5-2-04 遭難13日目
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この周辺銀河で余計な波風を立てずに安全に使えそうな亜空間の結節点は、結局の処何処にも見つからず、計画当初一番危ないと言っていた方法でデス・ストリームに挑戦しなければならなくなった昴達でした。
現在目の前には、やや小振りな直径1万光年ほどの銀河が存在していた。
当面の目標は、この銀河の中心に存在するブラックホールなんですけど……。
「何で俺達囲まれてるのさ? 位相空間に潜ってやり過ごして居たんじゃなかったっけ?」
[肯定。大変申し訳ありません。何度か調整のために通常空間に出た処をたまたま察知されたもようです。しかし、姿を晒したのは合わせてもわずか数十分ほどなんですけれど、無駄に優秀な連中ですね]
「何処の命知らずさ、ハコの事だからもう調査済みなんでしょ」
[肯定。先程突っ切ってきた後方の銀河の者たちのようですね。自称帝国と名乗っている連中です]
「ふ~ん、良くこの船に付いて来られたね」
[肯定。こちらは、試験航海中で三味線弾いてフラフラ飛んでましたから然程スピードは出しておりませんでした。どうも相手からは、必死に逃げているように見えたのではないでしょうか……ちょっと遊びすぎましたね……ホホホ]
「アァ~うん、それで先方は何か言ってきてたのかな?」
[肯定。数えられないほど停船を求められましたが停まる理由も有りませんのでガン無視致しました。どうも、敵対勢力との戦闘宙域だった所のド真ん中を知らずに突っ切ってしまったようです。端迷惑にも真っ直ぐに飛んでいるだけのこちらに態々突っかかってきた何隻かを引っ掛けた様ですね。ゆっくりと飛んでいた我が方には何の被害も衝撃も出ておりません。実際には毛ほども気にするようなデータは出ておりません……ホント、全然気が付きませんでしたよ……ホントです]
その素っ惚けたハコの言い様に、アルキオネからフォローが入った。
[マスター。何分こちらはまだ全ての船体機能が調整中で、DSPAⅢは飛びながら各種整備を続けている様な状態です。先程は、丁度通常空間をシールド全開にして真っ直ぐ跳んでいただけなんです。本当にたまたま運悪く開戦間際の戦場を横切る形でかち合ったんですネ~……そうたまたま運悪くなんですよ……]
アァ、把握! やらかしやがったな。
ハコは、あんな事を言ってるけど、絶対に気がついてないはず無いと思うんだ。
おそらく眼の前に飛び出してきた邪魔な雑魚を轢き逃げしたに決まってる。
それも、態々戦場を横切るなんて暴挙に出たってことは、余程新装備に自信が有ったって事だろうね。
それにしても警告とは言えない盛大なレーザーの数、通信にしては出力の強すぎるレーザー光が大量に飛んで来ている。
全部シールドが弾いてるな~、眩し~!
今回、装備したシールドは俺的にひと工夫してあるから間違って被弾しても船体には影響なんか出る心配は無い。
多重に積層化されたシールドが流動的に回転移動して弾いたり受け流したりする仕組みを取り入れている。
もしかして……これの効果を試したかったんだろうか……ハコだしな~。
現在は、割りとゆっくりと飛んでいる我が船DSPAⅢは、全方位から飛んで来ているレーザーに晒されている……ほんとにとっても眩しいです。
そしたらポツポツと囲んでた宇宙船が煙を吐いて脱落し始めたじゃないですか。
どうもこちらのシールドに弾かれたレーザーが、たまたま運悪く当たったみたい……なのかな?
そんな事を思ってたら今まで攻撃して来ていた全方位の宇宙船が一気に減り始めたじゃないですか。
これは、ハコ達が又々何かやってるな~。
「もしかして、攻性防壁のテストかなんかしてたりする?」
[肯定。ただ弾いているのも芸が有りませんしエネルギーが勿体ないのでフレキシブルシールドの反射係数と被弾角度をコントロールしまして、ほぼ100%そのまんま攻撃してきている艦隊へ返しております。反射しておりますのでこちらのシールドへの負荷も減らせますしとってもエコです。現在までこちらからは、一切手を出しておりませんし攻撃する必要もありません]
「アァ~うん、そうだね……攻撃してないね……確かに(鬼だ、ここに鬼がいる!)」
それまで周りを囲んでいた数百以上にも上る戦闘艦がアッという間に行動不能になっていく。
幸いなことに撃沈してる様な船は無いようだがそれでも攻撃が止まないって随分と好戦的な連中だよね~。
[マスター。後方から別の艦隊が追いついて来ております。先程の3倍ほどの艦隊ですのでこちらが本隊ではないかと推察いたします。さらに後方から別の同規模の艦隊を確認しました]
別の艦隊って、お仲間かな?
[統一された艦型が大きく違いますので最後尾の艦隊は、敵対していた相手艦隊と思われます]
ふむっ、どうしようか?
◆
「司令官殿。先程戦闘宙域を突っ切って行った未確認飛行物体に我が方の先見艦隊を任されていた貴族艦隊の数隻が接触し損傷を負ったそうです。蹴散らされた残存艦が戦線を離脱して、未確認飛行物体を追っております」
「何たる体たらくだ。奴らには帝国艦隊としての矜持もないのか。なぜ全艦で追いかける必要があるのだ? 現在は反乱軍と戦闘中だぞ!」
「貴族艦隊へ出向中の艦隊指揮艦より通信。今回初陣の船が多数被害にあった模様。切れた各貴族当主がひき逃げ犯の追跡を優先した事で先見艦隊は、見る影もなく崩壊したとの事です。取り敢えず追いかけて纏めて見るとのことですが……」
「まったく寄せ集めはこれだから……俺達帝国本隊だけで戦争をしろっていうつもりか。敵はもう目の前なんだぞ」
「司令官殿。これでは、まともに開戦出来ません。一気に3割も戦力が減った現状、こちらの負けが見えています。反乱軍へ停戦を呼びかけては、如何でしょうか」
「そんな恥さらしなことが俺に出来るものか。戦う前に停戦を申し込むなど『負けました』と言っているのと同じではないか!」
「ですから、これでは勝てないと申しております。何卒、ご英断を……」
「……エェ~イ、貴族艦隊の追撃を支援する。これは、撤退ではない。奴らの尻拭いをするのだ」
「……了解。全艦隊、これより貴族艦隊を支援するため追跡に移る」
◆
『帝国艦隊、陣形が崩壊します。先頭に居た帝国艦隊はこちらを無視して未確認飛行物体を追うようです。さっき飛び込んできた未確認飛行物体は、いったい何だったんでしょう?』
『帝国艦隊、横切った未確認飛行物体に何隻か接触したようです。未確認飛行物体は、特に損傷も見られず無傷のようですね。そのまま戦場を直進して離脱してゆきます』
『後方に控えていた帝国本隊も先頭艦隊を追うようです。これは、戦場を放棄したものと思われます……エ~どうなるんですか? この会戦は……』
『提督。今回の会戦をどう見ますか? こちらの勝利と言う事になるのでしょうか』
『そうだな「戦場を放棄して逃げ出した」とも取れるが……面白そうだからちょっと見物にゆこうか。全艦紡錘陣形で帝国本隊に遅れない程度で付いていけ。不用意に近づかずに十分に距離を取れよ』
『クククッ、提督もお人が悪い。全艦紡錘陣形』
『全艦紡錘陣形、微速前進。帝国艦隊を見失わない程度で追跡を開始します』
『追跡開始、ヨーソロー』
母さんの出産予定日まで、残り後36日。




