5-3-04 遭難25日目・26日目
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お騒がせな新メンバーの加入も一段落したところで、俺達は今何をしているかって言うと、息せき切って逃げ回っている真っ最中だったりする。
前とそんなに変わんなかっただろうって言う諸兄も居られる事だろうが、あんなのとはラベルが……いやいやレベルが違う。
兎に角一箇所に数十分といえど逗まっている事も出来ない状況に置かれているのだった。
今現在も最高速で亜空間をかっ飛ばしている真っ最中であるのだが……これも気休めにしかなっていない様な状況であった。
兎に角この追手は鼻が効くのである。
要所要所に量子ジャンプを折り込むことで何とか短時間身をくらますことに成功しているが直ぐに居場所を嗅ぎつけられてしまっているといった状況なのであった。
時間を遡る事およそ半日ほど前、俺達は新メンバー『ミゼーア』の歓迎会を開いている丁度そんな時だった、それは突然襲ってきたのである。
[!、天頂方向の時空間に歪みを観測致しました。何か巨大な物が転移してきます]
[?!、ワフッ(アッ……)]
「どうかしたの? ミゼーア」
[…ガウッガウッ…(……もしかすると、もしかするかも……)]
??? 何、どういう事?
[天文サイズの謎の物体、こちらを指向して加速してきます。回避行動に移行……追尾してきます]
ここから大宇宙を股に掛けた壮大な追いかけっ子が、何の予告もなく始まったのだった。
◆
「それで……アレはいったい何なのさ?」
それはどんなに逃げようと離れずに付いてくる天体サイズの謎の物体、その巨大さにもかかわらず惑星でもなく宇宙船でもない、ほんとに謎の物体だった。
どうやら何かの生命体……の塊、群体のようなものであるらしかった。
[ガウ~(妾の眷属ジャな、しばらく見ん内にデカくなったものジャ)]
[肯定。ミゼーアに類似した思考波を多数発信しているようですね……『ママ~ママ~』と言っているように解析できました]
[ガウガウッ(主殿、これは濡れ衣ジャ。儂は未婚ジャぞ、清い体なのじゃ。あれは、長い間構っていたから何時の間にか親扱いされる様になっただけジャからな、嘘ではないぞよ)]
ミゼーアは俺にむかって必死に言い繕っているが、まあその内容は事実なのだろう。
嘘を言っているようには見えないが、初婚だったのか……お前?
長い間って……武士の情けだ、歳は聞かないでおくとしよう(俺の命に関わりそうなので)。
それにしてもどうして俺達がその眷属とやらに追いかけられて居る訳よ?
[肯定。ミゼーアが今の義体に融合するにあたって精神ガードが緩んだのでしょう。それまで秘匿していたアストラルシグナルや精神波等を探知されたものと思われます]
[ガウ~ガウッ(あやつらはシツッコイぞ。妾も国を追われて身を隠すまで随分と追っかけ回されたものよ)]
ふ~ん、ちなみにどれくらい?
[がう~(ザッと1000年ぐらいかのゥ~)]
何ですと~?
その後も俺達は、ミゼーアの眷属だという巨大物体に追いかけ回されている。
既に丸一日が経とうとしていたが一向に逃げ切れる見通しがたっていない。
最初の勢いに倍して激しく、相変わらず俺達の事を追っかけてくるミゼーアの眷属。
チョット止まって宥めるって訳にもいかないんだな?
[がうがうん(多分アッと言う間に飲み込まれて身動きが取れなくなるジャろうな。二度と放してはくれんと思う)]
[肯定。アノ質量です、船は押しつぶされ同族のミゼーア以外は同化されてしまうでしょうね]
これは、追いついてこられないくらいの遠方に一気に跳ぶしか無いな……この際だデスストリームを使って逃げる事にしよう。
まだ危険はあるがどうせあいつに捕まったらそこで終わりだ。
[がう~(うむ、妾が言い聞かせても止まらんじゃろうな~…取り付かれた時点でアウトかのぅ~)]
[肯定。デスストリーム航行の準備に入ります]
もう少し安全マージンを稼ぎたかったんだけど仕方が無い。
「ハコ。フルシンクロ用意、算出したデスストリーム座標への転移を開始する」
[肯定。フルシンクロ開始します。各員は衝撃に備えてください]
『了解。全艦、対デスストリーム航行体制に移行します。全管制AIはダメージコントロールに備えよ』
『了解。シールド出力全開』
『了解。主機1番から4番まで臨界。何時でも行けます』
[肯定。フルシンクロ進行中。中和フィールド発生しました]
「[『転移開始!』]」
その一瞬、ミゼーアの眷属に衝突したかに見えた球形の宇宙船は、蜃気楼の様に霞んで消えたのだった。
こうして宇宙船DSPAⅢは、この宇宙空間から掻き消えたのだった。
母さんの出産予定日まで、残り後23日。




