5-2-10 遭難19日目
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さて、チョットやソットじゃ壊れないように作ったデス・ストリーム専用の観測用ポッドではあるが、最終的には絶対座標AZに到達するのと同時に次元の穴に飲み込まれ呆気なく消えていった。
一つの例外も無く、綺麗さっぱり、今回投入した物全部がである。
まぁ、最初からこうなるだろう事は分かっていたし諦めるしか無いのは予想してはいたのだが、イザ現実を見せられるとガッカリすることに替わりは無いのだった。
一つぐらい生き残りが出ないかと期待したが無駄だった。
癪に障るこの次元の裂け目と言うか穴は、最新の量子通信機を持ってしても通信不能の異次元に繋がっているらしく、その行き先も分からなければ自壊信号も受信出来ていないのでその後の一切の状態や状況は闇の中である。
この穴の中、一体何処に繋がって居ると言うのだろうか?
どっかに繋がってるだろう事は何と無く分かるんだよ。
これも俺の権能のお陰なんだろうとは思うんだけど、詳しい事は結局分からないのである。
センサーも効かなければ通信も出来ないのだから、こればかりは直接入ってみるしか方法は無いかもしれない。
しかし、それは生還率0%の片道切符だ。
そんなリスクしか無い冒険など本当の冒険者はしないものである。
俺は無謀な冒険者ではなく自殺志願者でもないので、今生に絶望でもしない限りは実施も体験もしないと思う、多分しない、しないんじゃないかな……。
ただし、全く希望が無いわけでもない。
絶対座標AZに吸い込まれた観測用プローブは一つも壊れたという信号を発信していないのだ。
受信できていないだけで壊されている可能性も無くはないが、僅かでも生き残って何処かに運ばれた可能性も否定できない。
途中で破壊されていなければ、多分生き残って感知できない空間に飛ばされているだろうくらいの確信は持っている。
確証はない、俺の勘だよりではあるのだけどね。
もしかしたら忘れた頃に何処かにヒョッコリと出てくるかもしれないではないか。
ただしそれが何時になるのかは『神のみぞ知る』というやつである。
飽くまでも希望的観測という事ではあるのだが、可能性はゼロでは無いのだ。
◆
「それで、この後はどうするのじゃ?」
「おおよその帰還ルートは弾きだしたんだけど、結局の処は飛び込んでみなければ答えは見えてこないってところだね。リスクはかなり減らせたと思うし対策も考えうる限りを尽くしたと思う。これからは短時間飛び込んで離脱してを安全な範囲で繰り返してデータを積み重ねる事になるのかな」
[肯定。安全を維持するマージンは既に確保されて居ます。デス・ストリームへの侵入と離脱用のエネルギーがどの程度必要になるかの試算が完了次第、実際の航行テストを実施する予定です。あまりグズグズしている訳にも行きませんからね]
「そう、俺達には期限までに太陽系に帰らなければいけない理由がある」
「ふむ、あと1月程じゃったな、可愛い妹が生まれてくるのは……。妾は末っ子じゃったからほんに楽しみなのじゃ♪」
「それはみんな同じ意見でしょう」
「うん、この年になって兄弟が生まれるって貴重な経験だよ」
「ほんとは安全確認のためにもある程度時間を掛けて試験船を仕立ててからデータ取りしたいところなんだけどさ、短時間でも流された場合に何処まで飛ばされるか予想は出来ても確証が持てないんだ。考えられる限りのサポートが出来る状態で直接飛び込んだほうが結果的にリスクは少ないと思うんだ。戦力の分散が防げるし、ここで訳の分からない所に飛ばされた場合何時合流できるのか確証が持てないんだよ」
[肯定。ここで離散した場合、下手をすると合流まで万年単位の時間がかかるリスクが発生します。AI等の機械生命でも長期間の単体行動は推奨されません。幸いなことに量子通信技術が確立されましたので、イザとなったらデータ転送で情報体による回収、または増援の派遣ということを考えております]
「そうか、その手があった! それならこんな離れた場所でも駐在員の派遣も可能なのか……俺は何もかも持って帰らなくちゃいけないと思ってたよ」
[肯定。デス・ストリームへの侵入時の観測員として定点観測用ポットは必要になります。どれぐらいの距離、どの方位へ流されたのか観測が必要にはなりますからね。ある程度の行動と判断が可能な情報知性体の派遣が望まれます。今回は専任のAIを構築する事にしております]
「新しいシスターズメンバーってことかな? ヒュアデス以来だね」
[肯定。今回連れてこなかったヒュアデスの同位体コピーとして4名、アムブロシアー・コローニス・ポリュクソー・セメレーを新たに加えたいと思います。他のシスターズと同じ様に個体情報に乱数パラメーターを設けましたのでそれぞれ性格の違った娘達に成長すると予想されます]
「それじゃ早速デス・ストリームへ乗り出すとしますか」
[肯定]
母さんの出産予定日まで、残り後30日。




