はミゼーアがデスストリームの事を知ってるのに吃驚だよ」
[ガウ~ン(褒めるのじゃ~、撫でて撫でて~)]
すり寄ってくるミゼーアを撫でてやりながらこの後のことを考える。
ブラックホールの高重力にも耐える船体が軋みをあげている宇宙船DSPAⅢの現状は、悠長に構えて居られるようなものではない事は誰にでも分かることだからだ。
「兎に角早急に通常空間に戻って、船体の痛み具合を確認しないと安心できないよね」
[肯定。急激な空間の捻じれ現象に対応しなければ何時船体に亀裂が入っても不思議ではありません。ちなみに前回巻き込まれた際の工作艦外殻は修復するよりもバラしたほうが速いというところまで崩壊が進んでおりましたのでマテリアルに還元されDSPAⅢの構造材として再利用致しました]
「聞きたくなかった真実。まあ、薄々そんな気はしてたんだ……煙吐いてたし、塗装も剥げてたし……愛着あったんだけどな~」
この乱流に飲まれてそろそろ1時間になる……もう限界が近そうだ。
最初流されてきた時のデータから素で3日は耐えられる様に強化したはずだった。 しかしDSPAⅢは、わずか1時間あまりでスクラップ一歩手前まで追い込まれる事になっただ。
なかなか思うようにはいかないね、この世はままならない物である。
「緊急離脱用意、兎に角通常空間に退避するよ」
[肯定。量子ジャンプ・スタンバイ……跳びます]
軽い衝撃と共に俺達はデスストリームから離脱した。
何処に飛び出すか分からない、行き当たりばったりの博打のようなジャンプだった。
散々準備に時間を掛けたはずなのに、何の役にもたっていない……。
これは、呪いか!?
俺達は、ナイ神父の呪いにでも掛かっているかのように、未踏の宇宙空間に放り出されるのだった。
母さんの出産予定日まで、残り後22日。




