5-1-08 遭難7日目
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俺は、夢を見ていた。
それは、壮大な弱肉強食の生き残りをかけたデンジャラスバトル。
他に類を見ない永い永い永劫の時を掛けた消滅と再生の序曲。
この宇宙が生まれてから辿った何者かの記憶だろうか……。
大小の銀河がぶつかり合って飛び散っては集まり、形が変わり成長する。
それは、宇宙の無慈悲なる生存競争。
小さな銀河は、大きな銀河に噛み砕かれ飲み込まれ、やがて吸収される定め。
しかし、そんな中にもスピードや進入角度を変える事でわずかに生き延びている銀河も存在した。
大きな銀河を幾度となく貫いてなお存在する小銀河……。
天の川銀河に対して、いて座矮小楕円銀河がそうである様に……。
あの銀河は、60億年前、20億年前、10億年前と3度も天の川銀河に突っ込んでは突き抜けてを繰り返してきた。
その理由は、元々天の川銀河よりも古い銀河であり、組成のすべてが天の川銀河よりも重い物質で構成されているためだったらしい。
ある意味で長生きな勢いのある銀河だった訳である。
その接触の間隔は段々と短くなっており、次の接触時には天の川銀河に捕まるだろうと思われていた。
しかし予想外なことに、天の川銀河に取って食われる前に邪神の毒牙に掛かる事となったのだ。
今まさに天の川銀河に牙をたてている邪神=おおいぬ座矮小銀河によって、その殆どの内在する生命体のアストラルを搾り取られ、哀れな傀儡と成り下がる未来しか見えていなかった。
邪神から遅れる事およそ2億年後には、その更なる援軍として参戦する筈だった、いて座矮小楕円銀河は、何の因果か俺の手によって解放されようとしていた。
これにはガブリエール達、天の川銀河のアストラルの管理者の参戦により物質的解放と同時進行で精神的な解放が一気に進んだ結果だった。
「フム、マスターの気配を感じますね。何処からかご覧になっているのでしょうか?」
「ガブリエール、それは本当か? 本当だとすると、それはもうソト様と同じだという事だぞ。本当に間違いないのか?」
「気を静めて感じてみなさい。貴方にも分かるはずですよ」
目を閉じ黙り込むヤルダバォト……いきなり震えだすのだった。
「確かに感じるぞ、これはスバル様の気配。我らの働きを御覧になって居られるのか」
「どうやら計り知れないほどの遠方に居られるようですが、今の此処をご覧になられていると云うことは更なる昇華を体験されたのでしょう」
「大した御仁だ。現し世の身を捨てること無く我らを超えてゆかれたか……」
「……何事も起きなければ良いのですが……」
ヤルダバォトが眼の前で繰り広げられている邪神の尖兵との激戦を指さして語った。
「これほどの事を起こし、そして収めようと言うのだ。既に遅いのではないか?」
「イエッ、これほどの短期間での成長です。御身への悪影響もさることながら事象に甚大なる歪みを生みかねません。揺り戻しには注意をしませんと何が起きても不思議ではないと言っているのです」
「フム、確かに考えられる事よな……」
「全軍に警戒態勢を……場合によっては撤退の指示を出します。良いですね?」
「うむ、良かろう」
余計な心配をさせたかもしれない……帰ったら労いの一つも掛けてやらないといけないだろうか……。
これは、夢では無いのか?
随分とリアルだし何となくみんなの気持ちも分かるぞ……。
『ホホゥ、スバルにも出来るようになったか。やはり成長が早いな……弾けないように気をつけろよ。意識境界面があやふやに成ると溶けて無くなるからな』
もしかしてソトちゃんですか?
俺は、いったいどうしちゃったんでしょうか?
『意識体として成長をしたと言ったところだろう。これまでとは比べ物にならない様な存在と接触した事でスバルのアストラルが大きく成長したのだ。普通なら既に物質世界での身体を破って精神生命体として昇華するのだが、スバルは身体を被ったまま我等と同じステップまで上り詰めたと言ったところだろう。しかし、気を抜くでないぞ。精神生命体としての過程を経ずに我等に並ぶステップに登ったということは、数万~億年かかる過程を省略したことに成る、いつバランスが崩れ弾け跳ぶやもしれん。お主には、あのメイドが居るから大丈夫だとは思うが心することだ。普通の存在なら私とこうして直接交信するだけで弾けて消滅していても可怪しくないのだ……フフフフフ』
……ゾッとするしかありませんね。
そういう大事な事は、接触する前に教えてほしかったです。
『我等は、それほど親切な存在ではないという事だ。お主には随分と優しく接しているはずだぞ。神などと言っては居るが自我の肥大した化け物とそう変わらんからな、私だとて面白い存在が発生したと接触したに過ぎん……言葉にするのも嫌だがナイ辺りは話せるだけマシなのかもしれんぐらいに思っていたほうが良いぞ。私は、生理的に好かないがな……スバルは、今はまだ意識を遠方に跳ばすぐらいだがそのうち思考しただけで距離や空間に関係なく物理現象に介入できるようになるだろう。しかし気をつけることだ。そこには、私のような先達が居る事を努々忘れることのないように……逆鱗に触れれば存在ごと消し飛ばされる事になるやもしれん、覚悟することだ……』
怖ッ、何ですか、それッ?
『……お主にはまだまだ経験が足らん、この旅でもっと他の存在に触れてみることじゃ。あぁぁ、付け加えるならば、我等に等しい存在は、塩対応が基本だということを付け加えて・ぉ・こ・う・・・…』
交信が切れたみたいだ……、寝てる筈なのにズッシリとした疲労を感じる。
何だ? この重みは、身体が動かない……。
目を開けると……。
「何だ? お前ら……」
目を覚まして吃驚、俺の身体は嫁達とシスターズに群がられて下敷きにされていた。
辛うじて顔だけは出ていたので呼吸は出来ているが、全員気を失っているようだ。
[抗命させて頂きます。急に意識を手放したマスターを心配したメンバーが全員で汎ゆる救命処置を施しました。最後には、房中術まで施して全員撃沈したところです。一言言わせて頂けるならば『この鬼畜!』と言うのがピッタリかと……ハァ~……]
俺は意識のない状態で、全員を食い荒らしたらしい……全然覚えていないぞ!!!
後で記録を見せられて土下座して謝ったのは、新たなる黒歴史だ。
母さんの出産予定日まで、残り後42日。




