5-2-03 遭難12日目
2403文字
未開の銀河を慎重に探りながら、最初の目的の宙域に向けて突き進む宇宙船DSPAⅢ。
しかし、最初に俺達が弾き出され逃げだした周辺宙域は、まだまだ賑やかな状態だった。
これでは、元の木阿弥だよな。
仕方がない、別のルートを探そうと考え直す俺だった。
あそこにはもう戻れないので、俺の空間識能力と高度亜空間レーダーから算出された最寄りの宙域に向かってはいたのだが……しかしそこには、先客が居座っているようであった。
どうも嫌な予感しかしないので、ここもスルーしてこの銀河からはおさらばするしかないようだ。
さっき先客が居るという話が出たが、二番目に向かっていた所は亜空間の結節点の様な場所だった。
この銀河内で亜空間航行を利用した場合の要衝に中たる場所らしく、見たこともない種族の巨大な要塞のような施設が居座っているのだった。
見るからに厳つい見た目だが、利用する宇宙船の往来も盛んなように見える。
ただし、それらの宇宙船がみんなハリネズミの様に武装しているのを除けばであるが……。
これがまた、とっても剣呑に見えるんですよ、お客さん! 声かけたらいきなり撃ってきそうで怖いんだよね。
最初は、一言挨拶しても良かったんだけど要らぬ疑いを掛けられて捕獲なんかされるのも面白くないので、ここはスルーしてさっさと次の目標を探して移動することにしたのでした。
まぁ移動しながら続々と入ってくる情報から分かった事なんだけど、この銀河もお世辞にも平和とは言えない状態の様で、アッチコッチで武力衝突が発生しているらしい事が確認できたのだ。
ここまでで確認できた勢力は、おそらく5つ。
とても大きな勢力が2つ存在し、お互いに争っているようにみえる。
そして他に小さな勢力が3つ、こちらはお互いに協力しているようで抗争等は確認できなかった。
仲良き事は、良いことだ。
それで、亜空間の結節点に要塞を築いて陣取っているのは、先の争ってる二つのうちの一つ、確認できる中でも最大の勢力に見える種族の様である。
大体そのやりようを見れば、どの程度の知性体なのかは自ずと分かるわけで……ほんと禄でも無いことが見て取れる。
[肯定。かなり高圧的な種族のようですね]
「そうジャのう、ここは関わらない方が良かろう。こういう輩は、大概面倒くさいのジャ」
「ええ、お山の大将を気取っている者ほど、他者の話をまともには聞きませんからね」
「そうジャ、大昔争っていた頃の阿修羅族と三只眼族がそうジャった♪」
「ドラゴニュートとディーヴァ族の仲介でやっと銀河連合として一つに纏まったんでしたよね」
「そうジャ、昔は無駄に血の気とプライドばかり高かった様ジャからな。正直、最近もあまり変わっておらんのジャがのう」
「そんな事はありません。ちゃんと会話が成立するのですから立派なのですよ。直ぐに手が出るのは何処も似たような物です」
「そうジャのう、ディーヴァ族は蹴りが跳んでくるし、竜共は尻尾が跳んで来るんジャったかのう……流石に手の三倍は馬鹿に出来ないのジャ」
肉体言語が好きなのは、阿修羅族だけじゃないって事なのね……アハハハッ……。
この宇宙は、何処に行っても似たような弱肉強食の世界って事かよ。
次に向かう座標を探っていたところで俺は、新たな事実に唖然とするのだった。
「何を呆けた顔をしておるのジャ、聞いてやるから早う話すが良かろう」
「ああっうん、実は高位亜空間に跳べそうな空間の結節点が存在するのが、この周辺には銀河のそれなりに栄えてる所にある事が分かったんだ。トラブらずにやり過ごすのは、非常に難しそうだって気が付いたんだよ」
「ナンジャと? 其れは問題ジャな〜」
[肯定。マスターの言うとおり、この周辺半径一億光年で確認出来る空間の結節点は全て銀河内に存在します。逆に考えるとそこを中心に銀河が成長したとも取る事ができますね。一番手っ取り早いのは、銀河中心に存在するブラックホールに飛び込んでしまうのが一番の近道です]
「それは幾ら何でも暴論だろう。いくら大丈夫だと分かっていても我身で試そうとは思わないよね」
[否定。危険は有りません。ブラックホール程度では傷も付きません]
「……そうなの? でも、ぶっつけ本番だけは、ヨソウネ!」
「肯定。当然、試験船を先に飛ばして内部情報の収集を行いますよ。それに、ぶっつけ本番は、マスターの専売特許ではありませんか……]
「俺は、チャンとした安全マージンをしっかり取ってやってるし、死ぬような挑戦は、そもそもそんなにしてないはず…だよ。……してないよね?」
[否定。マスターは、基本的に不老不死ですから然程心配はしておりませんが少々認識が緩んできているようです。危険な実験に自ら挑戦する事は、あまりお勧め致しません。痛いことは痛いのであまり慣れてもらっては困りますしね。マスターが変な趣味に目覚められても困りますからね、……少々興味は、ありますが……]
「そんなのには、興味を持たなくてもよろしい!」
「脱線してるようだけどこの後は、どうするの?」
「あぁ~う~ん、最寄りのブラックホールからデス・ストリームに乗るしか方法がないみたいだから俺達は、調査の準備を始めよう。ハコは、使えそうなブラックホール物色しといて……」
[肯定。既に候補は、30ほど御座います。一番邪魔の入らない所を選抜すると致しましょう]
「頼んだ。サァ~みんな仕事だよ。ブラックホールの中の空間偏差を調査するよ」
「素のまま事象の地平に飛び込んだら、色々と物理法則が螺子曲がる空間だからまずいよね。時間も螺子れるんだっけ?」
「回転してるから螺子れるって比喩が使われるけど、そう単純な話でもないみたいだよ。兎に角幾つかプローブを放り込んでデータを取ろうか」
結局この日は、ブラックホールの安全な突入方法の検証に費やされるのだった。
決して新しいエネルギー元にしようとか考えてないからね……。
母さんの出産予定日まで、残り後37日。




