5-2-09 遭難18日目
1518文字 短めだ~。
今まさにブラックホールへ吸い込まれてゆく建造物が存在した。
普通ならその巨大な重力に押し潰され引き千切られて原子に帰っていても可怪しくないのに、それはビクともせずにブラックホールの中に消えてゆくのだった。
それは、デス・ストリーム専用観測航宙艦・プレアデス・アークⅢ世・DSPAⅢの勇姿であるのだった。
[シールド出力正常、順調です。オールグリーン]
[艦内重力、異常無し。今、シュバルツシルト半径を超えます]
[クリアー、正常に航行中。現在、何の問題も起きていません]
「センサー感度上げて、重力井戸から亜空間へのワームホールが存在する筈だ」
[肯定。……確認しました。ワームホールです]
それは高重力の中で空間が歪み螺子曲がりながらエネルギーを吸い込んでいる穴だった。
これがデス・ストリームの入り口、アザトースの数ある口の一つの筈である。
繋がっているのがデス・ストリームで間違いないのかはこれからであるのだが……。
これまでしこたま拵えた特別性の観測機器をここに放り込んで観測を続けなければならない。
俺達は、デス・ストリームに潜ること無く、高重力の中で観測を続けることになったのだ。
逆にこの選択の方が良かったのかもしれないと気がついたのは、観測作業も佳境を過ぎて正常な思考が戻ってからのことだった。
やっぱりみんな緊張していたんだね。
観測の結果、俺の予想はほぼ正解を引き当てることに成功していた。
大量に放り込まれた観測機器はアッと言う間にデス・ストリームに乗ってアザトースの体内を駆け巡ることになったのである。
今回の観測機器は特別にデス・ストリームに特化した品物だ。
チョットやソットじゃ壊れない様に組み上げた自信作だ。
観測した情報は、今回新調した量子通信機でリアルタイムに送られてきている。
これで、アザトースの実態が何処まで解明できるかで、俺達の帰り道が示されるはずである。
[各種観測データ、スムーズに蓄積中。順調です]
「予定数の観測機器の投入が済んだら一度離脱しよう。通常空間に戻り影響のない距離で位相空間にて待機!」
[肯定。通常空間に離脱。位相空間に待機します]
[[[[[[[了解!]]]]]]]
「「「「「「「「ラジャー!」」」」」」」」
◆
「最初からこの方法を取ってれば良かったんだね……今更だけど随分と遠回りをした気分だよ。だけどブラックホールに入るって考えるとどうしても二の脚を踏むっていうか忌避感が半端ないんだよね……」
「普通はそうジャな、誰も潰されるのが分かっておって態々体験したいとは思わんよ。余程のMか自殺志願者ジャな。良い体験になったぞ♪」
「俺は、出来れば回避したいかな。心情的にもうやりたくないよ」
「「「「「「「そだね」うんうん」まあ」大丈夫って分かってても」です」あの、重圧感は遠慮したいかな」やぁ~」
[肯定。貴重な体験でした。やはり『百聞は一見にしかず』とは良く言ったものですね。データ上安全と分かっていても、実際に体験するとでは別の物であると実感いたしました]
ハコにしてもブラックホールに潜るというのは貴重な体験となったようである。
あそこの中って、高重力以外にも何ていうか変なプレッシャー感じるんだよね。
よく分かんないんだけどさ……長時間居るとデス・ストリームとは違った意味で何かが変質してしまいそうになる……そう、変質だ。
消滅ではなく変質。
後で分かったことだが、シールドしているにも関わらずDSPAⅢの表面構造材が高重力によるものだろう、僅かに変質していることが判明する。
やっぱりブラックホールの中は、未だ謎空間だよ。
アルキオネが新素材だって言って目の色を変えていたのは、また別の話だ。
母さんの出産予定日まで、残り後31日。




