5-3-01 遭難20日目・21日目
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・・・ミツケタ・・・ミツケタ・・・
・・・ヤット・・・ミツケタ・・・
・・・モウ・・・ニガサナイ・・・
「ぬっ、誰か呼んだか?」
[否定。マスターは先程からお一人で黙々と作業されておりました。他の方は全員ベッドでヤリ潰されて熟睡中です。……旦那、昨夜はお楽しみでしたね、ゲヘヘヘヘッ!]
「うっ! そういう事はイイから……それに今回は俺のせいじゃないんだからな……。それにしてもさっきのは気のせいか?」
[否定。マスターの『気のせい』は第六感以上の確立で現実となります。早急な分析と確認を強く要請します]
「エ~、また検査すんの?」
[肯定。念の為です。諦めて下さい]
俺達は、ブラックホール内から続くワームホールの先、デス・ストリームのアクティブセンシングを無事に終了し、次の行動に移るための準備に入って2日目に入っていた。
予定していた情報収集はすべて完了。
収集した各種データからデス・ストリームへの最適な突入座標の算出と、各種脱出計画をハコが鋭意構築中であるのだった。
気が抜けてマッタリと移動している真っ最中、これまでの緊張とストレスによる躁状態が全クルーを乱痴気騒ぎへと誘ったのは当然の帰結とも言えた。
これで太陽系へと帰れる目処が立ったことで、これまでの緊張から開放された面々はそれぞれが当初の目的通りの行動を取ったと言えるだろう。
そう、昨日は酒池肉林、どんちゃん騒ぎと酒と子作りで日が暮れた。
「聞いてた話ほど朝日が黄色い訳では無いな。でも、何でみんなここまで刹那的になった?」
[多分に生存本能の暴走ではないでしょうか。思っていた以上にみなさん溜め込んでいた模様ですね]
「まぁ、プレッシャーは在ったよな。でも弱音を言い出す切っ掛けが無かった。タガが外れるのも仕方が無いか~……。でもこれで変な遠慮も無くなったかな……」
[肯定。しかし、だからこそ節度ある行動をお願いしますね、みなさん若いですから猿に成るのも分かるんですけれどね、ウフフフ]
「そんな事言ってるけど、みんなの事を煽りに煽ってチャッカリ自分も混ざってたじゃないか」
[肯定。それは当然です。私もあなた様の妻、家族の一員なのですからチャンスを逃がすわけには参りません]
「……」
[マスターがこうして工房に籠もって現実逃避するのも何時もの事ですし、それをフォローするのも私の努めですから……]
「ハコには敵わないな~……お世話になります……」
[どういたしまして、ウフフフ]
(……フムッ、変なのが寄って来ていますね、特に悪意は感じませんが、用心するに越したことはありませんか……。タイゲタ、警戒レベルを最大に。マイアは、近づいてきている未確認生命体を調査なさい。高位精神生命体の疑いがあります)
(了解)(分かりました、お母様)
◆
その存在は、孤独だった。
かつては異次元ティンダロスの王の一柱として君臨していたが、恋い焦がれた時空神との確執によって敵対することになり、今はティンダロスを追われ孤独の身となっていた。
ただし追い出されたのでは無く、家出同然に逃げ回っているのだがこの際その辺はどうでもいい。
遠宇宙を彷徨い幾星霜、やっと自分の伴侶とする神性をミツケタのだった。
ブラックホールなどの高重力場にはそこかしこに時空間の歪みが存在している。
空間の歪みを好むこの存在は、そんな隙間に潜んでは好みの神性が湧くのを待っていたのだった。
そして、時間と空間を自在に渡り歩くこの存在が執着した場合・・・。
「ほ~ら、取ってこ~い!」
「キャンキャン♪(はーい)」
聞こえてくる鳴き声の割にはとても大きな生き物が昴の投げたフライングディスクを取りに走っていった。
ここは、船の中にある直径10kmほどの森林公園施設である。
先程から昴を中心に大型犬に見えなくもない存在が走り回っているのだった。
「まさか、こんなところで迷い犬を拾うとは思わなかったよね。家で飼っていいでしょ?」
「あれは、昴が言うような犬なのか? 妾には別の生き物に見えるんじゃが……」
[肯定。厳密には人類より余程高等な精神生命体ですね。相対する知性体の一番近しい見た目の動物に擬態している様です。実体は無いのですが霧のような物がマスターには犬に見えているのはないでしょうか。決して低能な生命体では無いのですが、何故かマスターに遊んでもらうのがとても嬉しいようですね]
「それで犬に成り切っているというのか? ケッタイな奴じゃのう」
[肯定。しかし、本人の前ではそこら辺にはあまり触れないであげてくださいね。切れるとソトちゃんとガチバトル出来るぐらい強いらしいですから……怪我では済みませんよ]
「なんですと?」「ひえ~」
[肯定。どうも過去に悪ふざけが過ぎて時空震にまで発展してしまったらしく、周りからは敵対関係と見られているらしいのですが、実は好き過ぎてタガが外れただけのようですね。本人はソト様に嫌われたと思い込んで家出中とのことです]
「それが何で旦那様に懐いてるんでしょう?」
「どうも時空間の歪みに潜んでいたところ、昴に懐かしい気配を感じて船を追ってきたらしいね。ブラックホールの中から……」
何故か一人、銀河だけはこの光景を目元を鋭くして威嚇するように睨みつけていた。
「グルルル、メスだ! アレは昴を狙うメス犬だ! 油断できない」
[肯定。当然交配可能です。マスターは、あまり気にもとめていないようですが……『ミゼーア』はヤル気十分と言ったところでしょうか。発情しているのがよく分かりますね。あわよくばこのままマスターを押し倒して事に及びたいと思っているのではないでしょうか。あっ、巴投げで投げられましたね、流石ですマスター]
勢いよく帰ってきた『ミゼーア』が昴に伸し掛かろうとしたところを、勢いを利用して後方に投げ飛ばしてしまった昴。
空中で体勢を入れ替えて着地すると『ミゼーア』は、昴を己の背に乗せて走り出した。
とても楽しそうであるがその行き先は……。
「あはははっ、速い速い♪ 何処に行くんだい、ミゼ」
アッと言う間に見えなくなる二人。
[……あれは、スパ施設に突っ込んでゆきましたね。大丈夫でしょうか……]
ハコには全てが見えているのだろう。
「皆の者、追うのジャ! メス犬に主様を掻っ攫われてなるものか……」
「「「「「「「オウッ!」ワンコ!」キャハハ」仕方がありませんわね~」」」」
母さんの出産予定日まで、残り後28日。




