5-2-02 遭難11日目
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デス・ストリーム……それは、創造主アザトースの血管またはそれに等しい存在であると認識した現象である。
今俺達は、これまで収集された情報と亜空間レーダーからのデータにより仮想的に構築されたその全体像を空間モニターに立体表示させて眺めている。
先の説明では血管と言っていたが、その巨大さから対比した姿を見ると宇宙の隅々までを覆い尽くしているさまは、まるで体中に張り巡らされた神経繊維の網のようにも見える。
そして、その収束する中枢には空間座標AZと仮に呼称している宇宙の中心座標に空間の裂け目が存在するのだった。
俺は一瞬、この裂け目の向こう側はどうなっているのだろう? などと考えてしまっている自分が居ることに気がついてキョドってしまった。
その考えが大それた事だという事は、俺にも十分に分かってはいたからだ。
しかし俺の性分からして、考えずにはいられないのだ。
そういった事を考えてしまうのは、仕方のない事の様に思っているのは俺だけではないだろう。
眺めているみんなの中で双葉がポツリと呟いた。
「この中心ってどうなってんだろうね? パッと見、絡み合った脳神経に似ていなくもないんだけどさ。周りはモヤモヤ病の血管みたいだよね、栄養足りてんのかな?」
そら見ろ、ここにも俺の同類が居るじゃないか……でも、モヤモヤ病って……。
シャシがニヤニヤしながら持論を放った。
「ふむ、見た目はどうあれ空間の裂け目ジャからな、この宇宙の外にでも繋がっておるのではないかのう……まだこの先が有ればの話じゃが……」
ラクシュもそれに続く。
「そうですわね、こうやって旦那様が可視化してくださっているから分かるようなもので、上位亜空間に存在するモノです。高位精神生命体でも認識することは難しいのではありませんか?」
[肯定。これまでの情報とマスターの拡張強化された空間認識能力が有ってやっとここまでの可視化が出来た存在です。普通ではまず無理でしょう。ソトちゃんも存在其の物は認識していたようですが現実に接触したことは無いようでした。あのナイ神父が直接接触出来る亜空間の座標を知っていたことが最大の謎ですが……モヤモヤ病ですか……確認しました。人類種の脳血管障害の一種ですね。脳内の血流不全による症例と認識しました]
「ナイ神父ね~。これはソトちゃんに聞いた話なんだけどさ、どうも彼は創造主の神官を自称しているみたいなんだよね。だからその辺に理由があるんじゃないのかな? 本人に聞くのは絶対に嫌だから謎のまんまだろうけどさ」
[肯定。極力接触は避けたいものですが、私の身体を勝手に弄られた恨みは数十倍にして返すつもりでおります。その時は、マスターもご支援ください]
「まぁ~良いんだけど、程々にたのむよ。ナイ神父って、こちらが過剰に反応すると逆に喜ぶ変態らしいから十分気をつけて……懲らしめているつもりが逆に御馳走を進呈しているなんてのは願い下げだよ」
「昴が『無視するのが一番』って言うのは分かるんだけどさ、こっちにも我慢の限度ってものが有ることを覚えといてね。みんなせっかく楽しみにしてた新婚旅行を台無しにされてかなり頭にきてるからね……」
「了解、対策はたてて置くにこしたことは無いかな。善処する事にするよ」
[肯定。既に108通りの嫌がらせを立案中です。お任せください]
あの冷静なハコが、ここまで前のめりって、よっぽど嫌われちゃったんだね。
ご愁傷さまとしか言えないな~。
◆
『希美さん、今さっき私のところにガブリエールさんから連絡を頂いたのですが、49代目達は生きているらしいですよ』
エンリル様から通信が入ったのは、昴達が居なくなってから一週間過ぎた頃だった。
「……それなら何で直接の連絡がないのかしら?」
『どうやら恐ろしく遠くに居るみたいだわね。存在感としてだけれどソト様レベルの物を49代目としてハッキリ感じたらしいのよ。あの子、また進化しちゃってるんじゃないのかしら……』
「ッ! 有り得る話で何一つ否定できないんですけど……何やってんのかしら、あの子はまったくもう……」
『まぁ、無事のようだからどっしりと構えて帰りを待つ事にしましょうよ。実の親に心配するなって言う方が無理なんでしょうけれどね。それにしても立派に育って……第2子は、順調そうで何よりだわ』
エンリル様は、希美の大きなお腹を眺めながらほほえんだ。
「ええ、Dr.アンには何から何までお世話になっていて気が引けるくらいなんですけれど、今のところ何の問題も起きて無いですね。敢えて言うのならとてもウンサンギガの適性が高いらしいことかしら……診察の度に『この娘は、天才になるぞ。儂にくれ!』と言われる事くらいですかね……アハハハ……」
『まったく…アンにも困ったものだわ……私からもよく言っておくから、ごめんなさいね、希美さん』
「いいえ、この子は幸せですよ。家族やみんなに祝福されて産まれてくるんですから、それだけで十分です」
『うふふ、楽しみよね~。アンに取られるぐらいなら、私のところに欲しいくらいだわ。実は私も孫が産まれるようでウキウキが止まらないのよ』
通信モニターの前では、エンリル様のニヤける顔が……。
これは、厄介な方達にロックオンされてるな~と苦笑いの希美さんが居るのでした。
母さんの出産予定日まで、残り後38日。




